ハウシュカ / 2012/02/03掲載
“完全ではないからこそ素晴らしく感じること”HAUSCHKA、最新作『Salon Des Amateurs』を語る
プリペアド・ピアノをメイン・インストゥルメントとした特異なスタイルで、ドイツはデュッセルドルフを拠点に活動するピアニスト
HAUSCHKA (ハウシュカ)ことVolker Bertelmann。彼が昨年、縁深いJoey Burns & John Convertino(
CALEXICO )、Samuli Kosminen(
MUM )をゲストに迎え制作されたアルバム
『Salon Des Amateurs』 をリリース。同作はパーカッシヴにプリペアされたピアノの生ドラムのコンビネーションで、ピアノ版
『Zero Set』 と呼びたくなるオールドスクール・テクノ・フレイヴァ、
Ricardo Villalobos (リカルド・ヴィラロボス)に通じる近代ミニマルのセンスを内包した作品。“ポスト・クラシカル”という範疇で語られる機会の多い彼が、その枷を外すかのようにフロアでも全く違和感無く受け入れられるであろう作品を作り上げた真意とは。昨年11月に行われたジャパン・ツアーの折、お話を伺いました。
――最新作はとてもビートの効いた作風になっていますが、そうなったのには何かきっかけがあったのですか?
「
『Salon Des Amateurs』 と同時期に
『Foreign Landscapes』 という10ピースのクラシカルな楽曲から成る作品を制作していたのですが、クラシックの比重が大きくなっていることが気になっていました。そちらばかりに偏重するのが怖かったんですね。もっとインディ・ミュージック寄りに戻った作品を作りたいと考える中で、最適だと感じたのがドラマーとのセッションでラウドな作風にする方法だったんです。元々ダンス・ミュージックや、ステージダイヴが起こるようなフィジカルな音楽が大好きなのですが、ピアノという楽器、またそれを演奏するという行為はフォーマルな印象が強いものです。そのような私の両面を、バランス良く楽曲に持ち込みたかったということもありますね」
――プリペアド・ピアノを用いてテクノに通じるサウンドを作り出すというのは、新鮮な試みですよね。
「そうかもしれませんね。私はピアノを単なる楽器というよりも、サンプラーのようなものとして捉えています。鍵盤は1本につき1音出るわけですから、パッドに近い感覚ですね。その場その場にある私なりのサンプル・ライブラリーから音を選ぶことができる便利なサンプラーです。しかもアコースティックなサウンドというのは、キーボードや既製のサンプル・ライブラリーのように必ず同じ音が出るものと違い、環境によって移ろいます。私はそこに大きな可能性を感じているんです。実にモダンだと考えます」
――ライヴ毎に異なったサウンド、チャンス・オペレーションを求めているわけですね。
「その通りです。実験室のようなものですね。ランダムなサウンドやアクシデントは新しい方向性の発見に欠かすことが出来ません。それに、そのほうが楽しいでしょう?」
――プリペアド・ピアノは、フルクサスのような前衛芸術、実験音楽の現場で用いられることが多いと思うのですが、あなたの作品はもっと聴衆を楽しませるという色合いが強いですよね。
「そうですね。もちろん、フルクサスの影響を受けてはいるんです。私の住むデュッセルドルフにある芸術アカデミーではかつて、Nam June Paik(ナムジュン・パイク)やJoseph Beuys(ヨーゼフ・ボイス)をはじめとするフルクサスの重要なアーティストたちが教鞭を執っていましたからね。ただ、フルクサスは非常に強固なアティテュードを持っています。そこが良さであり、好きな部分でもあるのですが、私はもっとポップ・ミュージックやエンターテインメントとコネクトできる表現方法を求めたんです。キッチンでも聴けるような、楽しいものを。私自身、料理をしている時にはフルクサスの音楽を聴きたいとは思いませんし。そういった場合、実際
Snoop Dogg (スヌープ・ドッグ)のほうが好ましい(笑)。それに、プリペアド・ピアノの原点はダンス・ミュージックにあるんですよ。とあるダンス作品のために作曲を依頼された
John Cage (ジョン・ケージ)は、当初ピアノとドラムキットを用いることを想定していましたが、公演会場にはドラムキットを設置するスペースが存在しませんでした。そこで彼はピアノにドラムキットを兼ねさせる術を編み出したのです。プリペアド・ピアノはそういう必要性から生まれたものだったんですよ。私も同じく、必要性からプリペアド・ピアノを用いています。私の場合、公演会場にラップトップを持ち込みたくないという理由からですが(笑)」
――(笑)。先ほどデュッセルドルフ芸術アカデミーのお話が出てきましたが、あなたもそちらで学ばれていたのですか?
「いえ。私は薬剤師になりたかったので、デュッセルドルフから電車で20分ほど離れたケルンの大学で薬学を学んでいました。アルバムのテーマとなっているサロン “Salon Des Amateurs”は
KREIDLER (クライトラー)というバンドのメンバーや学生たちが運営しているのですが、彼らの中にはアカデミーでBernd Becher(ベルント・ベッヒャー)やGerhard Richter(ゲルハルト・リヒター)の講義を受けた人が大勢いますよ。そしてBecherやRichterもかつてはアカデミーの生徒でした」
――なるほど。脈々と受け継がれているのですね。『Salon Des Amateurs』のサウンドも、クラウトロックから連なるオールドスクールなテクノの薫りで、デュッセルドルフという街で受け継がれてきたものを強く感じます。
「クラウトロックの存在はデュッセルドルフにとって重要です。素晴らしいバンドがたくさん生まれていますからね。
NEU! (ノイ)や
LA DUSSELDORF (ラ・デュッセルドルフ)、
KRAFTWERK (クラフトワーク)はこの街の出身です。KREIDLERも
CAN (カン)や
CLUSTER (クラスター)のエクスペリメンタルな部分を受け継いだニュー・ジェネレーションのクラウトロックと言えます」
――そうお話を聞いていると『Salon Des Amateurs』が歴史の集成のように思えますね。
「そうですね。
Steve Reich (スティーヴ・ライヒ)のようなミニマリストからの影響もありますし。先人たちが残したものを学ぶのは大事なことです。ただ、ドイツの人々は……もしかしたら日本でもそうなのかもしれませんが……古い文化を尊重し過ぎる傾向にあります。クラシックで言えば、
ベートーヴェン や
バッハ といった100年、200年以上も昔に亡くなった人物ばかりが重要視され、新しいコンポーザーに光が当たらないというように。先ほどお話した“Salon Des Amateurs”という場所は、様々な世代のコンポーザー、小説家、映像作家などが集い、相互作用で新しいものを見出そうとしています。先人から学んだことを踏まえながら、その先に進むということが大切なんです。カテゴリー間のボーダーを越えようとしている点も重要ですね。現在のドイツは、ちょっとラジオを聞けば分りますが、ひとつのカテゴリーにだけフィットするように作られた音楽ばかり。これは悪い状況です」
――あなたと同じピアニストで言えば、Francesco Tristano (フランチェスコ・トリスターノ)のような若いプレイヤーはボーダーを越える試みを行っているように思います。彼に対してシンパシーは感じますか? 「もちろん!彼は良いピアニストです。私がデュッセルドルフで開催したピアノのフェスティヴァルに招いて、ステージを共にしたこともありますよ。それから、
Peter Broderick (ピーター・ブロデリック)と一緒に日本を訪れたこともあるNils Frahm(ニルス・フラム)も良いですね。そのほかにも若く、素晴らしい才能の持ち主が大勢います。しかし、私が若いアーティストを見ていて思うのは、ラフネスが足りないということ。もっとグランジーでも良いというか(笑)。失敗を恐れているように見えるんですね。失敗を気にし過ぎるとエッジが消えてフラットになりがちですし、はまった型から出られなくなってしまいます。若いアーティストにはもっと勇気を持って、さらに一歩踏み出してほしい。キンタマ付いてるとこ見せろ!という感じですね。あはは(笑)。受けた影響が見えなくなるくらいに自分を曝け出して演奏してもらいたいです。そのほうが聴き手の想像を掻き立てるものになるんですよ」
――そうですね。実際『Salon Des Amateurs』は音のひとつひとつから様々な連想が膨らみます。
「ありがとう。それは恐らく、私の音楽が完璧ではなく、隙間だらけの壊れ物だからでしょう。時折ソリッドなパートが現れますが、それもまたいつしか壊れます。完全ではないからこそ素晴らしく感じるということってありますからね」
――人生とか。
「まさしく。私は常に自分を偽らず曝け出していますから。ステージでも、日常でも」
――かっこいいですね!
「そうかな。あはは(笑)。私も昔は、自分を居心地の悪い、窮屈な型に無理矢理押し込めようとしていた時期がありました。でも、その型を外してみた途端、まず “自分自身とコネクトする”という感覚を味わったんですね。それ以来、他人とも更にダイレクトにコネクトできるようになりました。相手がどんな人物であろうと関係はありません。すごいことでしょう?表面を装っていては、その先に行くことは決してできないんです。私の音楽を聴いてくれている皆さんにも、その感覚が伝われば嬉しいですね」
取材・文 / 久保田千史(2011年11月)
通訳 /
山口洋佑 (Thanks!)
HAUSCHKA live at WWW, Tokyo 11.30.2011 (from DAX ) VIDEO HAUSCHKA & 山本達久 live at WWW, Tokyo 11.30.2011 (from DAX ) VIDEO