【マーティン・スタンツェライト】 「日本が故郷になりました」広島交響楽団首席チェロ奏者がアルバム・デビュー

マーティン・スタンツェライト   2011/07/07掲載
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 1998年から、広島交響楽団の首席チェロ奏者を務めているマーティン・スタンツェライト。広島を拠点にソロや室内楽でも活躍している。
 ドイツ生まれで、エッセン国立音楽大学を卒業、いくつかのコンクールに入賞。その後、デンマーク王立歌劇場に入団し、コペンハーゲン・フィルハーモニー管弦楽団に首席チェロ奏者として招かれたりもしている。近年ではNHKラジオ『ドイツ語講座』のテキストにエッセイを連載したり、ドイツで日本についてのエッセイを出版したりと、多彩なところも見せている。
 そんな彼がアルバム・デビューした。ラフマニノフとイギリスの作曲家ブリッジのチェロ・ソナタを核にした、ロマンティックな色合い。チェロの深く甘い音色をたっぷりと聴かせてくれている。
――ドイツ出身のチェリストということで、デビュー・アルバムにドイツ作品を期待した人も多いのではないかと思います。
マーティン・スタンツェライト(以下、同) 「ソロ楽器としてのチェロは、とても個人的な楽器だと思っています。ドイツの伝統はあると思いますが、それよりも自分が伝えたいことを表現したいと思いました。チェロは歌がうたえる楽器。人間の声のように、聴き手に強く訴えかけられる楽器だと思うので、今回はそんなチェロの特色を生かせる作品を選んだのです」
――ラフマニノフの作品はまさにそうですね。19世紀初頭に活躍したイギリスの作曲家ブリッジのソナタも、チェロの音色を生かした素敵な作品に聞こえました。
 「じつは友人に、いい作品があるよと紹介され、実際に弾いたのは最近のことなんですよ。ブリッジの作品の全般的な評価は高いものではないけれど、このチェロ・ソナタに関して言えば、非常によくできた作品です。チェロがよく響く音域を上手に使っているんです。華やかでドラマティックなところもあって弾き応えも大きく、弾き映えもすると思います。ラフマニノフの作品に負けない魅力もあるし、同時代の作曲家ということで響き合うところもある。リサイタルでも弾いて、評判がよかったので、今回ぜひ入れたいと思いました」
――ピアノの川島基さんも、チェロの魅力を殺さず、しかし十分にピアノを鳴らすところもあって、作品の魅力を引き出していますね。
 「岡山出身の人なので、広島を拠点にする私とのデュオも組みやすく、リサイタルでも弾いてもらっています。ドイツ・ドルトムントのシューベルト・コンクールで優勝した実力派で、とにかくその表現力の豊かさが素晴らしい。深くしっかりとした音が出せる人なので、チェロの音色とも響き合います。奥さまが歌手ということもあって“歌心”への理解も深いんです」
――初めての録音ということで、とくに感じたことはありますか。
 「録音プロデューサーが、クラシックを学びながらも、さまざまなジャンルの音楽を手がけている人だったので、とても新鮮な感覚で演奏できした。耳が違う、というのは面白いですね。ライヴ感のある録音がしたいという私の希望も、尊重してくれました。時間がかかるのですが、1曲を最初から最後まで通して弾かせてもらったのです。コンサートホールで弾いていることを想像しながら、集中して演奏できました」
――ヨーロッパでオーケストラ団員としての席を持っていながら、なぜ日本に来られたのですか。
 「ピアノの留学でドイツに来ていた妻がきっかけ、と言えるでしょう。ヨーロッパのオーケストラには伝統があり、それは素晴らしいのですが、膠着している部分もあります。そんな時に、妻が広島交響楽団のオーディションの話を持ってきたんです。ちょうど秋山和慶さんが指揮台に立つようになり、団員も若い世代へと交替して、変わり始めていた時期でした。その演奏はフレッシュで、まだ伝統と言えるものはないかわりに、自分もそこで伝統を作ってみたいと思ったのです。音楽への情熱もエネルギーもあるし、それをいい方向に向けられたらと思いました。ただ、広響は近くにライバルとなるオーケストラがいないので、東京をはじめ海外での公演などを、もっと積極的にできたらいいなと考えています」
――実際に広島に来て、いかがでしたか。
 「ちょうどドイツの地方都市と同じくらいのサイズなので、違和感がないのです。原爆を落とされたという重い歴史を持ちながら、街の人々は明るい。見事に復活したことを、自分のことのように嬉しく思っています」
――そういえば、広島や日本を題材にしたエッセイを、ドイツで出版していますね。また、NHKラジオの『ドイツ語講座』のテキストにもエッセイを連載していたとか。
 「『ドイツ語講座』のエッセイは、NHK交響楽団茂木大輔さんから書いてみないかと紹介されました。演奏することと同じように、書くことも自分の表現法のひとつなんです。とはいえ、もちろんチェロが自分にとっての中心です。最近は室内楽で指揮をするようになりましたが、これも表現方法のひとつですね」
――それにしても日本語が上手ですね(インタビューは日本語でのやり取りだった)。
 「ありがとうございます。音楽のできる場所が故郷だと思っているので、今や日本が故郷になりました。ドイツに帰ると、不思議な違和感を感じるようになってしまいましたよ」
取材・文:堀江昭朗(2011年6月)
■マーティン・スタンツェライト 35周年チェロリサイタル
9月30日(金) 18:30開演
広島・広島南区民文化センター スタジオ

[出演]
マーティン・スタンツェライト(vc)
野村涼子(p)

[プログラム]
シューマン:幻想小曲集op.73
ペルト:チェロとピアノのための「フラトレス」
シベリウス:マリンコニアop.20
R.シュトラウス:チェロ・ソナタop.6

チケット:一般 3,000円/学生1,500円
問:オンリー・チェンバー・ミュージック事務局 [Tel]090-8060-0497
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