混乱の時代においてもなお、内面と向き合いながら愛することを描いた本作。歌声と生楽器にこだわった親密なサウンドが特徴で、感情を露わにした即興的な歌唱は初期の孤独感をたたえた作風を彷彿とさせます。レナード・コーエン晩年の傑作「You Want It Darker」をサンプリングした「Death Of Love」やディジー・ラスカル「I Luv U」をサンプリングした「Days Go By」、新しい試みとなる、ジェイムス自身が弾くギターがアレンジされた「Make Something Up」などの10曲に、フリートウッド・マックのカヴァー「Landslide」を含む4曲がボーナストラックとして追加収録されています。
ライターの小林祥晴によるインタビューによると、ジェイムス・ブレイクはアルバム・タイトルについて、「今作は、より広い社会の中で生きる僕たちの個人的な困難を描いているんじゃないかな。つまり、今世界が直面していることを考えたときに、個人的な困難をどうやって乗り越えるのか、どう向き合うべきなのかがわからなくなっているということ。多くの人が、自分の個人的な気持ちや人間関係と、毎日テレビから流れてくる膨大な情報とどう折り合いをつければいいのかわからないでいるんじゃないかな。それに、蔓延するちょっとしたパニック状態というのも、浸透しているというのか、ずっと前からそうなるように仕向けられている。みんなが、その程度は違えど、このまま行くと我々が向かっている先というのは、決していい方向ではないと察していて、それが具体的にどういう形になって現れるのかを心配している。そんな気持ちを抱えながら、自分が能動的に助けたい、この流れを食い止めたい、自分にできる範囲で状況を変えたいとも思っている。それでも、世界は動き続けるわけだし、僕たちには個人個人の生活がある。“混乱の時代における愛(Love at a time of chaos)”というのが、人からアルバムについて聞かれたときによく使う言い回しだ。一言で言うならそれだね」とコメント。
そして、世の中の分断について言及したラスト曲「Just A Little Higher」の歌詞について、「イギリスで大きなデモが起ころうとしている最中に書いていたんだ。僕のインド人やパキスタン人、つまりは褐色肌の友達はみんな怖がっていたし、張り詰めた雰囲気があった。彼らを怖がらせるのが狙いだったわけで、外出して、果たして自分が出歩いて安全か、街がどんな様子になっているのか確かめるのさえ怖いと思う人たちが大勢いた。僕たちがReal World Studiosでレコーディングをしている時に起きて、国全体にそんな不穏な空気が流れていた。この曲の歌詞を通して言いたかったのは、“もう少し上を狙え”。つまり、『移民を受け入れたら国が潰れる』とか『移民に情けをかけたら、侵食されて国のアイデンティティを失う』といったプロパガンダを信じ込んでいる人たちに対して、『もっと上の方に目を向ければ、この分断を焚き付けている人たちがいるとわかるはずで、彼らこそが怒りをぶつけるべきターゲットだ』と言っている。『君たちが貧しいのも、安定した仕事にありつけないのも、将来が不透明なのも、原因を作っているのは彼らなんだ』って。それがこの曲の核心さ。イギリス人として恥ずかしいとも思った。国としてそんな当たり前のことがわからないのかって」と語り、アルバムを象徴する楽曲としては、リリック面で「Days Go By」を、サウンド面では“痛みと喜びのバランスがちょうどいい”という「Through the High Wire」を挙げています。