Dr.kyOn監修、ボ・ガンボス『BO & GUMBO』25周年記念ボックス『1989』登場

KYON   2015/02/27掲載
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 1989年にリリースされてから25年。四半世紀の長きを経て、今はなきボ・ガンボスのアルバム初作『BO & GUMBO』が、『1989』の名のもと、3CD + 1DVDという豪華ボックス仕様でリイシューされた。その復刻作業に監修役として全面的にかかわったのが、ボ・ガンボスのキーボード / ギター奏者であり、グループが95年に解散して以降は、仲井戸麗市高橋幸宏佐野元春など、Jロックのそうそうたる顔ぶれのサポート / バンマスを務め、“頼りになるマルチ・プレイヤー”としてその名を馳せてきた、Dr.kyOnこと川上恭生。ボ・ガンボスへの参加が実質的なプロ・デビューでもあった彼が、狂瀾怒涛の日々だったという当時のレコーディング・エピソードから25年後のご本人の近況までを、気取らぬ口調で語ってくれた。
――今回、『BO & GUMBO』のオリジナル盤に加え、全曲ミキシングし直したその名も“2014 MIX”が、DISC3として収録されていますね。
「ついに(笑)。当時の担当ディレクターだった名村(武)くんの解説にもありますけど、今ならもっとこう出来る、もっとこうしたかったみたいな心残りが、長年にわたってあったんです。それが2013年あたりを機に、“来年25周年だねえ”みたいな話をしているうちに浮上した。デビューしたての頃のバンドって、勢いだけじゃないですか。デビューできて最高!で、俺らの場合、ファースト・アルバムのレコーディングしにニューオーリンズに行けて、おまけに憧れのボ・ディドリーと共演まで出来て最高!!って。その時点でもう、冷静さはないよね(笑)。まあ出来上がって多少は、“これ、ライヴ感全然ないミックスやな”みたいな思いもよぎらないではなかったけど、それはそれ、作品やからって。その後も2作目3作目とレコーディング手法を模索しながら、結局解散に至ったバンドやったんです」
――変な話、今回DVDに収録されてるファースト・ヴィデオ『宇宙サウンド』のほうが、ドラムの音とか全然自然ですよね。
「うんうん。時代性もあるんだよね、だから。1989年って、音楽ソフトがまさにCDに“なった”時代。録音機材も、その後ソニーのヨンパチ(SONY3348)というのが一世風靡するんですけど、日本ではまだ普及してなくて、しかもアメリカで当時売れてたのは三菱のレコーダーだった。ヴィデオで言うところのVHS対ベータの戦いみたいなもんで、ニューオーリンズのスタジオも三菱やった」
――当時のミキシング・エンジニアは、ドラムの音とか相当加工してたんですか。
「相当してますね。バートさんっていう(Bert Bevans)DJ系のイギリス人で」
――イギリス人だったんだ。よりにもよって。
「だから録った音をそのまま活かすというよりは、このベードラはこのトラックを使うとか、めちゃめちゃエディットして、新たに自分で音を作っていく。今回、DISC2の“1989 ARCHIVES”にエクステンディッド・ヴァージョンを何曲か入れたんやけど、じつはそっちが得意でそっちがすごい。よくまああんな単純なマルチ・トラックから作れたなと(笑)。単に長いだけじゃなく、音も劇的に違ってる。だからループ系、グルーヴ一本で押すような曲はすごく合ってたんですけど、かたやニューオーリンズならではのポリリズムになると、どんどん楽器の音を消してくわけ(笑)」
ボ・ガンボス / 1989
――2014年版のミックスだと、シリル・ネヴィルのティンバーレスの音とかが、際立って聞こえますよね。
「シリル、もう、ノリノリでプレイしてたもん。“あ、またアイディアが浮かんだ”って。だからレコーディング中は、本当に楽しかったんですよ(笑)。彼を含め手伝ってくれた3人のパーカッションの音が、今回のミックスではバンドと同じぐらいバシンと出せた」
――ネヴィル・ブラザーズ自体、あの時期ものすごくよかったから。
「グループとしてピークの時。それこそ京都の磔磔とか青山CAYとかで観たら世界一(笑)。僕らが行ってた時も、他のスタジオとかけもちで、そっちでレコーディングしていたのがボブ・ディラン。プロデューサーのダニエル・ラノワが、あの頃ワールド・ミュージックが盛り上がってた時代性を意識して、ニューオーリンズに連れて行った」
――そう思うと、ボ・ガンボスも方向性は合っていたのに、いざアルバムが出来てみたら、ちょっと違うことになっちゃった。
「微妙な掛け違いで、どっちやねん、みたいなことになった。5年早かったら、僕らはアナログで録ってたと思うんですよ。あるいは5年遅かったら、デジタル機材をもっと自由に使えてたと思う。実際、僕自身解散してすぐ作ったソロ・アルバム(『6210 In My House』)は、アナログで録ってますから」
――先ほど少し出た、アーカイヴ音源の話題で言うと、たとえば「ワクワク」の別ヴァージョンで聞ける、どんと(ヴォーカル。2000年1月27日死去)のリズム・ギターとか、すごくいいなあと思って。
「ああ……そうですね。(演奏が)裸ですから。そういう発見も、アーカイヴ的な企画をやる楽しさですよね」
――DVD版の『宇宙サウンド』には、本編だと一部しか観られなかった「ポケットの中」がフル収録されているし。
「僕がアコーディオン抱えて走り回ってるやつ(笑)。当時としては珍しかったよね」
――その後、アコを使ったパンク系のバンドもたくさん出てきましたけど。
「たしかに。楽器自体、(「ポケット〜」が下敷きにしている)ザディコに限らず、テックス・メックスであったり、もっと言えばシャンソンだったりタンゴだったり、世界中で使われてたわけですよね。その中には、優しいだけじゃない、激しく使う場面だってある。だったらマーシャル(のアンプ)つないでロックっぽく弾いてもいいよね、という感覚は、わりと自然にあった。学生時代、京都でいろいろ活動していたのも大きいかもしれないですね。みんなでいろいろやるのが好きな人が多かった。最初から、混ざってやるのが当たり前、みたいな」
――「ワクワク」の歌詞に出てくる“この変な街”は、ニューオーリンズのことを歌っているようにも取れるけど……。
「京都ですね。明らかに京都の街が対象になっている」
――京都って、妙な格好をした人たちに寛容な雰囲気があるんですか? よそ者にきびしい土地柄、というイメージもあるんですが。
「特に京大かな。西部講堂があったり、学生寮がいっぱいあったり。そういう界隈だと、治外法権的な考えは、非常に大事(笑)」
――「目が覚めた」なんかは、そういう空気を反映している曲ですよね。ボ・ガンボス版の「ストリート・ファイティング・マン」(笑)。ただ、その一方で、そこだけ表立って押し出そうという雰囲気はなかった。
「そうですね。うん。そうなんだよね」
――デビュー前、延々セッションを重ねていたそうですが、「目が覚めた」の歌詞にあるようなメッセージ性って、どれくらいのタイミングで生まれてきたのかなと。
「あのタイプの曲って、僕らにとってのいわゆる“ボ・(ディドリー)ビート”。ほぼワンコードでひたすら押していく。こう言ってはなんだけど、歌詞はなんでもいいんだよね(笑)。アッパーなノリのよささえあれば、とりあえず成り立つ(笑)」
――グルーヴ感のあるパンクっていうか。
「そうそう」
――そう思うと、チャック・ベリーではなく、ボ・ディドリーだったのは大きいですね。
「たしかに。チャック・ベリーだったら、歌詞ももっと“ロッケンロ〜ル”な感じになってたかも(笑)」
――チャックの歌詞って“ストーリー”があるっていうか、起承転結がちゃんとしてる。それにひきかえ、ボさんは物語性に一切興味がなさそう。
「そのへんが(ボ・ガンボスとの)共通点だったのかもしれないですね。どんとを追悼する“soul of どんと”みたいなお祭りをやると必ず思うことなんやけど、女性がボ・ガンボスのカヴァーを歌いに来てくれても、あんまり違和感がないんですよ。(元ソウル・フラワー・ユニオンの)内海洋子が〈ダイナマイトに火をつけろ〉を歌っても、〈助けて!フラワーマン〉を歌っても、全然オッケー。YUKIちゃんとかもそう。普通“ザ・おとこ〜”っていうバンドだったらさ」
――そもそも女性がカヴァーしづらい。
「ボ・ガンボスの曲の場合、絵的にも歌詞的にも全然違和感がない。そんなうれしさと驚きがいつも半々でありますね」
――というあたりで、ボ・ガンボス解散後のkyOnさんの音楽人生についてもうかがいたいんですが。
「おもしろいことに、ボ・ガンボス以外で最初に声をかけてくれたのが、一見対照的な二人だったんです。まずCHABOさん。麗蘭を始める時、ソウルフルなハモンドを弾いてほしいと言われた。で、もう一人、すごく大事な存在になったのが高橋幸宏さん。幸宏バンドを組むのに、キーボードで誘われて。その時言われたのが、“ギターの16ビートもうまいよね”って。ボ・ガンボスで弾いてる時、すごくきっちりやってると思ってくれてたらしい」
――幸宏さんのサディスティックス魂を撃ち抜いたんですね(笑)。
「ハーモニーの好みについても、“僕も変わってるけど、君も相当だよね”って。以来、10年くらいレコーディングとツアーでつきあって、そこで学んだことはとてつもなく大きかった。クリック聞きながら演奏するのが、自分に意外と向いてたという発見もあったし。しかも、アコーディオンはどっちでも弾けた。いろんな楽器を弾くというだけじゃなく、同じ楽器でもいろいろ使いようがあるとかね。そうこうしてるうちに、佐野元春さんからお誘いを受けたり……、という感じですね」
――CHABOと幸宏さんの二本立てというところが、いかにもkyOnさんらしい気がします。多方面で活動されてる中、ひとつ近況を挙げるとすると。
「かれこれ10年ほど、佐橋佳幸さんと“ダージリン”というユニット名でインストのデュオをやっていて、去年CDも作りました。いつも新曲を二人でやってます。単なる歌のバックじゃない、インストをやりたいという気持ちがず〜っとあってね」
――それはギターとピアノで?
「基本はそうですけど、お互いいろんな楽器が弾けるんで、マンドリンとアコーディオンとか、あと必ずやるのがピアノの連弾。3ヵ月に一度くらい、六本木の“新世界”でやってます。1月23日にやった17回目のライヴには、幸宏さんがゲストに来てくれて、一緒に三橋美智也のカヴァーをやったんですよ(笑)。次回は5月15日を予定しているので、よかったら遊びに来てください」
取材・文 / 真保みゆき(2015年2月)
GOWEST STORE PRESENTS
「ダージリンの日」

〜Tea For Three @新世界 vol.18

2015年5月15日(金)
東京 六本木 音楽実験室 新世界

〒106-0031 港区西麻布1-8-4 三保谷硝子B1
(最寄り駅: 日比谷線六本木駅2番出口)


出演: ダージリン: Dr.kyOn(p) / 佐橋佳幸(g)、スペシャル・シークレット・ゲスト
開場 19:00 / 開演 20:00

予約 4,000円 / 当日 4,500円(税込 / 別途ドリンク代)

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