[こちらハイレゾ商會] 第36回 祝!ソニーミュージックのハイレゾ配信スタート その2 〜ジャズ、クラシックのDSD〜
掲載日:2016年09月13日
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こちらハイレゾ商會
第36回 祝!ソニーミュージックのハイレゾ配信スタート その2 〜ジャズ、クラシックのDSD〜
絵と文 / 牧野良幸
 ソニーミュージックのタイトルのハイレゾ配信がe-onkyoで始まったことを祝うエッセイ。後編はジャズとクラシックのハイレゾである。それもソニーミュージックらしくDSD音源(DSF)のタイトルを取り上げてみた。
マイルス・デイヴィス
『セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン』


(1963年録音)

“ソニーといえばマイルス、マイルスといえばソニー”である。コロンビア時代のマイルスもだいぶハイレゾ化されている。それもDSD(DSF)が揃っている。そこから1枚を選ぶとなると、まずは『カインド・オブ・ブルー』になるだろうが、それでは芸がない。ここはひねくれて『セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン』である。
 しかし『セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン』もいいアルバムだ。ここにはメンバーの異なる2つのグループによる録音が交ざっていて、一方がマイルスのミュート・トランペットが堪能できるバラード演奏、もう一方にはハービー・ハンコックトニー・ウィリアムスが参加、しかしウェイン・ショーターは加入前で、のちの“黄金クインテット”をうかがわせる演奏である。二色丼のようなアルバムだが、どちらもカッコイイ演奏。聴いていて飽きない。それもDSD(DSF)らしい濃厚なアコースティック・サウンドだからだろう。
ハンク・ジョーンズ〜ザ・グレイト・ジャズ・トリオ〜
『ラスト・レコーディング』


(2010年録音)

 続いては2010年に91歳で惜しくも亡くなったハンク・ジョーンズのアルバム。幸い高音質で有名なEighty-Eight'sレーベルに数多くの作品がDSDレコーディングで残されている。本作はタイトルどおり、ハンク・ジョーンズが亡くなった2010年に東京で録音した遺作である。
 聴いてみると同じジャズのDSD(DSF)でも『セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン』とは、ケタ違いの高音質である。『セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン』のステレオ初期のガッツのある音もオーディオの醍醐味であるが、DSDレコーディングの本作は桁違いに成熟した音。スピーカーの存在が消えるほどに柔らかな広がりだ。こういう響きがジャズらしいかどうかは、人それぞれとして、Eighty-Eight'sレーベルの高音質をいまさらながら感じるハイレゾだ。
THREESOME (マリーン, 吉田次郎, クリヤ・マコト)
『Cubic Magic』


(2016年)

 乃木坂のソニーミュージック・スタジオで一発録り、それも全曲修正なしのDSDレコーディングというのだから、オーディオ・ファイルならワクワクするに違いないアルバムである。flacでの配信もあるけれど、それを聴いたらどうしてもDSD(DSF)で聴きたくなるだろう。
 本作はヴォーカルのマリーン、ギターの吉田次郎、ピアノのクリヤ・マコトというユニットによる1stアルバムである。澄みわたった空間にヴォーカル、ギター、ピアノの三種三様のナマナマしい音がぶつかり合うところが聴きどころ。力強く張りつめたインタープレイが聴ける。DSD(DSF)は柔らかな広がりだけでなく、カミソリのように研ぎ澄まされた音も出すと再認識。
小澤征爾指揮水戸室内管弦楽団
『モーツァルト: ホルン協奏曲全集』


(2005年, 2009年録音)

 小澤征爾水戸室内管弦楽団もソニーミュージックからアルバムを多数リリースしている。本作は元ベルリン・フィルの首席ホルン奏者ラデク・バボラークを迎えてのモーツァルトのホルン協奏曲全集である。
 モーツァルトのホルン協奏曲というと名曲であるが、これまでオーディオ的にはちょっと欲求不満になる曲だった。というのもソロをとるホルンの存在感が薄い。音像がぼやけ気味になるのだ。これは後ろに音を出して間接音で聴かせるという、ホルンの特徴だから仕方のないところではある。
 しかしこのDSD(DSF)では、もちろん間接音ではあるけれど、しっかりと腰の座ったホルンの音が飛び出してくる。ホルンのソロがオーケストラと遜色ない存在感なのは初めて。そのオーケストラも弦の刻みが、ザラっとして心地よい。
仲道郁代(p)
『ショパン: ワルツ』


(2015年録音)

 仲道郁代ショパンのワルツ集。内容が凝っていて、はじめに1842年製のピアノ、プレイエルでの演奏が収録され、次に現代のスタインウェイでの演奏が収録されている。
 プレイエルで聴くショパンは初めてで、やはり現代ピアノで聴くものとは印象が相当違う。古楽器のオーケストラを聴くのと同じようなことがピアノでも言える。プレイエルの音色は、スタインウェイに慣れた現代人の耳には古色としたものであるが、それがショパンにふさわしいサイズに思えて、なんともホッとするのである。暖炉のある小部屋でゆったりと聴いているような心持ちだ。DSD(DSF)だから余計に味わい深い。
 これがスタインウェイになると、クラシックカーからスーパーカーになったよう。ショパンの書いた音譜を、コンサートホールで隅から隅まで鳴らしてしまうほどの高性能。しかし表現力はやはりスタインウェイだけある。DSD(DSF)で“ピアノの二色丼”が味わえるハイレゾ。
小山実稚恵
『シャコンヌ』


(2012年録音)

 小山実稚恵の『シャコンヌ』はCDで愛聴していたアルバムだ。SACDでリリースされなかったからDSD(DSF)が配信されたことは非常に喜ばしい。本作はクラシックにありがちな小品集であるけれども、けっして入門者向けの小品集ではない。ロマン派、それもクロウト好みの曲が並んでいる(と思う)。
 フランクの「前奏曲、コラールとフーガ」は神秘的だ。ワーグナーリスト編)の「イゾルデの愛の死」はオペラの官能美をピアノ1台でも再現できることを証明するかのような演奏。どちらも“ピアノが物語る”音楽だ。フランクやワーグナーの深く澱みさえある音楽はDSD(DSF)で聴いてこそだろう。2曲の重い雰囲気をやや中和するようにブゾーニ編曲のバッハ「シャコンヌ」やシューベルトのピアノ・ソナタが含まれる。しかしこれらもまた19世紀ロマン派の色濃い響きで聴ける。
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