『グレイテスト・ヒッツ』&『Universal Quiet』発売記念対談 北村早樹子 x  ハチスノイト

2015/01/30掲載
MyCDJ お気に入りリストに「『グレイテスト・ヒッツ』&『Universal Quiet』発売記念対談 北村早樹子 x  ハチスノイト」を追加/削除する はてなブックマークに追加
昨年11月、自らのヴォイスのみを工芸作品の如く編み上げた大作ソロ・アルバム『Universal Quiet』をリリースし、夢中夢 / magdalaの“ヴォーカリスト”とは一味異なる姿を見せたハチスノイト白石晃士監督作品「殺人ワークショップ」主題歌を含むシングル「卵のエチュード / マイハッピーお葬式」に続き、選りすぐりの過去楽曲群に杉作J太郎森下くるみのテキストを添えた豪華ベスト・アルバム『グレイテスト・ヒッツ』を1月28日にリリースした北村早樹子。異なるフィールドに根ざしている印象を受ける両者は、東京に活動拠点を移す以前、大阪時代から10余年の親交を持つ間柄。『Universal Quiet』と『グレイテスト・ヒッツ』のリリースを記念し、お2人に思い出話から悩みまで、存分に語り合っていただきました。
北村早樹子『グレイテスト・ヒッツ』
北村早樹子『グレイテスト・ヒッツ』
ハチスノイト『Universal Quiet』
ハチスノイト『Universal Quiet』

――馴れ初めからお聞かせいただいても良いですか?
ハチス 「馴れ初め!」
北村 「10年くらい前から知ってるよね。もっと前かも。お互い高校生やったよね」
ハチス 「わたしがライヴをやりはじめたのが17歳とか18歳とかだったから、そうやね。一番最初にどこで会うたのやろ……BEARS(大阪・難波)かなあ……」
北村 「たぶんBEARSで、ハチスちゃんは青色大麻虫をやってて」
ハチス 「そうそう、そうよ!あはは(笑)」
北村 「そうよお(笑)!青色大麻虫と猿股茸美都子さんとわたしで、なんかコワイ名前ばっかり、漢字ばっかりの日の対バンやって」
ハチス 「そうやそうや!全員漢字(笑)!」
北村 「それで“ヤバい、コワイ人らやわ……”と思ってたら、めっちゃ美女がいたから良かった〜、と思って」
ハチス 「(笑)。そうや、猿股茸美都子さんとやったよね、めっちゃ懐かしい。18歳かあ。なんかすごいね(笑)」
――お2人の音楽は、今とは違ったスタイルだったんですか?。
ハチス 「わたしはそうですね、青色大麻虫はトラックと歌の、静かな感じの歌ものだったんですよ。図式は今やっているmagdalaに近いかもしれないです。でもムラコちゃん(北村)は全然変わらへんよね」
北村 「そうかもなあ……音楽性は変わってないかもね」
ハチス 「最初からトイピアノ弾いてた気がするし、ほんまに変わらへんよね。『グレイテスト・ヒッツ』を聴かせてもらった時に、めっちゃ変わってたりするんかな?とか思いながら聴いたんやけど、めっちゃ一貫しているというか。すごいと思って」
北村 「いやいやいやいや……進歩がないっていう……」
ハチス 「そんなことない!すごいことだよ。声の印象も変わらへんし。ムラコちゃんの声ってイノセントで、大人じゃないんですよ。見た目のことじゃなくて(笑)。子供の澄んだ感じというか。声が澄んでるとかではなくて、声から伝わってくるものがすごく透明なんですよね。フィルターをかけずに直に伝わってくる声。すごい力があるし。それは今も全然変わってないなあと思って。10代だった人が30代になったわけやんか。それで印象が変わらないっていうのは本当にすごいと思う」
――でも音楽的には、ひとつ前のアルバムで違うことも色々やってみたんですよね。
北村 「そうなの。ちょっとだけ打ち込み的なものが入ってて。そういうのをやってみたけれども、まあ、あの、今まで好いていてくれた人がサァ〜……って引いていくのを見て終わった、みたいな」
ハチス 「えーっ!そうなんや……。トラックと歌で作ったの?」
北村 「そうそう。カセットMTRとちっちゃいカシオトーンだけでピンポン録音してトラックを作ったんだけど」
ハチス 「でもトラックも全部自分で作ったんや。すごい……。昔ha-gakureの泰さんがトラック作ったりしてたよね?」
北村 「あーっ!1回だけあった!そう。1曲だけやけど」
ハチス 「その、自分でトラック作ったのは何ていうアルバム?」
北村 「『ガールウォーズ』っていう」
ハチス 「ああ!赤いハートのやつや!ジャケットかわいいよねえ」
北村 「椿ちゃん(谷崎榴美 aka LUMITAN)ていう子覚えてる?大阪のあの界隈にいた同い歳の」
ハチス 「うん、知ってる知ってる」
北村 「ジャケットのデザインは全部椿ちゃん」
ハチス 「えー!そうなん!?」
北村 「そう。3人で遊ぼう遊ぼうって言ってるうちに、みんな散り散りになってしまったなあ」
ハチス 「そうだね。名前は聞いてたけど、結局まだ喋ったことなくて。セクシーおかっぱお姉さんのイメージやけど」
北村 「そう。エロエロ姉さん。わたしと同じおかっぱでも、こんだけちゃうのか!っていう……」
ハチス 「いやいや(笑)。こんな椿さんこんなかわいいデザイン作りはるんやね。びっくり。今はどうしてるん?」
北村 「椿ちゃんは魔女になったんやで。意味わからへんこと言うけど、魔女になってん。本当の魔女になって。魔術儀式を日々生業として全国を行脚したり」
ハチス 「まじで……薬草を煎じてるんかな」
北村 「たぶんそんなこともやってる。魔女のイベントをちょいちょいやってる。豚みたいなオッサンを魔女に仕立て上げるみたいなイベント(今こそ、魔女になる時代 〜飛べない豚の魔女入門〜)」
ハチス 「豚男子(笑)。ヤバいなあ(笑)」
北村 「そうそう。ネイキッドロフトなんば紅鶴でやってた」
――10数年前頃の大阪は、そういった一風変わった方がたくさんいらっしゃったイメージがあるのですが……。
北村 「いたいた。ヤバかったよね(笑)」
ハチス 「ヤバかったね(笑)。でもその頃のちょっと先輩の人たちは、今みんな有名だよね。エビ(溺れたエビの検死報告書)とか、あら恋(あらかじめ決められた恋人たちへ)とか。あら恋の池永(正二)さんはBEARSでPAやってくれてたもんね」
北村 「そうよ、まさしく」
ハチス 「ねえ。すごい人……ヤバい人たちがいっぱいいたよね(笑)」
――お2人は、具体にどんな人たちと一緒にやることが多かったんですか?
北村 「う〜ん、あら恋とかは一緒にやるというよりも観ていた感じやった。わたしは」
ハチス 「そうだね、ちょっと上の世代っていうか」
北村 「同世代っていなくね?」
ハチス 「そうそう。いなかった。あの頃はうちらが一番下で、ちょっと上の先輩たちが活躍している感じ。あふりらんぽとか、オシリペンペンズとか」
北村 「そうそう。“ゼロ世代や〜”言うてノリにノってた時代で」
ハチス 「うんうん。そうやそうや。でも同年代はおらんかったね。どこ行っても一番下やったもんね」
北村 「でもそれが楽だったっていうか。今も一番下でおらしてくださいって思うねんけどさ」
ハチス 「めっちゃわかる(笑)!」
北村 「年齢言うと、おちょくって “いや〜、姐さん”とか言われたりしてさ。それ嫌やな……とか思うけど、10年とか経ったらそうなってしまうな、と思って」
ハチス 「ほんまよ。大阪いた頃は、勢いのある人たちの中に紛れ込んできた下の子みたいな感じで」
北村 「だからちょっと可愛がられるくらいでピヨピヨしていられたんですけど」
ハチス 「もうあかんよな(笑)」
北村 「“あっ、歳上だったんですね……”とか言われたらもう終わりよな」
ハチス 「たしかに(笑)。いつのまにかね」
――当時そういった、すごい先輩たちが活躍する現場に飛び込んでいったのは、そういうシーンが存在するということを知った上でのこと?
ハチス 「飛び込んでというか、いつの間にかBEARSに流れ着いたみたいな感じだったんですよ」
北村 「一緒一緒!」
ハチス 「最初はBAYSIDE JENNYとかに出てたんだけど」
北村 「“ザ・ライヴハウス”みたいな」
ハチス 「そうそう。でもいつの間にか、まあ自分の属性とか(笑)、何か惹かれる感じとかあって、BEARSにいたみたいな(笑)」
北村 「わかる〜」
ハチス 「あとCOCOROOMとかBridgeとか」
北村 「そやねん。わたしも最初はSUNHALLとかにおってんけど、いつの間にかあの界隈しか出るとこが無くなってた」
ハチス 「わたしもSUNHALL出てた!あとHARDRAINとかRAIN DOGS。MOTHER HALLとかもあったよね」
北村 「MOTHER HALL!あったあった。あったよ。そういうところに出てみたけど、どう考えても違和感ある……みたいな……」
ハチス 「うん、全然馴染んでなくて(笑)。明らかに異分子みたいな感じやって(笑)」
北村 「そやねんそやねん。ちゃうなー、ってなって辛くて。BEARSとかに行き着いたら、なんか居心地良いかも!みたいな感じになっちゃって」
ハチス 「BEARSは三沢(洋紀)さんが働いていて、池永さんもいて。三沢さんの時代にけっこう長くいたかも」
北村 「わたしも同じやね。その、猿股茸美都子・青色大麻虫・北村早樹子みたいなんは、全部三沢さんが“漢字やからこの日こんなイベントしよ”って絶対したんやと思う」
ハチス 「あはは(笑)!そうやと思う!同じ匂いがする漢字の人たち、みたいな。まあそんな感じで青色大麻虫をやって、その後に夢中夢に入ったりして」
――お互い、ライヴを初めて拝見した感想は?
ハチス 「でも対バンした時が初めてなんかなあ」
北村 「そうかもねえ」
ハチス 「当時、歌を歌う女の人がそんなに多くはなかったから、それだけで良い意味で意識したかも。“こんな人がいはんのや”みたいな」
北村 「同い歳で、っていうのもあって。同い歳はなかなかいなかったもんね」
ハチス 「せやね。女の人のヴォーカルでも、ちょっと上の人たちが多かったよね。mujika(easel)さんとか。同い歳で歌を歌う女の子が、わたしにとってはムラコちゃんしかいないくらいの感じだったから、すごく嬉しくて。音楽のスタイルとかは全然違ったけど、すごく好きになりました。ほんまに珍しかったよね、あの頃は」
北村 「そうやよね。あと初めて会った時に、すごく趣味が色々合うってことも発覚したんだったよね」
ハチス 「そうやそうや。小説とか映画とか、同じ感じのがやっぱり好きで」
北村 「そういうのが好きな人もあまり周りにいなかったよね。だからすごく嬉しくて。あれおもしろいよね、これおもしろいよね、って話が合う人いなかったので」
――とりあえず学校にはいなそうですよね。
ハチス 「(笑)」
北村 「まず居場所がなかったよね」
ハチス 「うん、まあ、なかったね(笑)。学校って行ってた?」
北村 「(笑)。わたしは一応行くのやけど、保健室登校やったから。そのまま保健室に行って、寝さしてもらって、ちょっと途中でもう早退、みたいな感じであの辺をプラプラしていたので。ハチスちゃんは?行ってた?」
ハチス 「いや……全然行ってなかったね……マトモに全日おったの、もしかしたら半分無いかもしれない」
北村 「あらほんまに……」
ハチス 「シネ・ヌーヴォっていう映画館があって」
北村 「はいはい、九条のね」
ハチス 「そうそう。あそこがめっちゃ好きで。そこに行って、午後から学校行くとか」
北村 「自由だねえ〜」
ハチス 「早退して映画館に行くとか。そういう感じでしたね」
――ちゃんと卒業は出来たんですか?
ハチス 「卒業はなんとか出来ました。毎日足しげく制服でそこに行くもんやから、映画館の人が覚えてくれて、とちょっと仲良くなったりとかしてましたね。単館系やから心優しくて(笑)。ムラコちゃんが音楽やってたVOGAとかも、たぶんそこに置いてあったフライヤーで知ったんやと思う。維新派とか」
北村 「シネ・ヌーヴォは維新派が作った映画館やもんね。かっこいい内装で」
ハチス 「すごい綺麗なんだよね」
北村 「やってる映画も普通のではない感じで。原一男さんのとか、天井桟敷系の映画を上映してたり」
――共通の趣味から仲良くなったところが大きかったんですね。
ハチス 「たぶんめっちゃ話が合ったんだよね(笑)」
北村 「うん」
――東京に来られたのはいつ頃だったんですか?
北村 「わたしは2008年に東京に来たんですけど、ハチスちゃんは6年くらい前なんだよね。だからだいたい同じくらいに東京に来てたっぽくて」
ハチス 「東京に来てからは全然対バン無いよね」
北村 「全く」
ハチス 「東京に来て最初の何年かはあまり音楽やっていなかったからっていうのもあるけど、なんでか東京ではライヴ被らなかったよね」
北村 「全然。まあ、ライヴがいっぱいあるからな」
ハチス 「そう。大阪やったら、うちらを出してくれるところがほんま限られてるからね。東京来たらめっちゃいっぱいハコがあるから。逆になんかシーンみたいなものが被らんくなって、会わなくなった感じですかね」
北村 「うん、そうだったのかもしれない」
――大阪って、大都市なのに人と人との距離がすごく近い印象があるんです。
北村 「そうですね。そういうところはあると思いますね」
ハチス 「でも、大阪にいても知らへん人たちは全然知らへんやんか。大阪にもバンドいっぱいあると思うけど」
北村 「たしかに。全然知らへん」
ハチス 「全然被らん人たちと、そうじゃない人がいる。 “ジャンルで”というよりも、ジャンルは全然違うんやけど“同じような趣向”みたいな人たちが一緒になる感じがあるから」
北村 「わたしたちもジャンルは違うもんね、たぶん。そういう人はわりと一緒になる機会があって」
ハチス 「そうそう。そういうのって東京ではあんま感じひんよね」
北村 「東京やったら本当に分かり易く、ジャンルだけで括られる。わたしなんかやったら、弾き語りだけ一緒にされたりとか。それでしんどいんだが……みたいな感じになりつつあって」
ハチス 「そうかもね。打ち込み、歌もの、みたいな感じだけで括られたりとか」
北村 「そうやろ?あるやろ。なんか違うよね」
ハチス 「そやね。わかるかも」
――もっと色んなジャンルの人がいるほうが馴染み深い?
北村 「うん、そのほうがおもしろいんだけどな……」
ハチス 「たしかに。そうかも」
――ジャンルという面では、ハチスさんは様々なスタイルの音楽を披露されていますよね。北村さんはその変遷はチェックしていらっしゃったんですか?
北村 「すごく申し訳ないんですけど、気付いたらあのハチスちゃん、すごいドカーンてなってる!っていう感じで」
ハチス 「ドカーン!てなってないし(笑)」
北村 「でも、この半年くらいでハチスちゃんの活躍を知った感じだって。それまでは昔のハチスちゃんのままで止まっていたので……。『Universal Quiet』って、ハチスちゃんが曲を作ってるんだよね?すごいと思って。これはどんな脳味噌になり、どういうことになっているんだろう?とか、全部譜面になっているんだろうか?とか色々考えてしまった。ハチスちゃんはわたしの中で“ヴォーカリストさん”ていう印象だったから」
ハチス 「このアルバムは、ほぼインプロで録った歌のトラックを、エンジニアのharuさん(Haruhisa Tanaka / Purre Goohn主宰)と立て篭もってパソコンの前でエディットしまくって作ったの(笑)」
北村 「それは “こういう曲を作ろう”と思って作る感じとは違うの?」
ハチス 「インプロをやってる段階で、自分の中にはなんとなく“最終的にこういう雰囲気に”っていうのは頭の中にあって、それを念頭にインプロで録っていって、編集する感じ。重なった後のことを想像しつつ歌うみたいな」
北村 「ほ〜、なるほど……スゲー……。じゃあ譜面を書いて、とかではないんだ」
ハチス 「うん」
――北村さんは普段、譜面を書かれるんですか?
北村 「わたしは音痴な人間で、音階が頭に入ってないから、即興がまずできなくて。ひとりでコーラスを重ねるために何度もレコーディングすることがあるんだけど、その時は、自分にしかわからないような譜面は一応ちゃんと書くんですよ。たぶん、見せてもハァ?って言われるような楽譜ですけど。それが無いとダメなんですよ。編集能力とかも無いからなんですけど」
ハチス 「ピアノを弾きながら音符を書いていくってこと?」
北村 「うん、鼻歌でフ〜ンフ〜ンみたいなのを頭の中で作って、その音をピアノで確認しながらなんとか書いて。間違っている楽譜が出来上がっていく(笑)」
――でも、自分でわかれば良いですよね。
北村 「そうそう、わたしは基本ひとりやから、自分でわかれば良いし」
――地図みたいなものですね。
北村 「そう。地図が無いと行けない」
――ハチスさんはバンドやユニットの時はいかがですか?譜面を渡されたりするのでしょうか。
ハチス 「それぞれですね。自分で書くこともあるし、もらうこともあるし。でも書く時は、ムラコちゃんみたいに鼻歌で決めていく感じのことが多いです。それもあ即興と言えば即興なんかもしれへんし」
――『Universal Quiet』は“声”にフォーカスした作品ですよね。
ハチス 「そうなんですよね、全部自分の声で作ってるんですよ」
――制作中は自分の声を散々聴くわけじゃないですか。それってどんな気分(笑)?
ハチス 「うふふ(笑)。歌詞のある歌ものだと、これは自分の声!って意識することが多いんですけど、今回の場合はどちらかというと、“音としての声”みたいな感じなので」
――“素材”という感じですか。
ハチス 「そうですね。だから、自分の声を聴いているっていう感じはあまりしないです。“こういう音が欲しい”と思ったら自分の口からその音を出して素材を作るという感じでした。足りなかったらまた歌って足すとか」
――便利ですね(笑)。
ハチス 「一番生々しい楽器みたいな感じかもしれないです。どんな楽器でも情念が乗ると思うんですけど、声が一番生々しい」
――肉のシンセサイザーというか。
ハチス 「そうかもしれないですね、でもヴォイス・パーカッションみたいに、何かを模した声にはあまり興味が無いんですよ。だったら本物のパーカッションのほうが良い。あくまで声としての声の種類をたくさん使うみたいな感じですかね。楽器の代わり声ではなくて」
――Bjork『Medulla』を引き合いに出されることがありそうですけど、それとはちょっと違うわけですね。
ハチス 「そうなんですよ。ほかにも、レビューなんかではJulianna Barwickさんとか、Diamanda Galasさんとか色々引き合いに出していただいたんですけど、実は制作時にはほとんど知らなくて。声で作ってる人がそんなにいたんだ……と思って、申し訳ない気持ちになりました。知らずに作ってしまった……みたいな(笑)」
――こういう作品を作るに至る、ルーツのようなものは無いのでしょうか。
ハチス 「10代の頃、ネパールに1ヶ月半くらいおったことがあって。その時、お釈迦様の生まれたルンビニっていうところの尼寺に泊まってたんですけど、尼さんが朝毎日お祈りみたいな感じでお経を唱えてるんですよ。向こうのお経って、“南無妙法蓮華経〜”みたいなのじゃなくて、歌みたいなんです。仏教版の聖歌みたいな。それがものすごく刺さって、時間が止まってしまうような感じで。ちょっとショックなくらいの感動というか、そういう瞬間が、数えるほどですけど、人生の中でいくつかあって、そういう感覚が今回のアルバムではルーツになっていますね」
――“こういう音楽” というよりも“こういう感じ”ということですね。
ハチス 「そうかもしれないです。“あの時のあの感じ”とか。美しさや怖さ、そういう場所や空気の雰囲気も含めて。緊張感とか。それをもう一度自分の中で再構築して、再現するために色々やってみているのかも」
――北村さんはハチスさんみたいな音楽の作り方、いかがですか?
北村 「勉強になります、非常に」
ハチス 「(笑)」
北村 「声が一番情念が乗り易い楽器やな、っていうのはわたしも一緒かも」
――でも北村さんは自分の声を素材として見る感覚は無いですよね。
北村 「無いですね。たぶん、わたしは言葉ありきじゃないと歌にならないからだと思うんですけど」
ハチス 「うんうん。ムラコちゃんの歌の良さって、正確さとか、上手さみたいなところとはまた違う良さだと思うんですよ。技巧的になればなるほど“誰の歌でもいいやん”みたいになるところってあるじゃないですか。もちろん、上手くてグッとくる人もいるとは思うんですけど、それとは全然違う歌の良さがある。ムラコちゃんの声やから伝わってくる、ムラコちゃんが言いたいこととか。ある意味会話みたいな感じにも聴こえるし、日記を読ませてもらってるみたいな感じもするし。それがすごく好きで。ムラコちゃんが歌っているのを、BGMに出来る人っていないと思うんですよ」
――たしかに。
北村 「本当?そうかなあ」
ハチス 「絶対そうやと思う。絶対に振り返らざるを得ない歌、声っていうか。歌と同時に、言葉の意味とか、ムラコちゃんがその言葉を選んだ時に内側にあったものが、聴く側に伝わってくる歌なんですよ。歌詞があっても、歌詞の内容が全然入ってこない歌もあるじゃないですか。ムラコちゃんの歌はそういうのとは全然違う。『Universal Quiet』を作る時、haruさんに“殺気がある人が好きなんです” っていう話をしたんですよ。悪い意味ではなくて、人を刺すような、人を震えさせるような、呼吸が止まってしまうような、そういうものが好きだし、作るならそういうものが作りたい。聴き流されるものじゃなくて、聴いた人の時間を止めてしまうような。ムラコちゃんの歌は、わたしにとってはすごく殺気がある。デンジャーな意味じゃなくて(笑)」
北村 「(デンジャーな顔)」
ハチス 「(笑)。聴き流せないエネルギーがある歌、作品なんですよ。わたしはライヴも観てる人の時間を止めたい、人の息の根を止めるくらいの感じを与えたいと思ってやってるんだけど、ムラコちゃんはどう?こういう風にライヴをやりたいって思い描いてることはあるの?」
北村 「わたしも最初はそう思ってた。なぜなら、育ちがP-shirtsとかやからだと思うんだけど(笑)。それこそ“時間を止めてやる!”っていう感じで怖かったけど、かっこよくて。わたしも時間を止めてほしかったから。だから自分でもそういう感じを目指してライヴをずっとやっていたんやけど……。時と場合によりけりですけど、わたしのライヴって最初から最後まで一切拍手してもらえないんですよ。それがだんだん辛くなってきて。これは絶対おもんないから拍手してくれないんじゃないだろうかと思ってて。拍手したらあかんみたいな空気にしちゃってるのかもしれないけど」
ハチス 「うんうん、そういうのはあるかもしれないね」
北村 「うん。昔はそれで良いとすごく思ってたんだけど、最近はにっこり拍手してくれているのが嬉しかったりもしてきてて。それでもやっぱり、わたしも聴き流されるのは嫌ですね。みんなライヴ会場に社交しに来るじゃないですか。わいわい遊びに来たり、呑みに来たりはそりゃ良いんですけど、呑んで喋っての延長で聴かれるのはすごく嫌で。どうしたいんだろうなあ、わたしは。楽しませたいとか、暖かな気持ちにしたい、とかっていうのも無いと思う。そうしたいんやったらこんな歌は歌ってないと思うし」
ハチス 「そっか(笑)。そうだよね」
北村 「だから、ちょっと聞いてほしいんだけど(バン!)みたいな感じで歌を歌うんだと思うんですね。普段はヘラヘラするか、無言になって感じ悪っ!って思われるかどっちかしかないから、ちゃんと聞いてほしい(バン!)ということがある時は、歌うしかない、みたいな感じ」
ハチス 「そうか。主張なんやね。でも、わたしも同じようなこと考えるかも。殺気って言ったけど、怖がらせたいとか、威圧的にしたいとか、そういうお客さんに対する攻撃ではないんですよ。基本的にはピースやから(笑)。だから、わたしは逆に曲間とかで、自分の作った空気を一回壊すことをするかも。喋ったりとか。攻撃したいわけじゃないよ、って言う意味で。殺気のあるライヴはしたいけど、お客さんの感想を聞くと“癒された”っておっしゃる方が多くて。でもそれはわたしにとって嬉しいことでもあるんですよ」
北村 「そうなんや。ハチスちゃんは優しいな……」
ハチス 「(笑)。やり過ぎて、ただの攻撃みたいになるのも違うかな、と思って。コミュニケーションはとりたいから」
北村 「そうなんだよね、お客さんは敵ではないんだよね。わたしなんかを聴きにきてくれてるすごい稀有な方々だし。そんな人を攻撃していたらもう、誰もいなくなるのに決まってるもんな。だからといって暖かい感じにも出来なくて。ハチスちゃんはピースなんやな」
ハチス 「曲は暗くて、緊張すんねんけど(笑)、その下には一番緩んでる柔らかい部分があるのかも」
――柔らかい部分のほうが重要だったりするんですか?
ハチス 「根底はそうかもしれないです。だからといって、それを表現するためにメジャーコードのゆっくりした曲を歌う、っていうことではないんですよ。逆に鋭かったり、ちょっと怖いくらいのものが手段として出てきてしまう」
北村 「おもしろいね」
ハチス 「これはわたしの勝手な感想かもしれないんやけど、自分にはこの言葉は書けないな、とか、ここまで素直にこの言葉は出せないな、っていうことをムラコちゃんは歌にしてくれている気がするの。自分では言葉に出来なかったけど、ずっと抱えてたものってうか。それは鋭さがあって、刺さってくるものなんやけど、温度が感じられる。ハッピー!っていう感じではないけど嬉しくて、優しさみたいなものを感じる。ムラコちゃんの歌はそこがすごく好き」
北村 「あら……。なんかすごく良いこと言ってもらっちゃった(笑)。すいません」
ハチス 「ほんまにほんまに。どうしようもなく切なくて、泣けてしまうんやけど、それは別に攻撃されたからじゃなくて。ありがとう、っていう感じ。誰かが言えなかった何かをムラコちゃんが歌ってくれてるみたいな感覚は、もしかしたら聴いてる人にはあるんじゃないかな」
北村 「嬉しい」
――言葉自体はなにかとネガティヴなところが多いですけどね。
北村 「そうなんですよ……」
ハチス 「わたし、ムラコちゃんは普通に会ってる柔らかいイメージがあったから、 “嫉み”みたいな歌詞を見てけっこうびっくりしたんよ。ムラコちゃんそういうのあるんや!みたいな」
北村 「あるのよ!基本的にずっと怒ってる。わたしの歌の根底は、怒ってること」
ハチス 「そっか……怒ってんねや……」
北村 「普段からずっと、道歩いてても怒ってる人とかいるけどさ、完全にアカン人じゃないですか」
ハチス 「箍が外れてる人ね。ドア開いてます、みたいな」
北村 「そうそう。わたしはちゃんと道徳をわきまえた人間なので、そういうのはちゃんと蓋して生きているわけ。そういうのをうまいこと小出しにしてたらそんなイライラしいひんのかもだけど、うまい出し入れがずっと出来んくて。だから、歌を作る時になったら、ドバっと出てくるのかな、と思ってて。それをすることによって楽になるから」
――なるほど。怒りながら歩いてる人……(笑)。
北村 「いっぱいいるじゃないですか。でも、そういう人ってだいたい無視するやろ?」
ハチス 「うん、そやね」
北村 「でもこないだ、どーでもいい話なんですけど、家の近所のガストで、ひとりでめっちゃ怒ってる男の人がおって。その人に対して怒り出した人がいて、おもろいことになってきたやんけ!と思って。怒ってんじゃねーよ!みたいな感じで怒ってて」
ハチス 「(笑)。ちゃんと相手してあげたんや、その人は」
北村 「そうかもね、そう考えると嬉しかったかもね」
――そうですね、そういうコミュニケーションはアリですね。
北村 「ですね。コミュニケーションですね」
――北村さんはそれを音楽という形で実現しているんですよ。
北村 「なのかな」
ハチス 「ムラコちゃんの怒りって、どういうものに対する怒り?自分に対するもの?それとも環境に対するものなのか、誰か特定の人に対してなのか」
北村 「全部。自分に対してもあるし、大きく言えば世の中的なものに対して怒ったりすることもあれば、身近な人に対して怒ったりすることもあるし」
――ブログ拝見すると、色んなことに怒っていらっしゃいますよね。
北村 「そうですよね(笑)。だって、ムカつく奴いっぱいいるじゃないですか」
ハチス 「まあ、いるね(笑)」
北村 「せやろ、いるやん?でもまあ、気付かないほうが幸せに生きていって死んでいけるんだとは思うんですけど」
ハチス 「まあ見つめへんほうが楽やろな(笑)」
北村 「わたし、すぐ怒っちゃう損な体質なのかもしれない」
――ハチスさんは普段怒るようなことありますか?
ハチス 「ありますけど、しょうもないことばっかりですねえ(笑)。あまり怒らないかもしれない」
――不快な出来事に対する処理能力が高いのでしょうか。
ハチス 「いや、どうでしょうね。むちゃ考えたりはします。色んなことについて。なんでこんなことが起こるんか、とか。そこにはどういう仕組みが働いてるんや、とか。怒るというよりは、どうしたらいいやろ?って考えますかね。1度受け入れるかもしれないです。例えばめっちゃ納得出来ひんことがあるとして、それがすっごい自分と相容れへんかったりとかしたら、それに対してどう行動しようかな?っていうことをめっちゃ考える感じ」
――良いですね。それが出来たらベストです。そういう思考は、心理療法士の勉強をされていることと関係があるのでしょうか。
ハチス 「あ〜、そうかもしれないですね。元々、もっと漠然とした怒りみたいなものはあって、イライラだけが自分の中にあるみたいな感じだったんですけど、なんでイライラするのかな?みたいなことを分析するようになって。自分の中のイライラってどこから来てんのやろ?っていうことを知ったら、そこで何をしたら良いのか、っていうことがわかってきたんですよ。でもそれがすぐに出来るわけじゃないから、そこではやっぱりちょっと怒ったりはしますね、自分に対して」
――ハチスさんはそういう、心理療法の勉強をされていて、技術もある方なので、今日は、北村さんの怒りが少し解決するかな?なんて思っていたんですよ。
北村 「先生に診ていただいて」
ハチス 「いやいや、そんな(笑)。でもどうかな。上手く処理することだけが良いことではないと思うんですよ。怒りやフラストレーションから生まれてくるものって絶対あるから。そこにある切羽詰まった感じ、ギリギリ感て、やっぱり解決してしまうと出てこなくなるものだと思うんですよ。“大人になって”しまった後にはもう、生めなくなる。だから、必ずしも処理しようとすることだけが正義ではないですよ」
北村 「なるほど……そうですね……。そういえば、そうや、プリミ恥部(白井剛史)に言われたんや。仲は良いんだけど、あの人ピースの権化みたいな人やから、白井くんに会うとすごく具合が悪くなって。帰り道に事故ったりして」
ハチス 「まじで(笑)?ポジティヴ・ヴァイブスに攻撃されてるんや(笑)」
北村 「せやねん。それで、彼があの、宇宙マッサージでね、早樹子ちゃんの色んな悪いものを抜こうとしてるんだけど、絶対嫌がって出てこないって言うんですよ。それはもう気持ちの問題だから、元気になりたいの?どうしたいの?って」
ハチス 「別に抜かなくてもいいもんな」
北村 「そう。色々考えると、それが全部抜けてピースになったら、わたし生きる価値ないわ……って思っちゃって。こうやって色々怒ったり、しんどい目に遭ったりしながらも、これが好きなんかもな、って。やっぱり解決しちゃったらダメなのかも。難しいところですけどね、バランスが」
ハチス 「せやねん。わたしはピースやけど(笑)、“暗い”“悲しい”って、ピースを求めるからこそ生まれるというか、別に切り離して消さないといけないようなものじゃない。表裏一体で、それも含めて安心出来るというか。誰の中にも両方あるからね」
取材・文・撮影 / 久保田千史(2015年1月)
クリックすると大きな画像が表示されます
ハチスノイト
『UNniversal Quiet』リリース・パーティ

2015年1月31(土)
東京 千石 日本福音ルーテル小石川教会

〒112-0011 東京都文京区千石2-30-13 / 03-3941-4172
共演: Vampillia with explosions in the church / Ametsub(DJ)
開場 17:30 / 開演 18:00

前売 2,500円(税込 / 別途ドリンク代)

[ご予約]
universalquiet.peatix.com

クリックすると大きな画像が表示されます
■ わらびすこ舎プレゼンツ
“oyatsu no jikan west”

2015年1月25日(日)
大阪 本町 シェ・ドゥーヴル

〒550-0011 大阪市西区阿波座1-9-1
live: 北村早樹子(トイピアノ・セット)
DJ: 副舎長(Mumu Funaki)
開場 / 開演 14:00

ご予約 / 当日 2,000円(税込 / 別途ドリンク代)
※ご予約の方にはwarabisco舎からの新年のご挨拶カードを進呈
[ご予約]
※件名を「予約」とし、「お名前」「ご人数」を明記の上「mumufunaki@gmail.com」までご送信ください。



■ 広域計画室&7th floor presents
〜アコースティックライブ三部作〜 斧・琴・菊(ヨキコトキク)
斧(ヨキ)の夜
北村早樹子ベストアルバム発売記念イベント

2015年2月28日(土)
東京 渋谷 7th floor

〒150-0044 東京都渋谷区円山町2-3 7F
出演: 北村早樹子 / 早川義夫 / ナカジマシンイチ(GOAT EATS POEM)
DJ / レコードセレクト: SUZUKI(計劃record) / satoshi nakai(計劃record)
開場 18:00 / 開演 19:00

ご予約 2,500円 / 当日 3,000円(税込 / 別途ドリンク代)
※ご予約の方にはwarabisco舎からの新年のご挨拶カードを進呈
[ご予約]
※ご予約受付: 2014年12月1日(月)〜
「お名前」「枚数」を明記の上「kouiki.keikakushitsu.nakajima@gmail.com」までご送信ください。
※お問い合わせ: 7th floor 03-3462-4466(15:00〜20:00)



■ なりすレコード / P-hour presents
北村早樹子「グレイテスト・ヒッツ」発売記念
トーク&ライヴ

2015年3月14日(土)
京都 恵文社 COTTAGE

〒606-8184 京都市左京区一乗寺払殿町10
出演: 北村早樹子 / 森下くるみ(トーク・ゲスト)
開場 18:00 / 開演 19:00

ご予約 2,000円 / 当日 2,500円(税込)
※ご予約の方にはwarabisco舎からの新年のご挨拶カードを進呈
[ご予約]
※ご予約受付: 2014年12月1日(月)〜
件名を「北村早樹子」とし、「お名前」「お電話番号」「ご予約枚数」を明記の上「p-hour@leto.eonet.ne.jp」までご送信ください。
※お問い合わせ: P-hour www.p-hour.com

オール・ジャンル 最新CDJ PUSH
 
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[特集] 盛り上がる日本のアイリッシュ / ケルト音楽シーン[後編][インタビュー] “ポスト何々”の次を求めて――tofubeatsが『FANTASY CLUB』で目指した新たなステージ
[インタビュー] 経験と生き方を歌う。ただ、それだけ――MC KHAZZ『SNOWDOWN』[インタビュー] シンプルに“音楽であること”――KASHIFが徹底して単身で挑んだ処女航海『BlueSongs』
[インタビュー] 思い出すのは些細なこと――新しい「美女と野獣」とアラン・メンケン30年の想い[インタビュー] 曲が意志を持ったように完成していった――ミューならではの“色”に満ちた2年ぶりの新作『ヴィジュアルズ』
[インタビュー] 自分にとってなにが気持ちいいのかを見極める3年間――“抜けの良さ”を求めたYOUR SONG IS GOOD『Extended』[インタビュー] 盛り上がる日本のアイリッシュ / ケルト音楽シーン[前編] インタビュー: 豊田耕三(O’Jizo)
※ 弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015