チルウェイヴに新風を吹き込むアクティヴ・チャイルド、ファルセットとハープの崇高なサウンドを語る

アクティヴ・チャイルド   2011/12/22掲載
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チルウェイヴに新風を吹き込むアクティヴ・チャイルド、ファルセットとハープの崇高なサウンドを語る
ニュージャージー出身、現在はLAに拠点を置くパット・グロッシによるソロ・プロジェクト、アクティヴ・チャイルド(Active Child)。巷ではチルウェイヴ、グローファイ、シンセ・ポップの新鋭などと紹介されることが少なくないが、デビューEP「Curtis Lane」に続いて2011年夏に届けられた1stアルバム『ユー・アー・オール・アイ・シー』は、個人的にはファルセット・ヴォイスをエレクトロニック・サウンドに絡めた、新たなタイプのヴォーカル・ミュージック、といった感じだ。幼少時に合唱団にいた経験があるというパットに、まずはそんなルーツから話を聞いてみた。
――小さい頃、フィラデルフィアの少年合唱団にいたとか。
 パット・グロッシ(以下同)「そうなんだ。自分の意志だよ。小さい頃から父親の影響で音楽が好きでね。ピーター・ガブリエルのアルバムなんかを聴いてたんだ。で、最初は地元ニュージャージーの小さな合唱隊にいたんだけど、先生が“パットは才能があるから”って親を説得してくれて、それでフィラデルフィアのボーイズ・クワイアに参加したんだ。もちろんその頃はまだ自分で音楽を作るってことがどういうことががわかってなかったんだけど、子供ながらにボーイズ・クワイアのエリートの中に自分も受け入れてもらえたってことが嬉しかったね」
――ファルセットを生かしたパットのヴォーカル・スタイルは正式な発声法を学んだ人の歌という印象ですが、あなた自身、その頃の合唱の影響が色濃く出ているという自覚はあるのでしょうか?
 「それは間違いなくあると思うよ。その頃僕はソプラノの中でも最も高いキーのところに所属していたんだ。1日に何時間も歌ってたから自然と複式呼吸も覚えたよ。今はもうその頃ほどはちゃんとしてないけど(笑)、でも、全身を使って声を出すような意識で歌っているよ」
――というのも、あなたの音楽に対して、私は“チルウェイヴ”とか“シンセ・ポップ”というよりも、新しいタイプのヴォーカル・ミュージックだと思っているんです。そのくらいアクティヴ・チャイルドの音楽はヴォーカルが突出してるなと。
 「それは嬉しいね。僕自身は自分の音楽をチルウェイヴだなんて思ってないんだ。誰かが言い出してそれが広まったってだけでね。もともと僕は何か明確な音楽的目標があって始めたわけではなくて、さまざまな複合的な要素が一つになって今のような音楽になったって感じなんだ。みんなが思っているほどエレクトロニック・ミュージックにも詳しくないしね。ソフト・セルとかブロンスキ・ビートみたいだねって言われるけど、僕自身はちゃんと聴いたことないんだ。言われて聴いて、“なるほど、たしかに僕のやっていることに近いな”って思うことはあるけどね(笑)。とにかく、“自分はこれしかできなかった”というのが本音なんだよ。やっぱりヴォーカルに対する意識が一番高いからなのかなあ、この声をどうやって音の中に生かしていくかを考えた時に、自然と今のような音楽になっていったって感じなんだ」
――ちょっと話がそれますが、以前、エリオット・スミスに取材した際、彼は自分の声が細くて小さいことにコンプレックスを持っていて、「本当はジョン・レノンみたいにシャウトしたいんだけどできないから仕方なくその歌声を生かした、低音を絞った音作りをするしかなかった、だから、自分の作品は高音がクリーンに響くようにできてるんだ」と話してくれたんです。あなたの場合は、自身の高い歌声をどのように生かしてきたと言えますか?
 「え、ちょっと待って、君はエリオット・スミスに会ったことがあるの?」
――ええ、日本に来た時に。
 「なんてこった…羨ましい限りだよ。僕は本当に彼の音楽が大好きでね。エリオット・スミスしか聴かなかった時もあったくらいなんだ。『フィギュア8』のジャケットの場所に言って記念撮影したこともあるよ(笑)。でも、そうか、彼はそんなことを話していたんだ。彼の作品は低音が弱いのにはそういう理由があったからなんだね。僕もそうだよ。エレクトロニックな音作りは自分の歌声をきれいに聴かせるためでもあるんだ。たとえば、録音する時なんかは、結構クラシックの合唱のレコードなんかを参考にしたりする。声の重ね方とかね。で、その声の重ねた部分を生かすために、トラックはできるかぎりクールな感触にしているって具合さ。そういう意味では、君の言うようにヴォーカル・ミュージックかもしれないな」
――しかも、あなたの音楽はとてもフェミニンですよね。マッチョイズムの対極にある、言わば中性的な音楽。ハープを使っている点もそうですが、それも自然な方向性だと言えるのでしょうか。それとも、意識的に音に中性的なニュアンスを入れようとしていますか?
 「いや、自然かな。たしかにロックの持つ雄々しいイメージって自分には合わないなと思っているけど、それを否定しようという意識があるわけでもないんだ。ハープを手にしたのも本当に偶然でね。僕は基本的にどんな楽器でもすぐ身につけてしまうほうなんだけど、ハープの場合も8年くらい前に始めてすぐ好きになった。で、月30ドルずつのローンを組んで自分のハープを買ったんだ。もちろんギターも好きだし、ギターがマスキュリンをイメージさせる楽器だとも思うけど、でも、それに逆らってハープを選んだわけでもない。自分の声と相性のいい楽器っていうのはあるかもしれないけどね」
――ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンやアントニージェイムス・ブレイクなど、あなたと同様に中性的な歌声のアーティストが増えていますが、共感できるところはありますか?
 「多少はあるよ。いつの時代もそういうフェミニンなヴォーカルの男性ミュージシャンはいたとは思うけど、今の時代はまた増えているかもしれないね。やっぱり時代が求めているのかな。自分ではあまり意識したことないけど、チルウェイヴ云々じゃなくてそういう聴き方をしてくれるのはすごく嬉しいよ」
取材・文/岡村詩野(2011年12月)
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