元ちとせ   2008/07/10掲載
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 『ハナダイロ』から2年2ヵ月、元ちとせ待望の4thアルバム『カッシーニ』が完成した。上田現、間宮工、COILら元作品にはおなじみの顔ぶれから、再共演となる坂本龍一スキマスイッチ常田真太郎、そして初コラボとなるチーフタンズアナム&マキまで、豪華アーティストを迎えた充実作だ。アルバム名は、17世紀に土星の“環”を研究したイタリアの天文学者、カッシーニの名前に由来したもの。元ちとせの歌声が引き寄せた音楽の“環”を、ゆっくり紐解いてみたい。





──元さんに縁の深いアーティストが多く参加されたアルバムですが、まずは初コラボレーションについて聞いていきたいと思います。 「虹が生まれる国」はアイルランドの国民的バンド、チーフタンズとの共演作ですね。
 「2006年末の録音だから、もう1年半以上も前ですね。ダブリンまでレコーディングに行きました。ギターのマミちゃん(間宮工)がチーフタンズを大好きで、私もその影響でチーフタンズを知ることになって。この曲はアップ・テンポなので、私の性格に合ってるし、自分らしい仕上がりだなと思います」

──ダブリンはいかがでした?
 「毎日ジャガイモを食べてた思い出が……(笑)。もういいよっていうくらい毎日ジャガイモが出てくるんです。この曲はアイルランドと日本の国交のテーマ・ソングになったので、ダブリン滞在中には日本大使館にもご招待されたんですよ。そのときは“アイルランドの料理も飽きちゃっただろうから日本食で”って大使に気を遣っていただいて……その日のメイン・メニューが肉じゃがでした(笑)」

──やっぱりジャガイモ(笑)!
 「そう(笑)。まさに日本でいう“ご飯”でした」

──続いて「あかこっこ」がアナム&マキのプロデュース曲です。
 「ずっと同世代の女子と曲を作ってみたいと思っていたんです。アナム&マキとは日本の名曲を歌う大阪のイベントで一緒になったことがあって、そのとき2人は中島みゆきさんの〈ファイト〉と、アナムのお父さんである河島英五さんの〈酒と泪と男と女〉を歌っていて。音楽というものから、なんて深い想いを見つけられる人たちなんだろうと思ったんです。〈あかこっこ〉もいろいろな音楽の要素が入っていて、すごくカッコいい。絶対に歌いたいと思いました」

──激しい3連のリズムが印象的です。
 「アナムはこの曲をリズムから作ったそうです。でも“あかこっこ”というフレーズだけは言葉の意味も知らずに歌っていて、後で調べてみたら鳥の名前だったんですって。そういう言葉を呼ぶ感覚がすごいなあと思います」

──“あかこっこ”という鳥を私も初めて知ったんですけど、日本にしかいない希少な種なんですね。
 「国内の離れた場所に同じ種が生息してるので、いつか昔は2人一緒だったはずなのに、というイメージを膨らませて書いたそうです。アナム&マキとのレコーディングは女子同士、とにかく賑やかで楽しかった! アナムももっと私に曲を書きたいと言ってくれたので、30歳を目前にして(笑)、いい女友達ができました」


──そして「恵みの雨」はゲームやアニメ音楽で世界的な人気を誇る菅野よう子さんのプロデュースです。
 「この曲はもともとCM用に作られた短いフレーズだけの曲だったんですが、菅野さんがフルで作りたいと言ってくださって。大作なので、言葉に引っ張られて歌い上げました。アルバムのなかでもいちばん“太い”曲ですよね。火がつくような、赤いイメージ。ライヴでも火を焚こうかって話しが出るくらいなんです」

──菅野さんもアナム&マキも、女性陣は情熱的なアレンジですね。
 「女性は私と混じることで化学反応が起きて、強い曲になっちゃうのかもしれないですね。やっぱり女の人と男の人は、女子に求めるものが違うのかも。リズムに関して言うと、教授の曲が一番難しかったです。こういうおだやかな曲は声量が必要とされるから、すごく難しい」

──坂本龍一さんとは2005年夏の「死んだ女の子」以来、2度目の共演ですね。
 「ニューヨークのスタジオで、教授のピアノと一緒に“せーの”で録りました。数回セッションして、5回目くらいに教授が“これ以上弾くと、違うアレンジで弾きたくなっちゃうから終わり”って(笑)。この曲は教授が、童謡のような曲を残そうという趣旨で書いてくださいました。日本的な旋律だし、コーラスが懐かしい合唱曲のようで綺麗ですよね」

──童謡や唱歌って印象深いメロディが多いのに意外と知られてないし、学校でもあんまり習わなくなってますよね。
 「そうなんですよ。あと童謡は意外と残酷なことを歌ってたりするんですよね。でも〈死んだ女の子〉もそうですが、残酷なことも悲しいことも、歌い継いで伝えるべきだと思うんです。いいことばかりではなくてね」

──そして「空に咲く花」は丸山陽子さんという方が歌詞を手掛けていて、作曲には元さんの所属する事務所の社長でもある森川欣信さんも参加されています。
 「この曲はNHK広島放送局のドラマ(8月5日放送のスペシャル・ドラマ『帽子』)の主題歌で、歌詞を一般の方から募集して、2,000通ちかくの中から選ばれた一曲です」

──元さんは軽やかに、スタッカートをつけて歌われてますね。
 「これはね、真夜中に社長の生ギターと歌をさんざん聴かされて覚えました。“お願いだからデモ・テープを作ってください”って言いながら(笑)、社長がハネて歌っていたので、復唱して覚えて。最終的には眠気がピークの3時過ぎに“OK、寝よう!”って言われました(笑)。“空にも花が咲いたらいいな”という言葉とメロディがぴったり寄り添った歌なので、子供たちが覚えて、歌ってくれたらいいな」


──そして最後に、このアルバムのオープニングを飾る曲であり、アルバム名にもなっている「カッシーニ(土星に環がある理由)」。今年3月に亡くなった上田現さんのプロデュース曲です。私は前作『ハナダイロ』に収録された上田さんプロデュースの「祈り」が大好きだったんですが、この曲も似た温度を感じました。
 「そう、この曲は〈祈り〉と同じ頃にできあがっていた曲なんです。ただ私がなかなか消化しきれず、かたちにして作品に入れるまで2年もかかりました。なんとなく、男の人は歌いやすい曲なんじゃないかなと思うんですけど……」

──どのへんが一番難しいと感じられました?
 「サビをどう歌うか、ですね。丸くするのか、太くするのか、細く高くするのか……。どうすれば想いを表現しきれるのか、現ちゃんもずっと迷ってました。何度も何度もスタジオに通って、2人で密にやりとりして。でも私、この曲をどうしても歌いたかったので、現ちゃんが誰かにあげちゃわないように、ずっとアピールしながら歌ってました」

──すごく朗らかで、やさしいラヴ・ソングですよね。これは私の印象なんですけど、上田さんってどこか元さんのなかに小さい女の子を見てるような気がするんです。
 「そういえば私が妊娠してる頃に、現ちゃんが沖縄に会いにきてくれて。そのとき私が嬉しそうだったから、この曲ができたって言ってました」

──あ、だから“何処かで誰かが生まれた”っていう歌詞が。
 「私は、現ちゃんの歌が一番人間らしいなって思う。曲のなかに、人のまなざしをすごく感じるんです」

──それは、きっとアルバム全体にも通じるものですよね。「蛍星」のなかに“両手ですくう/それくらいでいい”という一節がありますが、“世界は広いけど、大事なものは両手のなかにある”というメッセージが伝わってきます。
 「こうできる(と、両手のひらですくって胸に引き寄せる仕草をする)ことを知って、自分も誰かに包まれてホッとしてることに気付かないと、その想いを人に返そうと思えない。それを教えてくれるのは、そばにいてくれる家族や友人であったりするんですよね。『カッシーニ』は家族と絆をテーマにしたアルバムなので、そういうイメージが見えてきてくれると嬉しいなと思います」



取材・文/廿楽玲子
撮影/石井麻木





元ちとせ ツアー“TOUR 2008 冬のハイヌミカゼ 〜カッシーニ〜”
■12月8日(月) 福岡 ももちパレス
※お問合せ先:キョードー西日本/092-714-0159

■12月9日(火) 名古屋・中京大学文化市民会館プルニエホール
※お問合せ先:ジェイルハウス/052-936-6041

■12月17日(水) 大阪厚生年金会館大ホール
※お問合せ先:GREENS/06-6882-1224

■12月20日(土) 札幌 道新ホール
※お問合せ先:WESS/011-614-9999

■12月25日(木) 中野サンプラザホール
※お問合せ先:SOGO/03-3405-9999

Augusta Camp 2008 〜10th Anniversary〜
■関東公演
7月26日(土) 西武ドーム
【出演】 杏子、山崎まさよし、スガ シカオ、COIL、あらきゆうこ(mi-gu)、元 ちとせ、スキマスイッチ、長澤知之、秦 基博
【オープニングアクト】 MICRON’STUFF
【チケット】 全席指定\6,300(税込)※再入場可能(要半券)
※5歳以上はチケットが必要になります。
※お問合せ先:SOGO/03-3405-9999

■関西公演
8月9日(土) 泉大津フェニックス
【出演】 杏子、山崎まさよし、スガ シカオ、COIL、あらきゆうこ(mi-gu)、元 ちとせ、スキマスイッチ、長澤知之、秦 基博
【オープニングアクト】 MICRON’STUFF
【チケット】 ブロック指定\6,300(税込、整理番号付)※再入場不可
※5歳以上はチケットが必要になります。
※お問合せ先:GREENS/06-6882-1224 

金沢城オペラ祭 THE地球LIVE 2008
8月13日(水) 金沢城公園三の丸広場
【出演】 中孝介、財津和夫、元ちとせ、平原綾香 and more
【チケット】 全自由 前売¥7,500(税込)、全自由/当日¥8,000(税込)
※お問合せ先:北國新聞チケットセンター/076-260-8000 
http://www.hokkoku.co.jp/_event/opera/index.html

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2008 in EZO
8月16日(土) 石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
http://rsr.wess.co.jp(PC・MOBILE共通)

Slow Music Slow LIVE '08 in 池上本門寺
8月23日(土) 東京 池上本門寺・野外特設ステージ
※雨天決行荒天中止
【出演】 元ちとせ、BAHO、多和田えみ and more
【チケット】 全席指定\8,400/らくらくシート\13,000(1ドリンク付)
http://lultimo.jp/

“KENWOOD presents 20th J-WAVE 〜LIVE AUTUMN”
9月6日(土) 渋谷・Bunkamuraオーチャードホール
【出演】 元ちとせ、CHEMISTRY、中 孝介、一青 窈、BONNIE PINK
【MC】 クリス智子(J-WAVEナビゲーター)
【ミュージック・ディレクター】 羽毛田丈史
【チケット】 全席指定6,300円(税込)
※お問い合せ先:キョードー東京/03-3498-9999
http://www.j-wave.co.jp/special/liveautumn/
※一般発売に先駆け、7月3日(木)の「J-WAVE BOOM TOWN」(9:00〜11:30)内でチケット先行予約を実施
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