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音楽数珠つなぎ 〜「西山ダディダディ」からドン・キホーテ

2025/07/19掲載
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インスタやYouTubeのショート動画で流れてくる「ダディダディ」のコールの元ネタはありますか。
音楽数珠つなぎ 〜「西山ダディダディ」からドン・キホーテ
 音楽にまつわるネタを深堀りしながら、そのつながりをたどっていこうという企画「音楽数珠つなぎ」。今回は最近SNSなどでバズを起こした「西山ダディダディ」から“ドン・キホーテ”にまつわる話へたどっていきたいと思います。

 TikTokやInstagram、YouTubeショートなどのSNS系の動画で、いわゆる“バズ”を起こしているものには、ダンスと音楽を組み合わせたものが多くあります。最近では、世界的にミーム化(ネット上で模倣・拡散される現象)したフクロウの赤ちゃんが走っている写真をモチーフに、動画クリエイターのうじたまいが「アンパンマンはつぶあんって伝えなきゃ」などと歌った「エッホエッホ豆知識」や、「ルビィちゃん!(はーい!)何が好き〜」から始まる、メディアミックス作品『ラブライブ!シリーズ』のラジオ番組から誕生した声優ユニット“AiScReam”の楽曲「愛 スクリ〜ム!」、キラキラとしたさわやかなポップ・ソングかと思いきや、突然フックでテックハウス風サウンドへと一変して「今日ビジュイイじゃん」とクールに決めるヴォーカルダンス・ユニット“M!LK”の「イイじゃん」、韓国ガールズ・グループのBLACKPINKロゼが世界的スターのブルーノ・マーズとコラボレーションした、韓国の飲み会ゲーム「アパトゥ・ゲーム」の掛け声と世界で最も有名なチアリーディングの曲とも言われるトニー・バジルの全米1位曲「ミッキー」をモチーフとした「APT.」(アパトゥ)などを用いた動画で埋め尽くされました。

 同じように流行したのが「西山ダディダディ」です。「西山ダディダディ」はバーの男性スタッフなどによるコール芸のひとつで、“西山ダディダディ どすこいわっしょいピーポーピーポー”とコールをしながら、会員制バー「ギフト六本木」の代表・西山翔が何とも言えない表情を見せながら切れ味鋭いダンスを披露し投稿したところ、SNSにて芸能人やインフルエンサーが真似したことで大きな“バズ”を起こし、海外でも流行しました。

 その「西山ダディダディ」の原型となっているのは、「竹内ダディダディ」。2020年にヒロチョによる「竹内ダディダディ どすこいわっしょいピーポーピーポー」という掛け声に合わせ、友人の“竹内くん”が独特なダンスを踊る動画をTikTokに投稿したところ、これが「竹内ダディダディ」というミームとなってバズが発生。楽曲化もされるなど、いろいろな“ダディダディ”が量産されていきました。「西山ダディダディ」はその「竹内ダディダディ」のテンポをハイテンポにした、いわばリメイク・ヴァージョンといえます。

 ここで気になるのが、なぜ“ダディダディ”なのかということ。それは「竹内ダディダディ」を披露した際に流していた楽曲が、PSY(サイ)の「DADDY」(ダディ)だったことに由来します。

 PSYは“オッパ カンナム スタイル”のフレーズと独特のダンスで強烈な世界的ヒットとなった2012年のシングル「江南スタイル」で一世を風靡した韓国のソロ・アーティスト。ダンス&ヴォーカル・グループというフォーマット以外ではなかなか世界的なスターが生まれにくい韓国シーンですが、ソロとして韓国を代表する存在となりました。2015年にリリースされた「DADDY」(写真)は、韓国ガールズ・グループの2NE1(トゥエニィワン)のメンバーのCLをフィーチャーした楽曲で、PSYが父、子、孫の親子三代に扮したコミカルなミュージック・ビデオも話題を集めました。

 「DADDY」では曲中にCLが“Hey, where'd you get that body from?”(ねえ、その身体はどこからきたの?)と歌っていますが、これはブラック・アイド・ピーズの頭脳として知られるウィル・アイ・アム(will.i.am)が2009年に発表した「アイ・ガット・イット・フロム・マイ・ママ」(I Got It From My Mama)の“Baby, where'd you get your body from?”(ベイビー、どこでその体を手に入れたんだい?)のフレーズをサンプリング的に用いたもの。ウィル・アイ・アムが“ママから身体をもらった”と歌っているのを、PSYはパパ(=DADDY)に変えてパロディ化しています。

 さて、「DADDY」の元ネタともいえる「アイ・ガット・イット・フロム・マイ・ママ」にもサンプリングネタが使われています。ひとつがボブ・ジェームスの「テイク・ミー・トゥー・ザ・マルディ・グラ」(Take Me to the Mardi Gras / 邦題「夢のマルディ・グラ」)で、もうひとつがマガジン60の「ドン・キホーテ」(Don Quichotte)です。

 マガジン60はフランスの3人組シンセポップ・バンドで、1980年初めから1992年まで活動。1984年に発表したシングル「ドン・キホーテ」が全仏トップ10ヒットを記録すると、1986年には全米チャートにランクインしたほか、日本のディスコ / ユーロビート・シーンでも人気を博し、アルファレコードのユーロビート / ディスコ・コンピレーション・アルバム『That's EUROBEAT』シリーズにも「レッツゴー・セニョール」(Rendez-Vous Sur La Costa Del Sol)とともに収録されています。ウィル・アイ・アム「アイ・ガット・イット・フロム・マイ・ママ」には、マガジン60のジャン=リュック・ドリオンとドミニク・レジアコルテが共同作曲者としてクレジットされています。

 ちなみに、「ドン・キホーテ」は、スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』が由来。村に住むわずかな資産しかない中年貴族ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャが、騎士道物語を読み過ぎて現実と物語の区別がつかなくなってしまい、騎士になりきってやせ馬のロシナンテと不正をただす旅に出る物語です。“驚安の殿堂”のキャッチフレーズでおなじみのディスカウントストアも「ドン・キホーテ」ですが、2024年にブルーノ・マーズがCMで「ドンキ、イクヨ」と歌い踊っていたり、田中マイミが作詞・曲、歌唱している同社のテーマ・ソング「Miracle Shopping 〜ドン・キホーテのテーマ〜」のサビで“ドンキ・ホーテ”と聴こえるため、紛らわしいですが、ただしくは“ドン”と“キホーテ”が分け目となります。





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