今や父娘のような関係――トロンボーン奏者の清水真弓、2ndアルバムは“夢の師弟共演”

清水真弓(tb)   2016/09/09掲載
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 2012年秋から南西ドイツ放送交響楽団の首席トロンボーン奏者を務めている清水真弓。〈グダニスク国際金管楽器コンクール〉での第1位をはじめ、数々のコンクールで入賞。たびたび帰国してはそのたしかな腕前を聴かせてくれている。またアンサンブルを愛する清水は、スローカー四重奏団のメンバーとしても活動するほか、8人のトロンボーン奏者による“スライド・ジャパン”を結成するなど、室内楽にも力を入れている。
 アルバム・デビューは2015年。『ファンタジー』と題したそのCDは、「朝日新聞」特選盤、「レコード芸術」特選盤、〈クラシックCDアワード2015〉第1位、そして〈CDショップ大賞〉クラシック部門賞と4つのタイトルを獲得。そしてこのたび、2枚目をリリース。師でトロンボーン界の重鎮ブラニミール・スローカー、前回も強力なサポートを披露したピアノのフランソワ・キリアンと組み『トリロジー』と題したアルバムだ。師弟共演だけでなく、3人それぞれのソロも収録したユニークな企画となった。
アルバムという形でたくさんの人に聴いていただきたい
――今回の2ndアルバムは“夢の師弟共演”となりましたね。
 「ブラニミール(・スローカー)とは、もう10年来の付き合いで、今や父娘のような関係。ステージでもよく共演していますので、デュオ曲のレパートリーが集まってきました。また、演奏も練られてきたし、アルバムという形でたくさんの人に聴いていただきたいと思いました」
――師としてのスローカーさんと、共演者としての彼には違いがありますか?
 「基本的なスタンスは変わらないと思います。私は頑固で譲らない性格なのですが、レッスンでは、彼はそれを受け止めて好きなようにさせてくれました。そんな懐の深い部分が現れているのか、演奏もスケールが大きいですね。逆に、私はきれいにコンパクトにまとめようとする方向性があるので、その違いがとくに生き生きとしてくるのが、〈カルメン・ファンタジー〉。作曲者のモーティマーはもともと、ホルンとトロンボーンという編成を想定して書いたのですが、私がホルン・パートを担当しており、ちょうどキャラクターのバランスがとれていると思います」
――さまざまなスタイルの作品が選ばれていることもあり、トロンボーンの多彩な表現力も味わえます。ライナーノーツを清水さん自身が書いているのですね。
 「はい。もちろん、文章のプロフェッショナルである方々が専門的観点から書かれるものはもっと洗練されているかもしれませんが、それよりも演奏者が作品と関わる観点から書かれる文章は、みなさんに入っていきやすいものだと思うので、こだわりを持って書かせてもらいました。作曲家と私たち演奏家との接点、エピソードなども書きましたので、ぜひ読んでいただきたいです」
――それぞれの曲の聴きどころを教えていただけませんか?
 「アルバム・タイトルでもある〈トリロジー〉は、私たちのために書いてくれたもの。作曲者ミシェルはスローカーとも付き合いが長く、私たちの個性を生かしながら楽しい作品に仕上げてくれました。デュティユーのソロ作品は難度の高い曲で、コンクールなどでもよく取り上げられます。シューレックのソロ作品はよく演奏されるのですが、スローカーの演奏するシューレックは最初は独特に感じるかもしれません。ですが、じつはこちらのほうが楽譜に忠実で、作品の真意を伝えているように思います。歴史的背景を踏まえると“スローカーのシューレック”は非常に意味のあるものだと思います。メンデルスゾーン作品は、数ある無言歌集のなかからピアノのキリアンが4作品を選び、トロンボーンとのデュオに編曲してくれた新しいレパートリーです。ウェーバー作品では、名手スローカーならではの“トロンボーンによる歌”を聴いていただきたい。ベルギーのジョンゲンの作品もトロンボーンのオリジナル作品で、北欧の優しい日差しのような色合いが魅力です。ビゼーの〈夜想曲〉は、キリアンの名ピアニストぶりを聴いていただきたくて、彼にソロをお願いしました」
――そして最後は、先ほどお話に出た「カルメン・ファンタジー」。たしかな聴き応えのあるアルバムになりましたね。
新しい仲間と一緒に音楽を
――清水さんは2012年より南西ドイツ放送交響楽団の首席を務めていますが、オーケストラの活動はいかがでしょうか?
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清水真弓 / photo ©Takuyuki Saito
 「さまざまなオーケストラ経験を経ていますが、ここに移籍してから、あまりにも物事がスムーズに進むので良い意味でびっくりしました。同僚たちも本当に親切で、仲が良く、お互い尊敬・尊重し合える、とても良い環境にあります。私のトロンボーンでの活動やCDリリースなども皆応援してくれますし、興味を持ってくれます」
――南西ドイツ放送響は、紹介状がないとオーディションさえも受けられないオーケストラということですが?
 「まずはじめに、紹介状ではなく、招待状の間違いかと思います。ドイツ語圏――ほかの国の事情はさほど詳しくないですが、ヨーロッパはほぼすべてかと――では、南西ドイツ放送が特別なわけではまったくなく、ほとんどのオーケストラがそうであるように、招待されなければオーディションは受けられません。紹介状、という言葉はあまり聞いたことがありませんが、有力者の推薦状があれば、招待されるのに有利なのかもしれませんね」
――そして、この2016年9月からは南西ドイツ放送(SWR)と、シュトゥットガルト放送交響楽団は合併してひとつのオーケストラとして活動していくことになるそうですね。実際に合併が行なわれて、どんな状況なのでしょうか。
 「何度も話し合いは重ねられていますし、それぞれの楽器グループごとに2つのオーケストラ間でのコミュニケーションはきちんととれていて、皆がオーケストラをより良くしていくために動いています。また、組織の大枠は固まっていますが、実際にオーケストラの雰囲気がどうなっていくか、音楽的にどういう方向性に向かうのか、細かい部分は蓋を開けないとわからない部分もあります。たしかに、生活面では、基本的なリハーサルはほぼシュトゥットガルトで行なわれますし、そういった意味ではフライブルクの人たちのほうが、実質的な苦労が多いとは思いますが、一歩踏み込んだ話をすると、そういった経費の手当やサポートがきちんと整えられていますので、一般に考える非常にネガティヴな“合併”とはかなり異なるものなのではないかなと思われます。もちろん団員は自主的に別の道に歩む人はいるものの、放送局からの解雇などはいっさいありません。トロンボーン・パートだけの話をするのなら、フライブルク、シュトゥットガルトの両方のメンバーはすべて素晴らしい人たちで、レベルも高いので何の問題も感じておりませんし、むしろ、新しい仲間と一緒に音楽ができることを楽しみな気持ちでいます」
――ドイツの名門オーケストラでのご活躍は、日本人としても誇らしいですが、もっと日本でも活動してほしいとも思います。
 「ありがとうございます。日本での活動は実際に増えていますし、今のペースで続けていきたいと思っています。ただ、やはり日本滞在が長くなると、最近は逆ホームシックとでもいうのか、そろそろのんびりしたドイツに帰りたいなと思うことがあります(笑)。 今後もこのバランスでヨーロッパと日本、さまざまな土地で楽しい活動ができれば良いなと思っております」
取材・文 / 堀江昭朗(2016年7月)
清水真弓 concert schedule
■ 2016年10月21日(金)
“第119回 スーパー・リクライニング・コンサート
清水真弓 トロンボーン・リサイタル”

東京 渋谷 Hakuju Hall
15:00〜 / 19:30〜 (2回公演)



■ 2016年10月30日(日)
“清水真弓トロンボーンリサイタル”

島根 松江市総合文化センター プラバホール
16:00〜



■ 2016年11月28日(月)
“清水真弓トロンボーンリサイタル
輝く富山のアーティストシリーズ”

富山県高岡文化ホール
19:00〜


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