音の向こう側 〜 ヴァイオリニスト吉田恭子のクラシック案内 - 第1回 Prologue クラシックへの招待
掲載日:2009年9月9日
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こんにちは。ヴァイオリニストの吉田恭子です。これから7回にわたって、クラシック音楽の楽しみ方や魅力などを連載させていただくことになりました。私なりの考え方を綴ってみたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

 その第1回目の今回は、クラシック音楽へのご招待!

「クラシックを聴きたいのだけれど、何から聴いていいのかわからない」
「どうすればクラシックを好きになれるの?」

 こんな質問をされる方が、よくいらっしゃいますよね。

 クラシック音楽を、とても敷居の高い、非日常的な世界の音楽だと思っているのかもしれません。でもじつは私たちの日常の生活の中には、いろいろなところでクラシック音楽が流れています。映画とかTVドラマとかCMとか。電話の保留音にエルガーの「愛の挨拶」「威風堂々」が使われているのもよく聞きますよね。

 つまり、「クラシックはどうも……」という方でさえも、ごく当たり前のように知っている曲はいっぱいあるはずです。意識していなくても、クラシック音楽は皆さんのまわりにたくさんあふれているのです。


 では、それをもっと身近に感じるためにはどうしたらよいのでしょう?
 私はまず、ちょっとでいいので、作曲家や作品のバックグラウンドを知ってみることをお薦めしています。

 たとえば上記の「愛の挨拶」は、エルガーの大恋愛から生まれた音楽です。そのことを知るだけでも、あの美しく優しいメロディが、今までよりずっと愛情に満ちているように聞こえてくるかもしれませんよね。

 ほかにも、ブラームスが恩人でもあるシューマンの妻クララに捧げた一途な愛(今公開中の映画『クララ・シューマン 愛の協奏曲』でも話題です)、聴覚の障害から自殺を決意して遺書まで書いたベートーヴェンの苦悩。あるいは、モーツァルトが母親の死の悲しみの中で書いたヴァイオリン・ソナタの哀しさや、誰もが知っている「結婚行進曲」は、メンデルスゾーンが17歳の時から十数年かけて書いた 劇付随音楽『真夏の夜の夢』の中の1曲であることとか。

 大作曲家たちの愛や苦悩も、ごく人間的な、けっして私たちの感覚とかけ離れたものではないのです。自分の境遇と重ねてみることで、その存在がずっと身近に感じられて、音楽が素直に心に染みてくると思いますよ。

 別枠コラムの“吉田恭子のちょこっと音色話”では、そんなエピソードをいろいろ紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。

 それから、たとえば歴史が好きな方なら、作曲家の生きた“時代”を考えてみるのもひとつの手がかりになるのではないでしょうか。

 画家のいわさきちひろさんのご子息である松本猛さんという方が、長野県信濃美術館・東山魁夷館の館長をなさっています。その松本さんが以前、「美術館は美術作品を観るためだけの施設ではなくて、建築とか歴史とか、いろんなことが学べるんだよね。本当は美術の授業はそうであってほしいんだ」とおっしゃっていました。音楽もまったく同じだと思います。

 クラシック音楽が好きな方は、J.S.バッハとヘンデルとD.スカルラッティが同じ1685年に生まれたことをご存じだと思いますが、『暴れん坊将軍』でおなじみの江戸幕府第8代将軍、徳川吉宗は彼らと1歳違い(1684年生まれ)。私も友だちに教えてもらったのですが、バッハのくるくるカツラの頃、日本は吉宗や大岡越前の活躍した時代だったんですね。こんなことを知るのも、音楽史上に登場する作曲家たちの時代背景をちょっと実感できて、おもしろいかもしれません、笑!

 もちろん音楽の聴き方は自由なのですが、こんなふうに、ちょっとずつでもいろんなことを知ってから聴くと、聞こえ方も全然違ってくると思います。“クラシック音楽”と括ってしまって、なにか高尚なもののように考えすぎないほうがいいのではないでしょうか。

 クラシックは、これからもずっと残っていく普遍的な音楽だと思います。生演奏の魅力を早く知れば知るほど、人生が何倍にも楽しくなるはず。そして何倍も私たちを救ってくれると思います。だって、グレゴリオ聖歌の時代から1000年以上も、私たちはずっと音楽に助けられてきたのですから。



photo:斎藤涼介(ZiZi)>
次回はニュー・アルバムのインタビューをお届けします!



 皆さんは“眼聴耳視”という言葉をご存じですか?
 仏教用語で、真実をみるためには眼で聴いて、耳で視なさいという意味ですが、音楽にも共通すると思っています。
 私の恩師アーロン・ロザンドさんは、「いつも演奏する際は、真っ白いキャンパスに音で絵を描くような気持ちで演奏しなさい!」「旋律で描く“音色”の創造の世界を大切に」と教えてくださいました。音楽を表現する上で、この“音色”という言葉は、イマジネーションを働かせ、音を視るということです。私たちは曲の終わりに向け、常に沢山の意味のある音を“音楽の三大要素”――リズム、ハーモニー、メロディとともに紡がなくてはなりません。
 音の色。もちろん私の創造のイメージで漠然としたものですが、この連載の中でちょこっと共有して頂けたらな、と思ってご紹介させて頂きます。
エドワード・エルガー(1857〜1934)
代表作「愛の挨拶」は誰でもご存じの愛すべき調べ。
その昔エルガーは、宗教や身分の違うアリスという女性と恋に落ちます。二人は大変な周囲の反対の中、結婚に至り、そしてエルガーは音楽史上きっての愛妻家として名を残すのですが、ようやく婚約が許された際、アリスに贈ったのが、この「愛の挨拶」でした。
私は何百回とこの曲に触れていますが、いつ演奏しても流れるような〜薄紅の桜色〜に包まれるのです
【吉田恭子 最新作】
吉田恭子(vn)広上淳一指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
『チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲&瞑想曲集』
(QACR-30005 税込2,800円/SHM-CD仕様)
[収録曲]
01. チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調op.35
02. グラズノフ:瞑想曲op.32
03. マスネ:タイスの瞑想曲
 
[録音]
2009年 石川県立音楽堂


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