【CDJournal.com 10th 特別対談】ケラリーノ・サンドロヴィッチ×星野源

ケラリーノ・サンドロヴィッチ   2010/07/28掲載
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「もしあそこでバンドに絞ってたら、今の自分はないんじゃないかって気がする」(KERA)
──いろいろと共通点のあるお二人ですけど、星野さんもお父さんがジャズ・ミュージシャンだったんですよね。
星野「アマチュアだったんですけど、お話聞いてて一緒だなと思いました。母親はジャズ・ヴォーカルを目指してて、僕が生まれてやめたんです。家で流れていたのはモダン・ジャズが多かったので、子供心に難しくてわからなくて。ジャズの反動で、その時に流行ってるB'zとかユニコーンとかポップな音楽が大好きだったんですけど、最近だんだん戻ってきて」
KERA「そうそう、そうなるよね。わかる。RCサクセションとか聴いてても"こんなつまんない音楽聴いてんのか"って一蹴されてた、親父に。今から考えると、きっと向こうも息子と一緒にジャズを聴いたりとか、ジャズについて話したかったんだろうね。RCとかプラスチックスとかさ……プラスチックスなんか、ジャズやってる人には無味乾燥以外の何物でもないじゃない(笑)。"なんだ、ずっとポコポコいってるだけの!"みたいな。そう言われると、こっちもカチンとくるから、意地張って音楽の話は一切しない時期もあった。ところがどうよ、今、俺が自分の芝居で流す音楽のほとんどがジャズ。如実に影響を受けてるんだよ、父親に。俺は、いわゆるマニア的な聴き方はしてないんだけど、著作権切れてるような古いジャズとかいいもんね。今の録音ではとても出せないような音ばかり。マイク1本で録ってるような」
星野「僕は古くなるのが好きで、CDとかも古くなるじゃないですか。90年代の初めの頃に出てたCDとかも味わいがあるというか」
KERA「あ、そう感じるんだ」
星野「音質もその時のマスタリングの音とかあるじゃないですか」
KERA「あるよね」
星野「ドデカホーンで聴いてたな、みたいな(笑)」
KERA「渋谷系の時代とかは低音がものすごく効いてたりしてたよね」
星野「その前のチャゲ&飛鳥とかは低音が全然なくて、コンポのほうで低音を上げるシステムだった頃で」
KERA「はいはい」
星野「どうしてもパソコンやインターネットの中のものは古くならないし、ずーっと同じ状態で残っちゃうので違和感があるんです。文章でもインタビューでも雑誌とかだと書いてあることが古くなるというか、紙も古くなるし」
KERA「ネットは時代性がわからないもんね」
星野「今なんじゃないかって錯覚しちゃうというか。例えば、すごい生意気な発言をインタビューでしたとしても、雑誌だったらこの当時こんなこと言ってたなって感じだけど、インターネットだと、"今こんなこと言ってるのか!"って」
──雑誌だと紙に湿り気ができたり、黄ばんだりとか味が出ていいんですよね……と言いつつ、今回はウェブでの掲載となるわけですけど(笑)。
星野「こういう話をあえてウェブでしてるのがいいと思います(笑)」
──お二人とも音楽と演劇をどちらも同じ比重でおやりになられてるわけですが、先達者であるKERAさんから見て、星野さんの活動はどうお感じになりますか?
KERA「珍しいよね。今の時代って、一人の人間が複数のメディアで表現を発信するのが、定着しづらいでしょ。昔はこの人のやってること、この集団がやってることなら、メディアを問わず、おもしろそうだっていう風に興味を持ってもらえたものだけど、今はこの人のこの曲が好きとか一元的に捉われがちだから。源の場合、大人計画に所属して、宮藤(官九郎)みたいにいろんなことをするパッケージの固定観念や先入観もいい意味で手伝って、いろいろやることに興味を持ってもらえるとこまでこれたってことは、幸運だし、そこまで来れたらしめたものみたいな、そんなような気がするんですよ。今、いろいろやりたいし、いろいろやれるんだけど、なかなかどれも中途半端でなにも認知されないっていう人がいっぱいいるよね。その中で役者としても音楽家としても……映像もやってるんでしょ? それがさあ、アレもやりたいコレもやりたいっていうんじゃなく、自然に、人に任せるよりは自分でやっちゃったほうがいいんじゃないのっていうようなね。そのほうが楽だし、一手間省けるっていう発想が、ナチュラルに見える。そうしたポジションってなかなか築けないと思うんですよ。それはたぶん、源が地道にやってきたことが認知された結果だと思う」
星野「ありがとうございます! でも、昔はバンドと役者どっちかに絞ったほうがいいのにって、ものすごく言われました(笑)。KERAさんが劇団健康を始めた頃って、そういうのってありました?」
KERA「今よりは遥かにあったと思うよ。当時さ、ナゴムっていうインディ・レーベルを主宰して、メジャー・デビューの前年に劇団健康を旗揚げして、どちらも辞めたくなかった。レコード会社やバンドのプロダクションとしては、時間を割いてもらわないとっていう時期に、"年のうちに3分の1しか使えないんですよ、劇団の公演や、プロデュースするバンドのレコーディングや、レコード店への納品があるから。それでもいい?"っていう。当然ながら、いいわけがないって話になる。でもなんとかしたい。で、まずメンバーを口説かないといけない。プロダクションを口説かないといけない。レコード会社に納得してもらわないといけない。でも当時はインディーズ・ブームがデカかった。それも運だと思うんですけど。ちょっと勘違いしたレコード会社が5社くらい来てたわけ。こっちは強く出られたから。でも、やっぱり迷いはあったっちゃ、あったんですよ、少しは。この時期に自分の首を絞めてないかなっていう。だって『夜のヒットスタジオ』にメジャー盤発売の前の週に出て、その前後に入ってた取材を全部飛ばして、ナゴムの袋詰めしてるんだから(笑)」
星野「(笑)」
KERA「誰だってできるじゃん、袋詰めなんて。そんなのバイト雇えって話なんだけど(笑)。そういう明らかに間違ってたことも含めて後悔はしてない(笑)。もしあそこでバンドに絞ってたらさ、今の自分はないんじゃないかなって気がするんですよ。あの時、3年間なり4年間、バンド活動しかやってなかったら、劇団は潰れてただろうし。そしたら、犬山(イヌコ)みのすけ峯村(リエ)藤田(秀世)と一緒に今やってないと思うし」



「演劇をやってる時に音楽やったりとか、違うことをやってる時ってフィードバックがあると思うんです」(星野)


──あのタイミングに無理をしたから、今があるわけですもんね。
KERA「当時には直感でしかなかったんですけどね。誰か何かをアドバイスしてくれたわけでもない。ただ"レコーディングとかする時間ないから、劇団公演飛ばしてくれ"とか言われても、それはできないことだと思った。だから毎回返す言葉は"いや、飛ばさない。だったら、バンド辞める"みたいな。単なる意地っ張りに思われてただろうし、実際、そうだったのかもしれない。ただ、今になって、当時のバンド・メンバーも"あの時(芝居を)続けててよかったね"って言ってくれる。当時の風当たりは強かったですよ、ものすごく」
星野SAKEROCKのメンバーを集めたときは、みんな他のバンドをやってたので、みんなにとっては2番目3番目のポジションのバンドだったんです。だから演劇もやってるけど、自分のバンド組みたいんですって言った時に、みんな"いいよー"って入ってくれたんです。その頃からそれぞれやることがあったんですね。それがいい環境だったなってすごい思います」
KERA「演劇はこれからどうするの?」
星野「これまで通りの感じでやれたらなって思います。でも、演劇をやってる時に音楽やったりとか、やっぱり違うことをやってる時ってフィードバックがあると思うんですよね」
KERA「あるねえ、うん」
星野「そういう風にしてSAKEROCKもどんどん膨らんできたので。いろんなことやるのって大事だなって」
KERA「俺も自分がそうだと思いたいけど、源とか宮藤みたいにどっちがメインということじゃなくて、両方自然にスーッとやっていけてる人って意外にいない。バンドが解散して食えなくなっちゃったとか、その逆に役者で盛り上がってきたからCD出さないかみたいなのとか。そういうことじゃないでしょ? 表現の欲求が両方やらせるわけだから。音楽で満ち足りない部分を演劇で補足して生きていくみたいな。それで人生楽しんで、みたいなさ(笑)。舞台で3時間の芝居を2ヵ月かけて作って、それはそれで楽しいんだけど、音楽は3分間で世界を完結できる気持ちよさってあるじゃない?」
──ここ数年、KERAさんは音楽活動も精力的にやられてますけど、その衝動はどういういったところから来てるんですか?
KERA「単純に精神衛生上の問題が大きいです。演劇ばかりやってると内向しすぎて心に良くない。心に良くないってことは身体にも良くない。あとね、昔はもう、ライヴハウスでポゴ・ダンスしたり、ダイブしたりする人と、演劇を黙って観てる人は本来の資質が違うのかなって思ってたけど、最近は年取ってきて、作る演劇も作る音楽も変わってきて、だんだんふたつがリンクするような……少なくとも近づいてきてるような気がするんだよ。だったら、音楽のお客さんにも演劇を観てもらいたいし、演劇のお客さんにも音楽を聴いてもらいたいなと思うようになって。源たちを見てて羨ましいなあと思うのは、そこがうまくバランスが取れてるように見えるところ。俺には有頂天時代からのお客さんは、なかなか俺のやってる演劇に興味を持ってもらえず、演劇のお客さんには俺のやる音楽に興味を持ってもらえず、なかなかライヴにも来てくれないっていうのがあって、それをもうちょっと近づけたいっていうのが最近の志ですね」
星野「よくインタビューとかで"いろんなことやって、よく切り替えられますね"って言われるんですけど、切り替えてるつもりはあまりなくて、本当になんとなくなんです。でも、SAKEROCKをやっているときはSAKEROCKで100%だし、ソロでも100%で、役者も文筆もそれぞれ100%の気持ちなんですけど、それぞれをやることで精一杯で、それをひとつにしようっていうのはあんまり考えたことがなかったので、いま話を聞いて凄いなって」
KERA「いや、ちっとも凄くはないんだけどさ。ずっとやってると、分けて考えきれないものが出てくると思うけどな。どれも自分ってものから発されるわけだから。分けて考えられるのは、それだけバイタリティがあるからだろうね。昔は健康の公演で"有頂天、邪魔するなよ"みたいなのがあった」
──それが徐々に。
KERA「ホントに徐々にだね。ここ10年ぐらい」
星野「そうですか……。僕はSAKEROCKやってる時も午前中に役者やって、午後はレコーディングとか割と大丈夫で、でも"いま役者やってる時間だから邪魔すんな"みたいなのはまったくなくて……稽古中にCDジャケの入稿の確認とかするし……俺、なんなんだろう、自分がわからなくなってきました(笑)」
KERA「俺だってわからないよ、俺がなんなのかなんて(笑)」
星野「(笑)」






取材・文/モリタタダシ(2010年7月)
撮影/相澤心也
取材協力:下北沢・風知空知


Profile:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

劇作家・演出家・映画監督・ミュージシャン。劇団ナイロン100℃主宰、ケラ&ザ・シンセサイザーズ、ヴォーカル。1982年、バンド有頂天を結成。翌年、インディーズ・レーベル「ナゴム・レコード」を立ち上げ、筋肉少女帯、ZIN-SAY(電気グルーヴの前身バンド)、たま、カーネーションなど錚々たるバンドの作品を世に送り出す。1985年には犬山イヌコ、みのすけらと「劇団健康」を立ち上げ。本格的に演劇活動を開始。1993年には「健康」を解散、劇団ナイロン100℃をスタートさせる。以降、音楽、演劇、映画など、さまざまなフィールドで活動を展開。8月13日には新宿ロフトにてケラ&ザ・シンセサイザーズのライヴを開催。詳細はバンドのオフィシャル・サイトにて(http://www.beatsurfer.com/synthesizers/)。

■ケラリーノ・サンドロヴィッチ オフィシャル・ブログ
「日々是嫌日」
http://blog.livedoor.jp/keralino/


Profile:星野源
インストゥルメンタル・バンドSAKEROCKのリーダー兼ギタリスト、マリンバ奏者。さる6月に初のソロ・アルバム『ばかのうた』を発表した。大人計画所属の俳優としても活動。近年ではドラマ『ゲゲゲの女房』(NHK)、『去年ルノアールで』(テレビ東京)、映画『ノン子36歳(家事手伝い)』(08年 / 熊切和嘉監督)、『少年メリケンサック』(09年 / 宮藤官九郎監督)、舞台『サッちゃんの明日』(作・演出 / 松尾スズキ)などに出演。その他、作家として著書『そして生活はつづく』(マガジンハウス)を刊行、雑誌『テレビブロス』にて「地平線の相談」を細野晴臣とともに連載するなど、多彩な才能を発揮している。この夏は<SUMMER SONIC 2010>、<RISING SUN ROCK FESTIVAL 2010 in EZO>へ出演するほか、9月には<星野源の挨拶まわりツアー2010>を開催。詳細はオフィシャル・サイトにて。

■星野源オフィシャル・サイト
http://hoshinogen.com/
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