2011年、サンダンス映画祭で初上映されるや、その圧倒的なパワーと、いまだかつてなかった強烈な映像表現で話題騒然となった超・異色の青春映画『ベルフラワー』。スタッフ、キャストはすべて無名、大資本のバックアップゼロ、映画会社・業界の関係も皆無という、まさにアメリカ映画の突然変異ともいえる本作を最初にピックアップし、全米配給にこぎつけたのは、
ビースティ・ボーイズのアダム・ヤウクその人。「彼は『ベルフラワー』の最大の理解者だった。作品を信じてくれたんだ」これはアダムの急逝を受けて米ハフィントン・ポストの取材に応じた監督のエヴァン・グローデルの言葉です。
アダムはアメリカン・ハードコア・パンクの最高峰バンド、
バッド・ブレインズに憧れ、それと同じ“B.B.”のイニシャルとなるビースティ・ボーイズを1981年に結成。以後、4,000万枚ものアルバム・セールスを記録、グラミー賞を受賞し、ロックの殿堂入りも果たしました。
そしてアダムが晩年、最も情熱を注いでいたのが“映画”。2008年に創業した映画制作・配給会社のオシロスコープ社はこれまで『ウェンディ&ルーシー』『イグジット・スルー・ザ・ギフト・ショップ』『少年は残酷な弓を射る』などの個性的な話題作を手掛けており、「売れそうだからという理由で作品を選ぶことはない。我々は好きになれない作品を手掛けることはない」と語っていたアダム。そんなアダムが興奮して契約にこぎつけたのが、『ベルフラワー』。
オシロスコープ社が権利獲得の発表をしたのが、サンダンスでの初上映からわずか6日後のこと。「我々はスタッフ含めて全員、このとんでもないデビュー作を扱えることに興奮している。監督のエヴァン・グローデルは私のプリウスを火炎放射器付のバイオ燃料仕様に改造してくれるとも約束してくれた」このアダムの声明を読むだけでもその心酔ぶりが伝わるのでは。
オシロスコープ社は英語圏の権利を取得、以後世界中の映画祭への出品、2011年8月の全米公開、そしてサントラ発売、DVD・BDの発売まで『ベルフラワー』のすべてを展開しています。エヴァンはアダムについて、「アダムはオシロスコープのオーナーだから、そんな上の立場の人は僕らのちっぽけな映画まで実際にはあまりかまってはくれないだろうなと思っていた。でも初めて会ったとき、すぐに『ベルフラワー』の話になって、アダムが『ベルフラワー』を一度ではなく、少なくとも数回は観ていることを確信した。もの凄く細かい部分の話になったんだ。彼はオーナーなのに『ベルフラワー』のすべての配給実務に深く関わっていた。アダムは作品にとんでもないほど貢献をしてくれたよ」と語っています。
また、作品が注目を集めても、一般公開までに独立系の映画作家たちが最も壁に当たるのが音楽の権利処理。『ベルフラワー』でも同じく、無一文に等しい状態だったエヴァン・グローデルが希望の音楽権の費用を負担できるはずもない……という状況の中、アダムが助け舟を出し、単にその費用を負担するのではなく、自身のコネクションを使って値引き交渉をしてくれたとか。「アダムは方々に連絡してくれて“頼むから安く使わせてくれないか”と頼んでくれていた。たしか彼がグラミー賞かなんかに行ってるときだと思うけど、携帯メールが来た。“いまグラミーに来てるけど、3社の巨大な音楽出版社やレコード会社の重役と一緒にいる。彼らにはすべてことが進むようにと伝えてある”と。ということで僕らは希望の音楽を格安で使うことができたんだ」。『ベルフラワー』の主要な音楽はその映画制作チームであるCOATWOLFの一員、ジョナサン・キーヴィルによるものですが、要所要所にCHROMATICS、RATATATなどの注目アーティストの音源が使われています。
映画を愛したアダム・ヤウクが心底入れ込んで配給した『ベルフラワー』の話題のひとつでもあるのが“火炎放射器”。エヴァン・グローデル監督とオシロスコープ社の契約書には、「エヴァンは火炎放射器を2器、アダムに製造・提供しなければならない」という条項が! その火炎放射器を納品しておらず、契約違反にならないか心配していたエヴァンに届いたアダムからの携帯メールには「火炎放射器のことは気にしなくていい。でも実際に火を噴かなくてもオフィスに飾るだけでもカッコいいから、余裕があったら頼む」とあり、これがエヴァンとアダムの最後のやりとりだったそう。
エヴァンは契約書に基づき、火炎放射器を作るためにそのパーツは揃えてあったと語ります。「アダムが亡くなったことについては……。わからないけどとても悲しいニュースだ。彼が親友だったとまでは言えないけれど、わかるだろ? でもアダムが僕の人生にとてつもなく大きな意味を持っているということは間違いない」配給だけでなく映画制作も手掛けていたアダムは、エヴァンの次回作についても興味を示していたとか。
火炎放射器と改造車が大フィーチャーされ、男の夢と挫折、怒りと悲哀が爆裂する危険で凶暴な青春映画『ベルフラワー』は、6月16日よりシアターN渋谷で公開。6月23日より大阪はテアトル梅田、名古屋は名古屋シネマテークにて哀愁公開、以後全国で順次公開されます。