あれもこれも、やつらの仕事。天才クリエイター集団の実態に迫る、DRAWING AND MANUAL

2021/09/29掲載
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 ふだん何気なく目にしているもののあまり作り手を意識することのない、広告、テレビ番組のタイトルバック、ミュージック・ビデオなどを「DRAWING AND MANUAL」は数多く手がけてきた。これら日常に潜む作品を通し、人々の生活を明るく豊かにしてきたこの天才クリエイター集団の実態に迫るべく、所属するクリエイターの鈴木友唯さんと、設立時からのメンバーで現在は取締役副社長 / プロデューサーとして会社を支える飯野圭子さんに、お話をうかがいました。(編集部)
DAM
鈴木友唯(左)と飯野圭子
鈴木友唯
 DRAWING AND MANUALに所属するクリエイター、鈴木友唯。アートディレクター、イラストレーター、デザイナーなど、多岐にわたる活躍ぶりは、DRAWING AND MANUALという会社を象徴しているようでもある。その多才な仕事の根底にあるのは、もの作りの楽しさだ。彼女が大学時代から子どもたちのワークショップを続けているのは、「子どもたちに負けない面白いものを作りたい」からだとか。創作のワクワクするような初期衝動を今も大切にしていることが、彼女の作品や言葉から伝わってくる。
――鈴木さんは幅広い分野で活動されていますが、最初に興味を持ったのは何だったのでしょうか。
「子どもの頃から絵を描くのが好きだったんです。そして、高校の時にアートディレクターという仕事があることを知って、それをやってみたいと思って武蔵野美術大学に入りました。学校ではイラストをデザインに起こす、ということを学んで、4年生の時に菱川さん(DRAWING AND MANUALの設立者であり、さまざまな分野で活動するクリエイター、菱川勢一)のゼミに入ったんです。1年の授業で菱川さんの作品を見て感動して、4年になったら菱川さんに学びたいと思っていたんですよね。ゼミで映像もやるようになり、卒業制作はイラストやデザインを使った映像作品を作りました」
――鈴木さんが手がけられているミュージック・ビデオは、まさにそういうスタイルですね。ビデオでは実写とイラストを融合させていますが、最初に手掛けたのは?
「D.W.ニコルズの〈愛に。〉という曲です。中学校の時からずっと聴いていたアーティストで、直接バンドにメールを送ったんです。“私はこういう絵を描いているんですけど、ミュージック・ビデオをやらせていただきたいです”って。そしたら返信をいただいて、やらせていただくことになったんです。メールを送った時、女の人の絵を描いて“この女性をニコルズさんの曲で踊らせたいです”って書いたんですけど、曲を書いたわたなべだいすけさんから“この曲は母に向けて書いた曲なんです”と教えていただいて。それで一人の少女が成長して踊る女性になり、最後にはお腹に子どもがいる、という物語にしたんです。実写の部分はわたなべさんの故郷の葉山で撮影しました」
――鈴木さんが曲を聴いて頭に浮かんだ女性と、わたなべさんの母親への想いが重なったわけですね。最近、鈴木さんが手掛けたサンボマスター「ヒューマニティ!」のビデオはバンド史上初のアニメーションですが、アニメというのはバンドからのリクエストだったのでしょうか。
「そうです。サンボマスターも中学生の時から好きなバンドでした。この曲を初めて聴いた時、ひとりの人生を歌った曲だと思ったんです。その人生を映像で描く時、性別を限定しないようにしようと思いました。今の時代は“多様性”がキーワードになっているので。そこでキャラクターを花にすることで性別を限定せず、誰もが当てはまるような映像にしたんです」
――1曲という短い時間で人生を描くのも大変ですね。
「人は絶対に死ぬじゃないですか。だから、死んで生まれ変わるところまで描きたいと思ったんです。というのも、去年、父親を亡くしたんです。その時、“人生って終わりがあるんだ”ということを実感して。そのことも(ミュージック・ビデオで)描きたいと思ったんです。ただ亡くなる本人にとって、死はけっして悲しいことじゃないように描きたかった。最後はみんなに囲まれて幸せに人生の幕を閉じて、その後、生まれ変わる、というふうにしました。そこには“父がそうあってほしい”という私の望みが込められていたんだと思います」
――そうだったんですか。アニメーションにすることで性別を感じさせないキャラクターを描けるし、絵のタッチが温かいので死を題材にしても重くならないですね。
「サンボマスターさんの歌って、色にたとえるとオレンジとか温かい色だな、というイメージがあって。曲を聴いて感じたまま絵にしてみると自然とああいうタッチの絵や色になったんです」
――先ほど“多様性”という話が出ましたが、鈴木さんがキャラクターデザインを担当したNHKの番組『u&i』は、子どもたちに多様性の大切さを伝える番組です。マイノリティに対する子どもたちの理解を深める、という大きなテーマがあるなかで、どんなふうにデザインされたのでしょう。
「“夢の中に迷い込んでしまったような世界”という大きな設定はNHKさんからいただいていて、そういう設定を魅力的に見せるにはどうやったらいいのか、ということを考えていきました。たとえば、シッチャカとメッチャカというキャラクターがいるというのは最初から決まっていたのですが、それがパンダがいいのか、トカゲがいいのか、いろいろなアイディアが出たんですけど、私は猿にしたんです。片方は手が長くて、片方は足が長い。あえてばらつきがあるデザインにすることで、彼らの正しい姿形がどんなものかわからなくしました。猿かどうかわからなくてもいいかな、とも思っていたんです」
――デザインを通じて子どもたちに多様性を伝えたわけですね。鈴木さんの絵本のようなイラストのスタイルも、子どもたちには親しみやすいです。
「自分には何種類かの絵のスタイルがあるんですけど、絵本っぽいタッチで描くようになったのは大学で子ども向けのワークショップをやるようになってからなんです。そこでは100人くらいの子どもたちと月に一回、ものづくりをしていたんですけど、子どもが作るものって面白いんですよ。それで“こんな面白いものを作る子どもたちに、面白いと思ってもらいたい!”と思うようになって」
――子どもがライバルだった?
「そうです(笑)。子どもたちとは対等でしたね。そのワークショップを通じて、“子ども向けに何か面白いものを作りたい”という気持ちが育っていったんです」
――DRAWING AND MANUALでも子ども向けのワークショップをやられていますよね。鈴木さんにとって、DRAWING AND MANUALはどんな場所ですか?
「動物園みたいな会社ですね。小動物みたいな人もいれば象みたいな人もいる。肉食動物みたいな人もいれば、草食動物みたいな人もいて、みんなバラバラだけど仲良くしているんです。たまに引っ掻かれるくらいはありますけどね(笑)」
――個性豊かなクリエイターが集まった動物園、楽しそうですね。
「よく作品を見せ合うんですけど、けっこうみんな褒めるんです。“めっちゃいいね! 悔しい”って言われると嬉しくて(笑)。そういうことが刺激になったりするんですよね」
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