
『マイロ・ザイロト(MX)』
バンドを大きく躍進させ、全世界を魅了した前作
『美しき生命』に続き、
コールドプレイがまた世界を驚かせるであろう新作
『マイロ・ザイロト(MX)』(10月19日発売)を発表。本企画では新作の魅力に迫ります。では、アルバム制作中の忙しい合間を縫って出演した今年のFUJI ROCK FESTIVALで行なわれたメンバー全員のインタビューからスタート!
今年のFUJI ROCK FESTIVALに出演し、意外にも初のヘッドライナーを務めたコールドプレイ。高揚感もカタルシス度も最大レヴェルにセットされた楽曲群が、花火やレーザービーム、紙吹雪に彩られながら苗場の山々に響き渡る光景は、まさに息を呑むほどの美しさだった。 バンドも久々の日本をエンジョイしていたようで、あたらめて印象を聞いてみると……。
「初めての来日の時は、ショウの観客も全体的な雰囲気も、普段慣れ親しんでいるものとはかなり違っていて、僕たちも若くて経験が少なかったし、そのことがすごく奇妙に思えたんだ。でも何度も日本に来るうちに、理解できるようになったよ。みんなアーティストをリスペクトしてくれて、音楽に集中しているんだってね。そうやって楽しんでくれているんだ。そして今や日本は、僕たちにとってお気に入りの国のひとつとなった。本当に素晴らしい国だよ」(ウィル・チャンピオン/ds)
「日本が嫌いだったら、こうしてまた戻ってきたりしないしね(笑)」(クリス・マーティン/vo、g、p)
とりわけ今回の来日には、メンバーの中にも特別な想いがあったようだ。
「外国人として日本に言えることは、この国に来られて嬉しいということだよ。また来ることができて、本当に嬉しいんだ。日本は今年、大きなニュースになった。日本に起きたことは本当に悲しいし、感情を揺さぶられるけど、これだけの悲劇に耐えることができる国があるのなら、それは日本じゃないかって思う。だから僕たちは、リスペクトと愛を送るよ。そして、僕たちを招いてくれたことに感謝している」(クリス)

2011年7月29日 FUJI ROCK FESTIVAL'11
「バンドなら、やっぱりバンドとしてスタートしなきゃいけない」
日本でのブレイク作ともなった『美しき生命』から3年、彼らの通算5枚目のニュー・アルバム『マイロ・ザイロト(MX)』が、いよいよリリースされる。ご存じの方も多いと思うけれど、『美しき生命』は世界36ヵ国のチャートで1位を獲得し、グラミー賞3冠にも輝いたメガ・ヒット作。これでバンドは、“21世紀最大のロック・バンド”という称号を揺るぎないものにした。ここまで注目され、期待されている新作というのもないだろう。
「そんなふうに言われるとすごく嬉しいんだけど、自分たちが目指す場所にたどり着くまでには、もっと大きな山を越えなくちゃならないって感じているんだ。それは、どれだけアルバムを売り、どれだけ有名になるかっていうような話じゃなくて、音楽的に、まだまだ高いところに登らなきゃならないってこと。褒めてくれる人たちもいるけど、先は長いと思っているよ」(ウィル)
『美しき生命』では、
ブライアン・イーノのプロデューサー起用も話題を呼んだが、彼は今回、参加はしているものの、プロデュースには携わっていない。
「ブライアンは今回、バンドの5人目のメンバーとして、キーボードを演奏してくれて、曲のアイディアもいろいろ出してくれたんだ」(ジョニー・バックランド/g)
5人目のメンバー。正式メンバーにそう呼ばれるほどに、ブライアンはこのバンドに入れ込んでいる。コールドプレイというのは、世界屈指の音響の奇才にとっても、自身のスキルや新たなアイディアを活かすことができる格好の場となっているのだろう。かつての
U2がそうであったように。
ブライアンに代わって今回、プロデューサーに迎えられたのは、最近では
アーケイド・ファイアや
マムフォード・アンド・サンズらの作品を手がけている、マーカス・ドラヴスと、長年にわたってコールドプレイのエンジニアを務めてきた、リック・シンプソンとダニエル・グリーンの計3人。
「だから、多くの人が関わっているわけだけど、ひとつの大きなファミリーって感じだった。心がけたのは、部屋で一緒に演奏しているような雰囲気にすることだね。そんなの当たり前って思われるかもしれないけど、僕たちはそのことに、きちんと気づいていなかったところもあるんだ。だから、4人が輪になって座り、曲に合わせて一緒に演奏するってところからスタートした。そして、さまざまなサウンドスケープや雰囲気といったものを加えていったんだ。バンドなら、やっぱりバンドとしてスタートしなきゃいけないと思ってね」(クリス)

(c)Sarah Lee
そして、そうやって完成したアルバムが、もはやミラクルとでも呼びたくなるくらい、ものすごいことになっている。情報量においても、音像の精緻さにおいても、楽曲構造の複雑さにおいても、サウンドスケープの濃密さにおいても、過去最高値まで引き上げられていながら、音の感触それ自体は過去最高にポップという、ちょっと信じがたい事態が起こっているのだ。芸術性と、コマーシャル性。突き詰めれば突き詰めるほど足を引っ張り合い、アーティストを苦悩させる両極を、高次で融合させるという離れ業を、コールドプレイはやってのけたのだ。
「リズミックな視点から話すと、今のイギリスでよく聴かれているポップ・ミュージックやヒップホップには、すごくパワフルでクリアなリズムがあると思っていたから、今回はそれを取り入れてみたんだ」(ウィル)
「自分のこれまでの趣向をさらに広げ、さらなる可能性を見出したかった。新しいスタイル、新しい手段、新しいサウンド、新しい道といったものをね」(ジョニー)
「そもそも僕たちは、過去に出した作品と同じようなものは、絶対に作りたくないんだ。だから僕自身も新しいやり方を模索したし、たくさんの実験もしたよ。ベースにいつも同じベース・ギターを使うんじゃなくて、シンセサイザーを使ってみたりね」(ガイ・ベリーマン/b)
と、ミュージシャンとしてのさらなる音楽探求心や、実験精神も注ぎ込まれており、その新機軸的なプレイにも注目したい。
“生と死”をテーマにしたコンセプト・アルバムだった前作に続き、今作にも明確なテーマがある。それは、“愛と絆”。アルバム一枚を通して、そのテーマに沿った物語が描き出されてゆく。クリスによると、最初にアイディアが浮かんだのは、テレビでテロや戦争のニュースを見ていた時だったという。
「ふたりの若者が、アフガニスタンのような場所から抜け出すことができるんだろうか、なんてことを考えていたところから始まった。それが出発点だったんだよ。レコードの中にキャラクターを作るというのは、僕たちの本心を語る上で、とてもいい方法でね。僕たちはイギリス人で、君も日本人だからわかってくれると思うんだけど、自分の本当の気持ちを率直に言うってことが、なかなか難しい時もあるんだよね。だから、ストーリーを作って、さらにその中にキャラクターを作ることによって、自分が本当に考えていることを表現しようとしているんだよ」(クリス)
コールドプレイは、クリス・マーティンは、愛の力、絆の力を信じている。そしてそこに希望を、喜びを幸福を、見出そうとしている。今作の祝祭感に満ちあふれた、輝かしい曲たちが、そのことを何より雄弁に伝えている。
取材・文/鈴木宏和(2011年7月)