10曲入りで約31分──唯一無二のジャパニーズ・ソウル・ミュージック、ザ・たこさん『カイロプラクティック・ファンク No.1』

ザ・たこさん   2016/11/24掲載
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 1993年の結成以来、関西のソウル / ファンク・シーンをリードしてきたザ・たこさん。脚本家の宮藤官九郎が足しげくライヴに通い、映画監督の西川美和もファンだと公言するこのバンドが、約3年ぶりのニュー・アルバム『カイロプラクティック・ファンク No.1』を発表した。彼らが追究してきたのは、ジェームス・ブラウン直系のキレ味鋭いファンクに、古き良きリズム&ブルース、ゴスペル、スワンプロックなどアメリカ大衆音楽の豊かな土壌を掛け合わせ、さらに吉本新喜劇とプロレスのフレイバーを加えて煮立てたような、まさに唯一無二の“ジャパニーズ・ソウル・ミュージック”だ。その特異な音楽性が短い収録時間にギュッと凝縮され、よりソリッドなかたちで提出されているのが、本作の魅力だろう。

 さる11月13日、ザ・たこさんは地元・大阪の服部緑地野外音楽堂にて〈無限大記念日MAXヴォルテイジ〉と題したワンマン・ライヴを敢行。3時間20分におよぶソウル・ショーを繰り広げ、集まったファンを熱狂させた。ヴォーカルと作詞を担当する“悲しき怪人”こと安藤八主博のバカバカしくも渾身のパフォーマンスと、それをがっちり支えるバックの演奏――そこには、世の中の憂さと人生の喜怒哀楽を下ネタとギャグに包んでまとめてグルーヴさせてしまう、ソウル・ミュージックの本質的な力がたしかに宿っていたと思う。そんな上り調子のバンドメンバー4人に、新作について詳しく聞いた。
――新しいアルバム『カイロプラクティック・ファンク No.1』、めっちゃよかったです!
山口しんじ(g) 「お、まじすか?」
――はい、まじで! オープニング曲「あんたはギビトゥミ」の冒頭、安藤さんの“ワン・トゥー・スリー・フォー”というカウントに、3人の演奏が“♪バッバッバッババ!”と重なった瞬間、いきなり浪速のファンク・グルーヴが炸裂する感じで(笑)。もう、1曲目からやられました。
山口 「収録時間、短かったでしょ」
――そうですね。10曲入りで約31分。そのタイトさがまた、昔のソウル・ミュージックっぽくてかっこよかった。
山口 「この男がよう言うんですよ。“最近のCDは長すぎる”って」
安藤八主博(vo) 「ん? オレそんなこと言うてたっけ? でもまあ、そうですね。僕、オーティス・レディングとか大好きなんですけど、あの人たちのオリジナル・レコードって、大体30分ちょっとなんですよ。ブワーッと盛り上がって、サッと終わる(笑)」
――たしかに名盤『オーティス・ブルー』『ライヴ・イン・ヨーロッパ』もそうですよね。
安藤 「今回、曲的にはかなり濃密なのが揃ったし。聴いてもらったらわかるように、どれも軽快で楽しげなナンバーばっかりやったんでね。じゃあもう、変に水増しとかしないで、このままの形で出してしまおかと。いわゆるマジ歌っぽい曲は、あえて入れやんと」
――なるほど。前作『タコスペース』のリリースが2013年9月。その後、2014年のシングル盤「見た目はZZトップ」を挟みつつ、コンスタントにライヴを重ねてきて……。演奏のポテンシャルといいショーのスケール感といい、今のザ・たこさんはバンドとしてすごくいい状態にあると思うんです。今回のアルバムには、その蓄積をギュッと凝縮できたんじゃないですか?
オカウチポテト(b) 「3年分の集大成という感覚は、たしかにありましたね。どれもライヴではさんざん演ってる曲ですし。あと、『タコスペース』をレコーディングしたときは、僕はまだバンドに加入して1年ちょっとやったんです。それから3年たって、演奏のグルーヴもかなり熟成したと思う。以前にも増してシンプルになったというか……」
安藤 「お客の前で実演してると、いらん部分は自然と削れていくからね。僕らの場合、そうやってライヴで曲を仕上げていくパターンが多いんですよ。たとえば、近年マントショーでよう歌ってる〈突撃!となりの女風呂〉なんかもそう。ライヴであれこれ試してるうちに、だんだんと自分らのもんになってくる。今回の収録曲も、だいたいそんな感じでしたね」
山口 「もともと僕ら、古いリズム&ブルースやソウルが好きなんで。ただ、鍵盤も管楽器もおらんので、そのフィーリングをギター、ベース、ドラムの3人だけで再現しようとすると、アレンジは自ずとシンプルになってくるよな。そこで、どんだけ説得力を出せるか」
――じゃあ今回は、ドラムの手数もなるべく絞って?
マサ☆吉永(ds) 「まあ、手数が少ないのは今に始まったことではないんですけど(笑)。特に今回は、派手なオカズはなるべく叩かず、ひたすらガマンの世界でした。基本“♪タンタン、タンタン”というエイトビートがベースで……。あとは“♪タンタン、タカタカ”になるか、“♪タカタカ、タンタン”になるかという違いくらい(笑)。シンプルな8分音符の組み合わせです。結局、それが一番わかりやすく、かつ盛り上がる」
オカウチ 「そういえば、この3年でベースの音数も順調に減ってきましたね」
――言い換えれば、より少ない音でグルーヴを出せるようになってきたと。1曲目の「あんたはギビトゥミ」なんて、まさにそういう感じがしました。
安藤 「これは、うちの嫁はんの歌です」
――はははは。一緒に暮らしている女性が、“♪口を開けばベイベー / あれしてこれして”と言ってくる。毎日ギビトゥミ(Give it to me)と責められてる男の、心の叫びですね。
山口 「新婚ほやほやで、もうこんな曲作ってもうて、ねぇ。どやねんと」
※筆者註: 安藤さんの奥さんは、大阪で活躍するシンガー・ソングライターの桜川春子さん。5年の交際を経て、2016年4月1日に入籍したばかり。
――サビの、“♪あんたのお尻はブッチャーか高見山”というフレーズ。これは、関西人には懐かしい日曜日の吉本新喜劇「あっちこっち丁稚」の……。
山口 「そうそう、〈あっちこっち尻相撲〉の掛け声ね。わかってもらえました?」
――もちろん!
安藤 「“♪あーんたのお尻は百恵か淳子、あーんたのお尻はブッチャーか高見山”っていうやつね。これを曲のなかに放り込もういうのは、だいぶ前から言うてたんです。語呂がええし、なんか言いたなるでしょ(笑)。それに見合う歌詞が、なかなか見つからなかったんだけど……」
――新婚生活によって、啓示が得られた(笑)。
安藤 「嫁はん、家ではとにかく動かんからね。となるともう太るしかないでしょ。ケツもだんだんデカなってくるし。で、これは新曲の歌詞にちょうどええなと」
――この曲を聴くとなぜか、映画『ブルース・ブラザーズ』マット・マーフィアレサ・フランクリンが経営してるハンバーガー屋を思い出すんですよ。
※筆者註: 奥さんの桜川さんは、大阪・東心斎橋の串カツ屋「リズム&串カツ アガッタ!」を経営。安藤さんはそこのバイトリーダーを務めている(ただし従業員は1人だけ)。
安藤 「ああ、なるほど」
――演奏そのものはすこぶるファンキー、かつキレがあって……。
山口 「これはね、最初はもっとニューオリンズっぽいゆったりしたリズムやったんです。ところが安藤が、この曲ではどうしてもジェームズ・ブラウンみたいに“イイィィィィィ〜”って叫びたいと言い出したんで……。だったらこの3人だけで、タワー・オブ・パワーみたいな曲をやったらどうかと思って、こんな演奏になりました」
吉永 「たどりつくまで試行錯誤はあったけど、最終形はポンと出たよね」
山口 「僕のなかではとりわけBメロ、“♪寝床に入りゃ上から下まで”って部分のベースとドラムスの展開が、かなりタワー・オブ・パワーっぽかった。そのつもりで聴いてもろたら、“なるほど”と感じてもらえる人も、いるんと違うかなと(笑)」
――録り音もミックスもいいんですよね。ちょっとラフで、生々しい感じが。
山口 「なるべくギミックの少ない音にしたいっていうのはありましたね。レコーディングとミキシングはマツケン(松田 健)さんって人で。ファースト・アルバムからずっとやってくれてるから、意思疎通も早かったです。今回はトータルどのくらいやったっけ?」
※註: 松田 健 / 全作品のレコーディング・エンジニアを担当。ザ・たこさんの三代目ベーシスト。
オカウチ 「3日でぜんぶ録りましたね。ベーシックも、ヴォーカル入れも含めて」
――ベーシックは一発録音ですか?
山口 「うん。ぜんぶ一発録り。だからアルバム通して音色が似てるんですよ」
オカウチ 「しかもベーシック部分は1日で録ってますからね」
山口 「そうそう。メンバーみんな仕事を早引けして。夕方6時からスタジオ入って、終電で帰ってたという。あんまりこんなことバラさん方がええんかな? でもソッコーでしたよ」
吉永 「どんだけ仕事が早いんか(笑)」
安藤 「まあ、10曲入りのアルバムいうても、小ネタとか続きものの曲とかもあって。実際の数はもっと少ないからね。ヴォーカルも、後から被せんと一緒に録ってしもてる曲もあるし」
――2曲目の「カッコイイから大丈夫」は軽快なファンク調から一転、どっしりとリズムのソウルナンバーですね。世間の目にどう映っていたとしても、君は“♪カッコイイから大丈夫”と鼓舞するような、これまたザ・たこさんの真骨頂ともいえる力強い曲調で……。
オカウチ 「この曲はもともと、前作『タコスペース』に入れようとしてたんですけど、歌詞がなかなか固まらなかった。それで今回のアルバムに持ち越したという」
安藤 「曲はわりとシンプルなんやけど、これは詞で苦労しましたね。僕のなかで、最初のイメージは振分親方やったんです。あの人、四股名なんやったっけ?」
山口 「高見盛な」
安藤 「そうそう、高見盛。カッコイイでしょ? ああいうカッコよさのラインね(笑)」
――思わず、“大丈夫!”と背中を押したくなるような。
安藤 「そうそうそう。“お前、大丈夫やで!”と(笑)。でも最初に書いてた歌詞は、高見盛さんのイメージがちょっと前面に出すぎてしもうて。これは逆に伝わりにくいやろと。で、身近なところに高見盛的キャラクターはおらんかなとネタを探してたんです。そしたら、灯台もと暗しで、すぐ近くにぴったりのがおった(と、ちょうど同席していたキチュウを指さす)」
――はははは。じゃあこの曲のモチーフは、キチュウさんでもあるんだ。
※筆者註: キチュウさんは、ギター1本で歌う大阪出身のシンガー・ソングライター。ザ・たこさんのライヴでは"MCキチュウ"として、ショーの進行もつかさどる欠かせない存在。
安藤 「だいぶヒントはもらいましたね」
山口 「この曲は、〈(キチュウに捧ぐ)〉と副題つけなあかんなぁ」
キチュウ 「オレは高見盛ですか!」
――歌詞では、“♪大風呂敷で見栄切って / 飛び出す男はお呼びでナイ”と。
安藤 「まさに(笑)。それがキチュウという男」
――でも安藤さんは、そういうキチュウさんを本質的に“カッコイイ”と思っていると。
安藤 「そうですねえ。まあ、わからんでもない、という感じですかねえ」
キチュウ 「カッコイイって言い切ってくださいよ」
山口 「真面目やもんなぁ、キチュウ。安藤は結局、マジメな人間が好きなんですよ」
――作曲やアレンジの面では、どんなことを意識しました?
山口 「コード進行もリズムもオーソドックスやし、特に凝ったことはやってないかな。ただ、音の質感はけっこう気にしました。ウィルピケ(ウィルソン・ピケット)の『ダンス天国』のどあたま、“ワン・トゥー・スリー!”っていうカウントに、ホーンがバーンッ!って入るところがあるじゃないですか。あの音の割れ方が、どうやったら出せるんかなと。で、録音レベルをわざとパンパンに上げてみたり、ミキシング段階でガレージっぽく加工してもらったりして……。いろいろ試した結果、こういう音になったんです。小さいラジオでガンガン鳴ってる感じの」
――たしかに“♪ジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッ”って刻むギター・リフの語尾の割れ方なんか、どこかラジオっぽい雰囲気がありますね。
山口 「そう、ギターの語尾ね。まさに」
――次は、3曲目の「HARD BOILED EGG」。日本語に訳すと固茹で玉子。ブルース・ロック調のごきげんな演奏に乗せて、安藤さんがひたすら板東英二の口調を真似るナンバーです(笑)。このパターンの楽曲は、これまでも「This is Delicious!!」における笑福亭鶴瓶師匠(アルバム『ベターソングス』収録)、「KAMINUMA」の笑福亭仁鶴師匠(アルバム『タコスペース』収録)なんかがありましたが、今回は第3弾ということで……。しかしこれ、メッチャ似てますね。
山口 「今までの3曲で、たぶんこれが一番似てるよな。しかもドラマ『毎度おさわがせします』の板東さん限定という、なかなかマニアックな」
――“♪のどか! やめなさいよ、もぉ”という台詞の、“もぉ”の響きがそっくりで。
安藤 「ほとんど“ボォォォ”言うてますからね(笑)。“も”じゃなくて“ボ”」
山口 「こういう曲は大体、僕が“安藤、やってくれ、やってくれ”と頼むんですよ。小林克也さんが昔やってはったザ・ナンバーワン・バンドってあるでしょ。彼らのアルバムって、短いコミック・ソングがけっこう挟まるんですよ。それが、内容はとことんしょーもないんやけど、演奏はすごくかっこいいんですね。あの感じが再現したかった。バックの演奏に関しては、これはもう、完全にブッカー・T&ザ・MG'sへのオマージュ。〈ヒップ・ハグ・ハー〉のイメージです」
安藤 「たぶんこれって、映像に音楽を合わせる作業に似てるのかもしれませんね。何気なく撮った景色でも、BGMで印象がガラッと変わったりするでしょ。取り合わせの妙というか」
山口 「板東さんとブルース・ロック、たしかに合うてるもんな」
――板東英二さんのレオタード姿が目に浮かびますもんね。山口さんは1968年、安藤さんは1970年生まれですけど、そういう世代的な記憶みたいなものも、ザ・たこさんの曲作りにおいて大きなインスピレーション源になっている?
安藤 「そうですね。当時はドラマの物真似とか、クラスでみんなやっとったからね。『毎度おさわがせします』の板東さんも流行ったし、あとは『熱中時代』の校長先生。(突然、船越英二の口調になって)“キタノ先生!”とか」
山口 「あと『西部警察』な。(高城淳一の口調で)“大門クン!”とか。今後、あんなんもどんどん取り入れていきたいなと」
吉永 「いや、どんどんはいらんわ(笑)」
――4曲目「豆騒動」と5曲目「お豆ポンポンポン」は、一続きの楽曲で。ゴスペル調のコール&レスポンスになっている「豆騒動」が、いわば前説。で、「お豆ポンポンポン」が本編といった趣きですね。ライヴでは当然、一気に演奏しているわけですが……どうして2曲に?
安藤 「まあ、これは、曲数を多く見せかける作戦です」
山口 「それと、ラジオ・エディット。長すぎると、電波に乗せにくいかなと」
――これは近年のザ・たこさんの新曲でも突出してクダラナイ。ライヴでの客の喜び方というか、盛り上がりがハンパないですね。
山口 「うん。やっぱ、“こいつらアホや?!”ってなりますからね(笑)」
――ライヴ演奏では「豆騒動」冒頭の“♪オオ〜オォ(♪オオ〜オォ)”という掛け合いがとにかく長い! 小ネタをいろいろ挟みつつ、“どんだけ引っ張るねん?”ってくらい引っ張るでしょう?
安藤 「まあまあ、そうですね。ええ。ソウルとかゴスペルは引っ張ってナンボのところがあると、僕は思ってるんで。ルーファス・トーマスのライヴ盤なんか、いま聴くとすごいですよ。出てきて20分くらい、ずっと喋りもって“♪ウォオオオ、イェエエエ”とか言うてますからね」
――「お豆ポンポンポン」は、すごく耳なじみがよくて、気付くと口ずさんでしまうメロディですが……。
安藤 「あの“ズビズバ”と“タスケテー”は、左卜全とひまわりキティーズの〈老人と子供のポルカ〉へのオマージュです」
――なるほど。でも、こういうアホな下ネタの曲って、実はソウル・ミュージックの大きな部分を占めてるんですよね? たぶん。
安藤 「まあ、僕はそう思てるんですけどねぇ」
山口 「うん。ボビー・ラッシュなんか、ライヴの映像とか観るとえげつないもんな」
安藤 「まあ、あくまで豆は豆ですから(笑)。ふつうに食べるお豆。そこは聴く人が好きに感じてもらうってことで」
――ちなみにスタジオ・レコーディング版だと、オカウチさんが低音の多重コーラスを入れてるでしょう。あれがまた、いい味を出している。
オカウチ 「実は〈豆騒動〉だけで30トラック使ってますからね(笑)。声をいろいろ重ねて」
――ちょっとブルース・ブラザーズのエルウッドっぽい。
山口 「そうなんですよ! ダン・エイクロイドのあの声ね。ただ、僕のなかでは、オカウチの声をまだ十分に生かせてないねんなぁ……。ごめんな、次はもっと頑張るわ」
――6曲目はインストの「ネギ畑」。これは、近年ライヴのオープニングで演奏されてる楽曲で、ドライヴ感たっぷりのギター・ロックです。
山口 「これもやっぱり、ブッカー・T&ザ・MG'sからのインスパイアドですね。〈グリーン・オニオン〉からの〈ネギ畑〉」
――他の曲では寡黙にリズムを刻んでる山口さんが、これは饒舌に弾きまくっていて。
安藤 「これね、ミキシングのときにギターの音だけ極端に上げてるんです」
山口 「ああ、せやせや」
安藤 「エルモア・ジェイムズの古い音源とか聴くとね、ギターの音だけやたらギャーンと響いてる曲とかあるでしょ。それが妙にカッコよくてね。この曲には合うやろなと」
山口 「僕も“え、こんなに上げるの?”って思ったんですけど。安藤が“いや、これがエエねん”って主張したんです。で、実際やってみたらエエ感じやった。満足してますね」
オカウチ 「僕はちょっとだけ、テン・イヤーズ・アフターを意識したかな」
山口 「へええ、そうなんや。知らんかった」
オカウチ 「ウッドストックでのライヴ演奏。“♪ズンズンズンズン、ズンズンズンズン”っていう、めちゃめちゃシンプルなベースラインなんですけど……」
吉永 「この曲はドラムも、余計なことは一切してない。とにかく、山口さんが元気いっぱい弾いてくれたら、それで完成という(笑)。ひらすらシンプルに叩いてます」
――さて、7曲目「ナカちゃん、カイロプラクティックって知ってっか?」から、8曲目「肩腰、背中(PART1)」、9曲目「肩腰、背中(PART2)」と続くパートは、本作のクライマックス。アルバムの題名にもなってる、怒濤の“カイロプラクティック・ファンク”3連発ですね。
山口 「ええ、安藤が背中をイワして誕生したシリーズ」
――ライヴでは、“♪ギックリ・モーニング 電気ビリビリ”というサビのリフレインに合わせて、お客さんも手をビリビリさせて踊ったりして(笑)。ショーのなかでも最大の盛り上がりを見せるパートとして定着してますね。これは、どんな経験から生まれたんですか?
安藤 「一昨年の12月かな? ライヴが終わった翌日、ここ(心臓の上あたり)がめちゃめちゃイタなってね。これは内蔵かなと思って、病院行ったんですよ。ところが、レントゲン見たらなんともない。じゃあ裏も見ましょかとなって背中を撮ったら、“背骨がずれてますわ”と(笑)。うちではどうにもならんから、あんた接骨院に行きなさい言われまして」
――なるほど。
安藤 「で、急いで近所の接骨院を探して。そこで見てもらったら、ちゃんと治ったんですけどね。担当者の人がたまたま、ザ・たこさんの初代ドラマーやったドンパッチ芝野っていう男にそっくりやったんですよ(笑)。そこで、ちょっとドラマを感じまして」
山口 「あいつとは、女絡みでいろいろあったしなぁ……」
安藤 「まあ、古い話やけどな」
――それで歌詞のなかに“♪鬼の芝野似男! トゥーマッチ”とか、“俺の痛みが分かるか?”みたいなシャウトが出てくるわけですね。
安藤 「その接骨医さんの手業が、とにかく痛かったんですよ。それで思わず、ああいう心の叫びが出たと(笑)。いわゆるダブル・ミーニングいうやつですな」
――これまでもザ・たこさんには、便秘の苦痛をファンクで表現したその名も「便秘気味〜アイ・フィール・便〜」とか、四十肩をテーマにした「(Do The)Funky 40 Shoulder」みたいな名曲があります。もしかして安藤さんのなかに、中年になってガタの出てきた自分の身体について歌っていこう、みたいな強い思いがあるわけですか?
安藤 「強い思いというほどのもんはないけど……やっぱり身近なことやし、一番書きやすくて歌いやすいんやないかな(笑)」
――でも、便秘にしても四十肩にしても、今回の腰痛にしても、こうやって思いきりファンキーに演ってくれると励まされる人も多いと思いますよ。特に中年以降のリスナーは。
安藤 「まあ、うまいこと付き合うていくしかないですからね。自分の身体とは」
――今回の楽曲アレンジも、思いきりJBマナーのファンクで。
山口 「そうそう。これは面白くてね、安藤がジェームス・ブラウンの〈マザー・ポップコーン〉を聴いてたんですって。そしたら、冒頭の“♪パッパラッパ、パッ! パパッ、パッパラッパ”っていう有名なホーン・セクションが入るでしょ。あれが“♪肩腰、背中ッ”に聞こえたらしくて」
安藤 「空耳やね。あればっかり聴いてて、ちょっと頭がオカシなってた(笑)」
山口 「それで、あのリズムに合わせて安藤が“♪肩腰、背中ッ”って口で言うて。これに合うリフをバンドで考えてくれと」
――そういう独特の、“安藤耳”ってありますよね。たとえば接骨院が“♪セコツィイイイイン”っていう、JBそのもののシャウトになってたり。他の人にはちょっと真似ができない。
安藤 「だって、ほら、ジェームス・ブラウンが“♪接骨イーーーーーッ”って叫んでたらオモロないですか? モチベーションは単純にそこなんです(笑)。ほかにも、途中で入る“♪アーハン”って呻き声とか、JBのいろんな声を寄せ集めたような感覚はありましたね」
――ただ、それこそ「便秘気味」や「(Do The)Funky 40 Shoulder」みたいな従来のファンク・チューンと比べると、山口さんのギターは少し変化してるるんじゃないですか? カッティングのキレ味をあえて封印して、中域でずっとウロウロしてるというか……。
山口 「そうですね。最初はまさにJBの〈スーパー・バッド〉的な、9thコードでチャカチャカ弾きまくる曲も考えてみたんですけど……。結果的にはもうちょっとレイドバック気味というか、余白のあるカッティングになってますね。ちょっとヤヤコシイ話なんですけど、僕はJB流のかっちりしたファンクだけじゃなく、いわゆるスワンプっぽいビートも大好きで。今回のアルバムはどちらかというと、スワンプ系のルーズなファンキーさが強めに出てるかもしれませんね。レコーディングのとき、たしかオカウチにも頼んでんな。できるだけ遅めに弾いてくれって」
オカウチ 「はい。ただ単純にテンポを遅らすわけじゃなくて、実際はベースラインの2拍目をちょっと後ろにズラしてるんです。そうするとビートに独特のタメが生まれるんですね。ファンクの場合、どあたまのタイミングをちょっと遅らせるのは聞きますけど、これはなかなかの発見でした」
――ドラムの叩き方も変えてるんですか?
吉永 「うーん……僕の場合、基本的にスネアのタイミングが後ろ寄りなんです。18歳で軽音楽部に入ったとき、まず渡されたのがB.B.キングのライヴ盤で。それを見よう見まねでコピーするところからドラムを始めたんで、自然と叩き方が後ノリになっちゃったんですね(笑)。なので僕自身はほとんど違和感なかったんですけど。ただ、〈肩腰、背中〉ではベースの2拍目も微妙にズレてることで、ジャストのリズムとは違った独特のグルーヴが出たというのは、あるかなと」
――同じ楽曲のモチーフを使いつつアレンジを少し変えて「PART1」「PART2」という2曲分にしてしまうのも、ジェームス・ブラウンの常套手段ですね。
安藤 「そうそう。この曲の場合、〈PART2〉の方がリフレインが長いんかな。AメロもBメロも、ひたすら続いてく感じ」
山口 「ギターも〈PART2〉の方がよりメロウな弾き方というか、リズム隊に乗っかって、延々好き勝手にソロを垂れ流してます。自分でも“いつまで弾くねん”って呆れつつ(笑)」
吉永 「あと、リズムでいうと、〈PART2〉にはタンバリンが入ってますね。16分音符のビートをシャカシャカ振ってるので、かなりダンサブルな印象になってると思います」
――ちなみに7曲目の「ナカちゃん、カイロプラクティックって知ってっか?」は、「PART1」と「PART2」に対するイントロになっていて……。なぜか安藤さんが『北の国から』の黒板五郎さんの口調で一人語りをしてるわけですが……あれは一体、何なんですか?
安藤 「あれは……完全な思い付きです。(突然、田中邦衛の口調になって)“なかちゃん、こういう歌、知ってっか? 東京で流行ってんだよおぉぉ”」
――カイロプラクティックと、何の関係もないじゃないですか。
安藤 「ええ、何の関係もないですね(笑)」
山口 「なにか〈肩腰、背中〉の前説になる曲を録ろうという話は事前にしてたんですけど、まさか五郎さんが出てくるとは思ってなかったんで。それで3人とも、思わず笑ろてしもた」
吉永 「初めて繰り出してきたからね。インパクトがでかかった。で、メンバー3人の笑い声込みでそのままアルバムに採用したという」
安藤 「まあ、さっきの〈豆騒動〉と同じで、アルバムの曲数も1つ増やせたし。いいイントロにもなってくれたから、結果オーライかなと(笑)」
――最後は10曲目「新・ナイスミドルのテーマ」。これは2006年にリリースされたザ・たこさんの3rdアルバム『ナイスミドル』のタイトルナンバーの新録で、ゲストとして大阪の8人組インストバンド、オオサカズが参加しています。どうして今回、アルバムの最後にこの曲を?
山口 「これは今もライヴの定番で、僕らにとって代表曲の1つやと思うんですけど。3rdアルバムを録ったのは、それこそまだドンパッチ芝野が在籍してた時期やったんでね。一度、今のメンバーできちんと録っておきたかったんです」
安藤 「ちょうどリリース10周年を記念して、CDとアナログ盤を同時に再発したのもあったんで。新作のボーナス・トラックとしてはちょうどええんちゃうかなと」
――大ファンで知られる脚本家の宮藤官九郎さんが、初めてザ・たこさんの音楽と出会ったのも、このアルバムだと聞きました。
山口 「そうそう! 東京・吉祥寺のライヴハウスに出演したとき、ベロベロに酔っ払った安藤が、たまたま出会った宮藤センセにCDを押しつけたんです。部屋のどこに置いといても、ジャケットのノリユキ・パット・モリタに睨まれてる気がして怖かったって言うてはりました(笑)」
※筆者註: ノリユキ・パット・モリタは映画『ベスト・キッド』で、ダニエル少年に空手を伝授するミヤギ老人を演じた日系人の俳優。アルバム『ナイスミドル』のジャケットは安藤によるイラスト。同作にはこの映画にインスパイアされた「ダニエルさんはペンキ塗り」というミドルナンバーも収録されている。
安藤 「あれからもう、10年たつねんなぁ……」
――久々にレコーディングしてみた感想は?
山口 「オオサカズがゲストで入ってくれてるので、聴いた印象はかなり違ってると思うんですが、ライヴでもずっと演奏してる曲なんでね。感覚的には普段のままですね」
安藤 「ただね、この曲を作ったとき、僕は30代半ばやったでしょ。そこから10年たって、40代も中盤を超えて。自分のなかでより中年らしくなったというか、“ナイスミドル”感が高まってきたというのは当然、やってみて思いましたね。身体も動かへんようになったし(笑)」
――なるほど(笑)。オオサカズとの共演は、どのように実現したんですか?
安藤 「彼らはもともと奇妙礼太郎トラベルスイング楽団のメンバーとして活動してて。その頃から顔見知りやったんです。で、今年の春にトラベルスイング楽団が解散して、オオサカズを結成した直後に、うちの嫁がやってる串カツ屋に遊びにきてくれたみたいで。たまたまそのとき、僕は店に出てなかったんですけど、“今後はいろんなバンドと絡んでいけたら”みたいな話を嫁としてたらしいんですね。そしたら嫁が“ほんなら、たこさんとやったらエエやん”と」
――知らない間に春子さんがブッキングしてくれてたと(笑)。ホーン隊やパーカッションが実にいい感じではまってますが、ライヴはともかくザ・たこさんの曲にギター、ベース、ドラム以外の楽器が入るというのは、実はかなりレアでしょう?
山口 「そうですね。僕ら、ファンクのイメージが強いけど、ザ・フーと同じロックのストロング・スタイルでしかレコーディングしたことないので(笑)。実は今回も、4人で録音した音源を先に渡して。“これを好きなように料理してちょうだい”ってお願いしたんですよ」
――ああ、そうだったんですね。仕上がりを聴いてみていかがでした?
山口 「新鮮やったよね?」
オカウチ 「うん。“へええ、ピアノが入るとこんな感じになるんや!”みたいな驚きがありました。最後の最後に、ヴィブラステップの音が“♪カーン!”って入ったり(笑)」
安藤 「あれは俺が入れてくれってリクエストしたんや」
吉永 「先日、大阪で僕らが主催している〈無限大記念日4〉というライヴ・イベントでオオサカズと共演したんですけど、面白かったですよ。ワンマンのときはベースとドラムが必死で盛り上げやなあかん箇所も、キーボードやパーカッションが間(ま)を埋めてくれる。なのでリズム隊は普通にグルーヴをキープしておけばいいという……。大所帯はなんてラクなんやと(笑)」
山口 「たしかになぁ(笑)。でも、そのぶんドラムとベースの音が聴き取りにくかったり、大所帯ならではの大変さも感じたし……結局はどっちもどっちなんちゃう?」
オカウチ 「まあ、そうですね」
――さて、今日は新作『カイロプラクティック・ファンク No.1』の収録曲について、詳しく話を伺ってきましたが、最後にそれぞれ個人的なお気に入りポイントを教えてください。
吉永 「僕は〈カッコイイから大丈夫〉かなあ。基本はずっとシンプルなエイトビートを叩いてるんですけど、途中でついつい気分が盛り上がって、リズムが跳ねてしまってる。その微妙な気持ちのアガり方を味わってもらえると、一粒で二度美味しいのかなと(笑)」
――たしかに伝わってきました(笑)。オカウチさんはどうですか?
オカウチ 「えーと、ですね。いろいろ難しく考え込んでしまうことも多い昨今ですが、そういう方にはこのアルバムを聴いてバカになっていただけると、個人的にはすごく嬉しいかなと(笑)。〈お豆ポンポンポン〉でも〈肩腰、背中〉でもいいんですけど、“ああ、人生こんなもんでエエんや”って一瞬でも思ってもらえたとしたら、もう最高ですね」
山口 「僕は自分のギターやのうて、〈肩腰、背中(PART2)〉で安藤がしつこく言うてる“ジュードー・マスター”ってフレーズがツボなんです。腹立つ言い方なんですけどね(笑)。なんかクセになるというか、酔っ払うとずっと言うてまう気持ちよさがあるんです」
――接骨院の柔道マスター(笑)。息を吸いながら言うところが独特ですね。
山口 「そうそう(笑)」
安藤 「僕は〈新・ナイスミドルのテーマ〉。曲中に“すぅぅぅぅぅぅ〜”って息を吸う音を入れてるんです。これも僕のなかでは、JBオマージュなんですけど」
山口 「あはははは、ホンマかいな!」
安藤 「いや、マジでJBが言うてるんやて。もっともオオサカズの演奏が乗ったら、ほとんど聞こえへんようになってしもたけど(笑)。それでもヘッドホンで聴いてもろたら、かすかに聞こえる思います。僕の“すぅぅぅぅぅぅ〜”が」
――じっくり聴き直してみます(笑)。1993年の結成以来、ザ・たこさんのバンド活動ももうすぐ四半世紀ですね。ライヴ動員も順調に増えてきてますが、25周年に向けた目標とかありますか?
山口 「僕はね、やっぱりグッとくるナンバーを作っていきたい。今回のアルバムはなんというか、オモロイ楽曲がメインで。それはそれで、すごくよかったんですけど……。それこそ3rdアルバムの『ナイスミドル』みたいなバラエティ豊かな曲もあった方がいいと思うんですよ。でも安藤は、変に感動させるような曲は嫌がって、どっちか言うたらチョケた曲ばかりやりたがるから。それに向けてこの男を説き伏せていくかというのが、個人的な目標やな」
安藤 「でも、今回の『カイロプラクティック・ファンク No.1』に収録したそのチョケた曲かて、僕にとってはぜんぶ、いうたら“マジ歌”やからね。ただ、そういう曲だけ集めて、ここまで振り切ったアルバムは、今まではなかったと思うんですよ。だから、いまはこういうものを作りたかったっていう思いは、僕のなかには強くありますよ」
――安藤さんの言ってることも山口さんの思いも、すごく分かる気がしますよ。ですから、機が熟したらまた「我が人生、最良の日」みたいな胸にグッとくるナンバーも作ってください。
山口 「僕ら3人はずっとそうしたい思てるんですよ。なあ、安藤!」
安藤 「“すぅぅぅぅぅぅ〜”」
――はははは。今日は長時間、ありがとうございました!
取材・文 / 大谷隆之(2016年10月)
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