矢沢洋子 連載「週刊 矢沢洋子」 - 【第1回】ソロ・アルバム『YOKO YAZAWA』ロング・インタビュー!
掲載日:2010年8月25日
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 the generousでの活動を経て、2010年2月より本名の“矢沢洋子”名義でソロ・シンガーとして新たなスタートを切った矢沢洋子。CDJournal.comでは彼女の新たな門出に併せて、矢沢洋子4週連続企画『週刊 矢沢洋子』を展開します。第1週目となる今回は、ついに完成した1stアルバム『YOKO YAZAWA』に関するロング・インタビューをお届けします!
――本格的にソロ・シンガーとしての活動がスタートしたわけですが、今の率直な心境はいかがですか?
 矢沢洋子(以下、同) 「ただただ“楽しい”の一言ですね。2008年の秋に、the generousというユニットでデビューしたんですけど、当時の自分を振り返ると、単に“歌が好きな女の子”って感じだったと思うんです。取材で“どんな歌をうたっていきたいんですか?”と質問されても、自分で自分をよくわかってない状態というか、うまく答えることができなかったんですね。もちろん歌が好きだという気持ちは以前からあったんですけど、いざデビューしてみると、ライヴやレコーディングが進んでいく中で、いろんなことが現実になってきて。そこで、はじめて、実際に自分が、どんな音楽をやりたくて、どんなライヴをやっていきたいのかが見えてきたんですね。そうなってくると、ユニット時代にやっていたJ-POP風の曲と、自分が本当にやりたい音楽との間に、どうしてもギャップが出てきてしまって。そこで自分がやりたい音楽をやるために、ソロで活動していくことを選ぶことにしたんです」
――実際に洋子さんがやりたかったのは、どういう音楽だったんですか?
 「わかりやすいバンド・サウンドでロックをやりたかったんです。それは今回のアルバムのコンセプトにもなってるんですけど。あと最近はルースターズザ・モッズといった、“めんたいロック”にすごく憧れを感じているので、自分のソロ・アルバムでも、ああいうシンプルで格好いいロックをやりたいなと思ったんです」
――そもそも“めんたいロック”とは、どういうキッカケで出会ったんですか?
 「スタッフに勧められて1年前くらいに初めてルースターズを聴いたんですけど、そうしたら見事にハマってしまって。すごく荒々しくてパンキッシュな反面、どこか歌謡曲のようなメロディ・ラインがあったりして、そういう正反対な要素が、混ざりそうで混ざっていない危うい感じがすごくいいなと思ったんです。あと歌詞を聞いたとき、単純に“おもしろい!”と思ったんですよ」
――おもしろい?
 「はい。たとえば、<恋をしようよ>の“俺はただお前とやりたいだけ”って歌詞とか、あそこまで、はっちゃけたストレートな歌詞とか、それまで聴いたことがなかったので(笑)。それから当時の映像を観たんですけど、ルースターズとか、ことごとく格好いいんですよね。それで私も、そのまんまではないけれど、ああいうロックをやりたいなと思って」
――ソロ・アルバムを作るにあたって、まずはどういうところから作業をスタートさせたんですか?
 「まずは曲選びからスタートしました。“シンプルなロック”というテーマのもと、デモをたくさん集めて、それを聴きながら、スタッフさんと一緒に選んでいって。それこそアルバムの1曲目に収録された<HNEY BUNNY>なんかは、最初、“アルバムには、ないかな〜”と思っていたんですね。でもノリがいいしキャッチーだし、ライヴでやっちゃえ!みたいな感覚で歌詞を書いたんですよ。なぜ、<HNEY BUNNY>なのかと言ったら、映画の『パルプフィクション』から引用してるんですね。『パルプフィクション』の中にファミレス強盗のカップルが出てくるんですけど、女性のほうが、とにかく凶悪でブッ飛んでいて。そんな彼女を彼氏が“ハニーバニー”って呼んでたんですよ。で、私としては、“ハニーバニー”って言ったら、“僕の可愛い子ちゃん”みたいな、すごくスウィートな意味合いがあるのに、こんな女に“ハニーバニー”って言ってる!みたいな(笑)。でも、それがイイ意味で印象的で。普段、私自身が憧れてしまう女性っていうのは、単に可愛いだけじゃなくて、なんていうか高円寺とかで転がってるような……(笑)」
――わははは!
 「変なヒトが、わたし好きなんですよ(笑)。で、そういう<HNEY BUNNY>みたいなストレートでわかりやすいロックがあるなかで、たとえば<月光>だったり<Let Me…>だったり、バラードでも、どこかロックなフィーリングを感じるような曲を選ぶことで全体のバランスを取って。あと選曲の基準になったのは1曲、1曲が短いこと(笑)。中にはAメロしかないような曲もありますから。でも、おもしろかったですけどね。ユニットで活動してるときは、今回みたいな曲は歌っていなかったですから」
――そういうところからも自由になった、と。
 「そうです。あと、ユニットのときって、なかなかコラボみたいなことができなかったんですけど、今回はソロ・アルバムだということで、自分が一緒にやりたい人たちとやらせてもらおうと思って。それでアイゴン(會田茂一)さんや、レミオロメンのベーシストの前田(啓介)さんに声をかけさせていただいたんです」
――今回、アイゴンさんは<月光>と<fade away>のアレンジ、前田さんは<Let Me…>の作曲を手掛けられてるんですよね。お二人とのコラボレーションはいかがでしたか?
 「楽しかったです! アイゴンさんは、木村カエラちゃんを手掛けていたりすごく有名な方で、見た目もメキシコの悪党みたいな感じだし(笑)、最初はすごく恐い感じの人なのかなと思ってたんです。でも、実際、お会いしたら、すごく物腰の柔らかい方で。毎回、スタジオに入った瞬間にご飯メニューを広げて、“今日、何、食べようか?”とか言ってたり(笑)。そんなお茶目なところがある半面、アイゴンさんはジャッジがすごく的確で、とにかく迷いがないんですね。あとは感覚的な部分でも共通するところがあって。たとえば<fade away>は、最初に聴いたときから、自分が住んでいたカリフォルニアの空気感をどこか感じさせるような曲だなと思ったんですけど、アイゴンさんもまるっきり同じことを感じられたみたいで。そういう意味でも、すごくやりやすかったです」
――一方、レミオロメンの前田さんは。
 「最初に<Let Me…>を聴いたとき、なんて綺麗な曲だろうと思って。単に綺麗なだけじゃなくて、しっかり深みがあるというか。日本人の心に響く、聴いてるだけで安心できるような曲だなと思いました。歌詞は私が書いたんですけど、綺麗なメロディに綺麗な歌詞を乗せてもおもしろくないんじゃないかと思って、あえてすごくドス黒い、重い恋愛をテーマにした歌詞を乗せたんです。前田さんとメールしたり、実際にお会いしたりしながら、歌詞を書き直していったので、けっこう時間がかかりました」
――今回は、ほぼすべての曲(「月光」のみ共作)の歌詞を洋子さんが手掛けられているわけですが、全体的にアグレッシヴな歌詞が多い反面、随所に繊細でウェットな描写が顔を覗かせていたり、今作の歌詞には洋子さんの内面がリアルに反映されているなと思いました。
 「実は今回から歌詞の書き方を変えてみたんですよ。これまでは“書くぞ!”と思って、机に向かってPCを立ち上げてみたいな感じで書いてたんですけど、今回は自分の部屋のベッドの上で携帯で書いたんですよ」
――え? 全曲、携帯で?
「はい、全曲。意外にそのやり方が私には合ってたみたいで。友達にメールや電話をするような感覚で歌詞を書けたので、自分の素直な気持ちがすごく自然に言葉にできたんじゃないかと思うんです。タイトルも『YOKO YAZAWA』だし、いかに自分という人間を聴いてくれる人に伝えられるかが勝負だと思ったんで」
――歌詞はやっぱり実体験に基づいたものが多いんですか?
 「そうですね。恋愛の歌は、自分だったり、あとは友達の話をパクったりだとか(笑)。でも基本的には自分が感じたことをそのまま書いています。やっぱり自分が歌うものなので」
――歌入れに関して、今回、一番こだわったのはどういうところだったんですか?
「今回は11曲を全部、別の日に録ったんですよ。どんなに早く歌入れが終わったとしても、絶対に1日1曲で終わらせようって。いかにテンションを高めて歌入れに臨むかっていうのがテーマだったんで」
――1曲入魂みたいな。
 「そうです! あと、こだわったというと、ちょっと違うかもしれないんですけど、とにかく楽しんで歌入れをしようと思いました。今まではいかにメロディに乗ったとき声が綺麗に聴こえるかとか、こう歌ったほうが聴いてる人は気持ちいいんじゃないかとか、そういうことを割と歌ってる間に考えちゃってたんですよ。綺麗に歌いたいという気持ちがあったからこそ、ちょっと裏声にしてみたりとか、ビブラートを混ぜてみたりとか、そういうことをしていたんですけど、今回はバラードだろうがなんだろうが、とにかく声を張ってるんです」
――それは誰からのアドバイスだったんですか?
 「実は父からのアドバイスだったんです。しかも、そのことで喧嘩になって(笑)」
――喧嘩ですか(笑)!
 「はい。“張ればいいってもんじゃないでしょ!”みたいな(笑)。それに対して父は、“バラードだろうがなんだろうが、グワーッと心を込める瞬間に声を張るからこそ人の心に沁みるんだ”って。そうやって言い合いを重ねていく中で、わたし、<Naturalythm>というイベントで毎月1回、定期的に歌っていたんですけど、そのときに<月光>とか<逢いたい>とかバラードの曲を、一度試しに声を張って歌ってみたんですよ。そうしたら、お客さんからの反応がすごく良くて。“さすがだね”と思いました(笑)」
――割とそういうアドバイスはお父様からあったりするんですか?
 「う〜ん、くれたり、くれなかったりですね」
――たとえばソロで活動するにあたっての心構えみたいなものは。
 「全然ないですね。“頑張れ。(気分を)張ってけよ”って」
――そこも“張れ”と(笑)。ちなみに歌入れにはどれくらいかかったんですか?
 「結局、3ヵ月くらいかかりましたね。長かった〜(笑)。私が歌入れを始めた頃に、レコーディングを始めたミュージシャンの友達のほうが先にアルバムを完成させてましたから(笑)。そもそも、このアルバム自体、1年くらいかけて作ってますから」
――ついに完成した初のソロ・アルバムをご自身で聴いてみていかがですか?
 「やっとできたという喜びを噛み締めています。自分がやりたかったシンプルなロックンロールがやれているし、ユニット時代のイメージも覆すことができると思うし、そういう意味でも、満足いくアルバムになったかなと思います」
――ジャケットもめちゃくちゃシンプルでいいですよね。
 「アートディレクションはヒステリックグラマーの北村(信彦)さんが手掛けてくれたんです。イメージとしてはスージー・クアトロとかジョーン・ジェットみたいな女性ロッカーを意識されたみたいですね」
――「YOKO YAZAWA」というロゴの“Z”も、しっかりイナズマ・マークになっていて(笑)。
 「そうなんですよ! 最初は写真だけのシンプルなデザインだったんですけど、北村さんが後からロゴを入れてくれて。それを見たら“Z”がイナズマ・マークになっていて(笑)。これ、いいのかな〜、ちょっと重いな〜って(笑)」
――そこは、あえて受け継いでいきましょうよ(笑)!
 「そうですね(笑)。アーティスト名を本名にするときも、正直、プレッシャーがあったんです。でも、そんなこと、最初から分かりきってたことですからね。むしろ今はそのプレッシャーが自分の背中を押してくれているんだと思うようにしました。もう後戻りできないぞって」
取材・文/望月哲(2010年7月)
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