〈カンヌ国際映画祭〉では“ある視点部門”のオープニング作品をつとめ、予測不能の展開を遂げるストーリーで観客を驚かせた映画『二重生活』を引っさげ、中国の鬼才
ロウ・イエ監督が来日。さる1月23日(金)には東京大学でのトーク・イベントに出席しました。
本作は、天安門事件を扱った『天安門、恋人たち』で映画製作・上映禁止処分を受けたロウ監督が禁止令解除後、5年ぶりに中国で製作した衝撃のメロドラマ・ミステリー。経済発展が著しい武漢市を舞台に、交通事故で死亡した女子大生、彼女と最後に接触した二つの家庭を持つ男、その妻と愛人が織り成す複雑な物語がスキャンダラスに展開。
この日のイベントには、『タモリ論』『日本のセックス』などで知られる作家の樋口毅宏と、中国の現代文学を研究し中国映画にも精通する同大学の刈間文俊教授も出席。
ロウ監督は、「中国での5年間の撮影、上映禁止後の作品なのでとても映画館で公開出来てとても感慨深い」とコメント。著書『日本のセックス』が『天安門、恋人たち』に影響を受けたという樋口は、本作を観終わったあとの余韻に浸りながら、「困ったことに、年が明けてまだ1月ですが、もう今年のベストワンを観てしまった感じですね」、「割とありきたりなテーマなのですが、ロウ監督の手にかかると、新たな息吹が感じられ“こんな映画、初めて観た!”という錯覚に陥ってしまう」と語る。
一方の刈間教授も、「経済的に世界第2位となった今の中国をどう描くのか、予想が付く映画はたくさんあるが、この作品は“こんな撮り方をするのか!”という驚きがありました。現代中国の都市を生きる焦燥感が画面から伝わってきましたね。新しい感性というか、とても成熟している」と絶賛。また、中国語の原題『浮城謎事』にも言及し、「城は都市を表しますが、水の上を漂う根無し草の意味も込められていると思う」と作品を評しました。
これに対してロウ監督は、二人の称賛の言葉に感謝しながら、「この映画は、メイ・フォン(『スプリング・フィーバー』『天安門、恋人たち』などロウ監督と共に脚本を手掛ける盟友)と一緒に、主に日本の1970〜80年代辺りの作品を参考にしました。特に
松本清張原作、
野村芳太郎監督の『砂の器』などから大きな影響を受けています。中国の電影学院の学生や監督たちは、これはあまり大きな声では言えませんが、みんな海賊版DVDで日本映画を学んでいます」と、自身の映画が日本映画から大きな影響を受けていることを明かす。
また、会場に駆け付けたファンから寄せられた「『天安門、恋人たちは』は、
村上春樹の『ノルウェイの森』に影響を受けているのか」との質問については、「確かに村上春樹は読んでいた。日本の1968年は1989年の天安門事件後の中国と共通する雰囲気だったと思う」と述べ、影響を受けた一部の要素であり、すべてではないとのこと。