坂本真綾 連載 「おんがくto わたし〜everywhere」 - Chapter.1 Best Album『everywhere』インタビュー
掲載日:2010年3月24日
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 30歳の誕生日の、そして日本武道館ライヴの当日である3月31日、坂本真綾が初のベスト・アルバム『everywhere』をリリース。これまでに発表した楽曲のなかから彼女自身がセレクトした30曲(2枚組)には、アーティストとしてのアイデンティティを求め、その表現を磨き上げてきた彼女の15年が色濃く反映されている。菅野よう子鈴木祥子などによる楽曲ももちろん、すべて高品質。素晴らしいクオリティと深い精神性がひとつになったポップ・ミュージックの数々をじっくりと堪能してほしい。
坂本真綾――坂本真綾さんの15年の軌跡が伝わってくる、意義深いベスト・アルバムだと思います。選曲・曲順の基準は何だったんですか?
坂本真綾(以下、同) 「意外性みたいなものは必要なくて、正しいベストっていうのかな、自分にとっての15年間を端的に語れるアルバムにしたかったんですよね。(DISC-1、DISC-2に)それぞれ15曲ずつ、30歳の誕生日に出すって決めたら、意外とあっさり選べたんですけどね。曲順はもう、自分の聴きたい順番に並べて」
――デビューからの15年を振り返る、いいきっかけにもなったのでは?
 「そうですね。10周年ではなく、15周年の方に節目を感じているっていうのも、私にとってはすごく自然なことなんです。デビューからずっと菅野よう子さんにプロデュースしてもらってたんですけど、9年目で環境が変わって、いろんな方の楽曲を歌わせてもらうようになって。だから10年目のときは、とても過去を振り返る気持ちにはなれなかったんです。いまは前しか見てはいけない、っていう」
――アルバム『夕凪LOOP』(2005年)のタイミングですよね。
 「はい。でも、去年『かぜよみ』というアルバムを完成させてたことで、“菅野さん時代”“それ以降”って別れていたものが、自分のなかでひとつにできた気がして。いまだったら全体を見渡して、“私はこんな歌を歌ってきました”って、冷静に、おだやかに振り返ることができると思ったんですよね」
――ようやく、坂本真綾というアーティストのアイデンティティを確立できたのかも。
 「そういう意識が目覚めたのは2ndアルバムの『DIVE』(98年)からなんです。自分の名前でCDを出すようになって、見ず知らずの人から手紙をもらったりして。最初は“おもしろい、うれしいな”って思ってたんですけど、それがだんだん、自分の手に負えない範囲まで広がっていく。自分がどういう人間かなんて自分でもわからないのに、歌を聴いた人が“坂本真綾はこういう人”っていうイメージを持つ――それは怖いというか、とにかくすごいことだなって。『DIVE』からは半分以上の曲で歌詞を書くことにしたんですけど、そこでは少しでも実際に近い自分を見てもらいたかったし、音楽以上に“自分の言葉で伝える”ということに比重を置くようになったんですよね」
坂本真綾――歌詞を書くことで、より自分に近い表現ができるようになった、と。
 「20代になってからは少しずつ、身を削るようにして書かなくても大丈夫なんだってことがわかってきて。思いをそのまま言葉にすることが、必ずしも伝わるわけではない。たとえば自分の一部分をデフォルメして書いてみたり、“言いたいことはひとつのフレーズだけで、あとは言葉遊びでもいい”ということだったり、経験のないことをフィクションとして書いたり。どんどん言葉も単純になってきた気がしますね。ストレートに表現することに照れがなくなってきたというか」
――ベスト・アルバムの最後に収録されている新曲「everywhere」は、現時点におけるひとつの答えなのかもしれないですね。“帰るべき場所は、すぐその場にあった”っていう。
 「<everywhere>はベスト盤に入れるために書いた曲ではなくて、去年、海外に5週間ひとり旅をしたときに原型が出来たんですよ。ピアノのある宿に泊まったとき、ポロポロ弾きながら、メロディと歌詞が同時に出てきて」
――“帰る場所”っていうテーマは、そのときも頭のなかにあったんですか?
 「自分のいるべき場所はここじゃない、っていう思いは常にあったと思います。満足できない状態というか、“もっともっと”っていう欲張りな気持ちというか。でも、そのときの旅を通して――長い時間をかけて『かぜよみ』を作り上げたっていう達成感もあったし――もっと身近な、すでに持っているものに感謝したいっていう思いに初めて及んだんですよね。遠くにあるものばかりを見てると、つい自分を否定しまうし、“もっとがんばらなくちゃ”と思ってしまう。そうじゃなくて、いまの自分を褒めてあげて、感謝しながら歩いてもいいんじゃないかって」
――ラクになってきたのかも、いろんな意味で。
 「どうなんでしょうね? 根底には“追い込まれるのが好き”っていうヘンなクセもあるし、常に目標に向かって動いてるほうがいいんですけどね。でも、長く続けていないとわからないことってたくさんあると思うんです。自分の仕事がどんどん好きになってるし、このまま続けていくことで、その先にあるものが見てみたいなって」
取材・文/森 朋之(2010年3月)
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