感覚的には聴覚しか無いってところを信じたい――杉本佳一、初本人名義での劇伴音楽集『PLAY MUSIC』をリリース

杉本佳一   2014/12/22掲載
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1. 言葉にできないところを汲み取るのが大変でもあり、面白くもある
2. 根底にあるのは“無いものにしたいな”っていう思い
根底にあるのは“無いものにしたいな”っていう思い
――ジャケット・デザインは岡村靖幸さんなども手がけるAim Designですね。杉本さんとはデザイン事務所をシェアしていたこともあるし、デザイナーの根岸(篤男)さんは自主レーベルFlyrecもやっているなど、とても近いところにいます。
杉本 「デザインに関しては、ほぼ一発OKでした。自分で作ろうという気は全然なかったですね。(自分は)音楽だけやるようになってデザインから離れてしまった分、ちゃんとした手法を持ちながら今をわかっている人に任せたいと思って」
――紙の手触りもいいですね。
杉本 「そう、こういうところもプロがきちんとディレクションしないとダメですね。当たり前のことなんだけど、なかなかそれができないことが多いと思うので。Aimはさすが長くやってるプロ集団という感じ。今やオンデマンドの時代から始めて色校の発想がないデザイナーも増えてきていますけど、それとは最終的に上がってくるものがやっぱり違うと思うんですよね」
――このタイミングで劇判をまとめたことは、アーティスト自身とレーベルそれぞれにどんな意味があると思っていますか?
荻原 「最初は『トータル〜』の劇判を単体でリリースしたいと言ってたのがちょっと頓挫して、その間に杉本くんが次々と劇判をやるようになり……話が再燃したのは今年(2014年)の頭くらいかな」
杉本 「今回『トータル〜』からは10曲しか入ってないけど、実際は20曲くらい作ったんですね」
――そうなんですか!全曲収録じゃないんだ。
荻原 「最初はCD-Rで5枚組をもらって(笑)。今回の選曲は、まず杉本くんに出してもらった中からレーベル側で選んでほしいって言われて進めたんだけど、全部聴くの結構大変だった(笑)」
杉本 「最近僕の中で流行ってるんですけど、レーベルの人に曲をチョイスしてもらったり曲順を考えてもらうのをよくやってて。こういうのって自分本位になりがちだし、歳もとってきたし、みんなで作ってみんなが好きな作品でいたいよねってあらためて思ってるんです。エモいでしょ(笑)」
荻原 「それはHEADZだからこそ出す意味があるものにしたいという思いとも重なったし、作品としてどうあるべきかは結構考えましたね」
杉本 「ちゃんとプロデュースしてもらいたいということは話しました。HEADZさんからしか出せないからこその売り方も含めて」
荻原 「杉本くんのレーベル(cubic music)が活発だった90年代後半から2000年代前半は、面白いアーティストなりインディ・レーベルが増えてきて、メジャーのレコード会社で働いていた自分には脅威に感じられていたんです。“あ、時代が変わる”と思ったし、実際に変わった。それが今はインターネットによってさらに個人で色々できるという風に変わってきた中で、やはりレーベルとしての意義について考えたり話したりする機会が多かったんですね。さっきジャケットの話でもプロフェッショナルって言葉が出ていたけど、あらためて個人だけではできないことって何だろうと考えさせられることはありますよ」
――“パッケージにする”っていう命題ですよね。
杉本 「そう。CDには印刷とか流通とか、配信には無いいろんな要素が入ってくるので」
荻原 「デザインにしても音楽にしても、今をわかりつつ作品をどうアウトプットできるかというところです。HEADZからDJまほうつかい名義でCDを出している漫画家の西島大介くんとかもそうだけど、旬を取り入れるということじゃなくて、いつも情報に触れ、それに対して批評性を持っていることってクリエイターにとっては重要なことだと思うんです」
――感性 / スキル / クオリティのトライアングルですね。外の力も巻き込んだ形でのクオリティへのこだわりと、満を持して“杉本佳一”名義でリリースしたこととの繋がり、杉本さんはどんな考えですか?
杉本 「最初に佐々木さんがリリースを持ちかけてくれたのが2007年で、その時に“HEADZから出すなら本名名義にしない?”って言ってくれたんです。当時はとにかくFilFlaを出したかったのでそっちにしたけど、あの時の言葉が頭にずっと引っかかっていながら、今ようやく“これは本名名義以外に無いな”って思えた。佐々木さんが通してくれた演劇への道に、今なら応えられると」
――その本名名義をセルフ・プロデュースにしないという。
杉本 「そうですね(笑)。無意識でした。たぶん(自分は)音楽に対してすごく客観的だと思うんですね。minamoにしてもFilFlaにしても、“自分がこういう音楽を作りたい”というよりは“こんな音楽があったらいいな”っていうところなのかな。レーベルをやってると“こういう作品があるんで出してください”ってデモが届くけど、それだとレーベルもアーティストも存在意義が無くなっちゃうので……なんだろう、なんかやっぱみんなで作りたいねって(笑)。うまく言えないけど、最近はそう思ってるんです」
荻原 「そういう杉本くんの人柄も出てていいよね。今回はちゃんと大人が聴ける音楽 / 音楽家として彼を紹介できたらいいなとも思ってたんですよ」
――あ、すごく腑に落ちました。本名名義って、一般的には等身大で生身の自分をさらけ出すっていうイメージが付くと思うんです。でもこの作品は、妙に冷静な空気も漂ってるのが気になってて。それが杉本さんの天然だということですね。
一同 「(笑)」
杉本 「いやでもこれで天下取りますよ!……とか言っちゃうところがね(笑)」
――過去の音楽史や文脈を超越したミュータント的表現が増産される一方で、冷静な目線みたいなものっていうのもあると思うんです。そういう点で杉本さんの“クオリティを保つ”というコンセプトは、無意識かもしれないけどすごく批評的かもしれません。
荻原 「それをなんとかして届けたいと思ったんですよね。佐々木が言う“杉本くんをちゃんと紹介したい”もそういうことなんだと思うし。尖った個性を奨励するんじゃなくて、杉本くんの音楽の強度やバリエーションも含めてしっかり伝えたいっていうかね」
――さっき話に出た90年代末から2000年代頭は客観と主観がバランスよく共存していた時代でもあったのかなと思うと共に、杉本さんの音楽はその頃に象徴的だった空気を今に引き継いでいるように感じるんですが。感傷や恍惚のようなものと作品との距離感って意識としてあるんですか?
杉本 「エモい感じの進行を考えたりもするんですけど、出来上がりに冷めちゃうんですよね。作っているのが好きな人なので、ライヴでやると良さそうな要素も、作る中で排除されていくというのはあるみたいですね。今の流行を考えても、“自分がこれをやっても仕方ない”とは思います。僕みたいな全然ポップ・ミュージックでもない人が音楽をやる意味って……新しいことをやらなきゃ意味ないじゃないですか。誰もやってないことをやるから価値があるんじゃないですか。いい雰囲気だけの聴いたことある感じの音楽にだけはしないようにしているのは意識してるんで」
――敢えて居心地の悪さを作ろうということとも違うんですよね。
杉本 「やっぱり音楽だから気持ちよくしたいのはあるけど、根底にあるのは“無いものにしたいな”っていう思い。当たり前のことかもしれないですけどね。特にエレクトロニカ界隈は、自分もその恩恵を受けてはいるんですけど、客観的に聴いても気持ちいいと思えるものは多いですよね。僕はエレクトロニカっていう言葉は全然否定していないんですけど、でも本来はもっと実験性のあるものだったよな、と思っているし、そういう要素は差し込んでいきたいと意識してますね」
荻原 「そういう葛藤の中で制作を続けられなくなる人も多いけど、杉本くんは続けている」
――今の杉本さんの言葉に納得できるのも、コツコツ続けることそのものに価値があるということの証なんだなって思いますね。
杉本 「天才肌じゃないんで、コツコツやるしかないなって。妥協的な意味じゃなくて、それが性分にあってるし。作るのが好きなだけだから」
――稲作っぽいですね。“今年もアルバム収穫できた”みたいな。そんな良心と凛々しい眼差しの共存を作品から感じます。
杉本 「なんというか、音楽を感じてほしいっていう思いはありますね。今回は舞台のための音楽ですけど、舞台って総合芸術で、頭の中をそのままガチガチに再現する。演出家の方ってホントに細かくって。光の位置も点くタイミングも完全に作って、それが少しでも狂うと気持ち悪く感じるらしく、それは本当にすごいなって思います。そういう総合芸術の中の音楽をやらせてもらって、あらためて“音楽っていいな”って思ったんですよ。舞台の中で音楽は脚本の一部だけど、単体だと聴くことでしか情報が得られないじゃないですか。ライヴやジャケットとかの視覚要素は別にして、感覚的には聴覚しか無いってところを信じたい。そういうつもりでいつもやってるんですよね。そこがもしかして唯一エモいとこかもしれないですね。そういうエモさも、アーティストひとりだけの思いだけが一方通行にならないような作り方にしたからこそ感じてもらいやすいんじゃないかなと。そういう作品になってると思うんですよね」
取材・文 / 安永哲郎(2014年12月)
1. 言葉にできないところを汲み取るのが大変でもあり、面白くもある
2. 根底にあるのは“無いものにしたいな”っていう思い
エクス・ポポポポナイト!
エクス・ポポポポナイト!
“ex-popopopo night !”
www.faderbyheadz.com/event/event_index.html

2015年1月10日(土) / 11日(日)
東京 渋谷 TSUTAYA O-nest

〒150-0044 渋谷区円山町2-3 6F / 03-3462-4420
開場 / 開演 17:00(両日)
当日 3,000円(税込 / 別途ドリンク別)

※混雑によって入場を制限させていただく場合があります。

[10日]
live:
毛玉 / 杉本佳一 x バストリオ / 工藤冬里 x 豊田道倫
talk:
さやわか + 速水健朗 + 佐々木 敦 「ニッポンの音楽のゆくえ」
椹木野衣 + 佐々木 敦 「アート、音楽、そして批評」
豊崎由美 + 矢野利裕 + 佐々木 敦 「テン年代の小説論」
DJ:
佐々木 敦

[11日]
live:
東葛スポーツ / ju sei et filles / 蓮沼執太
talk:
菊地成孔 + 佐々木 敦 「ゴダールは3Dの夢を見るか?」
磯部 涼 + 九龍ジョー + 佐々木 敦 「音楽の“現場”はどこにあるか?」
DJ:
テンテンコ


※お問い合わせ: HEADZ 03-3770-5721
www.faderbyheadz.com



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