そんなもん信じてやるか!――北村早樹子、ニュー・シングル「卵のエチュード / マイハッピーお葬式をリリース」

北村早樹子   2014/09/13掲載
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ピアノ弾き語りを中心に、独特の憂いを帯びたメロディと伸びやかなハイトーン・ヴォイス、瘡蓋を引き剥がすかの如きリリックをトレードマークに活動を続けてきた大阪出身のシンガー・ソングライター、北村早樹子。現在は東京を拠点に活動する彼女が、カセットMTRでの宅録で新境地のポップスを切り拓いた昨年リリースの4thアルバム『ガール・ウォーズ』に続き、乙女画家・金田アツ子によるカヴァー・アートを纏った両A面シングル「卵のエチュード / マイハッピーお葬式」を自身主宰の「warabisco舎」より8月にリリース。「卵のエチュード」は白石晃士監督作品『殺人ワークショップ』主題歌。「マイハッピーお葬式」は、イラストレイター / 漫画家・本 秀康が主宰する「雷音レコード」とya-to-i柴田聡子作品でおなじみ「なりすレコード」の共同リリースで7inchヴァイナルも発売されています(カップリングにはチェリスト・坂本弘道を迎えた『ガール・ウォーズ』収録曲「朝も昼も夜も」の新録)。ピアノ弾き語りスタイルで再始動した北村さんに、同作に込められた思いを語っていただきました。
――北村さんは、執筆活動をされていることもあってか、音楽と併せて“生き様”という側面で語られることが多いですよね。
 「たしかに。う〜ん、普通の、健全なメンタルの人々は別に、自分の身に降りかかった出来事を何か形にしなくても楽しく生きているんだろうけども……。わたしは日々“う〜わ、ガッデム!”みたいな状況がめっちゃあって、そういうのをなんとかネタにしながら小出しにしていかないと、もうほんま、やっていけないというか。言うても世の中には、もっと苦しんでる人々もたくさんいるとは思うんですけど、わたしはたぶん許容範囲が小さいから。だから『溺死ジャーナル』さんになんかには、まあ〜ヒドい話、しかもほぼ実話、みたいなことを書かせていただいていて。歌もそんな感じで、実生活がめっちゃ分かり易く、出てしまっていたりするんですよ」
――それは音楽の制作が生活の一部になっているということ?
 「いえいえ、むしろ音楽は、普段の暮らしの中に全然無いんですよ。『CDジャーナル』を読んでいらっしゃる方に対してお恥ずかしい限りですけど、おうちでもほとんど音楽を聴かなくて。“24時間ミュージシャン”の方もいらっしゃるでしょうけど、わたしは“日常生活・ザ・音楽”みたいな感じでは全くないんです。ヘンな話、練習も全然しないし。ピアノは“曲を作ろ”みたいなモードになった時にやっと開けるみたいな。ライヴ前に“あかんあかん”と思ったら練習しますけど」
――でも演奏お上手じゃないですか。
 「それは絶対無い!そんなことは絶対無い!ほんま、聴く人が聴いたらめっちゃバレると思うし。めっちゃ下手くそですよ。〈エリーゼのために〉も弾けなくて」
――習っていたことはあるんですか?
 「小学校の頃には習っていたんですけど、バイエルも終わらないくらいで止めちゃって。自分で歌を作ったり歌ったりしようと思った時に再び勝手にやり出しただけなので、ちゃんとしたピアノは本当に全然弾けないし、コードもあまり分かってないし、テキトーなんで」
――全然テキトーに聴こえないですけど……。
 「いやいや、絶対バレていると思うです、ほんま。だから言うたら自分の曲くらいしか弾けなくて。耳コピ能力ゼロだから“カヴァーやって”って言われても全然出来ないし。元々バンドやっていた人とかやったら、好きな曲の耳コピから始まったりするんでしょうけど、わたしはそういう時期が無かったので。ダメなんです」
――ダメじゃないですって(笑)。高校生の頃に音楽を始められたんですよね。何かきっかけがあったんですか?
 「中学校まではわりと普通に友達がいたはずなんですけど、高校生で保健室登校になり、友達が1人も出来ず、暗黒の時代を迎えて。思春期ってそういうことあるじゃないですか。そんな時に親戚の、お母さんのお兄ちゃんが心の支えになってくれて。その伯父ちゃんはもう66歳くらいだけど独身で、ずっと実家で暮らしてて、たぶん世間的にはけっこうダメな類の人のだったんだとは思うんですけど、わたしのことをすごく色々分かってくれる人やって。音楽の好きな人だって、夏休みとかに家に行った時に音楽を色々聴かせてくれたんですよ。その中にたまたま早川義夫さんのソロの曲があって、“あ〜っ!”てなったんですよ。歌が上手いとか下手とか、そういうのとは関係ないところで、こんなにも感動する音楽ってあるんや!ってすごい衝撃を受けて。早川さんは上手ですけど、わたしはめっちゃ歌が下手で、ちっちゃい頃からお母さんに“あんたほんま音痴やなあ”って言われてたけど、歌っても良いのかもしれない!と思って。お母さんの嫁入り道具のピアノが一応家にあったので、それで始めたんですけど」
――最初の頃の作品に、宗教音楽っぽいニュアンスを感じるところがあったんです。聖歌とか。そういったものに触れていたことはなかったんですか?聴かされたりとか。
 「全く無いですね。なんやろう……。めっちゃ無宗教なんで。そういう風に言っていただいたの、初めてかもしれません。でもコーラスの感じがそうなのかなあ。『おもかげ』(2ndアルバム / 2007年)の時に、自分の声を重ねてコーラスみたいなのやってみたら、“おっ、楽しくね?”みたいになっちゃって。わたしに出来るものが声くらいしか無かったから。バンドだったら色んな音が鳴らせますけど、何分独りでやっているから、ほんまに自分の音に自分の音を乗せるしか出来ないんで、それが楽しかって」
――神楽を思わせるところもあったんですけど、じゃあそれも無いんですね。『おもかげ』はアートワークが和風ということもあって、何か込められてるのかな?とも思っていたんですけど。
 「『聴心器』(1アルバム / 2006年)と『おもかげ』ジャケットは、同い歳で一番仲良しの“るみたん”(谷崎榴美)ていう子が、聴いて思うままに作ってくれたんですよ。『おもかげ』は中も和風だったり、歌詞カードがかるたみたいになっていて、それも和柄なんですよね」
――北村さんは基本、ピアノの弾き語りというスタイルですけど、それも“そこにピアノがあったから”始めたことなんでしょうか。
 「最初はちょっとギターをやってみようと思ったんですが、何分わたし、“動物の手”って言われるくらい手がめっちゃ小さくて。だからギター、本当ムリで。握力も一桁台なので、持ってすぐに“あ〜ムリ”って止めて。ピアノでもほんまに、1オクターヴとかめっちゃ力尽くやから、ちゃんとした人が見たらめちゃダメな弾き方なんやろうけど。それでもまあ、なんとかなっているのでピアノになたっていう感じですね」
――ソングライティングに関してはいかがですか?北村さんの曲はきちんとしたポップソングとして成立していると思うので、それなりのインプットがないと出来ないと思うんですけど。
 「学生の頃は文芸学科さんだったし……音楽は全くなんですけど……。たしかにそうですねえ。でも最初はもっと破綻していたと思います。マシになってこれ、っていう感じやから。『聴診器』でヴァイオリンを弾いてくださった波多野敦子さんに色々教えていただいたからかもしれないです。波多野さんは、わたしが大阪にいた頃から“お姉さん”ていう感じで、たくさん助けてくださっていて。めちゃくちゃな原曲をかっこよくする方法を、“同じミとソとシでも、ソシミにしたほうがなんかかっこよくなるんだよ”みたいにアホにも分かるように教えてくれて。そこから徐々に自分でも分かるようになってきたのかな」
――周りの人の影響もあって出来上がってきた感じなんですね。
 「そんな感じだと思いますね。周りの人の音楽も、そんなに色々聴いていたわけでもないんですけど……」
――でも、色んなライヴに足を運ばれてますよね。
 「そんなに行ってるかなあ……。でもめっちゃ偏ってるから……」
――映画もたくさん観られてますよね。
 「あっ、そうですね。映画を観るのは好きですね」
――劇伴もやっていらっしゃるわけですし、映像的なイメージもあるのかもしれないですね。
 「そっか。そうですね。そういう影響がうまいこと寄せ集まって、今みたいな感じになっているのかもしれないです」
――昨年のアルバム『ガール・ウォーズ』では、大胆に作風が変わりましたよね。出されてからの評判はいかがですか?
 「何にも。何にも良いことが無くて。これを作るちょっと前に、ヘンな病気になったんですよ。神経の回路がおかしくなって、全部が“痛い痛い!”っていう。メンタルヘルスの病気でもなく、身体的な病気なんで。今は薬飲んでるから、それが効いていたら大丈夫なんですけど。でもその病気が発覚するまでは、何の病気か分からずに病院を盥回しにされていたんですよ。薬も無かったから、朝顔を洗う時に水道の水圧でも“痛い痛い!”ってなるから、“こんな手でピアノはもう弾けん!”と思って。でも歌は全然歌えるから、じゃあもう、マイク持って歌ったら良いんじゃね?みたいなノリで小さいカシオトーンとカセットMTRで作ったんです。それをやっていたら“多重録音めっちゃ楽しい!”みたいになっちゃって、悪ノリしたのが『ガール・ウォーズ』なんですよ」
――全然、悪ノリ感しないですよ。すごく良いです。
 「そうですか。ありがとうございます」
――でも、今までの作風と違うから、最初の頃の作品を聴かれていた方はびっくりしたかもしれないですね。
 「そうなんですよ。昔の感じが好きやったお客さんはいなくなり……」
――いなくなっちゃったんですか……。
 「はい。新しく“明るい北村さん”みたいな感じで知ってくださる方もいるのかな?と思ったらそういう人もおらず。結果誰もいなくなるっていう結果を導き出して(笑)。心が折れ、もうええかな……みたいなモードになり……っていう感じだったんですけども。“明るい曲なんて、北村さんは頭がおかしくなったのか”とか、“ラブソングなんて歌い出すような人間じゃないだろう?”みたいな」
――えーっ……。
 「昔の曲にもラブソングっぽいものはあるんですけど、それが分からないように、オブラートどころか色んなものを被せに被せて書くようにしていたんですよ。でも『明るみ』(3rdアルバム / 2011年)を豊田道倫さんにプロデュースしていただいて作った時に、“北村さんの歌詞はようわからへんわ”って言われて。“文学っぽい感じなのはわかるけども、俺みたいな奴にはわからへんから、もっと尻軽さを出していけ”みたいな感じで。それを聞いてわたしも“そっか!”と思って作風がちょっとずつ変わっていったっていうのもあって、わりとストレートに書くようになったんですよ。おまけに、恋をしてしまった!やっぱり実生活が入ってきちゃうんですよ。それまでも別に恋をしていなかったわけじゃないし、ていうかすでにバツイチなんでただのキズモノなんですけど、“こんなにも人を好きになってしまうってあるんだ”みたいな相手に出会ってしまったんですよ。その出来事に“ガーン!”となって、こんな、“はあと?”みたいなジャケットで、“ガール・ウォーズ”なんていうテーマのものが出来ちゃったんです。結果的にはハッピーエンドにはならず、ただ苦しんだだけだったんですけど」
direction: 白石晃士
――ああ〜……。でも決して、芯はブレていないじゃないですか。北村さん的にも、『ガール・ウォーズ』は当時やりたかったことなんですよね?
 「きっとそうなんですよね。今までずっとピアノと歌だけやってきて、それじゃあかんかな?って思ったところもちょっとあったから。でも1回やってみて “よっしゃ、こっちや〜!”とはならなかったので、“この路線でがんがん行こうぜ”みたいな風でもないのかな、っていう感じもあって。たぶん1回やって気が済んだ」
――それで今回の〈卵のエチュード〉は戻った感じになっているということなんでしょうか。
 「そうですね。あとは身体的に、薬が効いてそこそこピアノ弾けることに気付いたっていうのもあります」
――神経の病気はもう、大丈夫なんですか?
 「薬が効いている間はとりあえず人間生活送れるので大丈夫なんですけど、今のところは治らない病気とされているのが一番“ガーン!”ていうところなんですよ……。“こんだけ療養したら治ります”っていうのがあれば心もそんなに病まないんでしょうけど……。“一生こんな薬飲まなあかんの?”っていう。おなかに打つ注射が1本5,000円もしたりするんですよ!医療費がさあー!! 今後医学が発達したら治るかもなんですけど」
――付き合っていかなければならないのは辛いですね……。
 「そうなんですよ。でもね、こういうのあんまり言うとね、病気芸人みたいになっちゃうから」
――病気推しみたいな。
 「そうそう!そう思われるのもちょっと嫌なんやけど、ぱっと見わたしって元気っ子っぽく見えません?」
――元気っ子……ですか(笑)。
 「たぶん元気っ子っぽく見えるからか、バイト先の人はわたしがこんなに暗い歌を歌ってる人間だとは知らないからなのか、何でも逞しくやらされるんですよ。言わないとそうなるし、言って気遣われるのも嫌やし……。だから分からなくなって、最近は“病気やけど、笑っといてね”みたいな感じの言い方なんですけど」
――たしかに、そのバランスは難しいですね……。病気のことに限らず、そういうジレンマで気を病むことって多いですよね。
 「そうなんですよ。めっちゃ全部隠すんやったら、それはそれで良いと思うんですけど、ちょっと言ってしまったら変に隠すのもヘンやし。けっこうみんな“元気してる?”ってよく言うじゃないですか。わたし100%嘘はつけない人間なので“あんまり元気ちゃうねん”て応えるじゃないですか。そうすると“どしたのどしたの?”みたいになって事情を説明せなあかんくなってきて。なんだかんだで“病気の人”みたいになりつつあるんですよ。なんかちょっと間違えてんのかな?すごい難しくて。何とも言えないんですけど。やっぱり、健康が一番ですね〜」
――そうですね。でも、〈卵のエチュード〉が主題歌に起用されている映画のタイトルは『殺人ワークショップ』っていう……健康とは真逆の(笑)。
 「映画はそうですね(笑)。殺人のワークショップをやる映画ですからねえ。“刺して抜く!刺して抜く!”って殺し方を教えるっていう。でも音楽の方向性が戻ったのは、これがきっかけかもしれないです。監督の白石(晃士)さんから『おもかげ』に入ってる〈蜜のあはれ〉っていう曲とか、〈子供部屋〉っていう、ピアノが入ってない声だけの曲とか、それこそ聖歌っぽい感じで作って欲しいって言われて作ったから」
direction: 白石晃士
――戻ったとはいえ、〈マイハッピーお葬式〉は『ガール・ウォーズ』を引き継ぐ明るさもあったりしますよね。
 「〈お葬式〉はそうですね」
――〈お葬式〉の歌詞はどんな気持ちで書かれたのでしょうか。
 「さっき話した“るみたん”ていう子が、今は“魔女”っていう謎の職業に就いているんですよ。魔女の仕事は何かっていうと、儀式なんです。るみたんは儀式をパフォーマンスとしてもやっているので、わたしが毎月やっていたイベントに呼んで、公開儀式をやってもらったことがあって。その時に、わたし自身はめっちゃ無宗教で、儀式と言っても全然馴染みがないから、“儀式っぽいこと、自分にもあるかな?”って思ったら、葬式くらしか浮かばなくて。それから葬式について考えるようになったんです。例えば、ライヴするって言っても、誰も来てくれない。まあ友達がいないっていうのもあるんですけど、“わたしごときに時間を割いてくれる人なんて誰もいないんだな”っていうのを日々身に沁みて感じていたので。死んだときくらい、葬式くらいさ、来てくれてもよくね?みたいな。みんなやっぱり、仕事とかね、色々あって忙しいじゃないですか。それは分かるんだけどさ、“北村さん死んだんやで”って聞いたら、葬式くらい来てくれてもよくない?っていう。そういうヒガミ根性剥き出しにして出来た曲なんです。歌詞の中に、“ママの主役にも彼の主役にもなれなかった”っていうめっちゃ悲しい一節があるんですけど、本当にわたし、そういう人間やって。学校でもクラスの主役って絶対いたし、そういう人って友達界隈でも絶対主役になれたりするし。家族の中でも主役になる人はいるし。わたしは、こんな赤い服とか無理して着ても主役にはなれない人間なんですよ」
――えっ、赤い服は無理してるんですか……。
 「いやっ、無理してるわけじゃないですけど、ただ赤が好きやっただけなんですけど(笑)。わたしはどこに行っても、何をしても、誰とおっても、基本的には主役にはなれない類の人間なんですよ」
――今はまさに主役じゃないですか。
 「それは奇跡です。皆様のおかげで、今この一瞬だけ奇跡的にこっちを向いてくださっているというだけなんです。だから、最期にね、葬式で主役にならへんかったらもう終わりやろって思っていて」
――でも死んじゃってたら分からないですよね……。
 「そうなんですよね。だからといって、蔑ろしてええと思うなよ!みたいな。主役になれない葬式だってあったりするわけだから。葬式ってやっぱり切実な問題やぞ、っていう」
――なるほど……。 “泣いたり甘えたり暴れたりしたかった”という行は万人に共通する気がします。
 「これはやっぱり、育ちですかね。親。こういうこと言うと、親のせいにしてるだけだろ!って言われるんだけど、物心ついたくらいの頃に親の愛を全身に浴びて家族の中で主役にしてもらった人と、そうでない人っていうのは、ガバって変わってくると思うんですよね、人間。たぶんわたしは家族の中でめっちゃ一番存在感が無く、一番面白みの無い子供でだったんですよ。親は親で、女は子供を産んだら自分の人生じゃなくて子供が一番、みたいな風潮があったりしますけど、うちの母親に関しては全然そんな感じじゃなくて。自由に恋に仕事に生きてらっしゃったので。妹がいるんですけど、それがまあ主役みたいな人だったこともあり。色んな意味でわたしは超キャラ薄かったんですよ。長女でしっかりしてるから大丈夫、みたいな感じで放っておかれて、じゃあ独りで生きるわ!ってなるわけですよ。だから日本全国の長女たちに聴いて欲しい!みたいなところはありますね。“長女あるある”っていうか」
direction: 白石晃士
――長女以前に、自分が女性であるということに対する不満なんかもあるんでしょうか。
 「う〜ん、それはないかな……。“男になりたい”とかも特にないし、“女は女やな”って思うんですけど」
――男と女はやっぱり、別種の生き物?
 「それはそうですよね。全然違いますよね。どっちがどうとかではなく、イヌとネコとか、セミとアヒルくらい違う。とにかく全然違う」
――セミとアヒル……。
 「(笑)。とにかく、それくらい全然違うんですよ。シュークリームとカレーくらい」
――その違いって、どんな瞬間に感じることが多いですか?
 「同じものを見ても、同じものを食べても、たぶん同じ風には感じないだろうし、同じ楽しみ方はしないだろうし……。なんやろ……結局は身体的なことになってしまうんやろうけど……。身体的にもメンタル的にも、全体的にちゃうものだと思ってしまっていて。わたし、小さい時から女友達よりも男友達のほうが多かったりして、今でも女友達すごい少なかって、遊んでくれるのはだいたいオッサンやったりするんですけど、それでも、男同士できゃっきゃしてる中には絶対に混じれないんですよ。めっちゃ羨ましい。男の子同士で盛り上がっているあの感じってめっちゃ楽しそうなの。でも絶対に、そこには入れてもらわれへんねんけど。男の人ってくだらないことに夢中になったりするじゃないですか。あれがめっちゃ羨ましい」
――ん〜、女性はくらだないことに夢中にならないものなんですか?
 「女の人は現実的やから、何かに夢中になったとしても、ぱっと醒めちゃう。男の人は、仕事にしか興味が無い人も、趣味にしか興味がない人もいるし。そういう人を好きになってしまったら、“基本的には女なんて二の次三の次なんや”みたいな感じになったりもするから。それで“最愛の彼がいつでも愛してくれる状況が得られるわけではない”みたいな難しい問題が出てくるわけじゃないですか。女子って」
――そうなんですか……。でも北村さんは音楽をずっと続けられているわけじゃないですか。それを男性の視点から見たらどうですか。 でもう〜ん、これ言うとちょっと違ってきちゃうかもしれないですけど……“どっちが大事なのよ”問題っていうか。
 「あー!それね!それはわたしの中で絶対にあかんこと。“仕事とわたしとどっちが大事なのよ!”みたいなことは言うたらあかんことやっていうのはめっちゃ分かってるし、言うたら負けっていうか。そんなこと言う女はほんまクズやってずっと思ってたんですけど、いざそういう立場になったりすると、言うたなる気持ちもちょっとは分かるかも(笑)」
――カセットMTRなんか弄ってないで、俺と遊ぼうぜ、とか。
 「それな。そう言われると、“ちょっとうるさいな”みたいになりますよね(笑)。今楽しいねんから、みたいになる。男性も同じですよね、っていうのはたしかにあるんですけどね……。そういう楽しい瞬間は邪魔せんといて!っていう。勝手なもんですね、人間て(笑)」
――(笑)。そもそも、北村さんの“主役になりたい”願望はどのように生じてきたんですか?
 「昔はそんなの無かったんだろうけれど、あまりにも不遇の時代が長くて。売れないっていうことプラス実生活でも。そこから何かしらそういう思いが芽生えてきたのかなあ……。昔は、まあ今も基本そうなんですけど、逆に“見んといて……”みたいなタイプの人間だったんですよ。でも、みんなそういうのないんですか?主役になりたい願望みたいなのって。どこかにあったりしませんか?きっとあるでしょ?」
――でも、主役になるのがお葬式だけなんてこと、北村さんはないと思いますよ(笑)。
 「そうでうすかねえ……。いや〜、でも、もう無いですわ〜、っていう感じになっちゃってて」
――人前で歌を歌っている時は絶対に主役じゃないですか。
 「ところがそうでもなくて、意外とライヴって聴いてなくないですか?」
――えっ、聴いてますよ(笑)。
 「あれっ?失礼な感じになっちゃった(笑)。でもそうですねえ……歌ってる30分の間くらいは、みんながわたしのことを見てくれてる、唯一の時間みたいな感じはありますね。まあ、数の問題じゃないしね……。1人でもそうやって、30分だけでも見てくれる人がいたら“その人の30分の主役にはなれた!成功!”って言うわけ?」
――えっ、はい、そうなんじゃないかなあと思って……。
 「まあ、そうですわ……。それで納得せい!って思いますよね、たしかにね……」
――いやっ、あの、言いくるめようとしているわけではないんですけど……。
 「いやいや、その通りであります……」
――すいません、モヤっとした感じになりました……。ただ、北村さんの歌を聴いていると、“そんなことないよ、大丈夫だよ”って言いたくなっちゃうところがけっこうあって。
 「そうなんですか……ありがとうございます。本当に、なんかもう、卑屈な、歪んだ人間なんで」
――でもブログを拝見していると、楽しそうなこともたくさんあるじゃないですか。
 「あれはね、全然おもんない日常を、なんとかおもろい感じに書いてるだけなんですよ。だいたい、日々やってることといったら、バイトと病院行くだけですからねえ。わたしの予定はバイト、バイト、病院、バイト、病院、病院、バイトみたいな」
――ほらほら、映画を観て感銘を受けたり、バイト先に有名人が来てテンション上がったりするじゃないですか。
 「それはね!東京スゲー!って思うんですよ。有名人がゴロゴロ来よるからな。まあ、そういう面ではそうなんですけど……」
――本(秀康)さんが7inchのジャケットを描いてくださったりとか。
 「そうなんですよ!わたしの労働先に本さんがいらっしゃって。でも本さんの漫画は知っているけれども、見た目は知らなかって。“さっきいたの本さんだよ”って教えてもらって、本さんて、あの『レコスケくん』のかい!えー!ってなって。うまいこと紹介していただいて、真っ白いCD-Rに焼いただけのサンプルをお渡ししたんですよ。でもそういう時って、渡されても聴かなくないですか?社交辞令で“聴くよ〜”とか言って。特に真っ白なCD-Rなんてそういうことになりがちやと思うんですけど、本さんはめっちゃちゃんと聴いてくださって。すぐに“〈マイハッピーお葬式〉すごく良いですね”ってTwitterのDMを送ってくださったんですよ。CD-Rと一緒に『ガール・ウォーズ』もお渡ししたんですけど、それも“〈朝も昼も夜も〉が一番良かったです”みたいな感じで。〈朝も昼も夜も〉は一番最後に入ってる曲なんで、最期の曲まで聴いてくれてるや〜ん!めっちゃ信用できる!と思って。ていうかあの本さんが聴いてくれてるってまじか〜!ワーイワーイってなってたんですけど、“〈お葬式〉を聴いてもうジャケットの絵が浮かんでいる”みたいなこと言ってくださっているって人伝に聞いて、またまじかー!ってなって。それでなんか本さんがね、わたしがお葬式でめっちゃ歌ってる絵を、描いてくださって」
――歌のイメージにぴったりの絵ですよね。
 「そうなんです。最高なんです。それで出していただけることになって。もう願ったり叶ったり」
――やっぱり良いこともあるじゃないですか。
 「そうなんです。ここに来てやっと、生きてて良かった〜って思って。心折れていたのがちょっと元気になったんですが、皆さんにここまでしていただいて、これであかんかったらほんまにあかんのやろな……って。『ガール・ウォーズ』の時は独りで色々がんばってみたけど何も出来なくて、どこも採り上げてくれるわけでもなく、そうなんや、やっぱり何の話題性もなく、お金の匂いもしない人間のことは、そりゃ誰も助けてくれないよね……って何10年も続けていたら、それなりに評価もされるんでしょうけど。むちゃ中途半端な、オバハンやけど、売れもせず、止めもせずみたいな、むちゃビミョーなわけで。止めたほうがええんかな……みたいになってたんですけど、こんな良いこともあって。これから先のことは分かりませんけど」
――もしそれを断ち切る手段があるとすれば、それは何だと思います?
 「それこそ、わたしを主役にしてくれる人が現れたら……あれ?そういうことなのかな……。う〜ん、やっぱりそういうことじゃないですね」
――たぶん、そういう人が現れたら現れたできっと悩みますよね。
 「うん、また何か言い出すと思うんですよ、わたしは。もう、シャブでもやって、頭パカーン!てなるくらいしかないんだろうか。アセンショ〜〜〜〜〜ンみたいな(笑)。宗教に入って、揺ぎ無い何かを得るとか?宗教を信じていらっしゃる皆様にはすみませんなんですけど、わたしは、人も、神も、それこそ愛とか夢とか全部信じてないので、こんなことになってるんですよ、きっと。何か信じてることがあればこんな風にはならなくて。きっとそうなんです。だから、信じる何かが見つかれば抜け出せるんだろうけど、“そんなもん信じてやるか!”ってずっと言い続けてしまっているんですよね。縋る何かがある人は強いんだろうけど、“信じる存在”的なものを手に入れたら負け、みたいなところあるじゃないですか。そこ行ったら負けやろ、みたいな。さっきから“勝ち”とか“負け”とか、すごい言いたがりますね、わたし(笑)」
――(笑)。北村さんは一体何と闘っているんですか?
 「ほんまや……何やろ。恥ずかし!何してんのやろって思っちゃう」
――でも結局、それって生きてるってことですよね。
 「そうですね。わたしの歌は、まあ恨み辛みも入っておりますが、普通に生きているだけの歌なんですよ」
取材・文・写真 / 久保田千史(2014年8月)
『殺人ワークショップ』
白石晃士監督作品
ja-jp.facebook.com/mdr.workshop
同棲する恋人から日常的に暴力を振るわれているアキコの元へ、奇妙なメールが届く。それは「殺したい人はいませんか?人の殺し方を教えます」と書かれた、闇の殺人ワークショップへと誘うメールだった。アキコはそのメールに返信し、ワークショップへと応募するのだが……。
監督・脚本: 白石晃士
出演: 宇野祥平 / 木内彬子 / 西村美恵 / 徳留秀利 / 伊藤麻美 / 井ノ川岬 / 杉木悠真 / 重田裕友樹 / 川連廣明 / 須田浩章 / 細川佳央


2014年9月13日(土)〜19日(金)
東京 渋谷 アップリンク
〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F
03-6825-5502

併映: 『超・暴力人間』
一般 1,600円 / 学生 1,300円(平日学割 1,100円) / シニア 1,100円 / UPLINK会員 1,000円




2014年11月8日(土)〜14日(金)
愛知 名古屋 シネマスコーレ
〒453-0015 愛知県名古屋市 中村区椿町8−12 アートビル 1F
052-452-6036



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