2ndソロ・アルバム『ケモノと魔法』の発表を記念して、8週連続でお届けする短期集中連載『原田郁子秘宝館』。3週目となる今回は、原田郁子の実妹であり雑誌、書籍、CDジャケットなどの撮影で活躍する写真家・原田奈々さんによるエッセイを掲載。家族として、常に身近な距離で接してきた彼女が綴る、クリエイター・原田郁子の知られざる素顔とは? 
「お姉ちゃんってどんな人?」って聞かれたとして改めて考えてみると、戦う人って答えるだろうか。または強い人。特に、以前の
クラムボンではそんな感じだった。でもこの10年の間でみんな大人になって落ち着いたり、お互いの信頼関係も深まって、またそれぞれのクラムボン以外の活動も加わったりと、だいぶ変わってきている。それでも、ライヴやイベント、取材記事や写真やデザインといった対外的なこと、それらを一手に引き受けて、ねえちゃんは戦っている感じがする。その判断力と集中力としつこさといえば本当にすごいと思う。いつもは周りがイライラするであろうぐらい、ぼーっとしているというのに、例えばパソコンに向かって文を書いている時なんか、まったく疲れを知らない集中力なのだ。一旦、集中力が切れたら次いつやる気が起こるかわからないから、やる気のあるうちにやり切ってしまいたいのだろうけれど、結局そういう作業が好きなんだと思う。
いつか、“原田郁子”に憧れたり、うらやましがったりという若いミュージシャンが出てくるかもしれない。だけど、そのうらやましさは戦って勝ち取ってきたということを知ってほしい。戦うというのは周りを蹴散らしたりおとしめたりということではなくて、有無を言わせないものを作ることで人を納得させて今の自分を築いてきたということ。もちろん本人は、そんなに自信満々ではなく、暗闇で手探りするように無我夢中で、という感じだろうけれど。人と一緒にものを作るには、相当な心の強さがないとできない。ねえちゃんは子供の頃から強情なところはあったけれど、さらにバンドの中や外で鍛えられて、今ではもうすごいことになっているはずだ。
そんな、ねぇちゃんだけど、ここ1年ぐらいたまに会うとそれまでにも増してぼーっとしていることが多かった。もちろんやる時にはやっているのだけど、そうじゃない時はまるで抜け殻のよう。元気ないね、と何度か言った覚えがある。ちょっと今までにはなかったこと。最近いろんなインタビューに答えているように閉じている時期だったのだろう。だけど、アルバム(『ケモノと魔法』)が完成したと聞いた頃か、久しぶりに会ったら憑きものが落ちたように晴れやかな顔になっていた。元に戻ったというわけではなく、脱皮して次の段階に進んだという感じ。これからも、ねぇちゃんは生みの苦しみを味わいながら、でも確実に作品を残し、前へ前へと進んでいくのだろう。その苦しみは誰も代わってあげられないけれど、でもそうやって作ってきたこれまでの自分の作品に助けられているというのだから大丈夫らしい。そんなおもしろい人なのだ。
文/原田奈々