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“レジェンド・シリーズ”で聴く、職人プレイヤーたちの名演奏
2008/03/05掲載
昨年リリースされた“レジェンド・シリーズ”は、アメリカの音楽シーンでビッグ・アーティストたちと共演したり、映画音楽に参加している伝説のミュージシャンたちにスポットを当てた画期的なシリーズ。ラインナップは、トミー・モーガン『Sing』、アール・ダムラー『Prayer(祈り)』、クリス・テデスコ『Romantic』の3タイトル。本企画では、職人技とも言える名演奏が聴けるレジェンド・シリーズを紹介します。
文/浅羽 晃

 優れたイントロは瞬時にして聴き手を“ここではないどこか”へと連れていく。それは音楽の魔法であり、ヒット曲にはそんなイントロをもった曲が多い。たとえば、カーペンターズの「スーパースター」。哀感に満ちたメロディを奏でるオーボエの音色が、すっと心に染みてくる。カレン・カーペンターが緩急の大きな振幅の中でヴォーカルの表現力をフルに発揮した曲だが、曲のムードを決定づける秀逸なイントロがヒットに果たした役割も大きいといえるだろう。
 オーボエを演奏したのはアール・ダムラー。一般的な知名度は高くないが、ロサンゼルスの音楽シーンではトップのオーボエ奏者である。アメリカの音楽産業の一大拠点であるロサンゼルスには、その一地区に映画産業の中心地、ハリウッドを含むこともあり、優秀な演奏家が集まっている。競争が激しいだけに、トップ・クラスともなればその力量は圧倒的だ。世界最高レベルといっていい。2008年1月からまず3ヵ月連続で1作ずつリリースされている“レジェンド・シリーズ”は、そんなロサンゼルスの音楽シーンを支えてきた裏方のトップ奏者にスポット・ライトを当てた好企画。ヒット曲のイントロや間奏で、映画音楽のソロやアンサンブルで、耳にしていたはずの美しい音色の主による名人芸を、一人アルバム一枚でたっぷりと楽しめる。




 第1作はハーモニカ奏者、トミー・モーガン『Sing』。モーガンは現在73歳で、これまでにサポートしてきたアーティストはエルヴィス・プレスリーバート・バカラックビーチ・ボーイズバーブラ・ストライザンドクインシー・ジョーンズフリオ・イグレシアスレイ・チャールズカーペンターズなどビッグ・ネームが多数。『マイ・フェア・レディ』ほか、たくさんの映画音楽でも演奏しているまさに伝説的存在だ。アルバムでは、かつて自身が参加した「雨の日と月曜日は」をはじめとするカーペンターズゆかりの曲を中心に、ボサ・ノヴァや映画音楽の名曲を選び、表情豊かな演奏で魅了する。「雨にぬれても」のリズミカルなフレージングが生みだす味わいなど、楽曲のよさが存分に引きだされている点も素晴らしい。


 第2作は前にあげたアール・ダムラーの『Prayer(祈り)』セリーヌ・ディオンルチアーノ・パヴァロッティスティングハービー・ハンコックフランク・ザッパらジャンル不問で一流アーティストをサポートし、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などの映画音楽でも活躍してきたオーボエ奏者が卓越した技術と歌心をアピールする。
 前記「スーパースター」などポップな名曲とともに、バッハの「アリオーソ〜カンタータ156番より」ほかクラシックの曲を多く取り上げているのが印象的だ。




 第3作はトランペット/フリューゲル・ホーン奏者、クリス・テデスコ『Romantic』ロッド・スチュワートバリー・マニロウクリスティーナ・アギレラらをサポートし、映画『チャップリン』やTVドラマ『X−ファイル』などの音楽に参加してきた名手が、のびやかな音色で映画音楽やR&Bの名曲を演奏する。フリューゲル・ホーンによる「浜辺の歌」は成田為三が書いたメロディの普遍的な美しさと完璧に調和している見事な演奏だ。
 3作ともアレンジは一つのソロ楽器と一つの伴奏楽器の組み合わせが基本となっている。小編成とすることで名手の研ぎ澄まされた音色、ニュアンスに富んだ表現、卓越したコントロールをしっかりと伝えている。
 日本の音楽ファンはバックの演奏についても、素晴らしいものは素晴らしいと、正当に評価する。たとえば、30年ほど前のクロスオーヴァーやAORのブームには、一流スタジオ・ミュージシャンの職人芸を楽しむという側面もあった。そうしたことを考えるとこのレジェンド・シリーズの企画は、多くの音楽ファンにアピールする可能性をもっていると思う。なにより、優れた演奏家に敬意を表する姿勢がいい。


★レジェンド・シリーズの詳細はこちらへ
http://www.amuse-s-e.co.jp/legend/top.html



トミー・モーガン/Sing




[収録曲]
1.アメイジング・グレイス
2.シング
3.雨にぬれても
4.追憶のテーマ
5.デサフィナード
6.少年時代
7.サウンド・オブ・サイレンス
8.雨の日と月曜日は
9.ワン・ノート・サンバ
10.デスペラード
11.クロース・トゥ・ユー
12.ムーン・リバー
全編を通して、もとより郷愁を誘うハーモニカの魅力があふれんばかりだ。「アメイジング・グレイス」はアドリブのフレーズも原曲のメロディ同様に美しい。「デサフィナード」では2本のハーモニカをオクターブで同時に吹く名人芸を披露。3拍子で演奏する井上陽水の「少年時代」もメロディと音色が好相性で、琴線に触れる。(浅羽 晃)




トミー・モーガン
Tommy Morgan
■主な参加映画
『バック・トゥー・ザ・フューチャーV』、『マイ・フェア・レディ』、『キャスパー』、『ダンス・ウィズ・ウルズス』、『ロッキーIII』、『48時間』他

■主なアーティスト・サポート
エルヴィス・プレスリー、バート・バカラック、ビーチ・ボーイズ、バーブラ・ストライザンド、クインシー・ジョーンズ、フリオ・イグレシアス、レイ・チャールズ、カーペンターズ 他



アール・ダムラー/Prayer(祈り)




[収録曲]
1.アリオーソ〜カンタータ156番より
2.マホガニーのテーマ
3.アヴェ・ヴェルム・コルプス
4.遥かなる影
5.仰げば尊し
6.エンターテイナー
7.スーパースター
8.アローン・アゲイン
9.アヴェ・マリア
10.ニューヨーク・シティ・セレナーデ
11.アリア〜前奏曲第3番 BWV.1068より
12.タンティ・アンニ・プリマ
 モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」はゆったりと展開する美しいメロディに、しなやかにして繊細なオーボエの音色がぴったり。「仰げば尊し」はボサ・ノヴァを取り入れたリズム・アレンジやリハーモナイズが新鮮だ。映画『スティング』のテーマ曲「エンターテイナー」のエレガントな味わいも印象に残る。(浅羽 晃)




アール・ダムラー
Earle Dumler
■主な参加映画
『ジョーズ』シリース、『未知との遭遇』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ、『レッドオクトーバーを追え』、『SAYURI』他
■主なアーティスト・サポート
トニー・ベネット、セリーヌ・ディオン、ジョージ・マーティン、ルチアーノ・パヴァロッティ、スティング、ハービー・ハンコック、フランク・ザッパ、エルヴィス・コステロ 他



クリス・テデスコ/Romantic




[収録曲]
1.水曜日の夜
2.エデンの東
3.ラブ・テーマ
4.月の光〜ベルガマスク組曲より
5.男が女を愛するとき
6.浜辺の歌
7.フライディ・ナイト・ファンタジー
8.ピエ・イェズ〜レクイエム(作品48)より
9.オンリー・ユー
10.タラのテーマ
11.ジムノペディ 第1番
12.太陽がいっぱい
 トランペットの先達、ニニ・ロッソが書いた「水曜日の夜」を華やかかつ潤いのある音色で朗々と吹き、確かな技術をアピール。「男が女を愛するとき」はエモーショナルなフレージングが光る。一方、フリューゲル・ホーンによる「月の光〜ベルガマスク組曲より」は夢の世界を漂うようなサウンドで映像的なイメージを喚起。(浅羽 晃)




クリス・テデスコ
Chris Tedesco
■主な参加映画
『チャップリン』、『ファインディング・ニモ』、『天と地』、『LAコンフィデンシャル』、『バッドマン・ビギンズ』他
■主なアーティスト・サポート
ロッド・スチュワート、バリー・マニロウ、アリス・クーパー、クリスティーナ・アギレラ、ジョー・コッカー、ブライアン・セッツァー、デヴィッド・フォスター 他
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