植村花菜 連載 『マイルストーン〜トイレの神様』 - Chapter.04 Special Essay 植村花菜が綴る“5年間”と“わたしのかけらたち”
掲載日:2010年3月24日
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 植村花菜の連載『マイルストーン〜トイレの神様』も今回で最終回。今まで彼女の音楽キャリアを振り返りつつ、新作『わたしのかけらたち』を紹介してきましたが、今回はご本人によるエッセイを紹介します。
Special Essay
“5年間”と“わたしのかけらたち”
 2010年5月11日で、デビューして丸5年。長かったような短かったような。振り返るとあっという間の5年間でした。

 どんなときも、いつも自分がその時に出せるベストを尽くして歌をうたってきました。この5年間は決して平坦な道のりではなかったけど、人前で歌をうたえることはやはり、私にとって何よりも幸せでした。

 今作品を含め、通算5枚のアルバム、9枚のシングルをリリースさせていただきました。ずっと応援してくださっているファンの方やスタッフ、友達や家族の存在が、挫けそうになる私の心をいつも支えてくれました。それと同時に、なかなか抜け出ていけない自分の不甲斐無さに申し訳ない思いもありました。

 自分のやっている音楽は必ずみんなに届くはず! そう信じて頑張っていても、結果が出ない状況に、なんで? どうして? と、やり場のない想いが込み上げ、人のせいにしてしまいたくなる夜もありました。
 去年は特にリリースもライヴも少なく、仕事もプライベートもいろいろあって、どんなことがあっても絶対めげない雑草精神の私でも、ふとした瞬間“あぁ、やめてしまえたらどれだけ楽だろう……”と、弱気になることもありました。

 でもやっぱり、どうしても歌を諦めきれない私は、2010年は音楽だけに身を捧げて、燃え尽きるまでやってやろう!と、一大決心しました。

 そんな出口のない迷路を手探りで歩いているような状態のときに、今回のアルバムのプロデューサー、寺岡呼人さんと出会いました。

 呼人さんは私と何度も話すうちに、“素”の植村花菜がとても魅力的だと言ってくださいました。でも、残念ながら今までの作品には、あまり“素”の花菜ちゃんが出ていない気がする、と。そして、呼人さんと一緒にアルバムを作ることになったとき、“ルーツ”“ありのままの自分”“赤裸々にさらけ出す”をコンセプトに曲作りをスタートしました。

 私は実体験でしか曲を書けないので、今までもウソや想像で書いたことは一度もないんですが、なんとなく自分でも今一歩さらけ出すことが出来ていない、っというより、もっと自分らしい曲が書けるはずなのに、書き方がよくわからない……。ちょうどそんな苦悩を抱えていたので、作品が出来るまでにずいぶん時間がかかりました。

 でも、自分自身や音楽と真摯に向き合い、いろんな方のアドバイスもあって、今回の『わたしのかけらたち』というアルバム、そして「トイレの神様」という曲が生まれました。この曲は私にとって、まさに“マイルストーン”な一曲になりました。

 自分に出来ること、自分が歌いたいこと、植村花菜であること、トイレの神様にはそのすべてが詰まっていて、この曲を書き上げたことで、私自身にも大きな変化がありました。<植村花菜にしか歌えない曲>、私はずっと、それを探していました。

 最初は、こんな個人的な歌を作っていいんだろうか? という疑問もありましたが、今回のコンセプトの一つが“ルーツ”だったので、祖母と二人で過ごした時間は、紛れもなく今の私を作り上げてくれた大切なルーツだと思い、作ることにしました。

 もともとこの曲はアルバムに入る一曲で、リード曲ではなかったので、何も考えず、自由に想いの丈を綴りました。長くなってもいい、上手に書けなくてもいい、おばあちゃんとの思い出を大切に歌いたい。その想いだけで作りました。曲が出来上がって初めて歌ったとき、涙が止まらなくなって歌えませんでした。正直、こんなことは初めてでした。

 いつも歌うときはその世界に入り込むので、泣きそうになることや、泣いてしまうことも時にはありますが、歌えなくなるほど涙が止まらないなんて、今まで一度もありませんでした。

 そしてこの瞬間、シンガー・ソングライターとはこうあるべきなのかもしれない、と思いました。自分の身を削り、辛いこともうれしいことも、勇気を持ってさらけ出してこそ、たくさんの人に感動していただける歌がうたえるんだ、と。

 今年の1月、「トイレの神様」がラジオで流れて、ものすごい反響をいただいたときは、素直にめちゃくちゃ嬉しかったのと同時に、なんでこんなに個人的な歌なのに、みんな共感してくれるんだろう?って、とても不思議でした。

 五目並べや鴨なんば、新喜劇のエピソード、私と同じ体験をした人は、ほとんどいないはずなのに……。いろいろ考えてわかったことは、私的な歌だからこそ、その奥に潜んでいる感情が本物なんだということでした。

 今までは歌詞を書くとき、聴く人のことを考えるあまり、ごく私的な言葉だとかえって伝わりにくいかと思い、みんなの“共通語”を探して書いていた曲もあったかもしれません。それに気付けたとき、私はシンガー・ソングライターとして、一つ階段を上がれた気がしました。

 今回の『わたしのかけらたち』は、文字通り、植村花菜のかけらがたくさん詰まった、植村花菜にしか歌えないアルバムになりました。こうして今、新しい一歩を踏み出せたのも、この5年間があったからこそ。いろんな経験をして、迷い、悩み、苦しんで、今がある。過去の作品も、今回のアルバムも、みんな同じように愛おしい私のかけらです。

 このアルバムをきっかけに、これからも“植村花菜にしか歌えない曲”を、死ぬまで歌い続けていきたいと思っています。
文/植村花菜
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