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那倉悦生 「鏡を抜けて」 第5話「ポストセックス」

ENDON   2017/03/10掲載
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第5話 「ポストセックス」
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MA 「--」 2011
木製パネルに木炭, 油彩, アクリルガッシュ, ペンキ, スプレー, マーカー 1000mm x 803mm
ピエゾ素子によって感受された約3,000グラム相当の刺激が間断的にレコーダーの針を振動させる。美術館における出産は、長い人類の歴史においても初めての試みであった。それも先日当局の認可が下りたばかりの集団出産の、アート作品としての発表とあって、ホワイトウォールに覆われた狭い密室の内部は、様々な思惑と欲望にまみれた胡散臭い連中でひしめき合っていた。ぼとぼとと、ブツらしいブツとしてつぎつぎ産み落とされ続ける赤ん坊たちは、ひとしきり泣きわめくと、皆揃えたように同じ音色の寝息をたてはじめた。部屋全体の床面いっぱいに敷き詰められたピエゾ素子が、約3,000グラムを感受するたび、MAX / MSPで統御されるスピーカーシステムから流れる音声はこうだ、「ようこそ、ここへ!」。もはや、スパイ映画さながらに炭鉱者労働組合を隈なく監視した“鉄の女”マーガレット・サッチャーとおなじ目線をもって、医師=アーティストは出産に気をやる必要はない。それもこれも超高感度圧電素子のおかげである。ある批評家がこう水を差した。「しかし、一体これのどこがアートだというのか?」――当の美術作家は、即座に答えた。「アートの直訳は、技術でしょうが!」2020年の教訓、すなわち首都に外国人が押し寄せるとろくなことがないということを、誰もが反芻するやりとりだ。というのも、これと同じ構造の質疑応答が、あのお祭りさわぎの際にも発せられたのだった。「これのどこが民族の祭典なんです?」「オリンピックって、そういうもんでしょう!」反復、回帰である。……それまでは名もなき群衆の一要素でしかなかったあるワニ型の紳士が、この陳腐な、しかし深刻な欺瞞に耐えられず、発狂し、野生に帰る。生を受けたばかりの赤ちゃんたちを、比喩でなしに、貪り始めたのだ。美しい統一体から、残骸のような器官へと破壊される新生児ども。医師=アーティスト、観衆=消費者たちは突然の”もの=自然への回帰”に戸惑うばかりで、薄皮一枚の障壁さえないというのに、この惨事を、白痴の顔でぼんやりと眺めることしかできないでいる。赤子たちは約3,000グラムの身体をいくつも結合し、災害ユートピアとでも呼ぶべき反野生身体、お手製の戦争機械「CsO」へと生成した。当時の輪島功一選手を思い出させる、強烈なカエル跳びアッパーが入館料40,000の美術館の内部で炸裂する。ワニ一匹の討伐ついでだ、税金対策に人の生死をいじくる資本家ども、全部まとめて、殲滅してしまえ!僕の断末魔は、レコーダーの針を2ミクロン振動させる。
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