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ライセンス・トゥ・イル番外篇 博士のCD工場チェック 『博士、CD製造現場へ行く!』の巻

2007/11/30掲載
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不思議な銀盤だったのも今は昔、すっかり浸透し……といったくだりも陳腐なほどにあたりまえの存在となったCD。でもどうして音が出るのか?どうやって作られているのか?は意外と知らないもの。雑誌CDジャーナルの人気コーナー、「ライセンス・トゥ・イル 博士のDVDチェック」がテレビの前から立ち上がって外出? ニセモノなのか?? (ニセ)博士と(ニセ)助手がビクター・クリエイティブメディア株式会社の誇るCD工場、神奈川県大和市に位置する林間工場へおじゃましてきました。
ライセンス・トゥ・イル番外篇 博士のCD工場チェック 『博士、CD製造現場へ行く!』の巻



博士★ はて、いつもと様子が違うようぢゃが?
助手▼ 博士と毎月ディスクの中身ばっかり見てるんで、たまにはディスクを作るところを見たいと思いまして。


おお、巨大化したハチ公がワシらを出迎えとるぞえ!
違います! あの犬はニッパーという名前で、亡くなったご主人様の声をレコードで聞いて「不思議だなあ?」と首をかしげてるんです。
なるほど、犬の鋭敏な聴覚をもあざむく高音質な音楽ソフトを作っとるぞ、と言いたいんぢゃな。わかりやすい看板ぢゃのう。
そう考える博士の感覚がわかりません。


工場の玄関に「原音探究」と書かれた額がかけてあるが?
これは日本ビクターのポリシーです。音を大切にしてるんですね。
原音の探究も結構ぢゃが、そろそろ美味を探究したいのう。
さっき昼ごはん食べたの忘れたんかいっ。


で、歌手やバンドマンはどこにいるのかえ?
いませんよ! ここはCDを作る工場なんで、もう出来上がった音楽を受け取って大量に複製するのが仕事ですからね。以前はビデオカセットの親玉みたいな幅3/4インチの磁気テープで音源が持ち込まれていましたが、今は専用の光ケーブルで音声ファイルが送られてきます。信号に異状がないことが確認できたら、次の部屋でいよいよCDの鋳型を作ります。



CDというのはだいたい同じ形をしとるが、1枚1枚鋳型を作るのかえ?
ディスクの外見は同じだけど、入ってる音楽は違うでしょ。CDは目に見えないぐらい小さな凸凹を盤面にたくさん並べて、0と1の信号で音を記録するわけです。その凸凹のことを“ピット”と言いまして、アルバムごとに作ります。


アナログレコードも音溝の凹凸を読み出して音を出しとったような気が……。
CDはデジタルですから仕組みは違いますが、やってること自体はあんまり変わりませんね。
ま、世の中すべて凸と凹ぢゃからのう。アナログ盤とCDは、丸い板の表面に渦巻き状に信号を並べるところも似ておるが?
その方が大量生産に向いてるんですよ。販売用ソフトの複製がやりにくかったせいで、エジソンの発明した蝋管型蓄音機は円盤型のレコードに負けちゃいましたからね。ちなみに、74分入りCDのピットの列をまっすぐに直すと、長さが5.4km弱になるんです。
続けて8枚聴けばフルマラソンなみの距離かえ! ご苦労さんぢゃの。


この装置では、まずガラスの円盤に紫外線硬化樹脂(フォトレジスト)というのを薄く塗って、そこにレーザービームでピットを焼き込みます。ビームが当たった場所だけ樹脂が溶けてミゾになります。
CDを聴く時はレーザーでピットを読み出すんぢゃが、その逆をやっとるわけか。
焼き込んだままでは変化しやすいので、ニッケルという金属で薄い膜を作って保護します。この工程を“スパッタリング”といいます。
ヤッホー、ヤッホー!
サイクリングじゃありません! 次の装置では、盤の表面を磨いて、フォトレジストを洗い落として、乾燥させます。それから盤の中心を正確に割り出して穴をあけます。さいごに真空中で切り屑をそうじすれば、メタルマスターのできあがりです。


メタリカのCDだけぢゃなかったんかい。それはそうと、さっきから顔が黄色いぞえ。だから拾い食いはよしなさいと……
そういう博士の顔も真っ黄色ですよ! って、この部屋は照明が黄色いんです。普通の蛍光灯だとフォトレジストが感光しますから。それと、昔のCD工場は内部全体がクリーンルームになっていて、作業する人は防塵服を着るのが普通でしたが、ここは装置の内側だけ空気のきれいな局所クリーンルームになってますね。
ほとんど人がおらんのう。作りかけの盤を運ぶのは産業ロボットの仕事かえ。



さあ、次は売り物のCDをプレスする場所に来ましたよ。
ひえ〜! 機械が26台も並んどる。さっきの部屋と違って派手な音が出とるし、いかにも製造業って感じがするのう。
ここの製造ラインは、いっぺんCDの鋳型(スタンパー)を取り付けると、後は自動で動いて1枚1枚のプレス→穴あけ→反射膜の貼り付け→レーベルの印刷まで全部やってくれるんです。






本当ぢゃ。ラインの端から面白いようにパッパカCDが出てくるわい。ここも人影がぜんぜんないんぢゃが。
人が来るのはスタンパーの交換や機械の点検をする時ぐらいです。



そのうち人間は機械に駆逐されてしまうんぢゃないかえ?
大丈夫ですって。次はパッケージです。CDをプラケースにセットして、ブックレットとインレイを入れて、帯を付けて、透明なフィルムでキャラメル包装をかけて、ステッカーまで貼ってますね。全自動です。






ところがどっこい、あっちにたくさん人が座っていて、せっせと手を動かしとるぞ。
パッケージが特殊なCDは自動化できないから、人海戦術でやるしかないんです。ブックレットが厚い、スリップケース入り、ステッカーの形が複雑、紙ジャケなどなど、いまやCDの半数が人手でなければ包装できない凝った仕様です。
みなさん、ものすごい勢いで作業しとるんぢゃが……。
24時間体勢で仕事するのは珍しくありません。それでも間に合わないと、都下をはじめ静岡県の協力会社に頼むとか。パッケージ部門だけではなく、ディスクの製造も機械を点検するわずかな時間を除いて24時間フル稼働するのが当たり前なんです。



CDがこんな苦労を経て我々の手に届くとは知らんかったわい。どこの工場でもこんな感じなのかえ?
基本的に同じですね。でも、ここしか作れないCDがあるんです。SHM-CD(スーパー・ハイ・マテリアルCD)と言いまして、透明部分に高品質な素材を使っているせいで音が良いんです。聴いてみますか?
おおっ、普通のCDよりも音がまろやかで、真に迫った感じがするぞえ。しかし奇妙ぢゃな。どうしてこうも音質が違うんぢゃろか。不思議だなあ?
あ! そのポーズ、結構イイ感じですよ。僕は帰りますから、博士は工場の門の横にずーっと座っててください。それじゃっ!


[博士のココをチェーック!]
我々が見学した日本ビクター林間工場では1ヵ月に8,000〜9,000タイトルのCDを合計1,200万枚も作っておるのぢゃ!


取材・文/佐藤良平(2007年11月)
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https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
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