ヴェルディ生誕200年を記念して、ヴェルディのスペシャリストとして名高い指揮者、
リッカルド・ムーティ(Riccardo Muti)が来日、10月30日(水)、31 日(木)に開催される“ムーティ conducts ヴェルディ”公演を前に、東京・Bunkamura オーチャードホールにて“ムーティ、ヴェルディを語る”が開催されました。
ムーティはヨーロッパやアメリカでクラシック音楽をより楽しんでもらうためにレクチャーや公開リハーサルを数多く行なっていますが、日本では初の試み。この日は多くのヴェルディ・ファンの前で、音楽を始めたきっかけから、ヴェルディを生涯の作曲家とする理由、そして指揮者とはどんな仕事をするのか、実際に歌手に登場してもらい指導をしながら説明をしていきました。
今回は、若い人たちに真の芸術に接する機会を多く持ってほしい、というムーティの強い意向により25歳以下は無料招待、客席には楽器を抱える若い人や制服を着た学生も見受けられ、冒頭でも「音楽を勉強している人」「指揮を学んでいる人」に手を挙げてもらい、「音楽を勉強している学生にとって、きっと興味深い内容になると思う」と話し、レクチャーがスタートしました(通訳:演出家・田口道子)。
8歳で音楽の勉強をはじめたムーティ、最初は才能がないのでは、と親が諦めるほどだったそう。その後音楽を理解するようになってからはどんどん上達していき、ヴァイオリン、ピアノと勉強を続け、ニーノ・ロータ先生のすすめで指揮の勉強を始めます。
指揮者になって初めてヴェルディのオペラを振ったのは音楽監督として迎えられたフィレンツェ五月祭での『群盗』。このオペラを指揮することは、ムーティのその後の人生を大きく替える出来事となったそうです。
ムーティが与えられた楽譜は歴代の指揮者が使っていたものでしたが、ところどころテープやクリップで留められ、カットされて演奏していたことを知ります。カットされることに疑問を感じたムーティは音楽祭にその疑問を投げかけますが、かえってきた答えは「これまでこうやって演奏してきた」というもの。習慣としてカットすることが当たり前、そして観客もまたカットされた演奏を当たり前に聴いていたのでした。ムーティは音楽家として、イタリア人として侮辱されたように感じ、そこから楽譜に忠実に演奏するという戦い、「ここから自分の苦しみが始まった」と語っています。
楽譜に忠実な演奏とは何を指すのか、レクチャー後半では『椿姫』第2幕1場のジェルモンとヴィオレッタの二重唱を題材に指導しながら説明していきました(ソプラノ:
安藤赴美子、バス・バリトン:加藤宏隆、ピアノ:
小林万里子)。
「ヴェルディの音楽にはすでに演出が書かれている」――ムーティはこのことを一つ一つの言葉の意味や、それがどんな場面で発せられている言葉なのかを歌手に考えさせ、歌わせながら教えていきます。そして言葉や表情や音楽の間を細かく指導、歌うごとに変化していく歌手を通じて、楽譜に忠実に演奏することの深い意味を体験させてくれました。
ムーティの指導はだんだんと熱を帯び、みずからピアノ伴奏し、歌手のパートを歌うなど、その場にいた観客にとって、とても貴重なレクチャーとなりました。さらに『椿姫』では前奏曲の冒頭をピアノで演奏しながら場面を説明。ここでの演奏が素晴らしく、会場中が息をひそめて聴き入っていたように感じられました。
予定終了時間を1時間もオーバーした今回のレクチャーでしたが、ときおり過度な演出や場面を考えずに歌う歌手に対して笑いを誘いながらも苦言を呈したり、ユーモアあふれるエピソードの数々など、ヴェルディ作品を熟知しているムーティだからこその話をたっぷり聞くことができ、新たな音楽の聴き方を教えてもらったようでした。
いよいよ来週に迫った“ムーティ conducts ヴェルディ”公演(10月30日・31日 19時開演、東京・すみだトリフォニーホール)は、ムーティのヴェルディに対する熱い想いが込められたコンサートになること間違いなしです!
■ムーティ conducts ヴェルディ
10月30日(水)、31日(木)19時開演
東京・すみだトリフォニーホール
[出演]
指揮:リッカルド・ムーティ
管弦楽:東京春祭特別オーケストラ
ソプラノ:安藤赴美子
バス・バリトン:加藤宏隆
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:ロベルト・ガッビアーニ、宮松重紀
[曲目]
ヴェルディ:
歌劇『シチリア島の夕べの祈り』序曲
歌劇『シチリア島の夕べの祈り』第3幕〜バレエ「四季」
歌劇『運命の力』序曲
歌劇『運命の力』第2幕〜「天使の中の聖処女」
歌劇『マクベス』第4幕〜「虐げられた祖国」
歌劇『ナブッコ』第3幕〜「行け、わが想いよ、黄金の翼にのって」
歌劇『ナブッコ』序曲
[プレイガイド]
東京・春・音楽祭実行委員会
オンライン・チケットサービス
www.tokyo-harusai.com東京・春・音楽祭チケットサービス 03-3322-9966(月〜金 10:00〜18:00)
※詳細は“東京・春・音楽祭”のサイトへ
www.tokyo-harusai.com/program/page_1693.html写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会/撮影:掘田力丸