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ウエスト・サイド・ストーリー OST 名作ミュージカルをスピルバーグ監督が新たに映画化永遠の輝きを放つその音楽の魅力
2022/02/09掲載
 アメリカが生んだ偉大な指揮者で、カラヤンと並んで20世紀後半のクラシック界をリードした巨匠レナード・バーンスタイン。作曲家としてもジャンルを超えて天才ぶりを発揮したバーンスタインの、最高傑作ミュージカルが『ウエスト・サイド・ストーリー』である。本作がシェイクスピアの悲劇『ロミオとジュリエット』を下敷きにしたものであることはよく知られているが、最初に企画を考えたのはダンサー出身の著名な振付師ジェローム・ロビンスで、彼が、それまでミュージカルの台本を書いたことのなかった劇作家アーサー・ローレンツをバーンスタインに引きあわせた。3人は作品の構想を思い描くなかで、当時のアメリカ社会でいくつも発生していた人種間対立に起因する事件に目をとめ、オリジナル戯曲の旧家同士の争いを、マンハッタンのアッパー・ウエスト・サイドを縄張りとする、ヨーロッパ系白人(ジェッツ)とプエルトリコ移民(シャークス)の二つのグループを主人公とする物語に翻案。当初はバーンスタイン自身が歌詞も書こうとしていたが、多忙のためその大役は若き作詞 / 作曲家のスティーヴン・ソンドハイムに任された(こうしてソンドハイムはブロードウェイ・デビューを果たし、2021年11月に91歳で没するまで長らくミュージカル界に貢献することとなる)。
 こうして1957年に初演された舞台『ウエスト・サイド・ストーリー』は、歌だけでなく鮮烈なダンスそのものによってドラマが展開する画期的なスタイルも話題を呼び、大ヒットを記録。1961年には映画化され、アカデミー賞で作品賞・監督賞(ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンズ)・助演女優賞(リタ・モレノ / アニータ役)・助演男優賞(ジョージ・チャキリス / ベルナルド役)を含む10部門受賞という快挙を成し遂げた。映画公開前の1960年には、劇中の主要曲を集めたコンサート用の組曲「シンフォニック・ダンス」も発表され、その後もバーンスタイン自身による複数の録音(1961年 / ニューヨーク・フィルハーモニック、1983年 / ロサンゼルス・フィルハーモニック)をはじめ、世界中でオーケストラのレパートリーとして人気を集めている。
 そして2021年、この伝説のミュージカルを子どもの頃から愛していたという、スティーブン・スピルバーグ監督があらためて映画化。舞台背景や物語では、よりリアルに当時を再現。音楽も名曲の宝庫である歌はそのままに、名門ニューマン・ファミリーの長男デヴィッドがオリジナル・スコアにアレンジを加えたものを一部で使用している。演奏はニューヨーク・フィルとロサンゼルス・フィル(追加分)。指揮を1981年にベネズエラで生まれ、現在、ロサンゼルス・フィル音楽監督、エーテボリ交響楽団首席指揮者、ベネズエラ・シモン・ボリバル交響楽団音楽監督というポストを兼任する傍ら、各国の一流オーケストラ、オペラ・ハウスに客演している若手指揮者グスターボ・ドゥダメルが担当したことでも大きな話題を呼んでいる。また、映画は3月27日に授賞式が開催されるアカデミー賞の作品賞、監督賞など主要7部門にノミネートされている。
New Album
『ウエスト・サイド・ストーリー オリジナル・サウンドトラック』
UICH-10171
 オリジナル・サウンドトラックは映画から21曲を収録。以下に各トラックの聴きどころをメモしてみた。
@プロローグ
 口笛の旋律がいつまでも耳に残る序幕曲。シンフォニック・ジャズのスタイルにラテンをとりいれた本作(音楽)のエッセンスがこの楽曲にちりばめられている。なお、今回のスピルバーグ監督版(以下、2021年版)では冒頭で、物語の舞台であるスラム街が、1966年に開館するアメリカが誇る世界最高峰のオペラ・ハウス、メトロポリタン歌劇場(新館)を中心とする“芸術の殿堂”リンカーン・センターの建設予定地であることが明示され、 “格差”や“分断”といった問題を旧1961年版よりも、テーマとしてより強く打ち出している。
Aラ・ボリンケーニャ(シャークス・ヴァージョン)
 2021年版に新しく追加された楽曲で、19世紀末までスペイン領だったプエルトルコ独立運動の中から生まれた革命歌。シャークスの親世代の母国であるプエルトリコは現在、米国の自治領。住民はアメリカ国籍を保有するが大統領選挙の投票権はない。
Bジェット・ソング
 トニー(アンセル・エルゴート)の親友リフ(マイク・ファイスト)がリーダーを務めるジェッツのテーマ・ソング。「オレたちジェッツはこの街で最高、ほかのやつらを通りから一掃してやる」と息巻く。
Cサムシングズ・カミング
 トニーが働くドラッグストアにリフが訪ねてきて、夜のダンス・パーティに誘う。パーティ会場はジェッツ対シャークスになること必至で、ジェッツのためにぜひ参加してほしいと頼みにきたわけだが、トニーはもう争いには興味がなく「何か素敵なことが起こりそう」と、恋の予感を歌う。
Dダンス・アット・ザ・ジム:ブルース、プロムナード
Eダンス・アット・ザ・ジム:マンボ
Fダンス・アット・ザ・ジム:チャチャ、ミーティング・シーン、ジャンプ
 組曲「シンフォニック・ダンス」でもメインとなる、体育館でのダンス・パーティ場面の音楽。「ブルース」でジェッツとシャークスのメンバーは早くも一触即発の不穏なムード。そこに司会者が登場し、男女で列を作ってパートナー選びをしようと提案(「プロムナード」)。しかし、あまりにも退屈なので楽団にはラテン・ジャズ風「マンボ」演奏のリクエストが。そして、シャークスのリーダーであるベルナルド(デヴィッド・アルヴァレス)が素早く、恋人アニータ(アリアナ・デボーズ)の手をとって踊り始めるとほかの連中もみなそれにならい、あっという間にジェッツとシャークスに分かれて激しいダンス・バトルが勃発。その最中、甘い「チャチャ」の旋律に導かれてトニーとベルナルドの妹マリア(レイチェル・ゼグラー)が夢のように出会い、二人だけの世界を作る(「ミーティング・シーン」)が、アニータのマリアを呼ぶ声で現実に引き戻される(「ジャンプ」)。
ウエスト・サイド・ストーリー オリジナル・サウンドトラック
ウエスト・サイド・ストーリー オリジナル・サウンドトラック
Gマリア
 彼女が“マリア”だと知ったトニーが、愛する人の名前を力強く歌い上げる、この作品から生まれた永遠の名曲のひとつ。本来、オペラのテノール歌手を想定して書かれているため、楽譜どおりに歌うのは難易度が高いが、さすがに19歳からオフ・ブロードウェイの舞台に立っているだけあって、アンセル・エルゴートの歌唱も味わい深い。
Hトゥナイト
 『ロミオとジュリエット』でも名高い“バルコニー・シーン”に相当する場面で歌われる、マリアとトニーによる愛の二重唱。1961年版ではこの場面の前に、アパート屋上で歌われる「アメリカ」のシーンが挿入されている。
ウエスト・サイド・ストーリー オリジナル・サウンドトラック
Iトランジション・トゥ・スケルツォ/スケルツォ
 トニーと会った次の日の朝、まだ昨夜の余韻で胸がいっぱいのマリアに重なる楽曲。
Jアメリカ
 プエルトリコ2世の女性たちがアパートの洗濯場で、故郷を懐かしみつつも現在のアメリカでの暮らしを礼賛し、男たちはそれを嘲笑するように歌う。その後、彼女たちはアニータを中心に街中に飛び出し“アメリカン・ドリーム”の実現を夢見て、路上でダイナミックに歌と踊りを繰り広げる。
ウエスト・サイド・ストーリー オリジナル・サウンドトラック
Kジー、オフィサー・クラプキ
 ついに決闘で決着を付けることに決まった2つのグループ。だが、それを嗅ぎつけたニューヨーク市警によってリフたちは拘束されてしまう。決行の場所が知りたいクラプキ巡査の尋問を受ける間、留置所でジェッツの面々がお互いにふざけ合い、コミカルに歌うナンバー。この設定も2021年版オリジナル。
Lワン・ハンド、ワン・ハート
 1961年版ではマリアが務める花嫁衣裳店にて、ふたりだけで結婚式を真似る場面で歌われる二重唱だが、2021年版にはマリアとトニーが地下鉄に乗ってデートに出かける新しいエピソードが追加されている。ふたりで教会に入ると、トニーが紙に記したスペイン語をたどたどしく読み上げ、マリアに愛を告白するのだった。
Mクール
 1961年版では、決闘の後で警察から追われて取り乱すジェッツのメンバーに向かって、アイスが「慌てるな、落ち着け(クールになれ)」と歌うナンバーだが、2021年版では素手で勝負するはずの対決に銃を持ち込もうとするリフを、決闘前にトニーが制止しようとする場面に用いられる。
Nトゥナイト(クインテット)
 複数の登場人物が同時に、それぞれの胸の内を歌い上げるオペラの手法で描かれる見事な五重唱。決闘の場所へと向かうリフ率いるジェッツと、ベルナルド率いるシャークス、ベルナルドと愛し合うのを心待ちにしているアニータ、そして離れていても「トゥナイト」デュエットさながらのマリアとトニー、5者それぞれの想いがひとつに重なり音楽的に美しいアンサンブルを織りなす。
Oランブル
 ついに決闘が始まり、トニーは止めに入るが、リフがベルナルドに刺されたのを見て、思わずナイフを手にしてしまう。その結果……
Pアイ・フィール・プリティ
 悲劇が起こったことをまだ何も知らないマリアが職場で「なんて美しい私、本当に素敵な男性に愛されて……」とみんなの前で楽しそうにおどけて歌うナンバー。2021年版でマリアたちはデパートの清掃係の仕事をしている。
Qサムウェア
 バーンスタインとソンドハイムの想いが結集した「平和で静かな開かれた、私たちのための場所がどこかにあるはず……」という内容の、この作品全体を貫くテーマ曲のような珠玉のナンバー。1961年の映画版では行き場所を失ったマリアとトニーのデュエット曲だったが、オリジナルの舞台版ではバレエ・シーンの挿入歌という設定。今回は、ジェッツのたまり場であるドラッグストア(トニーが働く店)の女店主バレンティーナを演じるリタ・モレノによって歌われる。1961年版でアニータ役だった現在90歳の彼女を起用したことで、スピルバーグ監督は、前回から60年あまり過ぎた現代でもまだこの「サムウェア」の歌詞にうたわれた社会の実現には程遠く、いまなお“格差”や“分断”の問題が解決されないままである(それどころかむしろ悪化している)ことを私たちに問いかけているのかもしれない。
Rア・ボーイ・ライク・ザット/アイ・ハブ・ア・ラヴ
 取り返しのつかない事件の後、部屋でトニーと会っていたのをみつけて、激しくマリアを責めるアニータ。しかし最後には「恋をしたの、そしてそれが今の私のすべて」と命がけでトニーへの愛を貫こうとするマリアに心を動かされるのだった。すでにブロードウェイなどで活躍中の実力派アリアナ・デボーズも見事だが、3,000人以上の候補者の中からマリア役に抜擢されたレイチェル・ゼグラー(今回が映画デビュー)の歌唱に心を掴まれる。
Sフィナーレ
㉑エンド・クレジット
 果たして、この禁断の愛の結末は……。
映画『ウエスト・サイド・ストーリー』は2022年2月11日(金・祝)劇場公開
(c)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
文/東端哲也
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