2017年3月、
『玲央 1st』でデビューした箏(そう=こと)の俊才、
LEO(今野玲央)が第2作
『玲央 Encounters: 邂逅』をリリースした。東京藝術大学(音楽学部邦楽科現代箏曲専攻)に入学後、初めてのアルバムとなる。藝大に入ったことで、LEOにはさまざまな出会いが生まれた。たとえば、日本の伝統音楽を基礎から学び直したことによる、日本音楽との新たな出会いだ。また、箏による音楽表現を多彩なものにしている原動力としては、藝大で学ぶ同世代の音楽家との交流も大きい。
『玲央 Encounters: 邂逅』には、あらゆる出会いによってみずからの音楽性、アーティスト性を深めるLEOの姿がある。
――デビュー作は、LEOさんの存在を知ってもらい、また箏という楽器の魅力や可能性を示すという目的もあったことから、
モーツァルトの「トルコマーチ」やジャズの「テイク・ファイブ」を収録するなど、間口の広いアルバムでしたが、今回の2作目は芸術性を追求した作品という印象があります。
「前回のアルバムを出してから1年半の間にいろいろあって、今回は“出会い”をテーマにしました。いちばん大きかったのは大学に入学したことです。礼儀作法や伝統楽器の“伝統”の部分も含めて、1年間、基礎からみっちり教わりました。先輩・後輩の関係がなく、先生とも友だち感覚のインターナショナルスクールから藝大に入りましたから、厳しいところだとわかっていたつもりでも、やっぱりたいへんというのがありました。藝大はふつうの学校とちょっと変わっていて、先生とは師匠と弟子という感じなので、厳しい空気も流れています。藝大では別の科の人とのいろいろな出会いもあり、今回、共演しているヴァイオリニストの燒リ凜々子さんもそうですし、〈One Summer's Day(あの夏へ)〉の編曲をお願いした作曲科の冷水乃栄流さんも藝大で知り合ったかたです。年齢が近いというのもあって、密にいろいろ話したり、対等な感じで音楽をつくったりすることができました。そういったいろいろな出会いをテーマに、お箏の表現力だとか芸術性みたいなものを見せられたらいいなと思って、こういう構成のアルバムになりました」
――前作には尺八とのデュオが収められていましたが、今回はヴァイオリンとのデュオですね。
「〈土声〉という曲は、もともと十七絃箏と尺八の曲です。これを僕は、邦楽の人ではなく、洋楽をやっている人と演奏したいと思ったんですよ。それでフルートだとかヴァイオリンだとか、尺八のパートができる人を藝大で探しているうちに、いちばん音楽性などが共感できたのが燒リさんだったんです。西洋楽器とやりたかったのは、西洋的なリズムのとり方だとかフレーズのつくり方だとか、そういったものは邦楽奏者にはないものですし、逆もそうなので、二つが合わさったときの化学反応が面白いだろうなと思ったからです」
――燒リさんと実際に演奏してみて、どうでしたか?
「いちばん最初に演奏したときは、がんがん来るヴァイオリンに対して、“違う、違う”みたいな感じで(笑)。けっこうスリリングな演奏だったんですけど、レコーディングになるまでにはお互いの楽器の特性を理解して、彼女はレベルの高い演奏家ですから、言葉ではなく、音楽で理解しあう演奏ができたと思っています」
――「邂逅−六段とSerenadeによる−」も燒リさんとのデュオです。
「
大塚茜さんに書いていただいた曲です。ヴァイオリンとお箏が対等になるように作曲されています。最初はお箏の〈六段〉と
シューベルトの〈セレナーデ〉がぶつかり合うんですね。それがだんだん融合していき、気づいたら調和しているという曲です。これがアルバムのテーマにもつながってくるので、1曲目にしました」
――「ファンタジア」は8面の箏とLEOさんの箏による協奏曲ですが、合奏とソロやデュオとでは、演奏する際に違いがありますか?
「人数が多いときは意識共有をしっかりすることが大事です。自分のソロのパートを弾きながら、後ろにも音楽の流れが伝わるような演奏を心がけました。僕がお箏を好きになったきっかけは、こういう合奏でもあるので、なじみの深い横浜インターナショナルスクールの後輩、自分の所属している沢井箏曲院の同期といっしょに合奏しています」
――「One Summer's Day(あの夏へ)」は、響きそのものが郷愁を感じさせるような演奏が印象的です。
「YouTubeにはお箏でポップスやディズニーの曲やジブリの曲を演奏しているものがありますが、そういうのは一歩間違えると、お箏でやる意味がないような演奏になります。今回は冷水さんに、お箏でいちばん鳴りのいい音で出せるようにとか、十七弦箏なので、余韻を使ってどういったことができるかといったことを意識して、編曲していただきました。多重録音による2面の十七弦箏でやる意味のある演奏になったと思います」
――自作曲の「鏡」は、収録曲のなかで最も日本を感じさせる演奏ですね。
「いまの自分の思いだとか、音楽に対する考え方だとか、そういうものがすべて見えるような曲として、〈鏡〉というタイトルをつけました。藝大に入っていちばん得られたものは、古典のすばらしさや、日本的な考え方のよさです。僕のこれまでの演奏は、わりと洋楽的なところがあったかもしれないですけど、日本の音楽を再認識することができました。そういった意味で、お箏の魅力がいちばん出るような、お箏にいちばん合うような曲を書こうと思いました。音の鳴っていないところにまで注意を払い、一音入魂、たくさんの音で語るのではなく、少ないもので語る美しさを表現しています。いままで弾いた曲のなかでは、いちばん難しい曲です」
取材・文 / 浅羽 晃(2018年7月)
■2018年8月1日(水)発売
※「One Summer's Day(あの夏へ)」と「邂逅−六段とSerenadeによる−」の2曲が先行配信中!
[収録曲]
01. | 大塚茜作曲、編曲: 邂逅−六段とSerenadeによる− |
02. | 吉岡孝悦: 箏のためのアラベスク |
03. | 清水脩: 三つの詩曲 |
04. | 沢井比河流: 土声 |
05. | 沢井忠夫: ファンタジア |
06. | 今野玲央: 鏡 |
07. | 久石譲 / 冷水乃栄流編: One Summer’s Day(あの夏へ) |
[演奏]
LEO(箏,十七絃箏) / 燒リ凜々子(vn / 01,04) / 森梓紗、スタンダール・ヨハン*、マスカルロブソン・エドワード* 、川部紗也*、長谷由香、パトラ・アルナンス(箏 / 05) / 小林甲矢人、大谷めぐみ*(十七絃箏 / 05)
* 横浜インターナショナルスクール高校生
■『玲央 Encounters: 邂逅』CD発売記念ライブ
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