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ヴォーカルもトロンボーンも自分を表現する手段――コーリー・キングが初リーダー・アルバムをリリース

コリー・キング   2016/10/20掲載
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 まさに旬のミュージシャン。エスペランサ・スポルディングエリマージ黒田卓也DJプレミアらの公演に同行し、聞けばこれまでに「16回は日本に来ている」と。初めて来たのが2011年というから、年に3回のペースで来日していることになるではないか。トロンボーン、ヴォーカル、キーボードとマルチな才を持つのデビュー作『ラッシズ』はみずからが全面的に歌う、間口の広いアダルト・ポップ傾向作だ。おお、これは一筋縄ではいかない。果たして彼はどういう経歴の末、今の境遇を謳歌しているのだろうか。
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――ヒューストン出身なんですよね。
 「うん。1985年生まれだよ。母はオペラを歌い、クラシック・ピアノを弾いていた。おじいちゃんが幅広い音楽が趣味で、レコードをたくさん持っていたんだ。だからいろんな音楽を聴いて育った」
――では、かつてのアイドルは?
 「多分、マイケル・ジャクソン。いや、絶対にそう(笑)。ポップとロックをおもに聴いていた。(ブラス・ロック・バンドの)シカゴとか好きだったなあ。ホーンが入っていて、僕はトロンボーンを吹いていたしね。B.B.キングも好きだったし、グローヴァー・ワシントンJr.もよく聴いた」
――その趣味って、もうちょっと上の世代が聴く音楽じゃないですか。
 「おじいちゃんの影響だね」
――最初からトロンボーンを?
 「最初は歌だった。5歳から教会で歌い始めた。トロンボーンを手にしたのは12歳で、それが最初の楽器。別にやりたいと思ったわけではなく、中学校のバンド・ディレクターにあてがわれてしまい、仕方なく始めたんだ」
――高校は有名なヒューストンの芸術高校(ジェイソン・モランビヨンセエリック・ハーランドケンドリック・スコットジャマイア・ウィリアムスらが出ている)ですよね。仲良しのジャマイア・ウィリアムスはその頃からの付き合いですか。
 「親友のジャマイアは2歳年上だけど、彼とは7歳からの付き合いなんだ。同じエリアに住んでいた。やはりあの学校に通ったのは、僕にとって重要なことだった。高校ではトロンボーンを吹き、クラシックとジャズを学んだ。今でもクラシックは好きだね」
――では、大きな編成のスコアを書けと言われたら、できてしまうんですね。
 「書けちゃうよ」
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――高校生の頃には将来は音楽家になろう、大学も音大にしようと思っていたわけですか。
 「その頃には音楽の道に進むという人生設計ができていた。そして、高校3年生の時に初めてNYに行って、いろいろ大学を見て回ったんだけど、ニュースクールが僕にはぴったりなんじゃないかと思った。ゆるい空気とともに尖った部分もあって、他の音大とは違うなと思った」
――ロバート・グラスパーも同校の出身ですが、あなたの同級生には誰がいますか?
 「タクヤ(黒田卓也)。ほかにもたくさんいるよ」
――ジャズのトロンボーン奏者だと誰がいちばん好きですか?
 「(きっぱりと)J.J.ジョンソン
――昔のオーソドックスなジャズも聴いていたりするんですね。
 「もちろん。高校の授業でジャズの歴史を学んだし、ジャズ・ジャイアンツも聴いているよ」
――ジャマイアが率いるエリマージでは、あなたはキーボードを弾いていますが。
 「高校時代、ピアノは全員必修でやらされたんだ。今も作曲はピアノでやっているよ」
――そして、ずっと歌うこともしていたわけですか?
 「歌っていたよ。好きなシンガーはたくさんいるけど、一人選ぶとしたらナット・キング・コールかな。あとはデヴィッド・ボウイ
――なら、ブライアン・フェリーは?
 「え、誰?知らないな」
――ええっ?後から聞こうと思っていたのですが、ぼくはあなたの『ラッシズ』を聴いてすぐに思い浮かべたのが、ロキシー・ミュージック『アヴァロン』だったんです。
 「OK。今度、聴いてみるよ」
――大学を出てから、これは大きな転機だと思えたことはありますか?
 「ギル・スコット・ヘロン、そしてモス・デフとやった時。とはいえ、NYに住んでいると日々がターニング・ポイントだ。さまざまな刺激的ヴァイブレーションがあるし、住んでいるだけで背中を押される感覚を得るからね。接する人や出来事がほんとうに多くのインスピレーションを与えてくれるんだ」
――あなたはエスペランサのグループにずっとシンガーとして参加しています。彼女の新作『エミリーズ・D+ エヴォルーション』はとても難しい旋律と複雑な構成を持っていて、ライヴに接するとよくすいすい歌えるなと感嘆しまくりなんですが。
 「確かにあれは難しいよね。その解釈の仕方、面白いものに仕上げるまでの過程は興味深い。曲は最初デモで来る場合もあるし、バンドで皆んなで集まって一緒に考えていく場合もある」
――さて、あなたのデビュー作『ラッシズ』についてお聞きします。そろそろ、自分のアルバムを作る頃だと思ったわけですか。
 「すごく自然な流れでこのアルバムを作った。いろんな所にツアーで訪れて、そこでインスピレーションを受けて曲ができる。歌モノが多いんだけど、それが溜まってきたのでアルバムを作ることにしたんだ」
――レコーディング・メンバーを見ると、多くはエリマージに関わっている人たちですよね。
 「エリマージのメンバーは僕のお気に入りミュージシャンなので、そりゃ参加してもらうよ」
――まず、全曲ヴォーカル・ナンバーであるのに驚きました。トロンボーンを吹いていないじゃないかと。
 「トロンボーンの音が音楽的にフィットしなかったからさ」
――あなたとしてはどういうものを作りたかったのでしょう。
 「ドリーミィなサウンド。それと同時にミステリアスであったり、ダークであったりするところも持ち、また浮遊感も求めた。歌詞については、今日のアメリカで起きていることを題材にしている。黒人に対して警察がどういうことをやっているのかをテーマにしたり、薬渦に苦しむ人を題材にしたり。パーソナルな話もあるし、もちろん愛を歌った曲もある。ひとつのジャンルだけを聴くという人でなく、オープン・マインドなリスナーに聴いてほしいと思って作った」
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――トロンボーン奏者としてのリーダー作を期待した人もいるかもしれませんが、こういうヴォーカル・アルバムこそが、今いちばんやりたい内容であると思っていいんですよね。 
 「ヴォーカルでもトロンボーンでもピアノでも、どれだって自分を表現する手段だと思っている。そして今、自分の中から出てくるものがこれだった」
――今作を聴いて感じたのは、ぼくが思っていた以上にロックが好きなんだなということです。ところで、エスペランサもアラン・ハンプトンミシェル・ンデゲオチェロも、NYのジャズ周辺にいる担い手が、このところロックっぽい内容のアルバムを出していて興味深いのですが。
 「自然発生的に起きていることだと思う。照らし合わせているわけじゃないからね。みんな、そういうのを作りたいという気持ちになっているんじゃないかな」
――クリスチャン・スコットにしろケンドリック・スコットにしろ、レディオヘッドが大好きというNYの働き盛りジャズ・マンは少なくないです。あなたの場合はレディオヘッド要素はあまり入れていないようですね。
 「レディオヘッドは僕も好きだよ。トム・ヨークのヴォーカルは本当にいいよね。彼らのアイディアに惹かれるところは多々ある。でも、僕が得るインスピレーションはそれだけではないからね」
――あなたなら一人でアルバムを作っても成り立つように思えるのですが、他者とレコーディングしている理由は?
 「好奇心だね。自分の書いた音楽を皆が演奏するとどうなるか、どう変わっていくのか、それを知りたいからさ」
――今、共感を持つ人を教えてもらえますか?
 「カート・コバーン、デヴィッド・ボウイ、マーヴィン・ゲイシール……たくさんいる。それからルーク・テンプルやアラン・ハンプトンはすごいソングライターだよね」
――次作のことはもう考えていますか?
 「もう着手しているんだ。ブラス、ストリングス、エレクトロニクスを重ねた内容になるかな。そこにライヴ・ヴァイブを付帯させて、もちろんヴォーカルも入るよ」
取材・文 / 佐藤英輔(2016年8月)
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