“令和のポップ・キラー”友成空。2024年1月に発表した楽曲「鬼ノ宴」のバイラルヒットで名を上げた後も「睨めっ娘」「ACTOR」な次々とヒット曲を送り出し、新世代J-POPシーンの旗手として大きな注目を集めている。
そして今回、代表曲「鬼ノ宴」と湖池屋のコラボレーションが実現した。“ピュアポテト”シリーズの新作「鬼ノ宴」は、楽曲の中毒性のある世界観とクセのある辛さをリンクさせた商品。
楽曲「鬼ノ宴」の制作、ヒットによる影響、そして、湖池屋とのコラボについて友成空に語ってもらった。
――「鬼ノ宴」は友成空さんの代表曲として知られています。制作したのはいつ頃ですか?
「2023年の夏前、5月くらいですね。メジャー・デビューの前で、レーベルの方と顔合わせするときに、いろんなヴァリエーションのデモ音源を持っていって、そのなかの一つが〈鬼ノ宴〉のデモだったんです。クリエイティブな面でいうと、その頃は僕自身、“もっと自由になりたい”と思っていた時期です。知らず知らずにうちに自分のメンタルに制限をかけてるような感覚があったので、それを取り外して、いろんな曲を作っていきたいなと思っていました」
――「鬼ノ宴」のような和のテイストを入れたダークな曲は、それまであまりなかったですよね?
「そうですね。デモのなかにはあったんですけど、ちゃんと形にしたのは初めてでした。じつはこの曲、最初から和の感じにしようと思っていたわけではなくて。R&B的なアプローチというか、いちばん初めに思い付いたのは、ベース・ラインなんです。まず生のベースの音色で入れて、ドラムも生感のある音で。その感じが気に入っていたんですけど、途中で“もっとソリッドな音にしたい”と思って、試行錯誤しているうちに見つけたのがピアノの重低音だったんです。さらに音の末尾をバッサリ切るリリースカットっぽい加工をして。そのときに“これだったら、和が合うかな”と思ったんです」
――なるほど。だからブラック・ミュージック的なテイストと“和”がハイブリッドされているんですね。洋楽も友成さんのルーツなのでしょうか?
「はい。父の影響がいちばん大きいんですけど、小さい頃からビル・ウィザースやハービー・ハンコックなどをよく聴いてて。父も趣味でベースをやってたから、ジャコ・パストリアスなども家で流れていました。個人的に好きだったのはジャミロクワイです」
――友成さんのコード感、ソウルやジャズのテイストも入ってますよね。
「そうかもしれないです。ついテンションコードを使いたくなるんです(笑)」
――「鬼ノ宴」の歌詞についても聞かせてもらえますか?
「当時は思いつつくままに書いていて、裏にある意味まで深く考えてなかったんですけど、自分自身に言いたいことを書いた歌かもしれないです。なんていうか、善悪みたいなものをかっちり決めて、揺るがない正義みたいなもの持ち続けると、それは悪にもなり得るんじゃないか?と思っていて。“正義の逆もまた正義”ってよく言われるじゃないですか」
――すごく現代的なテーマですよね。
「そうですよね。揺るがないことも大事だけど、当時の僕に必要だったのは、固定観念を取り払うことだったのかもしれません。“悪いことをしよう”と歌ってるわけではなくて、本当に思っていること隠して生きるのは良くないというか。言語は難しいんですけど、そういう気持ちで書いた歌詞なんだと思います」
――友成さん自身は、心のなかで感じていることを表に出さないタイプなんですか?
「どうだろう。僕、中学生のときに生徒会長をやってたんですよ。意外と自分の意見を押し通すタイプだった気がするし、先生から“ガンコだね”と言われたこともあります(笑)。自分のなかの正義みたいなものがどんどん変わるというか、八方美人みたいなところもあるんですけど、“それでいい”という気持ちも〈鬼ノ宴〉には込めています。“こんな自分はダメだな”と思うと幅を狭めてしまうし、きれいな形じゃないとしても、“それでも明日も生きていきたい”と思える人生のほうがいいなと思う。そうやって生を肯定できる曲を作っていきたい思いもあります」
――「鬼ノ宴」は2023年11月にTikTokでデモ・ヴァージョンが投稿されました。反応はどうでしたか?
「すごかったです。アップロードした日から数字がどんどん伸びて、経験がないくらいの数の“いいね”が付いて。じつはこの曲をアップする直前に神社にお参りしたんです。京都の車折神社という芸能の神様を祀っている芸能神社があって。その日の夜に発表したのが〈鬼ノ宴〉でした」
――ご利益ありましたね!「鬼ノ宴」はストリーミング累計1億5000万回を突破。この曲のヒットによる影響はどうでしたか?
「ヒットした直後はいろいろ考えました。〈鬼ノ宴〉のあとに〈睨めっ娘〉を出して。そこまでは楽しく作っていたのですが、〈鬼ノ宴〉で知ってくれた人が“どんなヤツだ?”と腕組みしている人がいっぱいいるなかで、“その人たちに離れてほしくない”とか“同じような曲を出したほうがいいのかな”とか悩んでしまって。その半年後くらいに〈ACTOR〉という曲をリリースしたんですけど、まったく“和”ではないし、むしろ洋風なサウンドを打ちだしたんです。さらに“全部演じているんだよ”と歌うことで、モヤモヤが解消された気がします。今年に入ってからは、以前のように自由なマインドでやれるようになってきました」
――ヒット曲があると、どうしてもその曲のイメージが付いてまわりますからね。それを払拭することが必要だったと。
「そうですね。〈鬼ノ宴〉はヒットさせようと思った曲ではなかったんです。自由になりたくて作った曲が自分に制限を課してしまったというか……。今は“自分にとって楽しいことをやる”というマインドになれたので、そこは良かったのかなと。それを理解してくれて、“やりたいことをやったほうがいい”と言ってくれた周りの方々にも感謝しています」
――バズも、狙ってやれるものでもないですし。
「神のみぞ知るですよね(笑)。もう一つ心に残っているのは、僕がいちばん尊敬しているミュージシャンの一人である大貫妙子さんのラジオ番組に呼んでいただいたこと。大貫さんの〈4:00AM〉が海外のシティポップ勢からすごく聴かれていた時期なんですけど、大貫さんは我関せずというか、“聴いてもらえるのはありがたいですね”くらいの感じだったんです。その姿勢に勇気をもらえたし、それが長い間、音楽を続けるうえで必要な心の持ちようなんだろうなと。ヒットするかどうかより、ご自身が音楽を楽しんで、追求することが大事なんだなと思いました」
――そして、その「鬼ノ宴」と湖池屋のコラボレーションが実現しました。「鬼ノ宴」がポテトチップスの商品名になっていますが、斬新なコラボですよね。
「最初はビックリしました(笑)。“曲名が商品になるって、どういうこと?”と思いましたし、実際にパッケージの写真を見るまで実感がわかなかったんです。」
――「ピュアポテト 鬼ノ宴」は“鬼もハマる辛さ シラチャ―ソース”が特徴ということですが、実際食べてみましたか?
「はい!辛さのバランスがちょうどいいんです!僕は東南アジア料理が好きなんですけど、〈ピュアポテト 鬼ノ宴〉はタイ料理に近いテイストがあって。辛味だけじゃなくて、酸味もあるし、個人的にすごく好みでした。辛みが好きな方、エスニック味が好きな方はめっちゃハマると思います」
――ビールのおつまみにも合いそうですね!ちなみに友成さんにとって、“クセになるもの”とは?
「猫を飼ってるんですけど、猫の肉球の匂いはクセになります(笑)。枝豆に似てるんですけど、それだけじゃなくて、それを確かめたくて、つい匂いを嗅いでしまいます。音楽でいうと、シンプルなほうが中毒性があるような気がします。たとえばビリー・アイリッシュの〈bad guy〉。構成はシンプルなんだけど、ちょっとした音の加工で気持ちよさが生まれて、それがフックになっています。“違和感+快感”がポイントかもしれないですね」
――なるほど。ほかに、友成さんが自身がクセになった(ハマった)作品というと?
「いろいろあるんですけど、今思い浮かんだのは『ドナルドのさんすうマジック』という映像作品です。ドナルドが算数の国に迷い込んで、算数の勉強をしながら旅をするんです。子供の頃見ていて、当時はまったくわかってなかったんですけど(笑)、VHSを繰り返し観てたみたいです。映像の雰囲気やBGMが僕にとってはちょっと怖くて、それがクセになっていたのかもしれません。大貫さんの〈メトロポリタン美術館〉のイメージにもつながってるんです。あの曲は『みんなのうた』の映像を含めて、“ちょっと怖い”と評価されることがあると思うんですが、ダークな世界に惹かれるのかもしれないです」
――「鬼ノ宴」も小さいお子さんにとっては“怖い”というイメージがあるかも。
「それが、小さい子供たちにすごくウケてるらしくて、小学校の運動会などで踊ってくれることもあるみたいなんです。ライヴにも親子連れのお客さんが来てくれて、〈鬼ノ宴〉や〈睨めっ娘〉のとき、会場の子供たちが親に抱っこされて浮上してくるんですよ(笑)」
――素敵な光景です。楽曲を制作するときに、中毒性やわかりやすいフックを意識して作ることもあるのですか?
「そこはあまり考えていないです。マーケティング的なことを考えれば、たとえばTikTokのユーザーの傾向に合わせて音を選んだり、“最初の数秒が重要”みたいな話もあるんですが、僕自身はそこにプライオリティを置いていません。その曲で何を表現したいか?ということに重点を置いているし、それに沿って音を選ぶのが大事だと思います。〈鬼ノ宴〉もまさにそうなんです。リスナーの注意を引くためではなく、曲のイメージ、鬼の雰囲気を表現するためにすべての音を決めているので。それが結果的にフックになればいちばんいいですよね」
――今後の活動についても聞かせてください。10月19日にTVアニメ『キングダム』第6シリーズEDテーマ「咆哮」をリリース。さらに1stアルバムのリリースもアナウンスされています。
「コロナ真っ盛りの高校生の頃から“自分の高校時代が詰まったアルバムを出したい”と思っていました。卒業のタイミングでEP(『18』)を出したのですが、今回ようやく“アルバムを作る”という目標が叶います。ただ、中身としては高校時代の思い出とか、等身大の曲を入れるわけではないんです。ここ1〜2年のなかで評価していただいた非現実的な作風、ストーリーテラー的な側面を色濃く出したコンセプチュアルなものにしたいと考えています。〈鬼ノ宴〉〈睨めっ娘〉の路線をやり切ったアルバムになると思います」
取材・文/森 朋之
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