Cutsigh / 2011/10/13掲載
“暗黒の中だからこそ、光は輝いて見える”ギタリストCutsigh(AUDIO ACTIVE)、初のソロ・アルバムをリリース
日本を代表するダブ・マイスター集団、
AUDIO ACTIVEの破壊的なサウンドを支えてきたギタリスト、
Cutsighこと河西裕之。近年、“1人のギタリスト”として様々な客演やセッションを繰り返してきた彼が、初のフル・アルバム
『Pipedreams』をカセットテープ・フォーマットでリリース。極めてパーソナル、穏やかさと緊張感が同居するサイレントな作風は、人間・Cutsighそのもの。カセットテープならではの再生する度に少しずつ姿を変えてゆく音のかたちと共に、心を動かすという本来の意味での感動を届けてくれる好作となっています。作品について、10月14日(金)にリリース・パーティを控える河西氏にお話を伺いました。
――AUDIO ACTIVE時代に河西さんがインタビューを受けられたことってありましたか?
「ほとんどなかったですけど……
『MELT2』のときかな、俺が受けさせていただいたことはありますね」
――『MELT』シリーズではそれだけ河西さんの印象が強かったということなんでしょうね。 「う〜ん。そうなのかな。4人のミュージシャンそれぞれに見えているものが、はっきりしたレコーディングではありましたね。バンド内で」
――『MELT』で聴くことができる河西さんのプレイは、それまでに比べて格段に自由度が高いものになっていますよね。
「そうですね」
――今回のアルバムへの伏線とも取れるプレイだったと思うのですが、ソロ・アルバムを作ろうと決めたきっかけは何だったんですか?
「ソロは出そうってこの4、5年ずっと考えていたんですよ。かなり作り込んで、まとまった時期もあったんですけど、それは1回すべてオジャンにしたんです。いろいろあって……データが無くなったっていうのもあるんですけど(笑)。でもまあ、1人でやりたくなったんですね」
――近年、DRY & HEAVYでの客演(『One Shot One Kill』EP)や、ダモさん(ダモ鈴木)とのセッションなど、インプロヴァイザーとしての印象が強かったように思います。 「そうですね。インプロをやり始めてから音楽に対する意識がすごく変わって。そういう場って、結局ギター1本で行くわけじゃないですか。そうすると、もうそこで鳴ってる音に反応する以外ないわけですよね。でもたまに、“あれ?俺弾けるんだっけ……”って思うことがあるんですよ(笑)。ソロでやるとき特にそうなんですけど、さあ何か弾こう、というときに“ギターが弾けない”って思うことがあって。まるっきり無のところから音を出すっていうことが怖いというか。ライヴ、まあ録音もそうだけど、"その場限りの絶対的なものだ"っていう意識がやっぱりあるから、テキトーに弾けないんですよ。インプロってすごいテキトーにやっているように見えたりするし、実際そういう人もいるのかもしれないけど、俺はちょっと胃が痛くなるくらい(笑)。弾き出すとそんなこと忘れちゃうんだけどね。だからね、昔どこかの野外でやった時、とりあえずGのコードを弾いてみたんだけど、その響きが気に入らなくてずっとGの音を鳴らしてたことがあって(笑)。観てたお客さんは困っちゃったんじゃないかな……。俺も困ってたんだけど(笑)」
――今回のアルバムは、1曲1曲が楽曲として完結してはいるんですけど、そこも完全ではなくて、楽曲とインプロの中間のように感じました。長期的なインプロというか。
「うん、そうですね。日々ギターを弾いていて“もうこれ以上ないな”っていう何かが出来る時があって。それを残したっていう曲も入ってますね。それはその時に弾いたものであって、今弾けばまた全然違うものが録れるし。だからミストーンとか全然あるけど、それはそれで。その時の俺だから。例えば“13 Years”なんかは、朝方に夢でずっと鳴っていた音を、起きて寝ぼけながらギターを取って、なぞって再現して、っていうのをただ録っただけだったりするんですよ」
――夢は今回結構テーマになっているんですよね。
「(笑)。やっぱり、“夢”が好きなんでしょうね。“夢見がち”とか言われちゃうんですけど(笑)。“Pipedreams”っていうのは確か、マーク・トゥウェインの言葉なんですよ、最初に使われたのは。原典はあたってないんですけど俺も。『トム・ソーヤーの冒険』だったかな」
――要約するとどんな意味なんですか?
「“結局人生なんて、パイプをくゆらしている間の一瞬の出来事だ”っていう、ポワ〜ンとした意味なんですけど(笑)」
――夢に出てきたものを寝起きで録った音っていうのは、後から聴くと夢の追体験みたいですよね。録音時のノイズやミストーンなどをそのままにしているのは、その当時の感覚を残しておくという意味なんですか?
「そうですね。あと、自分の中で“良い音”って何だろうってずっと思ってたことがあって。“このキックの音ヤバいよね”とか“このロウの出音すごいよね”とか、まあ音楽の捉え方っていろいろあると思うんですけど、俺の中ではどうだろうって考えた時に、 “俺が好きな音”が“良い音”だって思うしかなくて。やっぱり。そうなってくると、“俺の好きな音”っていうのは、そういう、カセットテープ、デモテープの音だったりするわけですよ。俺ね、ここ何年か、所謂海賊盤……例えば
John Lennon(ジョン・レノン)のアウトテイクだったりとか。ああいうのが大好きで。大好きっていうか、そういうのしか聴けなくなっちゃって(笑)。正規盤とか全然聴けないの。正規盤を聴き過ぎたっていうのもあるんだけど……。John Lennonのアウトテイク集、聴いたことあります?本当にドキドキするんですよね……。なんて言うのかな……“これだ!”って思ったんですよね」
――(笑)。これだ!の理由はどんなところにあるんですか?
「なんだろう。生々しさ?あと俺が思うのはね、すげえ人って、音質とかそんなものは関係なくすげえんだっていうこと。だから“良い音楽”と“良い音”は全然イコールではないっていうことははっきりしてたわけですよ。どんなに悪い音質でも、良い音楽っていうのは絶対に良い音楽だって。とにかくね、John Lennonのアウトテイク(笑)。何年か前に出た5枚?4枚組のボックスセットがあるんだけど、それね、怖くて1枚目の途中までしか聴けてないの(笑)。もちろん聴きたくて買ったんだけど、ちょっと聴いてみたら、あまりのギラギラした生々しさに、心臓が持たないと思って(笑)」
――デモテープとかアウトテイクって、生々しさと同時に、録音の状態が分からないからこそのぼんやりとした妖艶さみたいな魅力もあるじゃないですか。ガチガチにプロダクションされたものとは違う意味での原音の分からなさというか。このアルバムにはそういう部分も感じました。
「そうすね。今回は色んな録音方法のものが混じってます。カセットのテレコだったりMTRだったり。パソコンで録音したものも入ってるかな?かなり色んな方法で録ってますね。でも一番音質的に好きなのはね、ガットギターで弾いたのを"カチャ"ってテレコで録ったやつ。聴き直したときに一番ドキッとしましたね」
――今回のような音楽性を選択したのはどんな理由からなんでしょう。
「自然に出てくるものがこれだったんですよね。俺AUDIO ACTIVEのときも“シリアス”だとか“メロウ”だとか言われちゃってたんですけど、そのメロウさだとか……自分ではそうは全然思ってないですけど……それは湧き出るものであって。自然なんですよね」
――例えば、昨年共演されたStephen O'Malley(SUNN O))))なんかはそうですけど、今ギターをソロでプレイするといったときに、エクストリームな特徴が際立つ方が多いと思うんです。そんな中で、アルペジオとか、ブルージーなギター・ソロとか、本当にざっくり言えばベタじゃないですか。そういう音楽性でやってみよう、という"勇気"じゃないですけど、そういうのも感じたんです。 「そうですね……。俺ね、結構ギター弾けるんですよ(笑)。そりゃね、20何年も、人生の半分以上ギターを弾いてるわけですから。15から弾いてるから……、えっ?27年も弾いてるんだ……。だから“俺こんなに弾けるようになったんだな”とか、たまに思うんですよね(笑)。“テクニックに裏打ちされた”みたいなのとは違うんですけど、"ギターがちゃんと弾けなきゃこれは弾けない"っていうことがやっぱりあるなって。“ギター始めて半年です”っていう奴には絶対弾けないものが」
――そうですね、“弾ける人”にしか出せない空気がものすごく詰まっていると思います。さっきおっしゃっていたメロウな……感じとか、ブルーズ・ロックのフレイヴァというのは、今思い返してみて、いつ頃滲み込んだものだと思いますか?
「最初は
THE BEATLES(ビートルズ)から入って、気が付いたらハードロック少年になっていて。ハードロック、メタル、だけではないけど、高校生の時はそういうものにすごくハマっていたんですね。その頃、高2のときかな、
Jeff Beck(ジェフ・ベック)がねえ、軽井沢の野外にライヴをしに来たんですよ。Jeff Beckと、
SANTANA(サンタナ)と、
Steve Lukather(スティーヴ・ルカサー)かな。俺学校休んで前の日から徹夜で行って、朝並んでさ(笑)。Jeff Beckを観て。その時に多分ね、"俺ギタリストになろう"って思ったんですよね。ギターの表現力っていうのは、こりゃ底知れないなあって。衝撃でしたね」
――Jeff Beckですかあ……。意外な気もしますけど、そういうお歳なんですよね……。
――え〜っ!! 本当ですか??
「うん。すごいでしょ!? 俺、Dougを観てたの。一番前で。でも俺、その時はJeff Beckしか見えてなくて(笑)。黒人のファンキーなベーシストがいるな、くらいに覚えてたんだよね。当時TBSでライヴの模様を放送した番組があって、それをビデオに録画してたやつが後々になって出てきて。それを観返したら、ベースがDougなんだよ(笑)。Dougに会った時に、Jeff Beckとやってたっていう話は聞いてたから、いつ頃のことなんだろう?って思ってたんだけど、俺観てたんだよね、当時(笑)」
――それはもう、運命ですよね!!
「うん。びっくりでしょ」
――1980年代以降のレゲエ / ダブのミュージシャンて、ブルーズ・ロックの影響を受けている方が多かったりしますけど、河西さんはそういう人たちに影響を受けてAUDIO ACTIVEに入られた訳じゃないんですね。
「じゃないですね。俺が入る前、LIQUIDROOM(当時は東京・新宿歌舞伎町)にAUDIO ACTIVEのライヴを観に行って。こんなにかっこいいバンドが日本にいるんだなあって思ったの。だけど足りないのは俺のギターだなって(笑)」
――それは……(笑)。
「でも本当にそう思ったんだよ(笑)。俺のギターが入ったらこのバンド完璧だなって。そうこうするうちに“ライヴでギター弾かない?”って言われて。最初のライヴは日比谷の野音だね。確か
KRUSHさんとか、
TOKYO No.1 SOUL SETも出てて。それが初めてのライヴ」
――その頃にはもうレゲエは聴かれてたんですか?
「レゲエはね、聴いてはいましたね。予備校時代に
Bob Marley(ボブ・マーリー)が大好きな奴からカセットを大量にもらって、そればっかり聴いてましたね。だからレゲエっていうのは分かってはいたんですけど、ダブの世界はAUDIO ACTIVEに入ってからですね」
――AUDIO ACTIVEはすごくパワフルにドカンと出すバンドじゃないですか。そういうことをやっているバンドやミュージシャンて、同じパワーを保ちながらも、音はサイレントな部分が増えていく傾向がある気がするんです。例えば近年のCORRUPTEDなんてそうだと思うんですけど、楽曲の大半を無音に近い音が占めていて。 「そうなんだ……すげえ……。そこに至る道っていうのはすごくよく分かるな。何がヤバいって、“無音”がヤバいんですよ。音が無いのが一番ヤバい。よく思うのは、“音”っていうものを無駄にしてるというか、音に対して責任を持たな過ぎな人が多いってこと。セッションをやっていると “頼むから弾くなよ”って思ったりすることがあるんですよ(笑)。“落ち着け”って。弾いていないときが一番ヤバいんだよ。そこから切り込んで音を出す、無音を切り裂く刹那っていうのが、やっぱり一番ドキッとくる瞬間で。そこをドキッとくるようにするには、やっぱり無音、音が無いってことをちゃんと分かってないと。常に音が鳴ってたら、音も何もないんですよね。ダブで言えば、足し算で音を重ねてごちゃごちゃしてるのってよくあると思うんですけど、本当はTubby(
King Tubby, キング・タビー)、Adrian(
Adrian Sherwood, エイドリアン・シャーウッド)もそうだけど、やっぱり引き算なんですよね。音をいかに無くすか。だから空間なのかな、音の間をちゃんと大切にしてる」
――このアルバムでもやはりそういう無音とか、空気みたいなものが大事にされてますよね。テープという音質がまた、無音により存在感を与えているというか。テープというフォーマットを選択したのにはそういうところもあるんでしょうか。
「それはあるかもしれないですね。CDとはまた訳が違いますよね」
――未完成の雰囲気、無音の存在感。どことなく“死”を連想させるんですが……。ネガティヴな意味じゃなく。
「それは正にその通りですね。日本の社会ってたぶん、“死”に目をつぶっちゃうのがかなり一般的なんですよ。でもそこに目をつぶってたら、逆の“生”っていう方も見えてこないんですよね。だから俺は気が付くとそういう“死”に関するものに惹かれてて。“好き”って言うとヘンだけど。そこをじっくり見ないとやっぱり“生きてる”ってことも分からない」
――音の有無の対比と一緒ですね。
「そうそう。そうだね、一緒だね。これが結構、ソロを作りたくなった理由かもしれないな。AUDIO ACTIVEのパブリックイメージがあるのか、“河西くんはシリアスだから” とか言われちゃってたわけですよ(笑)。そういうこと言われると頭に来ちゃって(笑)」
――パッケージは本をイメージして制作されたそうですけど、やはりモノトーンで。
「うん。そうですね、やっぱりそういうものに惹かれるんですよね。文学も、映画もそうだし、すべてですね」
――死にたい、とかじゃなくて(笑)、むしろ生きたいからこそ、なんですよね。
「そうそう。好きなものにも、やっぱり同じものを感じるんですよね。たくさんいるけど、SUNN O)))とかもそうなのかな、“轟音の向こう側に見える希望”みたいなね。“暗黒の中から見えた光”っていう。やっぱり、燦々と照り輝く明るい中で光がチラッと見えても、そんなに認識されないというか。暗黒の中だからこそ、光は輝いて見えるんですよね」
取材・文 / 久保田千史(2011年9月)
撮影 / 小西 力(Thanks!)
Cutsigh
1st album”Pipedreams”Release Paty live: Cutsigh / Taishin Inoue / Jemapur / Takumi Kaneko
DJ: Shigeo Terashima / Kubota Chifumi / Shiratori Nepalman
lighting: Taiheichang