ニューヨーク在住の日本人ドラマー、
新井田孝則のニューアルバムの制作が現在アメリカ・ニューヨークで行われていると聞き、マンハッタンの中心部から車で40分ほどのブルックリンにある、ミッション・サウンド・レコーディング・スタジオに2日間、お邪魔した。
日本においては、新井田孝則と聞いてピンと来る人は少ないかも知れないが、今回のレコーディングに参加するゲスト・ミュージシャンの名前を聞くと、ニューヨークでも第一線で活躍する、超一流のセッション・ミュージシャンばかりだ。10日は、
ジョン・ヘリントン(g)、
ジェイムズ・ジナス(b)、12日は、
オズ・ノイ(g)、
ウィル・リー(b)。
これまで、私とはEメールなどでのやりとりはあったものの、実は、新井田氏ご本人とお目にかかるのは私にとっては初めてのこと。そして、10日は、記録的大雪になるという天気予報により多くの学校が休校になり、レコーディングの延期も心配されたが、幸い交通機関が麻痺するほどの大雪にはならず、ひと安心。
雪のニューヨークは、とってもロマンチック。積もった雪に足をとられて歩くのは少し大変だが、白い雪と燻(いぶ)された木のようなこげ茶色をした建物とのコントラストが美しい。
一見、普通の家のガレージかと思うようなスタジオ入り口のブザーを鳴らすと、「どーもー初めまして。新井田です。」と元気な日本語で迎えてくれたのでちょっとホッとした。
スタジオには、もちろん、両日ともに新井田氏の他、参加ミュージシャンの2人、エンジニアの畑(Ryoji Hata
http://www.myspace.com/ryojihata)氏、そして、お邪魔虫の私の5人だけ。私は別として、創り手だけが集まったスタジオで、中身の濃い充実した時間を過ごすのだと言う。
今回制作しているのアルバムは、ドラム、ギター、べースのトリオ編成、ギターとベースは、ゲスト・ミュージシャンを2人迎え、全曲インスト。いずれも気心の知れたミュージシャンだけを集めて、じっくり“音の会話”を楽しみたい、と新井田氏。「う〜ん、いいねぇ。」と嬉しそうに唸る彼からは、ミュージシャンに対して、具体的な指示などはレコーディングの際には全くと言っていいほど行わない。その理由を尋ねると、すでに、曲作りの段階でしっかりと決められた方向性を、最終リハーサルまでに伝え、お互いに確認してあるから、あとはミュージシャンがそれぞれ自身の個性を十分に発揮しながらプレイするだけ、それについては何も言う必要は無いのだ。
レコーディングは、ライヴと同じように3人一斉に演奏して進められていく。演奏後には、フィードバック、エディット、テイク2、と繰り返される。録音は、スタジオの空気感を大切にし、部屋の中の音はどんな音もすべて拾っていきたいそうだ。演奏した場所の広さは、音の奥行きとして、明らかに音に表れてしまう。今回は、“狭い音”にしたくなかったと、新井田氏。
参加ミュージシャンの一人、ジョン・ヘリントンのギターの音は非常に独特だ。演歌のこぶしのような、独特の節回しがある。気になるところはすぐにやり直しを求めるような几帳面さと緻密さを持ったギタリスト。なるほどスティーリー・ダンのギタリストとして10年以上もやっているわけだな、と大いに納得。ある時、ふと、「1つ、アイデアがあるんだ」と言い出すと、どんどん自分の発想を形にしていった。どうやらお得意のスライドギターを入れたかったらしい。絶対に妥協しないジョンを見ながら、新井田氏、思わず私と顔を見合わせて、「やっぱり、凄いわ」。
ジェイムスのベースもまた、うねるような大胆なグルーヴを奏でる。どこからアドリブなのかわからないところが、スリリングで面白い。たとえばジャズのアプローチなのに、いつの間にかロック色を強めていくような、そんな感じだ。自分でもそれを楽しんでいるようで、数パターン演奏した後に、「どれが一番良かった?」と新井田が尋ねると、「それは孝則が決めてよ。」とジェイムズ。

(左から、ジェイムズ・ジナス、新井田孝則、ジョン・ヘリントン)
『
ファジー』『
幻想』などで、本格的ギタリストとして、日本でも知られるようになった、オズ・ノイ。記憶に新しい昨年末のライヴで見たときのまま、足下にずらりと並べられた機材を相手に、非常に緻密で練られたフレーズを正確に弾く。ギターを始めたのが10歳、今年で38歳になるそうだ。まだまだ若い(実は筆者と同じ歳なので、そういうことにしておこう;笑)、おそらく、同世代のギタリストで同じことができる人は、まず居ないと思われる。
ウィル・リーは今更説明の必要もないだろう。ジャンルを越えた、世界で最も有名なベーシストの一人と言っても過言じゃない。そんなウィルは、とっても気さくで、一番のムード・メーカー。その場の雰囲気をパッと明るくしてしまう。ライヴで観られるように、歌って踊る元気いっぱいのスタイルをそのままレコーディング・スタジオにも持ち込んでいる。

(左から、ウィル・リー、新井田孝則、オズ・ノイ)
実はもう1つ、私の訪米に先だって、
トモ藤田と
ウィル・リーとのトリオというのもすでにレコーディングが現地時間で2月5日に行われた。こちらは音源だけ聴かせてもらったが、
トモ藤田のちょっと西海岸風な爽快感あふれるカッティングと、ブルース・テイストがたっぷりと詰まった作品となっている。
最後に、すべてを束ねるのはドラマー、
新井田孝則。ある意味、個性派揃いの強者たちを、それぞれの魅力を引き出しながら、自分の持つ、心(しん)のグルーヴは失わない。そこが彼の魅力である。
バリバリのロック・テイストはもちろん、ブルースあり、ファンクあり、プログレあり、といろんな味わいのある曲が詰まっている。あれ? ジャズじゃなかったの? そんな疑問はさておき、新井田氏のファンにはもちろん、参加ミュージシャンそれぞれのファンにも是非聴いて欲しい1枚になるだろう。少し先になると思うが、今からその完成と来日ツアーが楽しみだ。
それまでは、
ウィル・リー、
ジョン・ヘリントン、
ジェイムズ・ジナスらが参加した2006年発表の前作「
LIFE IN THE BIG CITY」でお楽しみいただきたい。