【Tangerine Dream Interview】「音楽というのは常にそこにあるもの」シンセサイザーで新しいロックを創出したエドガー・フローゼが語る、電子音楽の黎明期と未来

タンジェリン・ドリーム   2009/10/01掲載
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【Tangerine Dream Interview】「音楽というのは常にそこにあるもの」シンセサイザーで新しいロックを創出したエドガー・フローゼが語る、電子音楽の黎明期と未来
 ロックの世界に電子音楽を持ち込んで、後のテクノやアンビエント・ミュージックに大きな影響を与えたタンジェリン・ドリーム(Tangerine Dream)。67年にベルリンで結成されて以来、30年以上にわたってタンジェリン・ドリームは独自のサウンドを追求してきた。そんな彼らが〈METAMORPHOSE 09〉出演のため、25年ぶりに来日。バンドの中心人物、エドガー・フローゼに話を伺うべく取材現場に向かうと、エドガーは着物姿にカウボーイハットというスタイルで登場。「日本文化に大きな関心を持っている」というエドガーが、バンドの歴史や音楽の未来について語ってくれた。


――タンジェリン・ドリーム結成前、画家のサルバドール・ダリと交流があったそうですね。ダリからはどんな影響を受けましたか?
エドガー・フローゼ(以下同)「もともと私は画を描いたり彫刻をしていて、そっちで生計を立てていくもんだと思っていたんだ。だから60年代後半に知り合いがダリの生徒になった時、彼に紹介してもらったのさ。ダリの家には変わった人達が集まっていて、毎週土曜日に閉ざされた扉の後ろでクレイジーなパーティをやっていたよ(笑)。ブリジッド・バルドーがやって来たことを覚えている。そういう別世界を体験すると、自分もシュールな世界に引き込まれていって、もしかするとアートというのは、いろんなやり方があるんじゃないかと開眼したんだ。そういう点でダリの存在は非常に大きいね」
――タンジェリン・ドリームがファースト・アルバム『エレクトロニック・メディテイション』をリリースした時は、あなたとクラウス・シュルツェコンラッド・シュニッツラーというすごいメンツでしたね。その時はどんなサウンドを目指していたのですか?
 「何かヴィジョンみたいなものがあったわけではなく、逆にギター、ドラム、ベース、歌というようなスタンダードな編成をとりたくなかったんだ。みんな楽器ができなかったからね(笑)。ある意味、まだ誰も入ったことがない小さな隙間を見つけようとしていて、それが実験音楽の世界だったんだ。我々はセックスのための音楽(ロック)の世界においては憎まれっ子みたいな存在だったんだけど、その反面、すごく気に入ってくれてた人もたくさんいた。それが画廊や美術館の人たちで、そういうところで少しずつギグを始めていったんだ」




――そんななかで、シンセサイザーや電子音楽とは、どのようにして出会ったのですか?
 「アートとともにクラシック・ミュージックのことも勉強し始めていて、オーケストラについていろいろ知るようになった。クラシックでは一番高い音がピッコロで一番の低音が大きなドラムなんだけど、“それよりも、もっと幅を広げるにはどうしたらいいんだろう?”と考え始めた時に、ウォルター・カルロスの『スイッチト・オン・バッハ』を聴いたんだ。そこですごく低い音が出ていて、それがムーグとの出会いだった。そこから私の永遠なる追求が始まったのさ。あのアルバムを聴いた時に、誰かから“お前がやるんだ”って言われたような気がしたよ」
――電子音楽の黎明期には、それぞれのミュージシャンが演奏方法を模索したことがオリジナリティにつながったと思いますが、あなたの場合はいかがでした?
 「まさにその通りだね。まだ知られていない分野を開拓していったのは本当に楽しかった。未開のジャングルを探検すると、見たことのないような花や動物をたくさん発見するのと同じさ。“こんなこともできるんだ!”とまず自分が驚いて、次に他人を驚かす。それがミュージシャン冥利に尽きたね。そういえば71年くらいかな、ベルリンのオペラハウスで鼓童のパフォーマンスがあったんだ。彼らの低くて深いサウンドに感動してね。彼らのレコードを集めて、ドラム(太鼓)のパートを切り貼りして自分なりのシークエンスを作ったことがあったよ。ドラムが生み出すリヴァーブが素晴らしかったんだ。そのシークエンスは『アテム』にも『ツァイト』に使っているよ」
――タンジェリン・ドリームのサウンドを聴いていると、まるで音を彫刻しているようです。それはあなたが音楽を始める以前に、彫刻をしていたことも影響しているのでしょうか?
 「彫刻を学んでいた頃、教授に“もともと石のなかにアートは存在してる。彫刻はいらない部分を削ぎ落としてるだけなんだ”と言われたことがあるよ。人によっては私が何かを発明したと思うかもしれないけど、全然そうじゃない。音楽というのは常にそこにあるものであり、私はいらないものを削ぎ取って、一番大事な部分を残しているだけなんだ。だから、私にとって音楽と彫刻は同じこと。いま“音の彫刻”と言ってくれたのは、まさにぴったりな言葉だと思うね」
――70年代。電子音楽の広がりとともに、ドイツのロック・シーンは独自の発展をしていきますが、当時を振り返ってみてどんな感想をお持ちですか?
 「クラフトワークはもちろんよく知ってたし、クラスター(ミヒャエル・)ローターもみんな知ってた。スコーピオンズも知ってたよ。そんなに広い世界じゃないから、お互いのことはよく知っていたけれど、74年に大きなムーグを導入してからは誰ともジャムれなくなったんだ(笑)。独自の世界にどっぷり浸るようになって自分の世界を作っていった。すごくピュアなエレクトロニックに向かっていったから、なんとなくみんなと疎遠になってしまった気がするな」
――そうやって始まった電子音楽が、今では音楽シーン全体に浸透しています。これほど影響を与えるものになると思っていましたか?
 「大きなシーンになると思っていたよ。75年に『メロディ・メイカー』誌のインタビューを受けたときに、〈5〜10年後には、すべてのバンドがシンセサイザーを持っているだろう〉と言ったら鼻で笑われたんだ。でも実際そうなっただろう? もし、私がやり始めたサウンドがオペラの序章であるならば、今ようやく“本編”に辿り着いたところなんじゃないかな? これからますます面白くなってくると思うね」
――では最後に、あなたの思い描く未来の音楽とはどんなものなのでしょう。
 「まず重要になってくるのはプラズマだろう。ペットボトルのキャップぐらいの大きさの機械に、全世界の図書の情報量が入ってしまうぐらいのメモリーの研究がもう進んでるんだ。だから人間は禅のように座って考えるだけで、そのキャップくらいの機械に考えたことのすべてが直接、移植されるようになる。作曲する時には、思いついたことの8割くらいが失われてしまうものだが、そういうふうにすれば、すぐに考えたことのすべてを機械に収めることができるんだ。だから未来の作曲はそうなると思うね。私はソフトもハードも世界中にあるものすべてに手を染めてきたけれども、次は絶対そうなるような気がしている。そして、その主導権を握るのは君たち日本人だと思うよ」






取材・文/村尾泰郎(2009年9月)
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