e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活 - [注目タイトル Pick Up] ジミ・ヘンドリックスの音源がハイレゾで登場! これは大事件です / バリー・ダグラス、シューベルトを聴く醍醐味ここにあり!
掲載日:2018年4月24日
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注目タイトル Pick Up
ジミ・ヘンドリックスの音源がハイレゾで登場! これは大事件です
文/國枝志郎

 燃える音楽家・遠藤賢司の訃報からもう半年が経とうとしている。もう季節は春だというのにいまひとつ心が冷え冷えとしているのは、その不在がじわじわと僕らの心を蝕んでいるからだ。大袈裟だが本当である。残された彼のディスクを折にふれては再生してひとり部屋でワッショイ(錯乱)していたさなか、彼が闘病中だった2017年6月9日に渋谷クラブクアトロでおこなったソロ・ライヴがCDとなってこの1月に発売されたことは僥倖ではあった。これは遠藤にとって結局生涯最後のライヴとなってしまったわけだが、ディスク化されただけでもファンとしてはうれしいものではあったのは確か。確かなんだが、しかし、ああ、神様……「これがハイレゾで配信されたらなあ…遠藤賢司をDSDで聴きたいなあ……」とついつい考えてしまう身勝手で罪深い私をお許しください。でもそう思っているエンケン・ファンは俺だけじゃなかろう……と妄想していたら、やってくれました。最近リマスター含むハイレゾ配信に思いっきり積極的なキングレコードさんが! そう、エンケンの傑作アルバムがキングレコード傘下のベルウッド・レコードにあるのは周知の事実なので、エンケンのハイレゾはまずはここからあるのではないか……と楽しみにしていたのだが、ラスト・ライヴ盤に続いてこの2月に『東京ワッショイ』(1979年作)と『宇宙防衛軍』(1980年)が一気にハイレゾ配信(PCM96kHz/24bit)されたのだ。いやこれ真面目に事件だろって思ったわ。だってバックは佐久間正英の四人囃子ですよ。『東京ワッショイ』にはフリー〜フェイセズのベーシスト、山内テツも参加してるし、ジャケットは横尾忠則巨匠!(まあジャケットはLP持っていたいって思うわけですけど……笑)とにかくUKパンク〜ニューウェイヴに対して日本にエンケンあり! と言わしめた(誰に?)この2枚はどちらも必聴ですが、個人的には『機動戦士ガンダム』のデザインでおなじみのスタジオぬえ所属の宮武一貴によるジャケットがSFマニアの心をくすぐりまくる『宇宙防衛軍』を推したいところ。そのSF的なタイトル・ジャケットに比して、音楽はどっちかというとモンド方面というか和風なんですけど(どちらのアルバムに「哀愁の東京タワー」が入っているが、『東京ワッショイ』のほうのアレンジはクラフトワーク的でむしろこっちのほうがSF的)、とにかくエンケンのぐつぐつと燃える創作意欲がハイレゾ化でヴィヴィッドに伝わってくるのがほんと痛快すぎて100万回リピート中(誇張あり)。


 そもそもがこのアルバム、レコーディング機器の有名メーカーRMEを取り扱う日本の代理店である株式会社シンタックスジャパンが、“RME製品で録音・制作された真のハイレゾサウンドを体感していただくことを目的として設立した”音楽配信レーベル“RME Premium Recordings”からの配信リリース(ちなみにフィジカルCDはコンテンポラリーなクラシック番組を放送するOTTAVAのレーベルであるOTTAVA Recordsからのリリースとなる)という時点でハイレゾ的には期待しかないわけだが、できあがった作品はこちらの予想をはるかに上回るすばらしい音楽作品だった。ヴォーカルとピアノを中心に、ときどきチェロが色を添える(このチェロがまた素晴らしい……人間の声と時に間違えるほど、朗々と歌うチェロなのだ)室内楽作品集である。このアルバムのキャッチフレーズは「もともと詩は“声”だった」というもの。萩原朔太郎、茨木のり子、谷川俊太郎といった日本を代表する詩人たちの美しい詩に、三枝伸太郎と小田朋美という若いふたりが曲を付け、関口将史のチェロがときおり対話的に彩を添えていく。三枝はRME Premium Recordingsから2014年に『三枝伸太郎 Orquesta de la Esperanza』という素晴らしいモダン・タンゴ〜コンテンポラリーなアルバムをリリースしている気鋭の作曲家でありピアニスト。いっぽうの小田朋美は2013年に菊地成孔との共同プロデュース作品『シャーマン狩り』でデビュー(彼女自身、菊地のユニットDCPRGのサポート・キーボーディストでもあった)、その後も劇伴などの世界でひっぱりだこの作曲家として活躍する。今回のアルバムではふたりの作曲、三枝のピアノ、そして小田の声が中心ではあるものの、やはりなによりそれらすべては“詩”の中に含まれた“音楽的な声”をあらわすために奉仕していると言っていいだろう。この究極の美しさは、ハイレゾ(PCM192kHz/24bit、ステレオのほか5chマルチチャンネルやドルビーHD、最新のハイレゾ規格であるMQAでも配信されているほか、ヘッドフォンやイヤホンでのリスニングに特化した“HPL5”での配信もある)でこそ味わえると言い切ってしまいたい。エンジニアは名手、ミック沢口氏(沢口音楽工房)。

Moon
『Kiss Me』


(2018年)

 伊藤ゴローというギタリストのことは、このコラムを読んでいらっしゃるようなハイレゾ親和性の高い方々ならよくご存じだろう。SPIRAL RECORDSから2012年に出たリオデジャネイロ録音のインストゥルメンタル・アルバム『GLASHAUS』は、DSDでも配信されてその音楽と音質両方のクオリティの高さにうならされたものだし、またロンドン在住のコンテンポラリーな作曲家、藤倉大とのコラボレーションでバイノーラル録音に挑戦した『3D Binaural Sessions at Metropolis Studios』(2016年)の先鋭的なサウンドも素晴らしかった。ほかに原田知世のプロデューサーとしても“恋愛小説シリーズ”や2017年の最新作『noon moon』をはじめとする数々のアルバムをハイクオリティに仕上げた手腕が高く評価されているのはご承知のとおりだ。その伊藤が今回プロデュースを手掛けたシンガーがMoonである(知世ちゃんの最新作を想起させるなあ……まあ無関係だとは思うけどちょっと楽しい)。Moonは2009年に日本でデビューした韓国のジャジー・ポップ・ユニット、ウィンタープレイのシンガーであったヘウォンの、2016年のグループ脱退後に名乗った新しいアーティスト・ネームで、本作はMoonにとって初のソロ・アルバムとなるもの。もともとMoonは布施尚美と伊藤ゴローによるユニット、naomi & goroの大ファンで、自身がパーソナリティをつとめる韓国のラジオでもたびたびその音源を紹介していたということもあって今回の顔合わせが実現したというから、最初からアルバムの成功は約束されていたようなものだろう。実際、その成果は素晴らしく美しいポップ・アルバムとして結実した。シックスペンス・ノン・ザ・リッチャーの大ヒット曲となったアルバム・タイトル曲「キス・ミー」のみずみずしいMoonの歌声をまずは聴いてみてほしい。伊藤ゴローの巧みなアレンジ、小沼ようすけやTOKU、ハクエイ・キムといった豪華なゲストの参加も素晴らしいし、シャーデーのカヴァー「キス・オブ・ライフ」での、坪口昌恭のキーボードも濡れたようなエロチックな響きを醸し出している。ハイレゾ(PCM96kHz/24bit)でこの世界に浸れる喜びは大きい。


 ジミヘンがハイレゾ配信! 実はこれ、大事件なのである。ジミヘンのカタログはこれまで一度もハイレゾ配信されてこなかったのだ。リマスターCDは発売されたけれど、たとえばSACDにすら一度もなったことがないのである。つまり、現時点で発売されているカタログはすべて44.1kHz/16bitのCDクオリティのものしかなかったのである(LPはともかく)。そもそもジミヘンの音源は当然ながらすべてアナログ・レコーディングされているうえに、当時のエンジニアであるエディ・クレイマーがいまだ健在で、スタジオ・ワークをバリバリこなしているという状況を考えれば、間違いなくオリジナル・アナログ・マスターから最良のハイレゾ・マスター(24bit、DSD……etc.)を作り出せるはずなのである。それなのに、なぜかこれまでジミヘンの原盤を持つ財団がそうした行為のいっさいを拒否し続けてきたのは、ロック界にとっても最大の謎であり、また最大の損失と考えられていたのだった。ジミー・ペイジによるレッド・ツェッペリンのハイレゾ化におけるすさまじい反響を見てみれば、理不尽ともいえる行為でもあったと思うわけである。それが! ついに! ついに! 毎晩のようにハイレゾの新作チェックを怠らない僕が、2018年3月9日に日付が変わったとき、思わずPCの前で声を上げてしまったのは……そう、目の前のディスプレイにジミヘンのジャケット写真がドーンと現れたからなのだ。それくらいこれは事件なのである。今回初めて配信となったジミヘンのハイレゾ(PCM96kHz/24bit)作品は2タイトル。2012年に出た奇跡のオリジナル・アルバム(ジミがスタジオで録りだめておいた素材からエディ・クレイマーが再構成したもの)『ピープル、ヘル&エンジェルス』と、1969年の大みそかにフィルモア・イーストでおこなわれたジミとバンド・オブ・ジプシーズのライヴ盤(2016年初出)で、とくにスタジオ盤として緻密に構成された『ピープル〜』はやはりハイレゾ化の恩恵が著しい。彼が残した素材から、これまでに『ファースト・レイズ・オブ・ザ・ニュー・ライジング・サン』『サウス・サターン・デルタ』(ともに1997年)、「ヴァリーズ・オブ・ネプチューン」(2010年)という3枚の“ニュー・アルバム”が出ていたが、それに続く本作もまたエディ・クレイマーの素晴らしい手腕が発揮された一枚となっていて聴き逃せない。つい先日出たばかりの4枚目の“死後のオリジナル作品”である『ボース・サイズ・オブ・ザ・スカイ』ではなくてなぜその前の『エンジェル〜』が選ばれたのかはわからないが、それにしてもこうなると早く『アー・ユー・エクスペリエンスト?』が、『エレクトリック・レディランド』がハイレゾで聴きたくなるよね……。


 自身強烈な音楽ヲタクであろう元映像ディレクター・田中紘治が手掛ける地下アイドル・グループを擁するAqbiRecのハイレゾ音源が広く流布するようになったようで幸せな春である(笑)。アイドルは過剰に音楽的である必要はないと言われるかもしれないけど、まあでもだまされたと思って一度聴いてみてください。もともとAqbiRec所属アーティストはサイケデリックなサウンドを身上としたベルリン少女ハートという黒い羽根をまとった少女たちのユニットひとつだけだった。彼女たち(というかAqbiRec)はハイレゾに意識的で、2013年のデビュー時からハイレゾ(基本的に48kHz/24bit)を配信していたし、ライヴをDSD5.6で配信(それも2013年!)していたこともある。現在ベルリン少女ハートは解散(というか崩壊)し、その後継グループであるThere There Theres(ゼアー・ゼアー・ゼアーズ)、サイケデリック・トランス・アイドル(!)MIGMA SHELTER(ミグマ・シェルター)、青春味あるギター・ロックCLOCK & BOTAN(クロック&ボタン)、そしてハウス・アイドルGu-Gu LULU(グーグールル)の4グループがAqbiRec内で活動中だ。Gu-Gu LULUだけはまだ現時点で音源がないが、ほかの3ユニットはすべてハイレゾ(48kHz/24bit)での配信が行なわれているのでぜひ聴いていただきたい。その中で今回紹介するのはMIGMA SHELTERだ。サイケデリック・トランス・アイドルと書いたけれど、サイケデリック・トランスはインドのゴアを聖地とするダンス・ミュージックの一種で、一部に熱狂的なファンが存在するジャンル。まさかここに目を付けるとは思わなかったけれど、それがディレクター・田中紘治の慧眼なんだろうな。ファースト・シングル「Svaha Eraser」(今回同時配信あり)のタイトル・トラックは、打ち込み中心のダンス・ミュージックなのに、アコースティック・ギターありーのタブラありーのパーカッションありーの、はてはリコーダーまでピロピロ鳴ってるという生楽器使いまくりの衝撃サウンドでヲタクの度肝を抜いたのだった。そして最新作『ORBIT EP』である。サウンド・プロデュースを手掛けるタニヤマヒロアキの職人芸と田中紘治のはっちゃけディレクションが冴えまくる5曲31分超えの長尺シングルというかミニ・アルバム。とくにラスト・トラックの「Cosmic Forest」は10分超えですよそこの人! 途中でBPMは変わるし、これはもうプログレであるといっても差し支えないとんでもなさ。まずは音源だけ聴いてハマって、その気があればぜひライヴに足を運んでさらに頭イカれちゃってください。

バリー・ダグラスの素晴しい和音、シューベルトを聴く醍醐味ここにあり!
文/長谷川教通

 ヤンソンスのマーラー7番は2000年のオスロ・フィルや2007年のバイエルン放送響との録音もあるが、いよいよ真打ちの登場と言うべきか。2016年9月のロイヤル・コンセルトヘボウ管とのライヴ録音だ。2015年にRCOの音楽監督を退任したので、もうヤンソンス/RCOのマーラー全集はないのかと思っていたが、この第7番の登場で第1番から第8番までが揃った。もう一息だ。いずれも96kHz/24bitのハイレゾ音源でリリースされているが、第7番からは192kHz/24bitのサラウンド音源に加え、352.8kHz/24bit/2chという最高スペックの音源までもがラインナップされている。後任のダニエレ・ガッティが振った「春の祭典」でも感じたのだが、この時期からホールの収録システムが変更されたのか、音の伸び、ダイナミックレンジ、高音域のひずみっぽさなどが桁外れに良くなっている。
 木管と弦が刻むピアニッシモからホルンの音色が飛び出してくる。その音色が渋いのに強靭。第2、4楽章「夜の歌」の美しさは格別で、終楽章の激しい混沌もじつにおおらかに歌い上げる。これぞヤンソンスの独壇場。屈折した難解さとは次元の異なる明快さ……それを引き出す細部の微細な動きまで、352.8kHz/24bitの解像度が手に取るように再現してくれる。これがライヴ録音かと感心してしまう。
 192kHz/24bit/5chで聴くと、オケの音像感の明瞭さにホール・トーンの美しさが加わり、オケの前後感やホールの響きの豊かさが味わえる。さすが世界一の響きと評されるアムステルダム・コンセルトヘボウのすばらしさ。現在バイエルン放送響の音楽監督を努めるヤンソンスが、ミュンヘンにも最上級の音響を備えたホールを実現したいと努力してきたのもわかる気がする。


 バリー・ダグラスというピアニストを知っていますか。日本では、その実力に対して評価や人気が低すぎるピアニストの一人ではないだろうか。1986年の第8回チャイコフスキー・コンクールで優勝したのが26歳。それまではいくつものコンクールを受け、予選落ちしたことも多かったとか。たしかにコンクール向きではないのかもしれない。あれから40年近く。彼の成熟ぶりには驚嘆させられる。2011〜2016年にかけてCHANDOSレーベルに録音したブラームスのソロ・ピアノ作品全集のすごさ。剛直な打鍵と野太い響きで紡ぎ出すブラームスは聴き手に強烈な印象を与える。ハイレゾではVol.3〜6が聴ける。
 さらに並行して取り組んだシューベルトのソロ・ピアノ作品全集。すでにVol.3までリリースされているが、これは2013年に録音されたVol.1で、「さすらい人幻想曲」と最晩年の傑作、第21番のソナタが収録されている。ダグラスの音色は艶やかなのに金属的な硬質感がない。中低域の鳴りも豊かで温かくて深々としている。ピアノという楽器が弦は金属でも、響きを作り出す響板やフレームは“木なのだ!”ということを再認識させてくれる。だから和音が素晴らしいのだ。絶妙なコントロールで多彩な和音を繰り出してくる。旋律の美しさはもちろんだが、音楽の土台は和音なのだ。21番の第2楽章など、転調した瞬間に左手の打鍵が変化して和音の表情が変わる。すばらしい。シューベルトを聴く醍醐味、ここにあり!「さすらい人幻想曲」も圧倒的な名演だ。


 いま世界的に活躍するヴィオラ奏者といえば、まずニルス・メンケマイヤーを挙げなければならないだろう。たとえばコンチェルトで彼が弾き始めると、ステージの雰囲気が一気に変わってしまう。体を大きく揺らしながらヴィオラで活き活きと奏でる音楽。しかも推進力抜群。これほど存在感のあるヴィオラ奏者には滅多に出会えない。彼が“バロック”のアルバムを録音した。もちろん並みのプログラムになるはずがない。まず通奏低音をリュートやテオルボが受け持つ。おそらくチェンバロよりもヴィオラとの親密な響きあいを意図してのことだろう。さあ、どんな音楽に仕立てているのだろうと興味津々。
 たとえば彼がヴィオラとテオルボで弾くリュート組曲第3番って、じつは無伴奏チェロ組曲第5番をバッハ自身が編曲したもの。この2曲を楽章ごとにヴィオラとテオルボ、ヴィオラ・ソロと交互に弾いてしまう。前者は表現の彩りが豊かで華やいだヴィオールのような風合い。一方のソロは中心に向かってギュッと集中していく密度の濃さ。メンケマイヤーの表現力の幅広さや深さに、ぐいぐいと引き込まれてしまう。でも、どう編曲されてもバッハの書いた芯の部分は揺るがない。これが編曲の面白さ。バッハの作品には楽器の指定がないものもあるけれど、だからこそ表現の自由度があるんだと、あらためて認識させられる。


 エマヌエル・クリヴィヌといえばフランス音楽。とくにドビュッシーへの思い入れは並々ならぬものがある。これまでも国立リヨン管やルクセンブルク・フィルとの録音があるが、今回は2017年から音楽監督を務めるフランス国立管との最新録音だ。音楽監督に就任する半年ほど前の収録だが、何をおいてもまずはドビュッシーというわけだ。おそらく管弦楽作品全集へと進んでいくに違いない。1947年生まれだから70歳。まだまだ活躍してほしい指揮者だ。
 ドビュッシーやラヴェルをはじめとしたフランス音楽を高音質で聴きたいというのは音楽ファンの願い。なぜって、指揮者がオケに要求するデリケートなニュアンスや、各楽器のバランスが聴こえてこないと醍醐味も半減してしまう。「海」で低弦部の静かな響きにヴァイオリンがさざ波のように重なって、スーッと海鳥が風に乗って滑走するような木管の音色だったり、次の波が金管のミュートで……などと、そんなイメージが湧いてくる。そう、クリヴィヌの指揮がすばらしいのだ。響きの見通しが明瞭で、静と動のコントラストもくっきりと描かれる。消え入るような弱音から荒々しいほどのクライマックスまで、非常にダイナミックレンジが広い。「海」のフィナーレでは、初演時に含まれていたファンファーレが1909年ヴァージョンでは削除されており、通常はこちらで演奏されるが、この録音ではプログラムの最後にファンファーレが入ったヴァージョンによる演奏の抜粋も収録されている。比較してみるのも愉しい。


 超話題のアルバムだ。シェク・カネー=メイソンは1999年イギリス、ノッティンガム生まれのチェリスト。2016年のBBCヤング・ミュージシャンのコンクールで優勝し、一気に注目され、人気も沸騰した。コンクールのファイナルで鮮やかなパフォーマンスを披露したショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番。このアルバムではバーミンガムでのライヴが収録されている。オケはもちろんバーミンガム市響。指揮は若き女性音楽監督として、こちらも大注目のミルガ・グラジニーテ=ティーラだ。成熟とか完成度とか、そういった尺度に当てはまらない溌剌とした勢いのあるチェロ。グラジニーテ=ティーラらしいリズムのキレと躍動感あふれるオケ。チェロが勢いあまって一本調子に陥るのを巧みにコントロールするなど、みごとなサポートぶりだ。第2楽章のチェロの瑞々しい旋律も聴きものだ。
 プログラムはショスタコからボブ・マーリーの「ノー・ウーマン・ノー・クライ」まで幅広い音楽が並んでおり、クラシックを中心に置きながらもジャンルの枠を超えた音楽をレパートリーとしたいというシェクのスタンスを示している。彼の兄弟姉妹は7人。姉のイサタはピアノ、兄のブライマーはヴァイオリン、シェクを加えたピアノ・トリオとしても活動している。妹たち4人もピアノやヴァイオリン、チェロを弾く。7人でステージに上がることもあるらしい。あくまで自然体で、ときには奔放で……そんなミュージシャンであってほしいと思う。

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