――お2人の出会いは? B.D.さんの曲「Poison」での共演からなのでしょうか。
B.D. 「曲の始まりからって言うとそうですね。(東京・渋谷)宇田川町の同じビルでデミさん(NIPPS)と俺が働いてたのがきっかけで話すようになって、〈Poison〉に至るんですけど。その後はTETRAD(THE GANG OF FOUR)の動きだったりとか……。基本的に宇田川町の、あの界隈のつながりから始まってますね」
――お2人の素晴らしいマッチ具合、運命的なものを感じませんか?
B.D. 「そうスか。そう言われると嬉しいですね」
NIPPS 「そうだと嬉しいです。ほんとに。彼に会って、僕良かったな、救われたっていうのがあって」
B.D. 「いやいや、俺も救われてます(笑)」
NIPPS 「いや、やっぱ嬉しかったんですよ。日本のヒップホップ・シーンが宇田川にあるって言われてた時期があったけど、僕はそうは思ってなかったの。僕は僕んちにあると思ってたの。そうじゃない?ねえ。確かに、レコード屋はいっぱいあるよ、でもラッパーなんていないからねレコード屋に。まあそれはさておき、宇田川は彼のほうが詳しい!すごく顔も広いし。で、僕はどっちかっていうと家にいるタイプなんで、あんまり社交的じゃないんですよ。別に人が嫌いとかいうわけじゃないんですけど、何話したらいいのかわからないから。あと、6年くらいラップから離れてたんですよね、僕は。で、宇田川に来て彼とか、彼の周りの人と知り合って、へえ〜って思って。なんせ、会う人会う人ラッパーなんですよ(笑)。“あ、どうもはじめまして僕ラッパーです”みたいな(笑)。外に出てなかったから、外のことがよくわからなかったんだよね、6年間ね。自分の世界に入ってたっていうかね(笑)。あ、そうなんだ、こんなところがあるんだって思って。僕は友達が全然ラップやってなくて、友達の中で一番ラップに詳しいみたいな感じだから、“そんなにラップって盛んなんだ”って」
B.D. 「ラッパー多かったスもんね」
NIPPS 「6年間全然そんなの気にしてなかったんだよね、僕ね。何を気にしてたのかな……」
B.D. 「(笑)」
NIPPS 「まあ、ちょっといろいろあったんですよ僕は。ちょっといろいろあって、一番最初に気になったのが彼なんですよ。引っかかったんですよ」
B.D. 「ほんとスか(笑)」
NIPPS 「だって僕コウヘイくん(B.D.)のことなんか知らなかったもん。それまで、会ったこともなかったの」
B.D. 「俺は、デミさんが池袋の店で働いてたときに行ったことはあったスけどね(笑)。でも全然面識はなかったです」
NIPPS 「それで、彼が“デミさんやってくれませんか”って言うから、えっ、僕なんかでいいの?みたいな」
B.D. 「(笑)」
NIPPS 「いやいやいや、マジで! 嬉しいなあって思って。いろいろ話すうちにイイなあと思ったんですよ、なんとなく。この人たち。彼の周りの人たちがね」
B.D. 「イベントとかライヴも遊びにきてくれたりして」
NIPPS 「そうそう。こんなことやってるんだ、と思って。まあもちろん人柄もありますし、それでまあ、彼がチャンスをくれたっていうんですかね。ほんとにね。やる気にさせてくれたっていうか」
B.D. 「すごく嬉しいですね、それ(笑)。俺もですよ。デミさんからもらってるものもありますし」
NIPPS 「ほんとに、嘘じゃなくて。SPERBが同じ店で働いてて“僕ラップ始めようと思ってるんですけど”っていう話を聞いてて。VIKNも同じところで働いてたから、タバコ吸いながら“いつか4人でなんかやってみたいね”、なんていう話からTETRADができて。僕、ソロは好きじゃないんですよ。基本的に。面白くないんで。もちろん書くときは1人ですけど、スタジオワークとか、1人が嫌いなんですよ。わいわいこう、人とやったほうが意見交換ができて楽しいじゃないですか。1人だったら絶対やらないと思うんだよな、僕。オファー来ても断ってたからね」
――それは1人でやれというオファーだったからですか?
NIPPS 「いや、“やれ”なんて言われたことないです。やれって言われてもやらない……できないタイプなんで。そのかわり喜ぶようなことはカマしますよ。一応。カマすけど、お金のためじゃないけど、お金があるともうなんでもいいやって。そうそう、僕が言いたかったのは、彼とTETRADを始めてから、本腰入れてラップやろうと思ったってことですよ。本気でやってみようかな〜と。うん。手ごたえある人いるな、と思って。もっと面白い人出てこないかなって、いつも思ってたんですよ。耳に入ってくるような人。もちろん
ブッダ(BUDDHA BRAND)のときも、ラップやろうと思ってたけど、趣味だったんですよ。仕事にしようなんて思わないし。なんかそういう、仕事として、ラップでビッグになろうみたいな、あるじゃん。そういう人いるんでしょ?僕ね、“デミさんはラッパーだからね”とか、“ラップすることがあなたの仕事よ”とか言われてて、うわ〜、何それと思ってて。理解できなかったの、僕には。何それ?ラップが仕事?って。ありえないよ(笑)」
――今回TETRADではなく、お2人でやろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
NIPPS 「いやっ、ていうよりも、2人でいて、曲でも作ろうかって言って作っただけで。まあ、2人でやろうねっていうのはなかったんですよ、特に」
B.D. 「遊びながら作ってったって感じですよね」
NIPPS 「あるスタジオがあって、そこに毎日のように行って、要は溜まり場みたいになってたんですよ。スタジオ使ってないときなんかに、曲でも録ろうかっていう感じで」
B.D. 「曲でいうと〈Black Tar〉からですよね」
NIPPS 「僕が仕事で知り合ったK-MOONっていうトラック作ってる子がいて……。GRADIS NICEって呼んでるんですけど、彼とこのトラック良いからなんか曲録ってみようか、みたいな。なんだろ、やることないから」
B.D. 「(笑)」
NIPPS 「本当にやることなくて。ちょうどTETRADを終えた後だったんだよね。それでなんかやることないかねえ、みたいな感じだったんですよ。なんだろ、たまたまスタジオがあったから、曲録ってた感じですかね。だから、別に2人じゃなくてもよかったんだよね」
B.D. 「その場にいたから録った奴もいたッスもんね。K-MOONにしてみればデミさんから面白い奴がいるってことで始まって。周りにそういう良い音楽聴いてる人が多いんで、そこからの影響もあって。そういう繋がりで“THE SEXORCIST”っていうものがだんだん出来てきて……」
NIPPS 「分かりやすく言うと、要はセッションしてたわけです。気づいたら曲が溜まってたんだよ。で、彼が、せっかく曲がここまで溜まってきたから、出せたらいいねって」
――気心の知れた感じで徐々に出来上がっていったんですね。
B.D. 「まあ遊びながら、考えながら、○○しながら、いろいろですね。実験的なこともやりましたし。トラック作ってる途中の段階から、すべて俺たちでコントロールしてたというか。ああだこうだ話しながら、同時にリリック書き始めたりして作った曲もあるんで。スタジオでみんなで作業しながら出来ていったんです」
NIPPS 「特にディールもなかったし、まあ出す予定とかはなかったよね。全然。別にどうするこうするっていうのはなかったのよ。ただ、1年間遊んでるうちにできちゃって、僕らにある予算で組めるのは、まあこういう形のものじゃないかっていう、ものなのかなあ」

MIX CD『AWESOME FOURSOME』
B.D. 「mixCDもストリートレベルで連動させてるんですけど、最終的にアルバムってものが見えてからは、やっぱり形にしてくっていう風になっていって。同時に12inch切りましょうとか、俺たちが進めば進むほど話がいい感じにリンクしてきて」
NIPPS 「そうなんですよ。遊びで録ってたのが、これイイ、みたいな。あとね、2人で、ライヴ?っていうのかな?ライヴやるときに、できるような曲があるといいねっていう話もしてて。それもあったかもね」
B.D. 「そういうのもありますね。流れでルーティン組む中でこういうコンセプトの曲があったらいいね、とか。いろんな話の中で、自分たちで試しつつ、それが形になったという」
――レコーディングはどんな風に進めるんですか?どちらかが録った上に載せる感じですか?
B.D. 「そういう場合もありますし、最初っからの場合もあります」
――リリックの内容に関して打ち合わせなどはするんですか?
B.D. 「最初に話してから書くのもあれば、完全に自由な形のもあるし、曲によって違いますね。掛け合いの曲をやろうってことになったらバースで分けていったり、単語で分けたり。デミさんが投げてきたワードに対して俺が考えて返したりとかもあって、それぞれです」

MIX CD『THE RUSH』
――お互い詞の書き方が違って、例えばB.D.さんは短い中に物語がある感じですけど、
NIPPS 「えっ、僕はどんな感じなの?」
――散文詩のような感じですかねえ……。その違いで、難しかったことなどなかったですか?
NIPPS 「いや、それが初めてレコーディングしたときから、本当にうまくいって。ものすごく不思議だったんだけど、やりやすかったね。やっぱり、共通してるところがあるよね」
B.D. 「最初は手探りでしたけど、やっぱり何か(共通しているところが)あるなっていうのは感じてましたね。良かったなっていうことが多かったです。俺は間違ってなかったって。〈Poison〉をやったときは、緊張したって言ったら変だけど、すごい考えちゃったっていうか。自分の置かれている立場も全然違ってたんで。それまでも自信はあったんだけど、なんとなくでやってきたことが、確実なものになったっていうか。感覚的な、センスや直感がすごく大事だなって思ったし」
NIPPS 「ものすごい曲ができるの早いんですよ。もうちょっと考えてもいいかなってくらい。そのガサツさがまたアリかなって思ったんですよ」
B.D. 「聴いて考える部分も絶対必要だとは思うんですけど、ラップって一ヵ所で止まっちゃうと、もう次の言葉は追えないじゃないですか。ある意味聞き流せるというか、流れてるってすごく良いことだと思うんですよね。俺とデミさんはそのあたりで違和感がない感じがして」
NIPPS 「言葉を、音にする。言葉の意味を捻る」
B.D. 「うん。やっぱりものを書くわけですから、書いたものに意味とか、メッセージもそうですし、単純なときもあるんスけど、裏の意味があったりとか、そういう考える楽しさも要素的に必要なものだと思うんですよね」
――それってやっぱり聴いてる側にも求められると思いますか?
NIPPS 「それじゃなきゃ面白くないでしょう。まあ、ストーリーテリングだったり、声だったり、トラックだったりが良かったら最高だけど、ラップがダメだったら終わりだね。要はどんな最高なビート持ってきても、ラップできない奴がラップしたら最悪の曲になりますから」
――本物のラップとはどういったものなんでしょう。
NIPPS 「ラップできるかできないかですよ。ラップがおもしろいかどうかですよ」
――生まれ持ったものということですか?
NIPPS 「違いますよ。詩を書くのと一緒です。どういう駒を持っているか。言葉をどういう風に運ぶか。どこに置くか。まあラップなんて自由なんですけど、僕は基本的に、オーソドックスな、ピザで言うならプレーンピザだね」
B.D. 「基本的な部分ができてない人が多いっていうのはわかりますね。そういう部分が何なのかって言ったら、俺たちはやっているうちに感覚で分かってきたところも多いから、気付いてない人も多いと思うし、そういうのを聴いて、寝ちゃってる人もいる思うんですよね。それって死んでるのと一緒だから、やっぱりそことは違う存在でありたいとは常に思ってるスね。日本のヒップホップ・シーンの中で」
NIPPS 「僕たちは、とにかく良いラップを、もっと分かり易く言えば良い音楽を作りたいの。で、ラップの楽しさを伝えたいの。要は、間違ってる人が多すぎるんですよ。昔のさんピン世代の人たちのほうがよっぽどラップ分かってる人多いよね」
B.D. 「ほんとにそう。昔の人の方が上手いっていうのは、分かるんスよ。機材の違いもあるんでしょうけど、単純に、お金にならなかったっていうとあれですけど、ヒップホップがお金と無縁の時代に、本当に好きで追求してたものというか、皆同じようにそこに向かってたっていうのが俺にはすごくかっこよく見えたんスよね」
NIPPS 「闘争心のないラップなんてのは有り得ないですよ。僕の中では。僕と、コウヘイくんの流派はものすごく似てるんですよ。似てるよね」
B.D. 「言葉の例え方だったりとか。ストレートに言えば直球で伝わるものを、あえて変化球にするっていう」
NIPPS 「ていうか要はオーソドックスなんですよ」
B.D. 「うん。昔から俺は王道なスタイルをやってるつもりなんスけど、今それをやってる人が少ないんじゃないのかなって思ったりします」
NIPPS 「王道ができない人が、基本的なことを分かってない人が多いんですよ。ラップがどういうものか。例えばヒップホップの文化っていうのは、いつも闘いなんですよ。グラフィティのシーンにしてもそうだし、ダンス、ファッション、ラップのスキル。もともとは"俺たちのほうが良いぜ"っていうところから始まったんですよ」
B.D. 「生活もすべて闘いですよね。続けるってことはやっぱり大変だし。本当にやってる奴らっていうのはそういう奴ら同士寄ってくるんですよ。特に今は(池袋)bedなんかに良いラッパーが集まってるなって思います」
――B.D.さんは、東京のラップを背負って立つ!くらいのパワーを持ってやられていると思うんですけど。
B.D. 「(笑)。いやいや、そんな大それたもんじゃないです」
NIPPS 「いや、今はもうあれですよ、“ドン”ですよ」
――そういう気持ちは今も変わらずにありますか?
B.D. 「いや、別にそんなエラくないですけど、でもやっぱりやる以上は」
NIPPS 「エラくないよね(笑)」
B.D. 「エラくないッスよ、俺バカッスもん(笑)」
NIPPS 「(笑)。いや、バカじゃないとできないんですよ」
B.D. 「本当そうですよね。本気で、お前よりバカだってことを証明しようっていう。何にどれくらい本気かってことは人それぞれあると思うんですけど、声を聞いてると浮ついてる奴は分かっちゃうし」
NIPPS 「東京はね、ブームみたいのに乗って、有名になりたいのか何だかわからないけど、そういうのが多いよ。ラップできてないのに、ラップしちゃってるんですよね。誰でもラップできるなんて、違うんだよ。良いラッパーは本当はたくさんいるんですけど、環境が悪い。まずラップがかかってるラジオがない、何にも面白くない民放、テレビばっかり観てたらバカになる。東京にいたら本当にラップ上手くならないですよ。かわいそうだよ。ラッパーになろうって思う子は。でも彼に会ってから、そうじゃないんだなってなってきて。こりゃ日本のラッパーもイケてるぞと。僕でも楽しめる環境になってきてるんだ、進化したラップ・シーンがあるんだって思って。僕は嬉しかったね」
B.D. 「そして気付いてほしいっていう」
NIPPS 「いやー、僕はね、日本のいろんなラッパー聴いてないけど」
B.D. 「(笑)」
NIPPS 「聴いてないっていうか、耳に入ってこないんですよ。話題にもなってないんですよ。僕らの間では。あれ?聴こえなかったなあって。良いものがあったら聴こえてくるはずでしょ?でも聴こえないんですよ。でも僕たちのは聴こえたでしょって」
B.D. 「やっぱりひとつのアートだし、そこで俺たちが無理することないと思うし。聴く必要もなければ、理解しようとする前に俺は聴くのやめちゃうと思うし」
NIPPS 「もっと何でも、どんなにくだらないことでも一所懸命やってほしいよね。人に少しくらい迷惑かけてもいいから。なんでそういう若い人がいないんだろうって思って。驚きがないんですよ」

『BLACK RAIN』
――アートフォームのひとつとして、自分から出てくるものをやっている、ということですよね。
B.D. 「そこは基本ですよね」
NIPPS 「僕はほんとに、ラップが好きなんですよ」
B.D. 「そうですね。好きじゃなきゃできないですからね。そういう話は常に2人でしてますね。お互い好きなもの、嫌いなものを確認しあったり。ほんとずっと話してますよ。だいたいラップの話してますね」
NIPPS 「でもね僕らはね、まだまだ。全然まだまだ。ほんとに、良い環境を作りたいんですよ」
B.D. 「ですよね。人それぞれとりあえず聴いてみて判断してほしいなって思います。まず手に取って。聴くことからすら離れちゃってる人も多いと思うから、そのためにもいろんな音楽入れてmixCD作ってみたり、いろいろ俺たちも仕掛けてるから。そういうところで引っかかってくれる人が1人でも多ければいいなって思いますね。イベントに遊びに来てもらえれば本当に最高です。現場が一番分かりやすいし、分かってもらえると思うから。俺たちがどれだけ音に、選曲に、ライヴにこだわってるかってことが。まあ、ユルいんですけどね」
――去年はTETRAD、今年はTHE SEXORCISTときて、来年も期待して良いですよね。
B.D. 「もちろんです」
NIPPS 「これからですよ」
取材・文/久保田千史(2009年12月)