
Project『Shangri-la』ドキュメント盤
『L−エル−』について説明する前に、前作『2012』以降のABCの活動を振り返っておきたい。まずは『2012』を引っ提げた全国ツアー(全23公演で8万人を動員, 公開ゲネ含む)。さらに13年3月にはカヴァーアルバム
『Recreation3』を発表、「恋におちて」(
小林明子 / 1985年)、「未来予想図II」(
DREAMS COME TRUE / 89年)などの意外性に富んだ選曲と芳醇な表現力を感じさせるヴォーカルによって高い評価を得た(オリコンウィークリーチャート3位を獲得し、10万枚を超えるロングヒットを記録)。そして13年8月からはニュー・プロジェクト「Shangri-la」を始動。「ABCの音楽で少しでも笑顔になってくれる人がいるなら、近くに行って唄いたい」というコンセプトでスタートしたこのプロジェクトでは、全都道府県ツアーのほか、全国のラジオ番組、テレビ番組の公開収録、ハイタッチ会なども行い、さらにファン層を拡大。“ロックバンド・
Janne Da Arcのヴォーカリストyasuのソロプロジェクト”という説明が不要になるほど、ABCの存在はメジャー・シーンに強く浸透した。ニュー・アルバム『L−エル−』に対する期待と注目がこれまで以上に上がっていることは、言うまでもないだろう。
アルバム『L−エル−』の軸になっているのは、緻密にして壮大なストーリー設定だ。主人公は波乱の人生を送った一人の女性“エル”。1曲目の「Round & Round」からラストの「& you」に至るまで、本作は愛を求めて生きるエルの運命を描きながら進行していく。前作『2012』以降に発表されたシングルもストーリーのなかに完璧に組み込まれていて、まるで3年前からyasuのプラン通りに制作が進められているかのような印象を受けるのだ(実際はどうかわかりませんが)。その中心にあるのは「アルバムという形態を大事にしたい」という意思だろう。第57回グラミー賞(2015年)でプリンスが「みなさん“アルバム”って覚えてますか? “アルバム”って大事なものなんです」とコメントして話題を集めたが、『L−エル−)』を聴けば、アルバム全体で音楽を楽しむ、世界観を堪能することの醍醐味を味わってもらえるはずだ。
また、“ヘヴィロック x 歌謡曲テイストのメロディ”というスタイルを中心としながら、華やかな広がりを持ったABCの音楽性もさらに進化している。鋭利なギターサウンドと抒情的な旋律がナチュラルに溶け合い、「求めたのは嘘じゃなくて愛だった」──この歌詞はアルバム全体の核にもつながっている──というサビのフレーズで圧倒的なカタルシスを生み出す「liar or LIAR?」、軽快なシャッフルビートのなかで(アイドルが歌っても似合いそうな)キュートなメロディが広がるポップチューン「7 colors」。去年の夏フェスでyasuは「見ての通り、ザ・ヴィジュアル系です!」と堂々と宣言していたが、その音楽のレンジはそれだけでは括れない幅広さを確かに備えている。
もちろん、奥深い世界観とカラフルな音楽性をバランスよく描き出すyasuのヴォーカルも絶品。本作によってABCは、あらゆる層の音楽ファンを魅了するアーティストとしての存在感をしっかりと確立することになりそうだ。