“面倒だから良い”という発想は音楽の原点――「残酷な天使のテーゼ」高橋洋子がクリスマス・ソング集をアナログ・フォーマットでリリース

高橋洋子   2015/11/20掲載
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 アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のTVテーマ曲「残酷な天使のテーゼ」の大ヒットでアニメ・ファンを中心に圧倒的な存在感を誇る女性シンガー、高橋洋子。2015年のクリスマスに、彼女から思いがけず最高にかわいい音楽のプレゼント『恋に寒さを忘れ』が届いた。しかも、アナログの10inchレコードで!
 アーティスト名は“高橋洋子とジ・ヱンゼル・シスターズ”!古き佳きアメリカの人気グループ、アンドリュース・シスターズを彷彿とさせる3人の女性コーラスは、なんとすべて彼女自身の多重録音!しかもアメリカに渡り、現地のつわものミュージシャンたちとレコーディングしたのだという!その結果、全6曲のクリスマス・ソングはどれも人間味があって、彼女のチャーミングな人柄を引き出した素敵な仕上りになった。
 アナログ・レコードやクリスマス・ソングへの思い入れ、レコーディング時のびっくりエピソードなどいろんな話が飛び出した、今までにない高橋洋子インタビュー!

――あえて、“あの”と付けてしまいますが、あの高橋洋子さんが10inchのアナログ・レコードでクリスマス・ソング集をリリースされる、という話にまず驚きました。
 「自分のレコードを作りたかったんです。ソロでもCDは出してますが、レコードを出すという機会はなかったんです。結果的にクリスマスのミニ・アルバムになりましたけど、“作りたい”という気持ちがまず先にありました。今年は自分にとっていろいろな転機でもあったので、“ちょっと好きなことをやろう!”と思って自分に投資したんです。レコーディングの費用も自分で出して、いろんなリスクも背負ってやってみようと思って。そのときに、旧知の山崎和美さんがMOGAレコードというレーベルをやってらして、“じゃあうちだったらこれぐらいの予算でできるよ”という試算をいただいて、アメリカでのレコーディングもコーディネートをしてくださったんです」
――収録されている楽曲がアメリカのスタンダードなクリスマス・ソングであることはもちろん、1940〜50年代のアメリカを彷彿とさせる女性コーラス・グループのスタイルにした多重録音なんですよね。しかも、アメリカでのレコーディング。
 「私はコーラス畑出身なので、一人で声を重ねるのも得意なんです。“そういうこともできるよ”ということを山崎さんに話したら、“アンドリュース・シスターズみたいなのがいいんじゃないですか”と提案していただいて、それで“ちょっと選曲してみて”ってお願いしたんです。アレンジャーとかミュージシャンも、彼女がMOGAレコードでリリースしているジャネット・クラインさんの仲のいいアメリカ人ミュージシャンで揃えていただいて。アルバムのタイトルも彼女が決めてくれました。だから、山崎さんがプロデューサーなんです」
――今回のリリースには、3つ大事なポイントがありますよね。ひとつは高橋洋子さんの音楽履歴がコーラスで始まっているということ。というか、ご家族が大変なコーラス一家でいらっしゃって。
 「そうですね。父は〈人生いろいろ〉も三度上でハモれます(笑)。両親が合唱団の恋愛結婚で始まり、私はしゃべるより先に歌ってたらしいです。小学校2年から高校2年までは合唱団に入ってましたし」
――ソロ・デビューされる前には松任谷由実さんや久保田利伸さんのツアーでコーラスを担当されていたり。
 「私は、コーラスがあって当たり前という考え方なんです。どっちかというと人前に出るのは苦手ですし、みんなで歌うのが好きなタイプでした」
――なるほど。じゃあ、2つ目は、さきほども名前が出たアンドリュース・シスターズなどを代表とするアメリカの女性コーラスについてです。山崎さんに提案される以前から、こうしたスタイルに親しみはあったんでしょうか?
 「ありました。有名な曲は知ってるっていう程度ですけど、コーラスの勉強として知ってました。“そういうふうにやってほしい”といわれたときには、やらないとダメなのでTPOに合わせて勉強はしてました」
――山崎さんから“アンドリュース・シスターズで”っていわれたときも、すぐに対応できたわけですね。
 「彼女は“洋子さんだったら、こういうのがいいよ”っていう理解をした提案をしてくれたんです」
――そして、3つ目が、クリスマス・アルバムであるということです。
 「クリスマスがよかったんです。私は今まで一回もクリスマス・アルバムを出してないんですよ。“クリスマス・アルバムといえばアレだよね”って、みんなすぐに思い浮かべるアルバムがありますよね。そういう声を聞いて、いつも“いいなあ”って思ってました(笑)」
――アメリカでレコーディングするということについては、どう思われました?
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 「じつは20年前にアメリカに半年くらい歌の勉強で行ってたんです。〈残酷な天使のテーゼ〉を出す直前です。アメリカから帰ってきて、仕事がなかったときにたまたまやらせてもらったのが、あの曲だったんです(笑)」
――そうだったんですか。
 「ええ(笑)。あと、今回のアルバムを出すことを決めたときも、山崎さんと一緒にカリフォルニアでハッピー・ニュー・イヤーを祝ってたときだったんです。そのとき、“今年は好きなことやりたい”って決めて、彼女に相談したんです。とにかく売れるとか売れないとかじゃなくてリスクを自分で背負うことをしよう、と。“レコード・プレイヤーなんかみんな持ってない”っていうんなら、なおさらそっちでやってみたい、と(笑)」
――じつは最近はちょっと流れが変わってきて、若い人たちもレコードを聴くようになってますからね。逆に今回のリリースは絶妙なタイミングだと思います。
 「そうなんですよね。山崎さんのレーベル名MOGAの通り、私も“ちょっとモガなことしてみたいじゃん”って感じなんです」
――アメリカでのレコーディングは、どういうふうに進んだんですか?
 「曲のアレンジは基本的に現地のミュージシャンの方におまかせしてました。とにかく “あとは行ってみて”って話だったんです。でも、行ってみたらいろいろ前代未聞の話がありまして(笑)」
――前代未聞(笑)!
 「これからそのことをお話します(笑)。今回は限られた時間と予算でレコーディングするという話で、“3日間で録る”と最初は聞いたんですよ。そしたら、1日目はジャネットのお宅でリハーサルするってことで、みんなといちょっと音合わせをしたりして終わったんです。その時点で私は“じゃあ、2日間で6曲録るんだな。がんばらなきゃ”って思ってました。そしたら、2日目は“バンドを録る”ということで、私は仮歌のみ。結局、最終日に1日で全部の歌録りをしたんです」
――単純に6曲とはいえ、高橋さんの場合はそれぞれのコーラスも入れるわけだから……。
 「えーと、7時間半で19トラックです(笑)。死ぬかと思いました!英語の発音で手こずって時間がかかった曲もありましたけど、それ以外はほぼワンテイクでしたから。私からしたら“これダメなんだけど”っていうテイクでも、向こうは“ヨーコ、いいと思う!”って雰囲気もあって、結局ほとんどちゃんと歌えなかったという心残りも私のなかにはちょっとありますけどね。でも、たとえば、〈Have Yourself A Merry Little Christmas〉は、じつは2日目に録った仮歌なんですよ」
――音源を聴かせていただいた限りでは、そんなことまったくわからないですよ。どれもすごいなと思います。
 「もっとちゃんとできたかな(笑)?とはいえ、この制約のなかではがんばったかなと思ってます。歌のディレクションをしてくれたヴァイオリンのベニー(ベネディクト・ブライダン)は、“この英語の発音はダメ”ってダメ出ししてくれたり。でも、何を隠そう、彼はドイツ人だったんですけどね(笑)」
――逆に、そういうドタバタ感というか、わいわいした感じがいい影響になってるようにも思いますけど。
 「“えー?”って驚きの連続のなかでやったので、私にはよくわかんないです(笑)」
――それにしても、ワンテイクといいつつ、これってコーラスを多重録音しているわけだから、二重にも三重にもすごいことだと思いますよ。
 「そうなんですよ!世の中って結構コーラスをあんまり難しいと思ってない人が多くて。“ソロになれないからコーラスになった”と誤解されてる人がいるんですよ。私が久保田さんのコーラスをやっていたときに彼から励まされたことがあるんです。“コーラスのほうが難しい。だからオーディションをするんだ。みんなは僕よりもそういう技術があるってことなんだよ”って。知人から“洋子ちゃんもいつかソロになれるといいのにね”っていわれたりしたこともありますけど、私としては“え?こっち(コーラス)のほうが好きなんですけど”って思ってたという(笑)」
――アルバムのなかでお気に入りはどれですか?
 「気持ちの面でいうと「The Little Drummer Boy / Peace On Earth」ですね。この曲をやるにあたってビング・クロスビーデヴィッド・ボウイのデュエットを教えてもらったときに、“やっぱり平和だよね”みたいな自分の根底にある意識を実感しましたし。歌詞がすばらしいんですよ。本当に染みました。高橋洋子の個性ってトータル的にいうと“母性”だっていわれるんですけど、そういうことを意識して山崎さんがこの曲を提案してくれたんです。“私はこういうことがしたかった”って思ったんです」
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――あのデュエット版の〈The Little Drummer Boy / Peace On Earth〉には、違う時代や世代とのつながりという側面もありますしね。
 「音楽的な面で楽しかったのは〈Jingle Bells〉かな。一番力が抜けてていいなって。なにしろ、このデュエットは“ジョンとヨーコ”ですからね(笑)」
――ギターのジョン・レイノルズさんとのデュエットは、正真正銘の“ジョンとヨーコ”ですもんね(笑)。
 「これは楽しかったです。この曲だけじゃなく、ジャネットのお宅でリハーサルしたときとか、古くてこじんまりしたスタジオでのレコーディングとか、いろんなことも含めて“みんなで作った”みたいな気持ちが表れてると思います。いろんな人たちがひとつの作品を一生懸命作ろうとしてくれてることが本当にうれしかったし、そういうところが全部の曲に出てるんじゃないかなって」
――いろいろ大変だったけど、それを含めても、日本では体験できないことでしたでしょうし、新しい発見もあったんじゃないでしょうか?
 「ありますね。アメリカの人たちが“日本人が英語の曲歌うなんて”みたいにバカにするようなこともなく、一所懸命やってくれて協力しようっていう家族のような眼差しでいてくれたこともうれしかった。私は日本人で、日本人がアメリカの1950年代に憧れて英語のクリスマス・アルバムを作りましたという、それが真実だと思うんですよ。背伸びをしてもしょうがないし。ただ、そのなかでこれだけのことがやれたということが自分のなかでもすごくプレミアムなんです」
――レコードというメディアについてもあらためてお聞きします。“レコードで出したい”という気持ちが強かったとおっしゃってました。
 「もともとアナログ人間なんです。機械はぜんぜん苦手。もっというと、“面倒だからいい”っていう発想ってじつは音楽の原点だと思うんです。だから、まわりまわってそこに戻ってきたという感じはあります」
――“面倒だから逆にいい”っていう。
 「そう。めんどくさいのがいいんですよ。私は音楽を聴いてるとき、そこに記録されてる空気も大事だと思うんです。今回でいえば、アメリカでレコーディングしたときの空気。やっぱり、ロサンゼルスの空気でしか録れない音がここにあるのは事実で。どれもアメリカの音がしますよね。“これは日本ではできないことだな、彼らにまかせてよかったな”と思いました。それって、音の世界の話だけど空間認識の話でもあると思うんです。しかも、レコードで聴くからこそわかる世界がある」
――正直、高橋さんがそんなにアナログに思い入れがあるとは思ってませんでした。
 「それは、お部屋にいて、好きな人と一緒にいて、ろうそくに灯がともっていて、クリスマスのレコードを聴いているという今。その“今”は永遠なんですよ。だけど、もう二度とない瞬間でもある。そういう人の感情も関わって完成されるものがアナログの良さだと思ってるので、“そういうふうにみんなも聴いてね”っていいたいんです。私もそういうふうに聴いてきて、音楽好きになったから。ただ、今は私は良いプレイヤーは持っていないし、家にたくさんあったレコードももう手放してしまっているんです。だからよけいに恋しかったのかもしれない」
――こうして自分の作品としてリリースすることで、またプレイヤーを買う理由ができますしね。
 「はい!自分の原点に帰るというきっかけになります」
――10inchというサイズについては?
 「10inchにしたのは、10inchがかわいいからです(笑)。サイズ的な問題です」
――両面聴いても15分くらいで、ココア一杯くらいの時間なのがいいなと思いました。
 「このぐらいから初心者の方はレコードに入るといいんじゃないかなと思うんです。“アニメが好きだったけど、高橋洋子が歌ってるから聴いてみようかな”くらいの感じで(笑)。このくらいなら必ず全曲聴いてもらえると思うし、ジャケットの絵もかわいいし。飾っていただいてもよし、聴いていただいてもよし(笑)」
――レコードを好きな人が作ってるレコードが、やっぱり愛されると思うので、このアルバムは大丈夫だと思います。
 「そうだといいなと思います。“高橋洋子ってクリスマスだよね”ってなるといいなぁと、思ってますので(笑)」
取材・文 / 松永良平(2015年10月)
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