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関 和亮監督が語る、ポエトリー・ラッパー“不可思議/wonderboy”ドキュメンタリー『Living Behavior』
2015/07/14掲載
2011年3月、直接本人から音源化の許諾を得て、谷川俊太郎の詩をラップにしたシングル「生きる」を発表。続く5月には待望の1stアルバム『ラブリー・ラビリンス』を放ち、その評判が高まる中、24歳という若さでこの世を去った孤高のポエトリー・ラッパー、不可思議/wonderboy(ふかしぎ ワンダーボーイ)。急逝から3年以上もの月日を経てもなお広がり続ける支持の声、世代を越えて浸透している言葉が持つ意味をふまえ、彼はいったいどんな人物だったのかを未公開映像や関係者インタビューからつまびらかにするドキュメンタリー映画『Living Behavior 不可思議/wonderboy 人生の記録』。DVDリリースにあたり、本作で初の長編監督をつとめた映像作家、関 和亮に話を訊いた。
――制作はどのようにスタートしたんでしょう。
「最初は何気なく“こういうアーティストがいるんだけど”なんて、みんなでお酒を飲みながら不可思議くんの作品を聴いたりしていたんですけど、もうこの世にいないこともその時に知って。彼の作品を後世に残したい“繋げていきたい”という話から、何か映像で出来ないかなあとプロデューサーの草Kくん(草K洋平)に声をかけてもらいました。僕自身も彼の残した作品に共感した部分がすごくあったので、じゃあやろうと。わりと最初は軽いノリでしたし、自分たちの手弁当で……そんな感じで始まりましたね。音響を担当してくれた澤井くん(澤井妙治)も含めて、ふつうに友達と飲んでた席から始まりました」
――不可思議さんの作品にはどんな感想をもちましたか?
「自分にもこんなときがあったなとか。今、若い子たちから共感されてるなんて聞きますけど、僕ぐらいの世代も含めてオジサンというか(笑)、ある一定の時期を過ごしてきた、みんなに共通する感覚なんじゃないかな」
――昔をふりかえるような。
「そうですね、はい」
――撮影はすぐに?
「じゃあ実際どういうものを作ろう?というところが決まらなかったのもあって、撮影に入るまでちょっと間が空いていましたね。ドキュメンタリーという手法がいいのか、ある程度はフィクションを入れながら人生をなぞっていったほうがいいのか、方向性については何度か打ち合わせをしました。まずは資料を集める意味も含めて、生前を知っている人たちにインタビューしていったんですが、それぞれの話がおもしろくて濃い。不可思議くんがその人たちに対して適当に接していなかったことが伝わってきたんですね。だったら、それを紡いでいくのがいいんじゃないかという方向性に途中からシフトして突き進んでいきました。あと、そもそも不可思議くんを知っていた方、興味が沸いた方々が“ぜひ手伝いたい”と集まってきてくれたこともあって。彼の作品に携われるならば“やります”みたいな感じで、スタッフはみんなファン。僕もその一人なんですけど。亡くなった後で彼を知ったスタッフは、生きていたころの空気みたいなものに触れたかったのかもしれません」
関 和亮
――草Kさん、関さん、Paranelさん(LOW HIGH WHO? PRODUCTION)で10万円ずつ制作費を出し合ったっていうのは……。
「そう、ありましたね(笑)。やっぱりどうしてもお金がかかるものなので。そこはきっちりしようと、わかりやすく(笑)」
――上映の仕方もちょっと通常にはないかたちで。
「草Kくんのアイディアなんですけど、もちろん音楽をベースにした作品なので、ライヴハウスとか音にまつわるようなところで上映していくのがおもしろいんじゃないか、人も集まりやすいんじゃないかと。行脚じゃないですけど、そういうところを探しました。今はプロジェクターとか用意してある場所も多いですし、あとはもちろん“うちでもやってほしい”とか口コミで連絡を頂くようにもなりました。……個人的に考えているだけですが、上映して頂いた会場の方には“なんで彼が生きているときにブッキングしなかったんだろう”という想いも漠然とあったりするのかなあ」
――タイトルはいつごろ決まったんでしょう。
「タイトルはもう全然決まらなくて。インタビューが全て終わって、編集作業をして、もう最後“どうしよう”っていうときに、スタッフでコピーライターの高木くん(高木新平)が考えてくれたんですけど。これは作中、谷川俊太郎さんのインタビューの中で出てくる“Living Behavior(生きる挙動)”という言葉をそのまま。そう言ってくださいとお願いしたり、いい言葉を期待して伺ったわけではないんですけども(笑)。すごく不可思議くんを表しているなと思って、タイトルは満場一致で決まりましたね。谷川さんには、不可思議くんの魅力を言葉にして頂いたっていうのがすごく大きいです。僕らも彼の魅力を身をもって分かってはいたんですが、置き換えることは出来なかった。ヒーローといったら大げさかもしれないですけど、惜しげもなく、恥ずかしげもなく“言う力”を持っているというか“こう言ってくれるやつ”。売れたいなんてカッコ悪いとか、斜にかまえることのない」
――自分のことを“ポエトリー・アイドル”って言うラッパーは不可思議さんぐらいですかね(笑)。
「単純にお茶目なやつなんですよね(笑)。Paranelくんも言ってるんですけど。クラスにひとりはいる、茶化するやつみたいな。それはやっぱり愛される要因ではありますよね」
『Living Behavior 不可思議/wonderboy 人生の記録』より
――Paranelさんが「死んでからもつながっていく」ということを作中で語っていましたが、撮影されていく中でそういう感覚を実際に覚えることはありましたか?
「そうですね、僕も今回の作品がなければ会えなかった人、行けなかった場所があります。きっかけを不可思議くんが作ってくれた。もちろん上映すること、DVDになることもそうですし、すごく感謝しています。……締め切りが押し迫るまで僕もなかなか手がつけられなくて、最後はもうずっと缶詰状態だったので完成してよかった(笑)」
――インタビューされた方、それぞれに“不可思議/wonderboy像”があったと思うんですが、関さん自身は今どんな印象をお持ちでしょう。
「一番最初は、もっとこうなんか暗くてインテリで……そんな子なのかなと思ってたんですけど、むしろ全然逆。すごく明るくてポップだし、人を楽しませるエンターテイメントとして音楽、詩を捉えているんじゃないのかなって、どんどん変わっていきましたね。人に見てもらう、聴いてもらう、感じてもらうための表現として、たまたま音楽を選んだだけで、もしかしたら音楽ではなくてもよかったのかも知れない。僕は普段、音楽ビデオとか作ってて。単純に好きだから始めたんですけど、映像の表現っていろいろありますよね? コマーシャルがあれば、映画にドラマ、ドキュメンタリー、人が触れてくれるんだったら何でもやりたいといつも僕は思っていて。そこがすごくリンクしたように感じたんですよね。……たぶん、ラップじゃなくてもよかったんじゃないかな。言葉の数が多いから自然とラップになった」
――誰かに伝えるための表現として、不可思議さんに最適なのがラップだった。
「アートワークを手がけていた羽尾さん(羽尾万里子)が話していたんですが、V.A.『言葉がなければ可能性はない -SpokenWords Collection 2009-』のタイトルにもあるように、いうなれば“現実にはありえないような状況も、言葉があれば簡単に表現することが出来る”ということを不可思議くんは言っていたそうなんです。映像だと手間も時間もかかるところを、言葉だったらそれが一行で済む。表現したいことが端的に人に伝わって、物語が出来る、そこで言葉とか詩、ラップを選んだのかなと思って。そういう点ではうらやましいですよね、僕は映像で表現しなきゃいけないんで(笑)。ロケハンして、機材揃えて、役者揃えて、撮影して、編集して……ですから。いいな一行で(笑)なんて。彼は伝える手段を見つけたんだなと」
――“追悼”という意味ではないとのことでしたが、やはりエンディングで流れる神門「Pellicule」には揺さぶられます。
「やっぱり寂しいものにはしたくないし、“不可思議/wonderboy、帰ってこいよ!”みたいなことでもないという共通認識は最初からありましたね。じゃあどうしたら今までのファンだったり、初めて触れる人が見て、もっと彼のことを知りたくなるのかはすごく考えました。(神門「Pellicule」は)あれを流したいがために作ったようなところも、もしかしたら……あるかもしれないっていうくらい、効いてますよね。とはいえ、作っている側としてはそういう意図ではなかったりもするので、みなさんの捉えかた、それぞれのもので良いと思います。案外、僕は客観的に気持ちの整理はできていますね。監督としてクレジットされていますが、これは自分だけの作品ではなくていろんな人の手が加わってできたもの。好きなものって、自分の中だけにとどめておきたくないですか? 人に言うと薄まっちゃうような気がして。でも不可思議くんはそうじゃない。どんどん広がっていって欲しいですし、新しい人の手にわたって欲しい。不可思議くんの作品がみんなに届けば良いなと純粋に願っています」
取材・文 / 星 隆行(2015年6月)
Living Behavior 不可思議/wonderboy 人生の記録
Living Behavior
不可思議/wonderboy
人生の記録

lb.ponycanyon.co.jp/

2015年6月24日(水)発売
DVD PCBP-53110 3,800円 + 税


[封入特典]
16Pブックレット

[特典映像]

・『プレミア上映会』
舞台挨拶
観音クリエイション「流星群 feat.ぬくみりゑ」
狐火「27才のリアル」「マイハツルア」「Answer Pellicule」
GOMESS「伝説feat. daoko」「し」「人間失格」「Freestyle」


・『不可思議/wonderboy Live』
「暗闇が欲しい」「生きる」@新宿MARZ

・『Pellicule』Music Video“Living Behavior”special version


発売・販売元: ポニーキャニオン
(C)2015「Living Behavior 不可思議/wonderboy 人生の記録」製作委員会
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