那倉悦生 「鏡を抜けて」 第2話「あなたの幽霊は死んだ」

ENDON   2017/02/17掲載
はてなブックマークに追加
第2話 「あなたの幽霊は死んだ」
拡大表示
MA 「--」 2017
キャンバスに油彩 1000mm x 1000mm
スーパーでギッたトロの刺身を母親にプレゼントした、涙を流して彼女は喜んだ。美味しいねえ、何年ぶりだろうねえ、お刺身なんてねえ。俺はタバコを吸っていた。排気ガスのようにまずいタバコだった。気の狂ってしまった弟は、黄色い衣服しか着ない。そしてこういうのだ、お兄さん、コウモリが飛びます。母親が弟について何か話すのを見たことがない。父親はダムに飛び込んだ。それは当然のことにも思える。父が弟について話している光景も記憶にない。2週間前、俺は、駅前繁華街をパトロールする自称自警団の連中に袋叩きにされた。ある女が嘘をついたのだ。俺はどうやら酒に混ぜ物をして女に飲ませ、レイプをしたらしい。無意識にすらないそんな欲望を、俺が行ったというのか。一日中家にこもっていた旨を伝えても、自警団気取りのチンピラ連中に話は通じるはずもない。曰く、次会ったらお前を殺す。翌週も俺は罪を犯したようだった。自警団のリーダーをバットでぶん殴り、重体にさせたらしい。これは俺がこの目で見たニュースだから間違いない。監視カメラにはバットを引きずりながらニヤニヤ笑いを浮かべた俺が写っていた。俺はじきに捕まるだろう。俺はタバコの火を消すと、母親に仕事に行ってくるとまた嘘をついて、駅前繁華街に向かった。そこではパジャマのような黄色い衣服を纏った弟が放置自転車を眺めている。コウモリが飛びます!コウモリが飛びます!俺は黙って頷いてやる。薄汚れた女のホームレスが一発500円のタチンボとして美しく屹立している。母と娘とが一言も会話を交わすことなく、喫茶店でコーヒーをすすっているのが見える。夕方だ、実際にコウモリが飛んでいる。ああ、コウモリが!弟は発狂などしていないということになる。自警団の連中は見当たらない。約束の時間に恋人は現れた。俺は全てのいきさつを伝え、別れを告げた。最後のキスはマリファナのフレーバーがした。ろくな女じゃあない。最後にもう一回だけヤリたいとも思ったが、すぐにどうでも良くなった。俺は黄色い衣服を脱ぎ捨てると全裸になり、金属バットを両手で握って、弟を殺した。俺と瓜二つのこの人間は死に際、恨みがましい口調で言った。お兄さん、あなたの幽霊は死んだよ!
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] アイドルやめた――“渋谷系ガールズロックユニット”に転身したCANDY GO!GO!のリアル[インタビュー] KANDYTOWNの新たな方向性も感じさせるソロ・アルバム、MUD『Make U Dirty』
[インタビュー] 音楽にとどまらない、発想としての面白さ――ジェフ・パーカーがゆっくり語る『The New Breed』[インタビュー] 良い意味で遠回りをしてきた――20周年を前に、韻シストが開けた次への扉
[インタビュー] 過去を否定せず、未来を大切にする 渡瀬マキが語る“Fresh”なLINDBERG[インタビュー] トロピカルハウスを取り入れても、最後は自分たちの曲になる ココロオークションの自信と革新性
[インタビュー] ファースト・キスは1回しかないのがいい メンバーの“リアル”を大声で歌うロック・バンド、The MANJI[インタビュー] “熱さ”が戻ってきた――ユニットとしての自覚が芽生えた“今のChu-Z”
[インタビュー] 便利で何でも手に入る時代だからこそ必要なこと――須永辰緒が導くジャズ最前線[インタビュー] ふっと飛び込んでくるワンフレーズ “現場の音楽”HIT『Be!!』
[インタビュー] 深くて豊かな音楽を目指した“名盤” 石橋 凌『may Burn!』[インタビュー] 私は変わり続ける。それは“出会い”を意味しているから――コリーヌ・ベイリー・レイ
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015