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ブルックリンの才媛SSW、セイント・ヴィンセントが語るストレンジでポップな曲作りの極意
2012/01/24掲載
 ザ・ポリフォニック・スプリースフィアン・スティーヴンスのツアー・メンバーとして腕を磨いた、アニー・クラークのソロ・プロジェクト、セイント・ヴィンセント(St.Vincent)。ストレンジなポップ・センスと緻密に作り込まれたシンフォニックなサウンドは、どこかクール・ビューティな女性科学者を思わせるが、今年1月に行なわれた初来日公演では、ギターを掻き鳴らしながら客席に飛び込むというロック・スター的な一面も垣間見せてくれた。その美貌もあわせて、いまUSインディ・シーンで熱い注目を集める彼女に、3作目となる新作『ストレンジ・マーシー』について話を訊いた。
――今回のアルバムは今住んでいるブルックリンを離れて、シアトルでホテル暮らしをしながら曲を書いたそうですね。
 セイント・ヴィンセント(以下同)「私が今住んでいるニューヨークのアパートでは、上の階の人がケンカしたり、下の階の人がセックスしたりする音が全部聞こえてくるの(笑)。救急車はしょっちゅう通るし、いつもうるさくて。だから今回は、一人になれて誰にも邪魔されないような環境に自分を置きたかったのよ」


――前作『アクター』ではガレージバンド(コンピュータの音楽ソフト)を使って曲作りをしていたのに対して、今回はシンプルに楽器を弾きながら曲作りをしたとか。
 「何かを作る時、毎回プロセスを根本から変えないと同じものができてしまう。『アクター』の曲を書いた時は、コンピュータに音を全部溜め込んで、それをいろいろ組み合わせながら音を作っていったの。それに対して今回は、より感情をあらわにして、ダイレクトに表現することに専念したわ。だから、曲作りの時はギターだけ。すごくいいアイディアだと思ったら、その場で試してみて、直感で“これは良い”“これはダメ”って判断しながら曲を作ったのよ。まずは曲ありき。曲のよさを一番うまく伝えるサウンドを考えながらレコーディングしていったの」


――今回もユニークなサウンドですね。いろんな音が不思議なシンフォニーを生み出していて。
 「どこにどんな音が必要か、曲が教えてくれるのよ。以前は“とりあえずいろんな音を盛り込んで、何が生まれるか見てみよう”というやり方だったけど、最近では曲に物語があって、そこにあるエモーションを盛り上げるためには何が必要なのかを考えてみる。そうすると自然に答えが見えてくるの」
――ちなみに機材にはいろいろとこだわるほうですか?
 「テクノロジーは大好き。でも、重要なのはヒューマンな効果を出すためにテクノロジーを使うことよ。たとえば私が弾くギターは、キーボード・プレイヤーが操作するミディによって音色が変わるようになっていて、私がペダルを押さなくても要所要所で音色が変わる。そうすることで、ギターを弾いていても、ペダルのことを気にせずに観客とコミュニケーションがとれるの」
――ライヴでギターを弾きまくる姿も印象的でしたが、ギターを弾き始めたのはいつ頃からですか?
 「12歳の頃にギターに夢中になって、ニール・ヤングの曲を弾こうと思って弾き始めたの。私が生まれ育ったテキサスのラジオから流れる曲といえば、トップ40にヒット曲以外はクラシック・ロックかカントリー・ソング。そこで私はロックを選んだのよ」
2012.1.10
 shibuyaduo MUSIC EXCHANGE
(C)Kubo Kenji
――そこから、オルタナティヴなサウンドに興味を持つようになったきっかけは?
 「91年にグランジ・ブームが巻き起こって、それまでポイズンを聴いていたような人たちが一斉にニルヴァーナを聴くようになった(笑)。私もライオット・ガール系のバンドやインディ・バンドを聴くようになって、キル・ロック・スターズやマタドールに直接(レコードを)注文するようになったの」
――あなたにとってのロック・ルネッサンス期ですね。
 「まさしく(笑)」
――最後にユニット名について教えてください。詩人のディラン・トマスが死んだ病院の名前からとったとか。
 「ニック・ケイヴの〈ゼア・シー・ゴーズ、マイ・ビューティフル・ワールド〉という曲に“ディラン・トマスはセイント・ヴィンセント病院で酔っぱらって死んだ”というフレーズがあって、そこからとったの。ディラン・トマスのほかにも、ジョニー・サンダースとかいろんなアーティストが出てきて、自分のことが大好きで大嫌いなアーティストの心情を描き出したニックにしか書けない曲よ。機会があれば、ぜひ歌詞を読んでみて」
取材・文/村尾泰郎(2012年1月)
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