ナチュラル・ヴォイスのシンガー・ソングライター、プリシラ・アーンが愛する日本の歌、日本語の美しさ

プリシラ・アーン   2012/12/04掲載
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ナチュラル・ヴォイスのシンガー・ソングライター、プリシラ・アーンが愛する日本の歌、日本語の美しさ
 今年はカヴァー・アルバム『ナチュラル・カラーズ』に、現在放映中のTVドラマ『そこをなんとか』の主題歌&挿入歌「アイル・ビー・ヒア」を収めたベスト・セレクション・アルバム『ホーム〜マイ・ソング・ダイアリー』と、2枚のアルバムを届けてくれたプリシラ・アーン。東日本大震災のときも、海外からいちはやくYouTubeに、被災地のかたがたを気遣う歌声をアップした人だが、すっかり、日本に身近な存在になった。畏まらず、偉ぶらない。あくまでも自然体。その清らかで、温かい、奇跡の歌声はもちろんだが、彼女を前にすると、誰もが幸せをいただいたようで嬉しくなる。


――「アイル・ビー・ヒア」のように、TVドラマの主題歌だと、普段、曲を書くときの感じと違いますか。
 「そうですね、まったく違います。今回の場合は、TVのかたからドラマの内容を説明されて、たとえば、海岸で陽が昇っていくようなイメージで書いて欲しいとリクエストされました。小さな光がどんどん大きくなっていくようなイメージで、と」
――こういう経験を通じて、新たに学ぶことはありますか。
 「たくさんあります。ある種のチャレンジですからね」
――アルバム・タイトルを『ホーム〜マイ・ソング・ダイアリー』としたのはどうしてですか。
 「曲を選び終えたとき、漠然とですが、一貫したテーマがあることに気が付きました。どの曲でも、そこには家と呼ばれる場所を探している私がいたことです。でも、いまは、家を見つけて(2年前に結婚)、私の人生の第一章から第二章に進み始めたところですから、これらの歌を少しノスタルジックな目で眺めています」
――「上を向いて歩こう」を取り上げていますが。
 「最初は推薦してもらって、歌詞もわかりませんでした。それでも、坂本九さんの情感あふれる歌声、そのパッションに心動かされました。歌詞を読んでからは本当に感動して、もしかすると、私にとっていちばん好きな曲の一つになるかもしれない、そういう気がしています」
――そういえば、前作『ナチュラル・カラーズ』でも、日本語の歌をたくさん歌ってらっしゃいますよね。
 「まず、メロディとか、曲に惹かれて、そのあと、歌詞の内容をうかがって、自分でも共感できるかどうかで判断しています。井上陽水さんの〈帰れない二人〉は、最初ライヴ・ヴァージョンを聴いて、そのときは私のスタイルとは少し違うかなと思ったんですが、詞がとてもスイートで、ぜひやりたいと思いました」
――『ナチュラル・カラーズ』で取り上げた日本の歌で、特に気に入った曲を教えて下さい。
 「〈風をあつめて〉は、私からやりたいとリクエストした曲です。映画『ロスト・イン・トランスレーション』のサントラを聴いて、歌詞の内容はまったくわかりませんでしたが、すごく好きになりました。私もバンドの一員として部屋の中にいるような感覚になるんです。〈デイドリーム・ビリーバー〉は日本語と英語と両方でやってますが、これも好きです。くるりの〈ばらの花〉も、ポップ・ソングとして素晴らしいと思いますし、大好きです。うーん、困りましたねえ。全部、好きです(笑)」
――あなたの日本語はとても丁寧で、日本人以上に美しく感じるときがあるんですが、日本語で歌うことで気づくことはありますか。
 「日本語の歌の正確な意味はわかりませんが、まず、英語にはない二重母音であったり、舌から言葉が転がりだすような、フレージングがとても面白くて楽しんでいます。一言一言の意味はわからなくとも、ひとつの言葉のまとまりとして私の中には存在していて、それが楽しいんです」
――その時代その場所で、新しい世代のシンガー・ソングライターたちを輩出する重要なクラブが存在します。たとえば、近年だとニューヨークのリヴィング・ルーム(ノラ・ジョーンズジェシー・ハリスら)もそうですが、あなたも出演していたロサンゼルスのホテル・カフェについて教えてくれますか。
 「あの店の良いところは、お客さんが無駄話など一切しないで、本当に熱心に演奏を聴いてくれるところでした。ちょうどいい広さで、お客さんたちとの親密な関係も心地のいい場所。本当に歌える人、本当に曲が書ける人が、そこには集まっていました。ニューヨークのリヴィング・ルームもそういう感じで、実は、私はあそこで歌ったときにブルーノートと契約したので、思い出深いクラブなんですよ。ただ、最近は、ホテル・カフェにも行かなくなりました。以前、私と一緒に出ていた友だちも、大きな会場に出演するようになったし、改装して店が広くなったこともあって、お客さんもいろんな人が集まるようになりましたからね。そう言えば、ホテル・カフェにその頃出ていたMEIKO(ミーコ)とは、ルームメイトだった時期があるんですよ」
――あなたの音楽を聴いていると、従来のシンガー・ソングライターというか、シンプルな演奏スタイルを引き継ぎながらも、エレクトロニカのような、テクノロジーとの接点で新しい可能性を感じるときがあります。そのあたりへの興味はありますか。
 「実際、私がやりたいのはそういうことなんです。これから作ろうとしている新しいアルバムでは、いままでよりもエレクトリックなビートみたいなものを取り入れたいと思っています。ただ、ヴォーカルは、ピュアな形で残しておきたい。この違いというか、2つの落差を、新しい出会いとして楽しみたいと思っているんです。これまでの私は、そんな風には聞こえなかったかもしれませんが、ヴォーカルはベストの状態を、ギターもベストのものを、というように、すべてベストなものを選び、それを集めてレコードを作ってきました。だけど、そうやっていちばん良いものばかり選ぶのではなく、ミステイクも含めて、これからはヴァイブ感を優先したいと思っています。人間がいちばん記憶に残るのは、実は、間違った部分であったりするし、いちばん愛すべきところも、そういう欠点だったりもするんじゃないかと思うので」
取材・文/天辰保文(2012年11月)
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