掲載日:2009年11月11日
川江美奈子連載 「春待月夜ニ君想フ〜LIFE375」 - Chapter.2 同年代対談 川江美奈子×重住ひろこ(SMOOTH ACE)/Special Essay “Ⅰ” - CDJournal.com
自分の人生が“春・夏・秋・冬”の
どこかにあるとしたら……
——今回、お互いの最新作を聴いて、どう感じましたか? まずはSMOOTH ACEの『きらめき』を聴いて、川江さんはどう感じました?
川江 「このアルバム好きです! シゲちゃんみたいに、しっかり歌っているのに柔らかい感じって私には出せなくて。音楽的な話になるかもしれないんですけど、私はいつも必死で歌っている感じがあって、そうしたくないのにそうなっちゃうというか。SMOOTH ACEの曲は心地いいんだよね。それで、私は聴くときに歌詞カードをよく読むのね。シゲちゃんたちの歌って歌詞を見なくても、ものすごく入ってくる。ちゃんと言葉が入ってきながら、自分のことに重ね合わせて勝手な情景を描けちゃうというか。あとはライヴが最高ですから」
重住 「川江ちゃんは、他の人にたくさん曲を提供しているだけあって、本当にいい曲ばかりだよね。一曲一曲が粒立ちよくて、スタンダードな魅力に溢れていて、けして奇を衒わないんだけど、説得力があるっていう。とくにそこがすごいなって。一人でそれが出来てしまうっていうのは憧れでもあるんですけど」
川江 「シゲちゃんに聞きたいんだけど……、やっぱり自分の好きなメロディって自然に出てくるでしょう? それをあえてひとひねりしてみようとかって思うことはある? シゲちゃんの曲の、フッて外すところが好きなんですよ。私なら絶対ふつうに落ち着いちゃうな〜ってところで」
重住 「ひとひねり? 外してる意識がないからな……」
川江 「たとえば〈きらめき〉って曲のサビの最後とかね。その調ってミの音で終わるじゃない。あの……メロディが1に解決しないでさ、3の音で終わるっていう」
重住 「……3だね。本当だ」
川江 「私だったら、ここを1で終わらせてしまうなと思って。でも、3で終わってることで、すごくあの歌のメッセージにもあるような、続いていく感じっていうかさ。“連鎖して”って言葉がこのミの音に表われてるって思って。あ、いつもはこんな分析めいたことしないんだけど(笑)。“何でこの感じがいいんだろう”って思ったときに、ちょっとしたことなんだなと。今度なにかで使わせてもらっていい(笑)?」
重住 「どうぞどうぞ(笑)。さっきのヒネるって話だけど、昔、普通に書いていくとね、スタンダードすぎて地味だってすごく言われてたの。自分としてはそれがグッときてるんだけど。それで、地味ではないタイプの音楽について分析したことがあるのね。そうすると、どんどん曲が大そうになっていくのね。それはそれで時にはなかなか好きな曲も生まれたりしたんだけど、ある尊敬しているミュージシャンの方に、“最近、曲の感じが変わってきたな。本当に自分の好きなことやってる?”って言われて。どこかで自問自答しながら書いてたものだから、その言葉が“ズキッ”ときちゃって。それで地味だろうとなんだろうと好きだと思うものを形にしてみようって思ったのが〈きらめき〉だったり。だからとても内省的な感じになったんですよ」
川江 「そのままで行ってほしいと思います。人が“こうしたら”っていうのって、わかるんだけど、考えてやっちゃうと結局うまくいかなかったりするしね。シゲちゃんは“本来の音楽ありき”っていうものに素直に反応して、すごく理想が明確にあるんじゃないかなと思う。それを実践してるし」
重住 「非常にマイペースだけどね。前に、川江ちゃんのプロデューサーの武部聡志さんと川江ちゃんのインタビューを見せていただいたんですけど、“イメージの捉え方が優れてる”っていう言葉があって、“なるほど”と思ったわけ。もともと人に提供するときって、その人のつもりで書くんだよね? だから、自分に対しての曲と他の人の曲では違って、歌う人のなにかが乗り移ることがあるんだろうね」
川江 「それを楽しんでるところがある。誰かに書くっていうときは、会ったことがない人もいるんだけど、その人の声とか、ちょっとした表情から妄想するのが楽しい。だから、曲を書くことは、本能として、自分の歌を作る以外にやめちゃいけない作業かなと自分でも思っていて。自分の曲だけだと、精神的な部分で思い詰めすぎちゃうって感じがして……」
重住 「曲を書くだけじゃなくて、交流も広がるし」
川江 「ほっとくと引きこもっちゃうところを(笑)」
重住 「引きこもり系って学生の頃は知らなかった。昔からそういう気質あった?」
川江 「うん。シゲちゃんも、思い詰めちゃうと“ううっ”って落ちるよね? この間、ライヴを観せてもらって、何年ぶりかに会って改めて思ったんだけど。まあ、思い詰めることがお互い、いい感じで音楽に流れていけばいいね。変に無理したり、型にハメたりっていう年齢でもなくなったし」
重住 「そうだ、年も関係ある!」
——たとえばですけど、人生の中の37歳とか38歳という今の年齢は、どんな時期だと感じてますか?
重住 「“いろいろなものを犠牲にしたとしても、ガムシャラにやる時期が人生の中には必要だ”って、私が小さい頃にうちの父が言ってたの。あのガムシャラな時期があったから、今は自分のペースでやれていることに意味がある。あれをなしにしてこれをやってても、きっとなにか違ったなと思っていて。なんとなくだけど、川江ちゃんは、今が“ガッ”とやる時期なのかなって気もするね」
川江 「私はいつも流されてるんだよね。よくないなとは思うんだけど。でも、“ダメだな”ってときになると不思議と誰かの一言で引っ張られてたり。それで幸せなことに転がって、今に辿り着いてるところもあって。だからあの時期に頑張ったって胸を張って言える時期がない。忘れるからかな(笑)」
重住 「やっぱりたくさんの人に囲まれて、そのなかでいろんな人に出会いながら、やってる時期だね」
川江 「たしかに、“人との繋がり”っていう点では濃い時期だと思う。作品を書くって点では、自分のスタンスがいつも変わらないものだから、その時間に入っちゃうと自分の小部屋の中っていうのがあって。だから、いつも変わらないような気がしちゃうのかな」
重住 「年を取って、曲の書き方とか、心境の変化ってある?」
川江 「あまり変わらないかな、書き方は。ソロでデビューしたときってなにを書こうってなったときに、不安だったり、青いところだったり、自分のままを書くしかないっていうのがあったわけ。自分でも“私小説”って言い方をしてたんだけど。でも、何作が作っているうちに“少し引いたところで見れなきゃダメだな”って思うことがあって」
重住 「客観性ってこと?」
川江 「そう。レコーディングしているときは、どこか遠くで見ている自分も居ようみたいな。なんでもそうだけど、その時のものって、その時にしか作れないし。あの青い時の感じにはなれないなっていうのあるじゃない? だけど、それを知っているから出来る、今のことっていうのもあるなというのはすごく感じる」
重住 「歌はどう?」
川江 「歌ね〜。トレーニングはすごく大切なことなんだろうな、と思いながら反面どこかで“巧くなろうとしちゃいけない”って思っているところがあかもしれない。デビューした頃の、弾き語りを始めたばかりのときは、緊張してしまってペダルを踏み外すのは日常茶飯事。真ん中のペダル踏んでて、“あっ!”みたいな(笑)」
重住 「学生時代の女王ぶりからは想像できない(笑)」
川江 「サークル時代は、本当に仲間が横に並んでることが楽しかったし、助けられていたんだなと」
重住 「恐いものを知らないしね。さっき、川江ちゃんが言っていたテクニック的に巧くならない方がいいかもしれないっていうのは、アルバムを聴いたときに“すごい素直”って思ったのに繋がるかな。特にハーモニー出身の流れでいくとさ、やっぱり、スキルが必要なところもあるし。ちょっと語弊があるかもしれないけど“巧いだろ”っていう視線がともすると出てきてしまうこともあるでしょう?」
川江 「ア・カペラ時代からの変化はすごくあるかも。コーラスやってるとピッチにはもちろん敏感になるし。ちゃんと完璧にやりたいっていう感じは、私の中には今でも大好きなものとしてあるんだけど……。でも、一人になったときに“言葉”に重みがいっちゃったのね。実際レコーディングしたものとかもピッチ的に考えるとひどかったりするんですよ。自分でもわかっているようで、どうにもできない。でも、武部さんも“この上ずり加減が、この言葉の気持ちを表わしているから、これはこれでいいよ”って言ってくれたり」
重住 「正確であるということが、説得力があるってこととは違うものよね。川江ちゃんの歌には説得力があったし、それが私にとっても嬉しいことだった。30代後半になって、今、昔の自分の歌を聴くと硬くてね。必死で。だけど今は、丸くてふくよかで、そして重心のあるという、聴いたときに心が安定するような深みのある歌が歌えるところにいきたいと思っていて。以前、吉田美奈子さんのコンサートを観に行った時に、いろいろ悩んでいる時期でさ。美奈子さんの歌を聴いたときに涙ぽろぽろが出てきて。自分の中にある思いのたけを声に乗せて“ズドン”と歌われていてね。目指すべきところは“こういう姿勢だ!”っていうところだなと思って。でも、すぐに出来ることでもなく。日々のね……」
川江 「そうだね。それこそ年齢を重ねて出来るご褒美的なことかもしれない。ところで、〈LIFE〉っていう曲を書いたんだけど、自分の人生が“春・夏・秋・冬”のどこかにあるとしたら、シゲちゃんはどのあたりにいるって感じる?」
重住 「夏から秋の……」
川江 「やっぱり、そうだよね。夏の終わりというか、晩夏というか。あるときね、今きっと秋の中にいるような立場の人から、“自分が本当に残したいもの”っていうのを意識し始めてるって話をされたことがあって。それは“私もミュージシャンとして大事にしなきゃいけないところだな”って思ったの。ますます、これから自分の味を出していけると思うと、楽しいことなのかな」
——それでは、過去を振り返りつつ、現在の気持ちを語っていただきましたので、この先、お互いの未来のことを予想してみてください。
重住 「川江ちゃんはこのまま変わらない気がする。人に提供する道と自分の音楽を作るっていうのをバランスよく続けていくと思います」
川江 「シゲちゃんは、この先、何があっても揺るがないように感じる。音楽の作り場所みたいなものを自覚してるんじゃないかなって。曲を聴いてみても、いろんな経験をしても、これだけのラブ・ソングを歌えるってことは“もう大丈夫”って安心できるかな。自分の生活の中で、心地よく音楽を作っていける場所を人一倍すごく探している人なのかなって。それを作ることには苦労を惜しまないっていう」
——貴重なお話、ありがとうございました。
取材・文/清水 隆(2009年11月)
撮影/高木あつ子
【SMOOTH ACE 最新作】『きらめき』(CRCD-0321 税込2,500円)
Live Information〈スムースエースのライヴ。「Archives 3」〉
●11月13日(金)神奈川・モーションブルー・ヨコハマ
●出演:SMOOTH ACE(vo):重住 ひろこ、岡村 玄/ツヤトモヒコ(add.vo)、ハルナ(add.vo) 、 江草 啓太(p)
●時間:6:30pm & 8:30pm (開場 5:00pm) ※入替えなし
※問:モーション・ブルー・ヨコハマ[Tel]045-226-1919
〈スムースエースのライヴ。—ちょっと、SoKoまで。2—〉
●11月27日(金)大阪・南堀江knave
●出演:SMOOTH ACE(vo):重住 ひろこ、岡村 玄/ツヤトモヒコ(add.vo)、ハルナ(add.vo) 、 江草 啓太(p)
●時間:開場18:30、開演19:00
※問:南堀江 knave[Tel]06-6535-0691
〈スムースエースのライヴ。—豆のクリスマス—〉
●12月15日(火)東京・代官山 晴れたら空に豆まいて
●出演:SMOOTH ACE(vo):重住 ひろこ、岡村 玄/ツヤトモヒコ(add.vo)、ハルナ(add.vo) 、 江草 啓太(p)
●時間:開場18:30、開演19:30
※問:晴れたら空に豆まいて[Tel]03-5456-8880
詳しくは、SMOOTH ACEオフィシャル・ホームページ(
https://www.smoothace.jp/)へ。
【Chapter.2】
川江美奈子 Special Essay “Ⅰ”
川江美奈子さんによる特別エッセイ。毎回、あるキーワードから発想されるテーマで書いていただきます。今回のテーマは『Imagination=空想力』です。川江さんの曲を作る原点について書いていただきました。