枠組みを越えるための勇気を――AKLO『Outside the Frame』のポジティヴィティ

AKLO   2016/06/24掲載
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 2010年にミックステープで注目を集め、2012年にアルバム『THE PACKAGE』でデビュー。日英西トライリンガルならではのユニークなフロウやライミングとセルフ・ボースト(自己賛美)で圧倒的な個性を発揮してきた“レベチ”ラッパーAKLOが、3作目の『Outside the Frame』でついにメジャー・デビューする。BACHLOGIC率いるO.Y.W.M.による渋いトラックに乗って躍動する彼のラップは軽快にして重厚。ちなみにレベチとは「レベルが違う」という意味のギャル語。AKLOは「ギャルだけに使わせるのは勿体無いので俺がヒップホップ用語の辞書に載せました」と笑ってみせた。
――メジャー・デビューってどのくらい意識されていますか?
 「あんまりしてないです(笑)。3rdアルバムっていう気持ちのほうが強いですね」
――確かに、メジャー・デビューっていうと一般的には派手になりそうなイメージを持たれると思うんですけど、トラックもむしろ渋くなっていますね。
 「今回はシンプルにしたかったんです。だから音数も少なく、ラップも早口で詰め込むよりも、言葉をビートに配置していくセンスやちょっとした間(ま)みたいなところにフォーカスした感じですね。そもそも、かっこいいことやってくれっていうディールだったんですよ。今までやってきたことを評価してオファーがきてるのに、俺たちがメジャーに合わせてもしょうがないじゃないですか。だったらいい環境ですっごくかっこいいことやったほうがいいんじゃない? もっとかっこよくしちゃおっか!みたいな感じでした。歌詞の面では、前から一貫してますけど、聴いてる人がタフな気持ちになる、やる気になるものにしたいと。その上でテーマを考えていきました」
――AKLOさんといえばセルフ・ボーストのイメージですが、しんどいときはないですか?
 「ありますよ。常に“俺やべえ!”って言ってもいられないんで(笑)。だからこそ、できたときが気持ちいいんです。〈McLaren〉なんかはまさに超セルフ・ボーストですね。単に俺が気持ちいいだけじゃなくて、そういう曲が過去の作品のなかでも人気があったりします。そうなればwin-winだし、できればずっとそこにいたいけど、実際なかなかそうもいかないんで、例えば〈247365〉ではネガティヴィティからポジティヴィティへと抜け出す途中の心理みたいなものを書いたりしてます」
――〈Bob Dylan〉もボーストしつつ孤独めいたものを感じました。
 「ちょっとセンチメンタルな気持ちだったんですよ、そのときは。2Pacが殺されたのって、考えれば考えるほど納得いかなくて。夢に向かって突っ走ってて、シーンにもすごくいい影響を与えていた人が、誰かのエゴで殺されて、未解決のまま時間が過ぎるって、物語としてえげつないじゃないですか。未解決事件について考えるって風の中に答えを探すようなもんだなって思って、まず“風に吹かれて”っていうラインが出てきたんです。言いたいこと言うやつってそういう運命なのかな、って思ったら、そういえばボブ・ディランってすげえ言いたいこと言ってて今も現役バリバリだなって思いついて、“風に吹かれてLike Bob Dylan”っていいな、と、言葉遊びから出てきました。初めて歌のなかで社会的なテーマをかっこよく提示した人だし、人名を列挙する曲が面白いなって思ってたのもあって。実はそのときはあんまりボブ・ディランのこと知らなかったんですけど、後からドキュメンタリー見たりして、“かっけー!”ってどんどんハマっていきました」
――アルバム・タイトルの『Outside the Frame』についてですが、ここでアウトしたいのはどんなフレームですか?
 「先にタイトル曲の〈Outside the Frame〉があったんです。そのときは“怒り”でした。ムカつくやつがいて、“この70億の人がいる地球上 / のたった何人かにDisられちゃったぐらいで / Don't Give a F*ck About It”って、すごい怒ってグレてるんですけど(笑)、なんか、社会から外れていく感じがしたんです、自分が。アウトロー感というか、思い切ったことをする勇気って必要だなって思って。枠のなかでフラストレーションを感じて生きるより、うまくいかなくて後悔するかもしれないけど、はみ出すことをもっとするべきだと思うんですよ。はみ出たい人は実はいっぱいいるんじゃないかと思うし、そういう人のためのBGMになれば……って、セルフ・ボーストで聴く人にパワーを与えるという自分のスタイルにマッチしたんですね。で、〈Your Party feat. JAY'ED〉を書いたのがちょうど俺がインターネットをあんまりしなくなった時期で、それもブラウザのフレームから飛び出た感じがあったりして、これもある意味“Outside the Frame”だな、とも思ったりして」
――すごくパワフルな曲ですよね。間を伸ばしたフロウが印象的です。
 「そういうのを勇気を持っていっぱいやってみました。自己表現って、俺の場合はですけど、ヘルシーなことなんですよね。マインドもポジティヴだし。それが俺の表現方法で、逆にネガティヴなときにはあんまり歌詞を書かない。テンション上がるまで待つみたいな、そういうスタンスなんです。まぁフロウ自体が俺的にはセルフ・ボーストっていうか、これで間違いないっていう根拠のない、半端ない自信だけで書くみたいな」
――〈Your Party〉は暗喩ですけど、最後の1行までパーソナルな曲だと思って聴いていました。
 「マジですか! よかったー。途中でバレたら恥ずかしい!って思ってたんで(笑)。最後の一行でなんで言っちゃうの?って人もいるんですけど、コモンの〈I Used to Love H.E.R.〉って有名な曲があるんです。ヒップホップを女性になぞらえたラブ・ソングなんだけど、最後の最後に“君はヒップホップ”って言うまでわからないんですよ。初めて聴いたときすごい衝撃を受けたんで、それをどうしてもやりたいなって思ったんですけど、ヒップホップだとありきたりなんですよね。ミックステープで出てきた俺にとってはインターネットって人生を変えてくれたものだったりするから、インターネットへのラブ・ソングにしてみようと思って。最近なんか性格悪いなインターネットさん、って思ってたんで(笑)、その愛憎を書きました。そしたらパソコンも使いたくなくなっちゃって、リリック帖で書いたんですけど、それがすごくフレッシュだったんです。アナログ=古い、デジタル=新しいみたいな考え方をしてたけど、実はアナログこそ究極に新しいんじゃないか、って思って。そもそも俺は声という超アナログな楽器を使って最新の音楽を作ってるわけだし、実はアナログがいちばんデジタルが追いつけないものなんじゃないかって考えてて。だから今回のアルバムは初めて全部リリックを手書きで書いたんですよ」
――アウトプットは違ってきますか?
 「パソコンで書くと、途中で“あー思いつかねえ”ってインターネットを見たり、ボブ・ディランって〈風に吹かれて〉だったっけ、ちょっと調べてみよう、みたいな気分転換がいっぱいあるんですけど、リリック帖で書いてるとめっちゃくちゃ粘るし、調べたいことはあとでまとめて調べると決めたことによって、一度の集中で進める距離が伸びました。例えば〈McLaren〉は一回の集中で書けたんですよ。一度も休憩を入れずにワーッて。そういうときって“やべーー!”ってめちゃくちゃ興奮するんですよ。世に出す前に成功体験してる感じ。最初に夢中になって歌詞を書いてたころの感覚を思い出して、今まで以上に美学を感じたことが、かつてないほどのセルフ・ボーストにつながってます」
――〈McLaren〉も痛快だし、冒頭の〈Fly Like a Dragon〉から、俺は鳥じゃねえ竜だ、って歌っていますね(笑)。
 「笑っちゃいますよね。バカ見つけましたよ〜、みたいな(笑)。俺、平気でこういうこともやっちゃうんですよ。笑ってほしいですしね。でも曲はかっこいいですから。いい環境で聴けば聴くほど良く聞こえると思います。そこはすっごくこだわって作りました。クォリティよりアイディアだってよく言われますけど、クォリティにもめっちゃくちゃこだわってるんで、いいヘッドフォンでCDで聴いてほしいです。そしてアルバムを最後まで聴いてくれたら、俺の言いたいことはわかってもらえると思います。例えば最後の〈3D Print Your Mind〉って、自分でもすごく気に入ってるんですけど、俺のまわりにはクリエイターが多いんですね。そういう人って、自分は他の人より優れてると思ってるし、自分が作ったらもっとやばいものが作れるって思ってる人が多いと思うんです。でも、実行しなきゃ意味がないんですよ。俺がいつも思ってるのは、アイディアって空気に触れて化学反応して初めて出来上がるものだってことなんです。頭の中に真空パックしているうちは誰もが天才なんだけど、空気に触れた瞬間に、その真価がわかる。3Dプリンターで空気に触れさせて見せてみろよ、おまえがずっと言ってたそのアイディア俺はすっげえいいと思ってたけど、前にその話したのってiPhone 4か3GSの時代だったんじゃねえか?って」
――耳が痛いし(笑)、刺激的ですね。やってみたいと思いつつ、やったら何言われるかわからないって抑えちゃう人って僕以外にも多いと思いますから。
 「わかります。今って自分の成長過程を全部アーカイヴ化できるんですよね、インターネットで。だからそんなところにこだわってないで、今できることをマックスにやるということの繰り返ししかない。結局いちばん見られるのって過去より今だから。空気に触れさせたことによって学べることもいっぱいあるし、絶対に急成長するんですよ。俺自身、ミックステープとかフリーでガンガン曲出してたときにいちばん成長したと思います。それまでの自分ってすっごく遅かったんですよ。“俺が出したら絶対やばいのになーマジで”みたく考えてるばっかりで、何もしてなかった。それを証明するときが来て、反応をもらって自信をつけて、もっとよくなっていきましたから。自分自身にそういう経験があって、周囲にクリエイターがたくさんいる俺だから書ける曲だと思うし、何かやろうと思ってる人のBGMになってくれたら最高です」
――“Don't Give a F*ck”“F*ck It”と、“気にしねえ”“うるせえ”的な意味合いの捨て台詞が繰り返し出てくるのもそういうことなんでしょうか?
 「昔は世間体って言っても“近所の人が言ってるわよ”程度でしたけど、今はインターネットを通して世間が常に目の前にありますよね。でも、そんなの気にしてたら、それこそ一生真空パックだよ、って思うんです。変なこと言ったら叩かれるって萎縮するのはすげえダセえなっていうか、せめてラッパーは気にしちゃダメでしょって思ってて。自己表現がシビアな世界だからこそ、気にしねえやつもいるんだっていうスタンスを見せたいんです。“F*ck”はメジャーではあんまり使っちゃいけないって言われたんですけど、どうしても使いたくて、ここだけは!ってお願いしまくりましたから(笑)」
――今の日本は共感ベースのヒット曲ばっかりだけど、俺は共感されないものを作る、と以前から仰っていますよね。落ち込みを慰めるんじゃなく、立ち直りに必要なパワーを与えるという務めをAKLOさんは自分に課しているんですね。
 「ライヴで俺の歌詞を歌ってくれる子たちを見ると、俺の言葉を口ずさむことによって、俺が宿ってるんです。それがやりたいんですよね。俺が言いたいんじゃなくて、俺が言ったことを自分でも言ってみ、そうするとパワフルな気持ちになるから、って。落ち込んでるやつを“くじけるなよ、頑張ろうぜ”って慰めるより、“打ち込むShot / 派手にぶちかまそう”って歌ってそういう気持ちにさせたいみたいな。ショットガンなんて見たことないけどさ、わかるでしょ?って(笑)。俺自身、ギャングスタ・ラップが超好きで、自分が経験したことのないリアリティを彼らが語るのを聴いて、口ずさんでみたら、俺めっちゃワルいやつ!みたいな気持ちになるんですよね。そのフィーリングをすごく大切にしていて、それこそ非共感ミュージックなんだけど、そこにヒップホップの魅力があるんじゃないかって思ってます」
取材・文 / 高岡洋詞(2016年6月)
AKLO
AKLO Outside the Frame Tour

2016年8月3日(水) 東京 赤坂 BLITZ
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 4,500円(税込 / 別途ドリンク代)


2016年8月6日(土) 大阪 梅田 シャングリラ
開場 18:30 / 開演 19:00
前売 4,500円(税込 / 別途ドリンク代)



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