過去を否定せず、未来を大切にする 渡瀬マキが語る“Fresh”なLINDBERG

LINDBERG   2017/08/04掲載
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 リアルタイムで夢中になったとは、正直、世代的にも言えないのだが、デビューから28年。その間発表されてきたすべてのPV35本に、新曲「Fresh」を加えたリンドバーグの2枚組DVD『LINDBERG ALL TIME MUSIC VIDEO HISTORY』は、見応えのある映像作だった。全曲が発表順に並べられている一連の流れの中で、ヴォーカリスト・渡瀬マキの髪型含むヴィジュアル面での“変化”が、バンドがたどった試行錯誤や成熟とシンクロしているようで、単なるプロモーション映像集と言うに留まらない、ドキュメンタリー作と映るのがおもしろい。メンバー4人を代表してインタヴューに答えてくれた渡瀬の語り口がまた、気取りなく自身とグループの来し方を振り返るもの。“発見”の多い取材でした。いや、ほんと。
Photo by KOSUKE USHIZIMA(MAVERICKWORKS)
 「じつは通して観れてないんですよ。もちろんひとつひとつの作品のことはおぼえているけど、全体の流れがどうなっているのかは、まだ」
――おもしろかったです。バンドがたどっていった変化が、流れとして見えてくるようで。特に渡瀬さんは女性だから、髪型ひとつ取っても……。
 「変わりますよね。だんだんこう……ピチピチから熟女になっていく(笑)」
――デビュー当初、思いきりショート・ヘアで、ボーイッシュなイメージでしたよね。それがだんだん伸びていって、いきなりど〜んと長くなったり。ああいう変化って、ご自身の心のあり方や、歌に対する姿勢とシンクロしていたものですか。
 「外見が変わるってことは、内面も何かに影響されていた。そういう面はすごくあったと思います。髪を伸ばし始めた時期には、ショートカットで元気。そんなイメージを自分でぶっ壊したい。そういう気持ちがあっただろうし、それをばっと切った時にも、何かをまた壊したい意識があったんだろうと思う。なんとなくというのは、一回もなかったはずなので」
――髪型は自分で決めていたんですか。
 「そうですよ。誰かに言われて伸ばしたり切ったりしたことは、一度もない」
――「会いたくて-Lover Soul-」の頃かな。今で言うオーガニック系、というくらい、長い時期があった。
 「オーガニック系ですか。あはは(笑)」
――渡瀬さんの外見の変化が、バンドの表現の一環として連動して見える。コミュニケーションがいいバンドだな、と思いました。
 「めっちゃ仲いいバンドなんで。それが映像にも出てるのかもしれない」
――お互いのアイ・コンタクトも多いですよね。
 「ライヴ中も、必ず見てますから」
――バンドによっては、メンバー間の反発がエネルギーに転じる場合もありますけど。
 「それはそれでいいですよね」
――でも、リンドバーグの場合はそうじゃない。メンバー・チェンジもしてませんよね。どうやって、コミュニケーションを持続してきたのかなと。
 「みんな、大人やから(笑)。それと……たぶん、それぞれのリンドバーグ愛がすごいんです。一言で“リンドバーグ愛”と言っても、考え方や思いは、4人それぞれ違うんですけどね。愛情があるということは、共通している」
――音楽的な志向とかも、全然違うんですか。
 「はい。まったく違います」
――なのに、ソリッドなポップ・ロックのバンドとして、すごくよくまとまってますよね。今あらためて聴いて、演奏力の高さに、驚いてもいるんです。こんなこと言うと、失礼かもしれないけれど。
 「あ、でも、ほんとめちゃくちゃうまいですよ、あの人たち(笑)」
――そのあたり、あまり語られてこなかった気が。
 「言われてみればそうだったかもしれないけど、バンド・スコアってあるじゃないですか。それを買ってくれた高校生たちが、簡単に弾けると思ってたけど、実際やってみたら、めちゃめちゃ難しかったって。そういうお声を、すごく聞きました。じつはすっごい複雑なことをさらっとやってるんや、この人たちって。当時から、そう思ってましたよ」
――そんなバンドにあって、渡瀬さんはどう立ち位置を決めていたんでしょう。
 「とにかく足は引っ張らんとこうって(笑)。ほんと、それひとつだけ」
――でも、バンドのヴォーカリストとして考えると、際立って発音がきれいですよね。PVでリップシンクしている時でも、ちゃんと口を大きく開けてるし。そういう意識はあったんじゃないですか。
 「全然ないです。そんなにしっかり、ちゃんとしてましたか?」
――してましたよ(笑)。曲に合わせてるからとはいえ、ふだんからやってないと、あんなに縦にも横にも口って開かないと思う。
 「はあ〜(笑)」
――言葉がストレートに、きれいに聞こえてくる。日本語も崩してないし。
 「もしかして、ですけど……私、リンドバーグ以前に、アイドルをやってた時代が2年くらいあって。お名前を出すだけで畏れ多いって感じなんですけど、松田聖子さんにものすごく憧れていたんです」
――じつはうかがいたかったんですよ。聖子さんに影響されてなかったかを。
 「ほんとですか。小・中時代、聖子さんの完コピをして生きていたんです。高校生になって、本格的にヴォイス・トレーニングを始めた時も、聖子さんの歌を歌ってた。本当に歌いたくて歌ってたんですけど、リンドバーグとして初めてレコーディングした時、プロデューサーから言われたんです。“その可愛らしい声とヴィブラートを、たった今から止めなさい”って」
――ああ……。
 「壁を何枚も突き抜けて、スコ〜〜〜ンと遠くまで届くように、とにかくストレートに、バ〜〜〜〜ンと歌うようにって言われた。初めてのレコーディングでそう言われて、正直戸惑いがありました。(ヴィブラートをつけて歌ってみせて)こう歌うのが身についちゃってたから、それをやらないのって、本当に難しかったんです。でも、それが“ストレートに来る”とか、そういう評価につながっていったんですよね。結果、リンドバーグの渡瀬マキの歌い方になった」
Photo by KOSUKE USHIZIMA(MAVERICKWORKS)
――でも、聖子さんの歌って、じつは難しいじゃないですか。松本 隆さんの歌詞にしても、やさしく聞こえるけど、字面を見るとすごく凝っていたり。80年代って、女の子アイドルの黄金期でしたよね。89年にデビューしたリンドバーグには、ヴィブラートを取るといった唱法上の違いはあっても、女子アイドルの魅力がポップ・ロックのバンドに、いい形で接続された。そんな側面があったんじゃないかと、今回観ていて、初めて気がついたんです。
 「へえ〜〜〜〜。なんか、ありがとうございます(笑)。そういうすごい方が書いた歌詞をコピーすることによって、自然に身についたものがあったということですよね。よかったんだ、じゃあ」
――リンドバーグ以前に培われた素養が、肥料になってたのじゃないかと。
 「そっか〜。初めての分析で、驚いてます」
――バンドのヴォーカルの美学には“崩す”唱法もありますよね。桑田佳祐さんがそうだし、氷室京介さんもそう。そういう女性歌手だってあまたいる中にあって、渡瀬さんは明瞭に、言葉を崩さず歌っている。それは特質じゃないかと思うんです。
 「うれしいです。何を歌ってるか伝えたいとは、いつも思ってるんで。歌詞が聞こえなきゃ意味がない。それはすごく意識してますね」
――他のメンバーも、そこは尊重してるんじゃないかと。
 「あ、それはそうですよね。歌をどうやって活かすかというところは、いつも考えてくれてると思います」
――そのあたりにも、コミュニケーションのよさがうかがえる。逆に、そこまで仲のいいバンドが、一度は解散に至った理由は、なんだったのでしょう。
 「理由はたったひとつ。私の本能と細胞のすべてが、当時生まれたばかりの息子に向かっていたからです。この気持ちに逆らって続けていくことが、これ以上できないと判断しました。ライヴを観に来てくれる人たちにも失礼やし、歌に失礼。息子に対しても失礼。みんなに失礼なことになるから、きっぱりやめようと」
――他のお三方にも異論はなかった?
 「女性が一人バンドにいるということは、いつか結婚し、いつか出産し、いつかこういう時も来るだろうと。そう、頭の片隅に置いていてくれた。もちろん葛藤はあったと思うし、苦しかっただろうし、悲しかったと思うけど、そこは一言も言わずに“はい”と言ってくれました」
――「みんな大人だから」とおっしゃってたのには、そういう裏付けがあるんですね。そうやって解散したからこそ、再結成も無理のない形でできた。
 「私自身、またリンドバーグで歌おうと思う日が来るとは、その当時は思ってなかった。思わないまま何年も生きていたのに、また自分がそういう風に変わってきた。我ながら不思議。またそれをメンバーに“もっかい、やんない?”と軽く訊いてみたら、向こうも軽く“いいよ〜”って(笑)。本当に私のわがまま、心のおもむくままにやらせてもらっています」
――「you were there」では、歌い方が変わっていますね。
 「その通りです。出産後にレコーディングした曲なので、意図して変えたわけではなく、変わってしまった。出産で、劇的に身体が変わったんですよ。20代の頃の、いわゆる声の瞬発力みたいなものが、吸い取られていったというか。もちろんヴォイス・トレーニングもしたけれど、この時期の私というのは、昔の私に戻りたい、みたいな気持ちではなく、子どもを一人産んだ母ちゃんが、今の自分が歌える歌を歌う。そういう感じだった」
――キーが少し下がって、声自体太くなっている。声質のそうした変化と、どう折り合いをつけるか、模索していたような曲だなあ、と思って。
 「今言われたように、折り合いのつけ方が、ものすごく大事になってくるんです。自分自身の変化を受け入れつつ、聞いてくれる人たちに、気持ちのいい歌だな、リンドバーグのメロディって、心が安らぐねって思ってほしい。聞き手には幸せになってほしいんですよね。自分がどう変わっていくにしても」
――逆に、「今すぐ Kiss Me」の再演ヴァージョンは、のびのびしていてますよね。
 「ヴォイトレをしていくうちに、今の自分を否定しない。ちゃんと受け入れてあげる、ほめてあげるとかね。数年かかったけど、そういうことができるようになった時期だったと思うな」
――メンバー4人とも、すごく楽しそうですよね。
 「うんうん。しかも、すごく新鮮やった。何十年も前に一回録った曲やけど、本当に新しい、フレッシュな気持ちでできたことに、自分でもびっくりしたくらい」
――新曲の「Fresh」もね、“フレッシュ”って言葉自体が、メッセージなわけだけど。
 「うん」
――この映像を観て、4人が演奏している姿がすごく若々しいなと。
 「かもしれない。ギターの(平川)達也、私の主人でもあるんですけど、ギター持って弾いてると、ちょっとよく見えるもん(笑)。家にいるたっちゃんとは、全然違うなと(爆笑)」
――メンバー全員、楽しそうなのがいいですよね。
 「久しぶりやったから、どうなることかと思ったけど。だから“ニュー”じゃなく、“フレッシュ”なんですよね。過去を否定せず、未来を大切にする。そういう意味での“Fresh”。だからああいう映像になったし、ああいう表情が撮れたんじゃないかと思うんです」
取材・文 / 真保みゆき(2017年7月)
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