夢と現実のエアポケットに広がるサウンドスケープ──SLY MONGOOSEが新作『MYSTIC DADDY』で提示する未知なる世界とは

SLY MONGOOSE   2009/01/29掲載
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夢と現実のエアポケットに広がるサウンドスケープ──SLY MONGOOSEが新作『MYSTIC DADDY』で提示する未知なる世界とは
 レゲエ、ダブ、ファンク、アフロ、ハウスなど、雑多なダンス・ミュージックを融合したハイブリッドなインスト・サウンドを2001年の結成以来、常にアップグレードさせ続けてきた6人組バンド、SLY MONGOOSE。そんな彼らが2年10ヶ月ぶりとなるニュー・アルバム『MYSTIC DADDY』を発表。サイケデリックで幻想的なサウンドに覆われた今作の向こう側に広がる未知なる世界の謎を探るべく、メンバーの笹沼位吉(b)、塚本 功(g)、富村 唯(per)に話を訊いた。


 音楽は果てしない旅のようなものだ。音楽家の尽きない探求はそれこそ旅そのものであるし、音から想像を膨らませさえすれば、たとえ、両手両足を縛られていても、リスナーはどこまででも自由に飛んでいくことができる。ヴァーサタイルな6人組グルーヴ・バンド、SLY MONGOOSEは2001年の結成以来、多面的なインストゥルメンタルを通じて、その可能性を徹底的に追求してきた。その過程で名曲「Snakes And Ladder」が瀧見憲司やRADIO SLAVE、THE UNABOMBERSといった国内外の人気DJのミックスCDにピックアップされる一方、スチャダラパーロボ宙THE HELLO WORKSを結成し、2007年にアルバム『PAYDAY』を発表した彼らは前作『TIP OF THE TONGUE STATE』から2年10ヶ月ぶりとなる3rdアルバム『MYSTIC DADDY』に辿り着いた。

 「なんとなく夢の中の整合性がない感じというか、曖昧な感じを表現できたら面白いと思っていて、明確な決まり事を作らずにある程度の遊びしろを残したまま録音した曲もあります。なるべく視点を固定させたくなかったんです」(笹沼)


 ただし、考えて狙って作った時点で曖昧な、夢のような世界は具体化され、魅力的な夢幻性は損なわれてしまう。かといって、すべての楽器が即興で鳴らされたとしたらまとまりに欠けた散漫な作品になる危険性もはらんでいる。このアルバムはその狭間にある未開拓の地、夢と現実の エアポケットにシネマティックなサウンドスケープを広げている。
 「笹沼くんが投げる抽象的なイメージに対して、彼の頭の中を探りながら、俺らが“コレはどう? アレはどう?”って音を出して、それを笹沼くんがまた頭の中で組み立てていくんですけど、前作までは笹沼くん以外、どこに向かっているのか分からないまま音を出して、完成したものを聴いて、“あ、こんな風に仕上がったんだ”って感じだったんです。それが今回は完成形のイメージやアルバムのダークなコンセプトを共有しながら、そこに向けて作業することができたし、そこで生まれた、たくさんの曲を並べていくことで、ストーリーが浮かび上がってきましたね」(富村)
 キャプテン・ビーフハート『トラウト・マスク・レプリカ』マイルス・デイヴィス『ビッチズ・ブリュー』がそうであるように、コンポジションとインプロヴィゼーションの境目がサイケデリックにゆがみ曲がっている本作は、ダークな音像の中を手探りで歩いていくようなスリルが聴く者の想像力を刺激する。
 「今回のアルバムは、聴く人によってシリアスに捉えられるかもしませんけど、〈Schizophrenic Debater〉の塚本君がギターでディベートしてる感じとか、〈Mandragora〉は冒頭のギターが、根っこが人間の形をしてて、引っこ抜くとギャーッて叫び声を上げる架空の植物(マンドレイク)のイメージだったり、なかなか馬鹿馬鹿しい仕上がりになっていると思うし、僕らなりのコミカルな表現なんですけどね」(笹沼)
 今回のアルバムから、音色をエフェクターで変調させるトランペッターのKUNIが参加する一方、パーカッションの富村 唯はアフリカン・ドラム・セットを、ギタリストの塚本 功はアコースティック・ギ ターをそれぞれ手にすることで表現の幅がぐっと広がり、描画のアプローチも自由度が増している。
 「通常の音のやりとりって、コードなり、リズムなりの具体的な話があると思うんですけど、今回はベースラインだけあって、キーすら決めなかった曲もあったり、そういう笹沼くんの抽象的なイメージに対して、僕らも抽象的なフレーズで返しながら、上手い具合に成り立つ瞬間を目指していったんです。ジャム・セッションって、誰かが盛り上がるとそれに付いていくのが普通でしょ。でも、今回は誰かが急に盛り上がっても、こちらはひるむことなく何事もなかったかのように演奏を続けられるようになりましたし、キーとかリズムの外し方もわざとらしくならないように、それでいて意外性のあるものが生み出せるようになりましたね。そのためにプリプロダクションもやるんですけど、毎回出来る形は全テイク違うし、そうなると、“あ、今のはいいな”っていう感覚だけを共有してレコーディングすることになるんですけど、その共有する感覚を持てたことが明確な作品に繋がったんだと思います」(塚本)
 クラウト・ロックを思わせる催眠的なリズムとアラビックな旋律が絡み合う「Jinxx」では電気グルーヴ石野卓球P.I.L.時代のジョン・ライドンを彷彿とさせるフリーキーなヴォーカルを披露。 コズミックなライヴ・ハウス・トラック「Noite」は後半にバンドならではのスリリングな展開を見せるなど、フロア・フレンドリーな楽曲もフィーチャーした本作の旅程は、しかし、安易なラベリングをするりとかわしながら、思わぬ結末を迎える。
 「かつて、あんなに信じて疑わなかったものが今聴くと何も面白さを見出せなかったり、反対に逆座標だと思っていたものが今になって響いたり、自分の思い込みがいかにあてにならないかってことですよ」(笹沼)
 CDショップや配信で手に入る古今東西の膨大な音楽。それらは分かりやすく区別しやすいように記号化され、あっという間に消費される。しかし、本来の音楽は宙を漂って、ただそこにあり、言葉や記号でつかまえることはできない。それゆえにSLY MONGOOSEは慢心することなくプログレッシヴに歩み続けるのだろうし、リスナーは何度となくアルバム『MYSTIC DADDY』に立ち返るのだろう。さて、その旅の果てには何が見えるだろうか?



取材・文/小野田雄(2008年12月)



【SLY MONGOOSE ライヴ・スケジュール】

ZANZIBAR EXTRA
■出演者:SLY MONGOOSE 、サイプレス上野とロベルト吉野 ……and more
■日時:2/15(日) OPEN/START 17:30/18:30
■会場:LIQUIDROOM
■チケット: 
前売 All Standing 3,500円 Drink別
当日 All Standing 4,000円 Drink別
■発売日:1/3(土)
INFO HOT STUFF 03-5720-9999

ザンジバルナイト in 福岡
■日時:3月14日(土) open/start 18:00/19:00
■会場:DRUM LOGOS
■出演者:リリー・フランキー、スチャダラパー、TOKYO No.1 SOUL SET、SLY MONGOOSE、ゾノネム
■料金:オールスタンディング4,000円(ドリンク代別・整理番号付)
■チケット発売:
1/17(土)AM10:00〜ローソンチケット・チケットぴあの電話予約及び各プレイガイド店頭、コンビニ(ローソン、ファミリーマート、サンクス)にて発売開始
・ローソンチケット【Lコード:88300】
・チケットぴあ【Pコード:312-443】
■お問合せ:
BINGO BONGO 092-716-2658
BEA 092-712-4221

ザンジバルナイト in 野音'09開催決定!
■日時:4月19日(日) OPEN/START 13:45/14:30
■会場:日比谷野外大音楽堂
■出演者:リリー・フランキー、スチャダラパー、スチャダラパー+木村カエラ、TOKYO No.1 SOUL SET、SLY MONGOOSE、ウクレレえいじ、箭内道彦(風とロック)、ゾノネム ……and more  ※第2弾アーティスト2月発表予定
■チケット:前売 :指定/立見4,500円 当日 :指定/立見5,000円
※ケータイサイト「ロックンロールモバイル」にて、2月2日〜2月9日まで、先行販売。
アクセスはケータイから、http://rrmobile.jp/
一般発売:2月28日予定
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