1月24日(土)より公開となった映画『二重生活』を引っさげ、中国の鬼才
ロウ・イエ監督が来日。同日には東京・新宿K's cinemaでトーク・イベントが行なわれ、監督と社会学者の宮台真司が登壇し、作品における街の描き方や、本妻、愛人、そして女子大生と交わりを持ちながらも満たされない主人公の心情について、熱いトークを展開しました。
天安門事件を扱った『天安門、恋人たち』で映画製作・上映禁止処分を受けたロウ監督が禁止令解除後、5年ぶりに中国で製作した衝撃のメロドラマ・ミステリー『二重生活』。経済発展が著しい武漢市を舞台に、交通事故で死亡した女子大生、彼女と最後に接触した二つの家庭を持つ男、その妻と愛人が織り成す複雑な物語がスキャンダラスに展開されます。
宮台は「私は1980〜90年代、街のフィールドワーカーであり、援助交際のフィールドワーカーでもあった。いわゆるニンフォマニア(色情症)でしたね」と大胆な自己紹介をすると、ロウ監督は、「そういえば、宮台さんはヨンチャオ(二重生活を送る主人公)と雰囲気が似ていますね」と返し、会場は笑いの渦に。
さらに宮台から「ここ10年、20年、街が冷えてしまって恋愛のカオスがなくなった。そういった意味でこの映画に懐かしさを感じた。監督の中で、何か失われつつあるカオスを描いているという意識はなかったのか?」と訊かれると、ロウ監督は「確かにそうですね、カオスの中にさまざまな階層の人たちが集まってくるところに凄く関心がある」と同意。経済発展が著しく、貧富の差が激しい武漢を舞台に選んだのも、監督が意図する“街”のイメージに合致したからでは。
またロウ監督は、「本国では、この映画は女性に焦点を当てた作品だと思われている。その点について一部分は認めるが、これは男性を描いている映画だと私は思っている」と強調。これに対して宮台は、「ヨンチャオと自分を重ねてみたが、彼は決して性欲過剰な男ではない。それは、思い描いていた中流家庭にどこか満たされない、心の空洞のようなものを埋めるために、次々と女性とセックスを重ねていているように感じる」と分析。
これに対してロウ監督は、「中国のメディアから、“彼は全て揃っているのにいったい何がしたいんだ?”とよく聞かれることがある。彼はずっと何かを探し続けている男。ところがそれが何かわからないから、最後に危険な道に走ってしまう」と、主人公に込めた思いを語りました。