e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活 - [こちらハイレゾ商會]第48回 DSDでECMの世界、キース・ジャレットの世界”
掲載日:2017年09月12日
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こちらハイレゾ商會
第48回 DSDでECMの世界、キース・ジャレットの世界
絵と文 / 牧野良幸
 今年もいよいよ残り4ヵ月を切ってしまった。ここまでのハイレゾでいちばん話題になったのは、ECMのDSD(DSF 2.8MHz/1bit)によるハイレゾ配信ではないかと思う。今のところチック・コリア、キース・ジャレット、パット・メセニーにしぼってリリースしているようであるが、いずれも名盤として知られるアルバムばかり。話題になるのも当然といえる。
 なんでもこのハイレゾはECMがみずからリマスターをしたらしい。ECMといえば“我が道を行くレーベル”として有名だ。創設者のマンフレート・アイヒャーの主義であろう、ジャケット・デザインから録音まで独特の世界感を今日まで貫いている。CDの音質にも自信があるのだろう、一度出したらリマスターをすることはなかった。そのECMがDSD配信のためにリマスターをしたのである。それだけでオーディオファイルにはクラッとくる話だ。
 今回はそのなかからキース・ジャレット(p)、ゲイリー・ピーコック(b)、ジャック・ディジョネット(ds)による『Standards[Vol.1]』を聴いてみた。1983年録音で、発売当時はけっこう話題になったものだ。それまでスタンダードの演奏ときくと、僕などは芸見せというか、保守的で物足りなく思っていたけれど、このスタンダード集はまったく別ものなのである。
 まず「ミーニング・オブ・ザ・ブルース」「オール・ザ・シングス・ユー・アー」と聴いてみよう。透明感のあるピアノは一世を風靡したキースのソロ・ピアノの音そのままである。キースの奏でるオリジナルのメロディはこのうえなく美しい。続く「イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド」ではちょうどマイルス・デイヴィスが奏でたミュート・トランペットと同じくらい魅惑的だ。
 インプロヴィゼーションでは、時に熱く、時に哀愁に満ちたフレーズが何度も顔を出す。キースのうめき声も聞こえる。これらもキース・ジャレットのソロ・ピアノではおなじみだったものだ。最終曲の「ゴッド・プレス・ザ・チャイルド」は70年代にキース・ジャレットがECMと同時期に録音していたインパルスの“アメリカン・カルテット”のアーシーな演奏を彷彿させる。
 ということで『Standards[Vol.1]』はスタンダード曲の衣をまとっているものの、これもまた“キース・ジャレットの世界”だと思うわけである。乱暴に言ってしまえば、キースのソロ・ピアノにベースとドラムの伴奏がついた感じ(初めて聴く方はそう思うと親しみやすいかも)。
 もちろん聴き続ければ、ゲイリー・ピーコックのベースとジャック・ディジョネットのドラムとのインタープレイも聴きものとなる。これもキースの美意識に二人が寄り添うようなインタープレイ。僕など普段はあまり重きを置かないベースのソロやドラムに、ここでは独特の雰囲気を感じてしまう。
 ハイレゾの音質について書くと、アナログライクと言われるDSDでも、ECMらしいソリッドな音場は健在である。しかし、そこに“シットリ感”が漂うのがDSDらしいところだろう。空間がペッタリとしない。ピアノの透明感は際立つし、シンバルの減衰するところなどとても綺麗だ。ベースはECMらしく(?)草食系の音であるが、それもきめ細やかで心地よい。
 ECMとDSDは相性がいいと実感した。同じくECMからDSD配信されたチック・コリアとゲイリー・バートンのデュオによる『Crystal Silence』は粒立ちの良さが満喫できる。たぶんECM側でもDSDに手応えを感じていることだだろう。今後のリリースに期待したい。
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キース・ジャレット(p)、ゲイリー・ピーコック(b)ジャック・ディジョネット(ds)
『Standards[Vol.1]』


(1983年録音)

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