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interview独りになってから繋がればいい──“新人”ビートメイカーAo Inoue、デビュー・アルバム『Arrow』をリリース

Ao Inoue / 2011/12/16掲載
独りになってから繋がればいい──“新人”ビートメイカーAo Inoue、デビュー・アルバム『Arrow』をリリース
DRY & HEAVYのシンガーとして、絶妙なニュアンスと共に繰り出される類稀な歌声で世界を魅了してきたAo Inoue(井上 青)。一昨年は2人組ユニットMaccafatでのアルバムを送り出し、ますますその美声を印象付けた彼が、初のソロ・アルバム『Arrow』(写真)をリリース!しかも、イメージをがらりと覆す全篇インストゥルメンタル!その上近年のベース・ミュージックとコネクトするポートを多数備えたフューチャリスティックな仕上がり。新鮮でオリジナルなサウンドもさることながら、先に進もうとするAoさんの心意気に打たれる1枚。“ヒーロー”や“リーダー”ではないかもしれないけれど、付いて行って同じ未来を観てみたい、そんな気持ちにさせる等身大の勇気と果敢な挑戦に満ち溢れた作品となっています。
――今回のアルバム、一聴してみんなが思うのはきっと、“どうしちゃったんだ?”っていうことですよね(笑)。
 「あはは(笑)。」
――たぶん“Aoさん”と言えば、DRY & HEAVYでの“シンガー”っていうイメージですもんね。
 「そうだよね(笑)。特に意図的にってわけでもなく結構自然にそうなったんですけど、やっぱりアルバムという形にするにあたって一度“歌はどうするんだ?”っていう風にも思いましたけどね。そのとき改めて“インストでいこう!”っていう決心はしたんだけど。まあ意外性はデカいかもしれないね。“なんでー??”みたいな(笑)。今回のアルバムに入っている曲は、1番古いものだと2004年くらいに作ったものなんですよ。その頃は結構DJをやっていたり、河西さんAUDIO ACTIVE)やMANATHOL、R2G2たちと一緒にSpike Bar(かつて東京・渋谷 道玄坂に存在したスペース)でライヴ・イベントをやったりしていて。DJの合間だとか転換のときに、特にリリースする頭があるわけでもなく、機材を買い集めて家で独りで作った曲をかけてたんですよ。それは全然DRY & HEAVYとは関係なく、好きでやっていたっていうか。もちろんDRY & HEAVYも好きでやってたんだけどね(笑)。特に何も意識しないで曲を作っていたわけですよ。Maccafatをやっているときも、そんな感じで作っていた曲がいくつかあって。それは始めからみんなインストだったんですよね。特に歌を入れようってこともなく。歌ってもいいかな……くらいには思ってたけど」
――インストで出す決心をしたのはどういった思いから?
 「曲を作るのも結局、歌詞を書くのと同じプロセスでなんですよ。自分の感情、心情が元にあって、それを置き換えていくっていう。今ままでは歌、言葉で伝えていた部分がメロディになったり、ミックスに置き換えられたりするわけです。海外のアーティスト見てると、シンガーがダブのレコード作ったり、逆に歌ってなかった人が急に歌っちゃったりっていうことが普通にあるじゃない?そういう自由度を表現したかったっていうのもあって。自分のことを“ミュージシャン”だと思って考えたら、自然な衝動っていうのもお伝えしたいし。意外性はあるかもしれないけど、内容がヒドいものでなければきっと伝わるんじゃないかな、っていう希望もありますね。リリースが決まってから更にそういう意欲が湧いてきた気がします」
――ソロでアルバムを出すということは、どういう経緯で決めたことなんでしょうか。
photo: Tadamasa Iguchi(Qetic
 「これまでね、独りでやるってことは全く想像してなかったんだけど、去年DRY & HEAVYを辞めたり、maccafatもあまり活動できなくなってきて、初めて独りでやってみようかなって。というか独りになっちゃったんですよね。実際は。その時期に色んなことを振り返って。周りの問題じゃないっていうのは感じ始めていて、自分も何か意識を変えたほうがいいんじゃないかなと。まあぶっちゃけすごい落ちちゃったわけですよね。完全に、暗黒寸前くらいまで落ちちゃって。これヤバいなって。これまで、自分だけでやってきたものってあったんだろうか……っていう、精神的な旅が始まって(笑)。そのときに、こういうの作ってた、と思って2004年頃に作ってお蔵入りにしてたトラックを聴いてみたら、意外と客観的に聴くことができて。思ったよりも曲にはなってるなっていうところから、自分的に再生の旅に変わっていったんです。で、それを自主で出そうっていう準備始めていたときに、DISBeatinkの流通部門)のスタッフを通じて、BeatinkのスタッフやNinja Tune社長のPeter(Quicke)さんに聴いてもらえることになって。金になるかとかそういうことじゃなくて、ただ感想を聞きたかったんですよ。俺が独りでやったことって、どういう風に聴こえるんだろうって確かめたくて。だからね、結構必死だったの、そのときは。精神的にも。ここでもらったインプレッションを参考にして、これから生きて行こう、くらいに思ってて。そしたら1月くらいになって、日本盤でどうかっていう話になってますよ!って電話かかってきたから、えーー!!ってなって(笑)」
――よかったですね!
 「いや、ほんとに。びっくりするのと同時にすごく嬉しかったですね。人生的にもすごいタイミングだったっていうか。正直言って。それで今度、きちんとした日本盤でリリースするってなったときから、さらにそれを人にうまく伝わるようにとか、気持ちよく、楽しい気分になってもらえるように、工夫しながら磨き上げていく作業を始めたんです」
――昔Spike Barでプレイされていたときの状態から、随分とビルドアップされた仕上がりになっていますよね。あの頃最初はAoさんの曲だって知らなかったので、MEAT BEAT MANIFEST(ミート・ビート・マニフェスト)とかRENEGADE SOUNDWAVE(レネゲイド・サウンドウェイヴ)のレア音源かなんかだと思っちゃってたんです(笑)。
 「それがね、そのへんはほんと全然聴いてないし、知らないんですよ。昔から買うのはやっぱりレゲエの7”ばっかりで。優先順位的には。昔は本当に黒人さん至上主義の原理主義者だったから(笑)、パンクもニューウェイヴもほんと聴かなかったし。黒人さんの感情表現のほうが好きだ!って思ってて。レゲエも黒人のものしか聴かなかったから。On-U(Sound)とかもDRY & HEAVYに入ってから知ったくらいで」
――だからこそ、ウォブルベースがブイブイ言ってる感じも意外だったんですよね(笑)。そういうのむしろ嫌いなんじゃないかと思っていたので。
 「うんうん、ウォブルベースとかは限度を超えちゃうとちょっとね(笑)。でもね、例えばDRY & HEAVYでクラナカ(KURANAKA 1945 / ZETTAI-MU)のイベントに出たりすると、当時はドラムンベースばっかり鳴ってたわけじゃない?そこにレゲエのDNAを感じることはできたんですよ。ラガ・ハウスとかラガ・ヒップホップも好きだったし、さらに時代が進むとグライムとかバイリ(ファンキ)とかもね。DJで全国色んな現場周って、そのとき周りの人がかけてたものだとか、人に教えてもらったものだとか、たまたま出会って見つけたものとか、そのミックス具合が多分出たんじゃないかな」
――やっぱり、レゲエの延長線上にあるものがお好きなんですね。
 「そうだね。テクノとかハウスはもちろん聴いてたんだけど、全然詳しくないっていうか、覚えるまで行かないんですよね。気に入ったものだけをピンポイント的に、ベースのこの音好き、このシンセの音が好き、っていう風に聴いていて。それもレゲエ・フレイヴァのものが好きだったんで。やっぱり自分の主たるキャリアとか、ベースになるものってレゲエしかないから。今回のアルバムも、レゲエの影響が自然に出たらいいなとは思ってたし」
――それはもちろん出ていますよね。あと今回のアルバムで特徴的だと思ったのは、すごく尖った音作りなんです。近年のビート・ミュージックによくある角が丸めの音ではなくて、個性的です。あれは意図的なものなんですか?
photo: Tadamasa Iguchi(Qetic
 「元から高音が出てるっていうのはあるんですけどね。たぶんクセみたいなものじゃないかって思ってるんですけど。すごいハイが出てるっていうのはマスタリングをやってくれたAZZURROさんにも指摘されたんですよ。今他の音源を聴いて比べると、すごいエッジィだなあっていう風には思うけど、意図的にそういうのを残した部分と、どうしても出来なかったっていう部分があるんですよね。今回、ミックスダウンが作曲するよりも大変で。独学でやってるから、客観的に聴いてみてやりすぎてるな、って思ったことも多くて。これから訓練と経験で解消したいと思うんだけど。最終的にはAZZURROさんのマスタリングで、ちゃんとジェントルな良い音になってるんですけどね」
――ハイが出ちゃうっていうのは、なんでなんでしょうねえ。
 「ねえ。なんでだろうね。耳の特性もあるのかもしれないけど、どうしてもレゲエだから、ちょっとオーヴァーロード気味というか(笑)、過剰気味な音が好きなんじゃないかな。ダブにびっくりしたりとか。ダンスホールのリディム聴いてえっ?って思うようなのとか。そういう感じが、これって彼の音でしょ?っていうぐらいの個性として出ていればいいなっていう気持ちはあります。ミックスにもトレンドがあるし、そこから離れすぎるとエンターテインメントにならないような気もしたから、個性と折り合いをつけながら、みんなに楽しんでもらえる仕上がりに向けて取り組みましたね」
――聴いて楽しい作品にしようという意志は滲み出ていると思います。音はアタックが強くて攻撃的なんだけど、メロディがちょっと愉快だったりして。そういう感じって、震災後を少しでも明るくしようとか、そういう思いもあるんでしょうか。
 「そうですね。さっきも言ったけど、俺はもともと黒人さん至上主義で(笑)。レゲエそうだけど、黒人音楽ってちょっとしたオトボケ感とか、“ファンキーだ”って言ったりするようなものがあるじゃない?たぶんそういうのが染み付いちゃってるんじゃないかな。性格に由来しているところもあるし。震災に関して言えば、聴いて、アイツまたバカやってんなー、ぐらいに思ってもらえればイイっていうのがあって。それでなんか元気出ちゃったなー、みたいな感じになってくれたら嬉しいなってね、思うんですよね。でもやっぱり震災後に作った曲は、率直にこう、綺麗なものになっていて。あのときは東京にいて、俺も死ぬかなって一瞬思ったけど、東北の人たちの実害は計り知れないじゃないですか。それを報道で観たり、被災した友達の話を聞いたりしている中で、すごく悲惨で、悲しいことがあったんだけど、人の強さとか、すごく美しいものも見せてもらったり、勉強させてもらったり。明日死んでもいいくらいに生きていかなきゃいけないんだな、とか色んなことを考えたじゃないですか。上手く言えないですけど、そういうのがウワーっと渾然一体となって、特に3曲目とか最後の12曲目とか、震災後に作った曲はある種そういう素の状態で作ったっていうか。自分の衝動だけで没頭して作るっていうんじゃなくて、もっと大きいことを考えることが多かったですね。独りで自分に素直になるということをやりつつ、人様に楽しんでもらうように仕上げる、っていうのと同じようなこととして。今回の作品自体、自信が全く無くなったところから生まれたものだから、そのときに考えたことっていうのは反映されてるんじゃないかな」
――色んな状況とリンクしているけど、パーソナルに収斂していく感じですね。
 「そうだね。今回ソロになってから、まだバンドとか始める前の、ほんと子供の頃からの、機械いじりが好きだとか、旅行するのが好きだとか、絵描くのが好きだとか、そういうものと、青年期の、バンドで世に出てからの体験っていうのがガサっと一緒になったような気がするんですよね。やっとそこに気付けるようになったっていうか(笑)。今回おもしろいことに、DRY & HEAVYとは関係ない子供の頃からの友達だとか、全然音楽とか好きじゃなくてただ一緒にオートバイ乗り回してた仲間だとか、親類だとかにジャケットをパッと見せたり、音を聴かせたりすると、あー、Aoらしいね、っていう風に言ってくれるんですよね。DRY & HEAVYだと逆に、これお前がやってるの!?みたいになってたんだけど。今までそういう経験がなかったから、おもしろい反応だなと思って。独りでやるとこういうことが起きるんだって、新鮮な驚きがありますね。今までのバンドでの活動だって、全部自分の延長で、ナチュラルなことだと思ってたんだけど、それとは全然違うというか。だからまあ、色々な意味で、すごいタイミングではあるんですよね、自分の中では」
――ジャケットは何をイメージされてるんですか?
 「具体的なことを考えるようになったのは震災の後で。“矢”っていうのは“武器”っていう意味じゃなく、もっとポジティヴな意味で。パッと浮かんだのは“三本の矢”のたとえ話だったんだけどね。震災、原発ときて、“矢”は折れちゃってるなと。みんな日本人て何なんだろうってたぶん考えてると思うし。だからちゃんと綺麗な矢で、青いところに羽があって、青い鳥もいいなあとか、すごいなんか素になって色々考えちゃって(笑)。デザイナーさんにディレクションさせてもらって、切り裂いていく感じのイメージで行こうとか、そういうアイディアを出しながら。あとね、テイストとしては、ちょっと90年代テクノのアートワークみたいな透明感と、日本のアニメがCGに移行する前後の感じ。それから、ちょっとマニアックでアレなんだけど(笑)、昔TVアニメが、例えば『ガンダム』『イデオン』とかね、劇場版になるときに劇画タッチのポスターが作られるんだよね。ああいう感じ(笑)。なんとなく分かったって言ってくれると嬉しいんだけど(笑)。なんだろうな〜、そういう、日本人の感覚じゃないけど」
――う〜ん、それは、TV版のAoさんが劇場版になったみたいな感じなんですか(笑)??
 「いやっ(笑)、なんか、俺の子供の頃からの延長というか、そういう感覚出したいなと。まあでも基本的には、これからサバイバルしていかなきゃいけないけど、綺麗な気持ちで生たいっていうポジティヴな意味が“矢”には込められてますね。“Arrow”。Aoっていうのが発音し難いってよくガイジンさんに言われてたから、Arrowって呼んでもらうのもいいかもな、っていう意味もあったりして。昔『ブロークン・アロー』っていう映画ジョン・ウー監督、ジョン・トラヴォルタ出演の1996年公開映画)があったでしょ?その“ブロークン・アロー”っていうのは、米軍が、核兵器を紛失したり略奪されちゃったりしたときのコードなんですよね。原発事故が起きた時にはそれがすぐに思い浮かんで。俺の家庭は中央線沿線(東京を東西に運行する路線。戦後からのカルチャーが根深く残る)の団塊ジュニアのコテコテな感じの家で。生まれた頃からある意味、選択の余地がなかったんですよ」
――そうだったんですか。
 「そう。小学校上がる前から広島、長崎の記録映画とか、枯葉剤のドキュメンタリーを見せられたりね」
――僕も小学校低学年の頃には見せられましたね。
photo: Tadamasa Iguchi(Qetic
 「ああいうのって子供の頃に見せられるとすごいじゃん?8ミリがカタカタカタカタ回って。奇形児とか、ケロイドの写真だとか。そういうもの見せられたり、あと色んな闘争ね。学生運動もそうだし。核問題にしても、核弾頭が原子力潜水艦に載って横須賀に来るとか、チェルノブイリの前にスリーマイルってのもあったしね、その頃はまだ物心ついてなかったけど。チェルノブイリでまた再燃したり。親がそういう生き方をしていたので、あるときにねえ、矛盾にも気付くわけですよ。いちいち何したって、物質主義だとかなんだとかって言わなきゃいけない。色気付いた頃には色々選択しなきゃいけないし、子供だから、反対のものに憧れちゃったりするしね。そういうものに折り合いをつけなきゃいけなかったんだけど、今までお座成りになっていて。だから福島で爆発が起きたとき、今まで何やってたんだ俺……みたいに考えちゃったりね。だけど実際はさあ、どこに行っても正しいことをやっている人が正しい人かっていうとまたそうとも違うっていうのがさ。デモ行って帰ってきたら今度は家で女房殴ってる奴とかさ。何じゃそりゃ??みたいなね。だから、自分で取れる責任、みんなで取れる責任、決断することとかっていうのは、色んな矛盾があってさ。でもやらなきゃいけないことっていうのは絶対にあるんだよね。ヘタしたらそういうのも全部含めて丸ごとハメられていますからね。矛盾にいっぱいぶつかって、これからが本当の成熟なんじゃないかな」
――状況が変化しても、人間の本質みたいなものはそうそう変わらないですし、結局決断するのは独りなんですよね。
 「そうそう。そうなんだよね。独りなんだよね。だからさあ、震災の後に、“ひとつになろうよ”ってみんな言ってたけど、あれ怖いなって思ったの。同調圧力とか、そういう種類の怖さね。本当はさ、一度みんな独りになるチャンスだったんだと思うんだよね。独りになってから繋がれば良いと思うんだよ。とにかく独りになってとことん考えて、そこからまた選択するっていう」
――今のAoさんみたいですね。
 「いや(笑)、俺は勇気をほかの人たちからもらって、なんとかがんばってる感じですけど。でもね、こういう時だからこそさ、音楽の力っていうのは発揮するべき時だから。この手の音楽っていうのは、弱き者の側にある音楽から生まれたものだから、今一番踏ん張らなきゃいけないんじゃないかなっ思うし。みんな頭切り替えてガッチリ盛り上がって、またそれぞれの生活に戻っていくっていう、音楽の役目がより重要になってくるよね」
――うん、音楽は(商業的に)ダメになったと言われて久しいですけど、これからその重要性はますます強くなっていくはずですよね。
 「そうそう。それにそのやり方にしてもやっぱり、個人がもっと素直に、勇気を持って、個人の意志を出してやるべきなんだと思うな」
取材・文 / 久保田千史(2011年11月)
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