e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活 - [こちらハイレゾ商會]第55回 キンクスの“パイ時代”、FLACで「アナログ汁」のしたたる音
掲載日:2018年5月8日
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第55回 キンクスの“パイ時代”、FLACで「アナログ汁」のしたたる音
絵と文 / 牧野良幸
 イギリスのロック・バンド、キンクスは1964年のファースト『キンクス』から71年の『パーシー』までを、レーベル名をとって“パイ(PYE)時代”と呼んでいるが、その“パイ時代”のアルバムがようやくハイレゾ配信になった(『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』は未配信)。
 キンクスの高音質化の歴史は意外と古い。“パイ時代”に続く、“RCA時代”“アリスタ時代”のおおかたのアルバムは2004年にSACDハイブリッド盤でリリースされている。99年にSACDがオーディオ界に登場して5年後というリリースは、ボブ・ディランやローリング・ストーンズのSACD化と並ぶ異例の早さで、さすがブリティッシュ・ロックの大物と思わせたものだ。
 それだけに“パイ時代”のアルバムも遡ってSACD化されると思い込んでいたが、14年のあいだ音沙汰なし。いつしか諦めていたところ、2018年のハイレゾ配信(FLAC 96kHz/24bit)である。結論を先に書いてしまえば、今回のハイレゾは、“RCA時代”“アリスタ時代”のSACDの音に負けず劣らず、「アナログ汁」のしたたるいい音であった。
 そもそもキンクスで高音質化がいちばん望まれたのは、バンドの全盛期である“パイ時代”ではなかったか。しかしオーディオ的な見地で言えば、高音質化の効果が期待できないのも“パイ時代”だった。なにせ60年代の録音だから、ステレオ全盛期の70年代以降のアルバムに比べれば音に厚みがない。知人のキンクス好き(キンキー・マニアとまではいかない)も、「60年代のアルバムは音がチャチだから、ちょっとね」とあまり聴かないようだった。
 実際、僕もファーストの『キンクス』やセカンド『カインダ・キンクス』をリマスターCDで持っていたが、音楽的には大好きだけれど、ペラペラした音が気に障っていた。数年前にオープンリール・テープ・デッキを手に入れてからは、わざわざCDからオープンリールに録音して聴いていたものだ。テープに録音すると不思議とCDの音もアナログ・ライクに聴けたのである。
 しかし今回のハイレゾの登場で自家製オープンリール・テープももう必要なくなった。ハイレゾで聴く『キンクス』や『カインダ・キンクス』は低域が厚くなり、ペラペラとしたところが解消された。モノラルの良さが十分に活かされている。オリジナルLPは聴いたことがないが、それに迫るか、それ以上と思われるアナログ感だと思う。これならギター・サウンドが好きな若者だけでなく、熟年オーディオ・ファンにも受け入れられるのではあるまいか。
 ファーストやセカンドがこれだけ改善されたのなら、以降のアルバムも約束されたようなものだ。果たしてサード以降のアルバムも素晴らしい音質だった。69年の『アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡』や70年の『ローラ対パワーマン、マネーゴーラウンド組 第1回戦』は、良質なステレオであることもあって、それこそ“RCA時代”“アリスタ時代”のSACDと同等の高音質。「アナログ汁」がますますしたたっている。これまで同じ高音質でもFLACは、SACD(もしくはDSFファイル)よりアナログ・ライクという点では劣ると思っていただけに、今回のFLACは考えを改めさせられるハイレゾであった。
 かくしてキンクスのラインナップは、フォーマットの違いこそあれ、“パイ時代”“RCA時代”“アリスタ時代”と高音質で聴けるようになった。“RCA時代”“アリスタ時代”のSACDが発売されて以来、14年ぶりに出揃ったわけである。「生きていて良かった」と言いたいところであるが、最初に書いたように名作『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』だけが外れているのが惜しい。今出ていないということは、いずれ“デラックス・エディション”でのハイレゾ配信を予定しているからではないか、とファンとしては勝手な期待も持ってしまう。最後のワン・ピースを心して待とう。



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